女になったユウとラスラは、ほぼ互角だった。
むしろ若干ラスラの方が押している場面もある。
元々先の勝負も、身体能力の差で押し切られてしまっただけのことだ。
戦闘技術に関しては、ユウに引けを取らないものを持っているばかりか、センスでは凌ぐところもあったのである。
ユウの考えた通り、実力の近い者同士での戦いは、お互いに得るところが多かった。
二人は、相手の動きから参考になる部分を見つけては、一つ一つ自分に取り入れていった。
ラスラはますます熱くなって興奮で顔を紅潮させ、ユウも知らず知らずのうちに彼女に乗せられて燃えてしまっていた。
お互いに時間が経つのも忘れて、ひたすら剣をぶつけ合った。
そんな様子を、ウィリアムはやれやれと呆れながら微笑ましい気持ちで眺め、リュートはすげー、と目を輝かせて楽しそうに観戦していた。
戦いは続き、しばらくしてリュートはレミに用事で呼ばれ、渋々部屋を出て行くことになった。
さらに時間が経過したところで、新たなギャラリーが二人やって来た。
一人は、オレンジ色の髪のちゃらちゃらした雰囲気の若い男だった。
細身だががっちりした体つきで、背は男のユウよりも少し高い。顎には整った髭を軽く生やしており、耳にはおしゃれなピアスを付けている。
もう一人は、はつらつとした女の子だ。
はねっけのある赤い短髪が、若干ボーイッシュな雰囲気を漂わせていた。
すらりとした体型であるが、出るところはきちんと出ており、全身は戦うためにしなやかに鍛えられている。
他の隊員と違って、スレイスと銃の標準的な組み合わせではなく、腰には二丁拳銃を装備している。
背中にはケースに入れたライフルを背負っていた。
「随分遅いってんで来てみたら。ラスラとガチで打ち合ってる女がいるとは、たまげたなあ」
オレンジ髪の男が感心した顔で言うと、ウィリアムがはは、と軽く笑った。
「いや。二人ともすっかり熱くなって、止まらなくてな。ラスラも、自分と正面から戦り合える者が見つかって嬉しいんだろう」
「あー……ありゃ見るからにノリノリだよな」
「あんなに楽しそうなラスラねえ、久しぶりに見た。でもいつまでやってんのかなー。作戦会議しようって言ってたのに」
赤髪の女の子は、少し呆れた顔をしていた。
「隊長さんよ。ネルソンたちがいい加減痺れを切らし始めてるぜ」
「そうか――確かに、もう結構な時間だな。では盛り上がっているところ悪いが、そろそろ終わりにしてもらうとするか。ラスラ!」
しかし、射撃場の奥の方で激しく火花を散らせていた二人には声が届かなかったのか、二人とも依然として手を休める気配がない。
「ふむ……どうやら耳に入っていないようだな。誰かあそこまで行って、あの二人を止めてきてくれるか」
オレンジ髪の男は、面倒臭そうに手をひらひらと振った。
「俺はパス。つか、ああなったラスラに割り込むとか自殺行為だぜ。アスティ、いつものように行ってきてくれよ」
「えー、またですか」
アスティと呼ばれた赤髪の女の子は、押し付けられた厄介事に「もう」と頬を膨らませた。
が、それ以上は不平を言わず、むしろやる気は出ていた。
からっとした顔で背中のケースを置くと、腰に付けた二丁の銃を抜く。
必要もないのに銃を抜いたのは、何となく気分である。
「じゃ、ちょっくら行ってまいりまーす」
「頼んだぞ」
走る彼女の背中を見つめながら、オレンジ髪の男がしげしげと頷く。
「さすが、こういうときは頼りになるねえ」
***
「はっは! 楽しいな、ユウ!」
「そうかな。私は普通だけど!」
「興奮を隠し切れていないぞ! さすがにぼちぼち女の方の貴様には勝たせてもらう!」
「そうはいかないよ!」
向かい合う二人が、幾度目になろうかという剣のぶつけ合いに入ろうとしたとき。
横からさっと人影が飛び込んできた。
「たーん!」
「「ん!?」」
すっかり夢中になっていた二人は、セフィックによって気配を隠している彼女の接近に、気付くのが遅れた。
「アスティ参上♪」
あっという間に、彼女は二人の間に素早く滑り込む形で身体を割り込んだ。
そしてしゃがんだ格好のまま、二丁拳銃を交差させる。
ユウとラスラ、それぞれの顔へ正確に照準を合わせていた。
別にそんなことをする必要はないのだが、彼女の気分によるパフォーマンスである。
「もうお遊びの時間は、おしまいですよ?」
不敵な笑顔を見せて、ぱちりとウインクする彼女。
その見事な早業に、ユウは感心してしまった。
と同時に、自分がつい夢中になって時間を忘れていたことに気付く。
「ああ。ごめんなさい」
「なんだ。もう終わりなのか!?」
「もうって。ラスラねえ、かれこれ三時間は経ってるよ」
言われて時計を確認したラスラは、ちっと残念そうに舌打ちした。
「ユウ。また今度だ。絶対だぞ」
「あ、うん。わかったよ」
銃を腰のホルスターに納めながら、アスティはラスラを諌める。
「ラスラねえはすぐ熱くなるんだから。そんなに男勝りじゃ、誰もお嫁にもらってくれませんよ?」
「ふん。余計なお世話だ。私はまだ誰とも結婚するつもりも、付き合うつもりもない」
「あら。やっぱり寂しい二十代をお過ごしですか」
「寂しいって言うな!」
図星を突かれて、たまらず声を張り上げたラスラに、アスティはくすくすと小悪魔な笑みを返す。
彼女は、今度はユウの方に向き直る。
彼女も他の隊員同様、目の前にいる人間が自由に性別を変えられる特異な者だということを、クディンから既に聞いていた。
興味を宿した金色の瞳が、ユウの全身を隈なく捉える。
「ユウちゃん、それともユウくんかな?」
「どっちでも構わないよ」
「なら今はユウちゃんで。アスティ・トゥハート、19歳でーす。よろしくね」