とあるアークスの物語   作:マッキー707

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とあるアークスの兄妹 3

「ん?」

 

 カトリとサガを見送った後、どうしようかと考えていると腹の虫が鳴った彼は、フランカ´sカフェへと足を運んでいた。まだお昼には少し早い時間帯だからか人はまばらで、ゆったりとした時間が流れていた。すぐにいくつかの空席があることが確認できたので、さてどこに座ろうかと考えていると男の声で名前を呼ばれたことに気付く。

 

 声がした方に顔を向ければ、備え付けられているテーブルからこちらに手を振る赤い髪の男性と隣に座って笑っている女性の姿を見つけることができた。二人とも見知った顔で、特に拒否する理由もないので、二人に近づいて軽く挨拶をする。

 

「よっすゼノ、エコー」

 

「よっ」

 

「こんにちは」

 二人からも親し気な笑みと一緒に気軽な挨拶が帰ってきた。男性をゼノ、女性がエコーという。二人は長らく苦楽を共にした仲間で気心が知れている。彼は二人の了承を得て男の—ゼノの前に座った。

 

 ゼノは彼と同じヒューマンで赤い短い髪に黒い瞳をしていた。浮かんでいる笑みからは清々しさを感じられ好青年といった印象を受ける。顔には斜めに走る傷があるが、内面からにじみ出る人柄のおかげか強面にはなっていない。エコーは、大きなエメラルドのような緑の瞳に金色の髪を一つにまとめてポニーテールにしており、髪の間から覗かせる耳はヒューマンと違って尖っている。その耳は彼女がニューマンという種族の証だ。

 

 

 

「お前さんも食事か?」

 

「そんなところ。ちょうどさっき任務から帰ってきてさ」

 

 ゼノに訊ねられてそう返しながらメニューを開く。何にしようかと思案しているとウェイトレスがやってきて目の前にグラスを置かれた。メニューを見ながらそのグラスの水を一口飲むとそのまま待機していたウェイターに注文をして--ゼノとエコーは少し前に注文を済ませていた--メニューから顔を上げた。すると妙に堅い表情を浮かべたウェイトレスと目があってしまう。その瞬間、怯えたような表情が浮かんだのを彼は見逃さなかった。

 

--はて?

 

 心の中で疑問符を浮かべる。彼女とは初対面のはずだが、どうしてこんな表情を浮かべるのか心当たりがなかった。どこかで会ったかなと記憶を掘り起こしてみるが、該当する記憶はない。訊ねてみるべきかと迷っているうちにウェイトレスは—これまた何処か堅い声で--会釈をしてこの場から去ってしまっていた。

 

「どうかしたの?」

 

 ウェイトレスが去っていった方向をずっと見ていることを不思議に思ったエコーが訝し気に声をかけた。その声で彼が顔を正面に戻せば、ゼノの隣でエコーが不思議そうな顔をしていた。そこで自分がどうやら長いこと見ていたらしいと彼は気付く。

 

「いや、なんかさっきの娘が俺のこと怖がってたように見えてさ、どっかで会ったかなーって思って」

 

 先ほど感じた違和感を伝えると、エコーはなるほどと納得すると苦笑しながら口を開いた。

 

「怖がってはなかったわよ。緊張はしてただろうけどね」

 

「緊張?なんで?」

 

「どうしてもなにもお前さん有名人だろ」

 

 今度はゼノも口を挟んでくる。顔には呆れたような表情が浮かんでいた。

 

「そういえばそうだったか」

 

「そういえばってなあ」

 

 今度は二人そろって苦笑する。二人の言う通り、彼はオラクルでは有名人だ。曰くダーカー絶対殺すマン、曰くたった一人で深遠なる闇を撃退する男、曰くダークファルスに訓練途中に拉致られても何事もなかったかのように帰還する男。曰く、曰く、曰く—というように彼の逸話は事欠かないし、偉業と言っても差し支えないことを成していた。積み上げてきた功績の証として、守護騎士なる立派な肩書きもつけられている。二人も時には肩を並べて戦い、時には守られて背中を見ることもあった。逸話を逸話として聞くのではなく、目撃者として目の当たりにしていた。

 

 まぁその話は別で語るとして、しかし本人にしてみれば、そこまでのことをしたという自覚はなく、気付けばそういう風に見られていたというのは本人の談である。なので、周囲の反応や視線に首を傾げることもしばしばあった。

 

「ああいう反応は久々だったから忘れてた」

 

 最近はああいった反応は少なくなっていたので、自分がそういう扱いだということを忘れていたのだ。その様子に苦笑を深める二人は揃って相変わらずだと口にした。

 

「とりあえず、怖がられてるというのはないと思うぜ」

 

「そうかぁ?」

 

 彼はゼノの言葉に訝し気な声を上げる。メガネの奥の視線は半眼となっていた。

 

「慕われてねぇだろうよー」

 

 まるで拗ねた子供のように声を上げ、顔を横にしてテーブルの上に突っ伏した。

 

 彼は自分が周りからよく思われていないのではないかと考えていた。理由はまず周りの反応にあった。彼は有名なので噂をよくされる。噂はよくされるのだが、有名になりすぎて話しかけられることはないのだ。話しかけられるとしても一部を除いて親しい友人くらいだ。だから人が多い場所—ゲートエリアなど行くと周囲からの視線とひそひそ話の真っ只中にさらされるのだ。

 

 やっと最近ではそういうことに慣れてきたとはいえ、噂話はされるが誰も話しかけてこない=俺ってよく思われていないのでは?という図式が彼の中で完全に出来上がってしまっていた。

 

「そんなことないわよ、ねっゼノ?」

 

 エコーがなぐさめの言葉と共に同意を求めるようにゼノに話を振ればそうだぞと答えが返ってくる。

 

 実際、彼らの言う通りで、彼は結構慕われていた。向けられる視線も漏れ聞こえる話も大半が羨望と憧憬といったものが占めていたりするのだが、周囲を色眼鏡で見てしまっている彼にはそうは捉えられていなかったりする。

 

 それを知る二人だからこそ上辺だけでなく本当にそうではないためにでそういったのであるが、物理的だけじゃなく心にも色眼鏡を掛けている守護騎士様は、友人が気を遣った単なる慰めの言葉だと受け取ってしまう。

 

「へいへい。ありがとうな二人とも」

 

 顔を上げて気づかいに礼を言う……拗ねるようにだが。

 

こんな態度をしているが、実は周りの反応についてそこまで深刻に考えてはいなかったりする。むしろよく思われてなくても仕方ないかなと考えていたりはしていた。色々と好きなようにやってきたのだ。上手くいったから良かったものの一歩間違えれば大惨事になっていたことも少なくない。個人がアークス全体を揺るがすことを何度も勝手にしてきたのだ。周りが快く思わなくても不思議ではない。上手くいったから大丈夫などというのは結果論でしかない。今は幸いにして理解してくれる友人にも恵まれているから最悪ではないかな—というのが彼の考えていることであった。かと言って、自分のしたことに後悔はない--というように考えているのだが、なんとも思っていないわけではないので拗ねた子供のような態度をとっていたのだった。

 

 友人二人が子供のような態度に苦笑をしているとウェイトレスが料理を運んできた。

 

「ほらほらおいしものでも食べて機嫌直してね?」

 

 

 

「お待たせいたしました」

 

三人の前に料理がそれぞれ置かれる。出来立てほやほやで湯気が踊っている。どの料理もおいしそうだ。

 

「あれ?」

 

 彼は自分の前に置かれた料理を見て首を傾げた。

 

 今彼の目の前にあるのは、ハンバーグのセットだ。熱された鉄のプレートの真ん中に主役のハンバーグが目玉焼きを乗せ、存在を主張するようにじゅうじゅうと音を立てて置かれており、バターで味付けされた一口サイズのニンジンや茹でられたブロッコリーが添えられており、色鮮やかになっている。スープとサラダもセットでついてきており、とても匂いも見た目も食欲をそそるおいしそうないつものハンバーグのセットだ。

 

 それを注文するのを聞いていたゼノは、小首を傾げているのを見て訝しむ。

 

「自分で頼んだ料理だろう?忘れたのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが、目玉焼きが……」

 

 目玉焼き?とゼノとエコーは首を傾げて彼の料理を見る。確かに目玉焼きが乗っているが、なんの変哲もない普通の目玉焼きにしか見えない。二人は彼が何を疑問に思っているのかはすぐに気づけなかった。

 

 先に気付いたのはエコーだった。わかったという顔をしてあ、と声を上げた。

 

「普通は目玉焼きって乗ってなかったわよね?」

 

 その言葉にゼノもああと納得したような声を上げた。彼が頼んだハンバーグのセットは、普段なら目玉焼きは乗っていないのだ。トッピングとして頼むこともできるのだが、今回は頼んでいないのは彼はもちろん二人も見ていた。

当然、三人の間には疑問が浮かぶ。その疑問に答えを出したのは、料理を運んできたウェイトレスであった。

 

「サービス……です」

 

 遠慮がちにだが、その声ははっきりと三人の耳に届いた。三人とも反射的にウェイトレスへと目を向ける。一斉に見られて一瞬びくりとした彼女だが、口を開いた。

 

「この前……弟があなたに助けられたって言ってて」

 

 そこまで聞いてなるほど、と三人は納得する。何のことはない身内を助けてくれたお礼なのだ。だが、当事者はピンときていない状態だった。これは彼が決して薄情とかそういうことではなく、ある意味仕方のないことだった。

 

 任務の先々で他のアークスを助けることはよくある話だ。同じアークスなのだから当たり前だし、逆に助けられることもある。しかしそういうことは稀のはずで、本来任務というのは前もって入念な下調べがあって、深刻なイレギュラーなどは起きにくいはずなのだが、どういうわけか彼はそういう他のアークスが危機的な状況に陥っているときに通りすがることが多いのだ。多い時など一つの任務で5回くらい遭遇しちゃうものだから緊急事態ですともうしわけなさそーに伝えてくるオペレーターの声を聴きながら、本気で呪われているのかと考えてしまったりもしたことがあった。

 

 だから助けた一人一人のアークスの顔を覚えられなかったりする。頻度が多く、しかも解決したらすぐにその場を離れちゃうものだからはっきりと覚えておくことができないのだ。そういう理由があって偶然、再会したときにお礼を言われることがあってもいつのことか思い出せなかったりするので、自己嫌悪しちゃうこともあるのだが、それは余談である。

 

 そんなわけで、いつのことかを思い出せないためにピンときていないのである。彼は神妙な顔をして口を開いた。

 

「人違いだったりしない?」

 

 割と本気でそう問いかける。目の前の二人には咎めるように半眼で睨まれてしまっていた。そんな様子を見てもし隣にどちらかが座っていたら叩かれていたかもしれないと心中でひっそりと思う。

 

 問いかけられたウェイトレスは苦笑しながら頭を振った。

 

「それはないと思います。あの守護騎士に助けられたって興奮気味に話していましたから」

 

 そう目を細めて語る表情は優しく、しかし家族が危険な目に遭ったことに対しては心配で少し困ったような表情でいて--完全に姉が浮かべるそれだった。そしてそのままの深々と頭を下げた。

 

「弟を助けてくださって本当にありがとうございました」

 

「……よくあることなので気にしないでください」

 

 眼鏡を掛け直しながらそれだけをぶっきらぼうに伝える。眉間に皺が寄っているが、その姿は誰が見ても照れ隠しで最後にウェイトレスは、微笑してこの場から離れていった。

 

 難しい顔をしたまま彼はそっとため息を吐く。吐かれたため息は疲れたようでなく何か誤魔化すようなものであって、その何かは微妙に上がっている口角が物語っていた。そんな些細な変化だが、付き合いの長い二人は見逃さず、にやにやと口元を歪めながら生温かな視線を彼に注いでいた。

 

 二人の生温かな視線に気付くと半眼で睨みつけるような顔で口を開いた。

 

「んだよ」

 

「べっつにー?」

 

「なんでもないわよー?」

 目の前の守護騎士様の内心が手に取るようにわかる二人は、睨まれてもにやにやとした笑みは崩さなかった。自分の不機嫌そうな視線にも少しも変わらない表情に何も言えずに、代わりに口をへの字に曲げる。

 

「ほらさっさと食うぞ、冷めちまう」

 

 不機嫌そうにそう言って誤魔化すように食事を始める彼を見てゼノとエコーは微笑した顔を見合わせながら同じく食事を始めるのであった。

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