フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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41「ユウ、裏技を駆使する」

「金だな。まずは」

 

 翌日。俺は思い立つと同時に言い切っていた。

 リクも賛同するが、ふと気付いたように首を傾げる。

 

「でもどうやって?」

「地道に稼ぐのも面白いんだけど」

 

 普段は一歩ずつ生活の地盤を作り、そこで自然と人との繋がりもできていく。

 そうした泥臭い過程も旅の醍醐味なのであるが。今回はパスだ。

 あまり本筋でないことに時間をかけ過ぎると、ユイが寂しがるからね。俺も寂しくなるし。

 そこで。

 

「裏技を使おう」

「裏技だって!?」

 

 リクが期待の眼差しを向ける中。

 俺はこほんと勿体ぶった咳払いをして、懐に手を入れた。

 

「ここにダイヤがある」

 

 あくまで懐から取り出す体で、『心の世界』からピンポン玉大のダイヤモンド原石を取り出した。

 よく見えるように、PCデスクの上にころんと転がしてやる。

 リクはそれはもう面白いようにびっくりしてしまった。

 

「うわ!? これ、本物?」

 

 彼は目をぱちくりさせて、おっかなびっくりダイヤ原石を指でつつく。

 なぜ俺がこんなものを持っているかって?

 簡単なことだ。その世界、アッサベルトにはダイヤモンドが比較的豊富に存在し、それに高い価値を見出す者が誰もいなかった。

 宇宙は広い。そういうこともあったのである。

 

「ほへー。いくらするんだろう」

 

 あまりの大きさに現実感がないのか。

 彼はそれに目が眩むというよりは、半ば放心したようにぼんやりと眺めていた。

 俺はそんな彼に説明口調で告げた。

 

「ダイヤの原石というのは、それ自体では際立った価値を持たない。適切なカットを施さないとね」

「カット職人にでも依頼するんですか?」

「いや。その必要はない」

 

 俺はダイヤ原石を手に取ると、軽く真上へ放り投げた。

 リクが口を半開きにして、原石の行方を目で追う。

 俺は左の人差し指と中指を二本だけぴっと突き立てて、気とイメージを練った。

 浮かび上がっていく原石へ狙いを付ける。

 そして、最高点に向かって減速していくそれにぴたりと指を添えて。

 瞬間、スイッチを入れるがごとく発動した。

 

《スティールウェイオーバースラッシュ》

 

 俺の腕は、自動的に動き出した。

 反射の電気信号速度を優に超え、肉体の無意識というものが介在する余地もない、極めて機械的で精密な高速運動の連続。

 予め『心の世界』でプログラムしておいたイメージ通りの動きでもって。

 気のベールを纏って研ぎ澄まされた二本指は、リルライトをも切り裂く強靭なナイフとなって振るわれた。

 めった斬りされたダイヤ原石は、少しずつその形を変えていく。

 振るわれた指のナイフは、ダイヤ原石が最高点に達してから落ち始めるまでの数瞬のうちに、鋭い切れ味で正確にカッティングしていった。

 強化された俺自身の身体能力があってこそ、初めてなし得る早業である。

 

「よし。できた」

 

 落下地点に右手を添えて、ラウンドブリリアントカットが施されたダイヤモンド宝石をキャッチする。

 原石よりも一回り小さくなったそれを見つめて、俺は満足のいく出来栄えに頷いた。

 今やったことだけど。

 まず『心の世界』に意識を接続して、実行したい動き(今回はカッティング)のプログラムを構成する。

 それから、開始スイッチとなる挙動(今回は指を原石に添える)を決めておけば、それが入ったとき自動的に発動するというわけだ。

 使いどころによっては非常に便利なんだけど、一つ注意点があって。

 自動的であるゆえの速さは強みではあるものの、一方で固定化された動きは容易に予測されてしまう弱点がある。

 こと戦闘においては致命的な隙にもなり得る。

 なので人間相手にはあまり使わない技ではあるが、ただ確実にその動きをしたいときは役に立つ。

 イメージを寸分狂わずそのまま出力できる【神の器】の応用法の一つなのだった。

 

 さて。リクはというと、頭の中に?マークがいっぱい付いてそうな様子でぽかんとしていたけれど。

 我に返ると、俺の手の中にある輝きを見つめて感嘆の息を漏らした。

 

「ほ、ほほ、ほんものだ……。すっげー……」

「あとはこれが売れればいいんだけど。普通に売ろうとして捌ける代物じゃないよなあ」

 

 地球なら数億円から十数億円は下らない代物だ。トレヴァークでも似たような価値を持つことは調べてある。

 どうやってこんなものを手に入れたんだという話に絶対なるし、色々と詮索する連中は出て来るだろう。

 公権力の調査が入れば、非常に面倒なことになる。

 作ったはいいけど、どうしたものかな。

 

「学生の僕なんかが保証したって、こんなの無理ですよ」

 

 完全に泡食っているリクに対して、俺は素直に同意した。

 

「だったらこうしよう」

 

 俺は磨き上げたダイヤモンドを、もう一度宙へ放り投げる。

 再び自動カットを発動させて、整った二十個の欠片に割いた。

 

「あああっ!」

 

 リクが悲鳴を上げる。

 当然であるが、例えば20カラットの宝石は1カラットの宝石20個の価値に等しいわけではない。これでかなり価値は落ちた。

 一個当たり円換算で数百万程度の価値に落ち着いただろう。俺にはその程度の金で十分なのである。

 

「もったいないぃ」

 

 リクが頭を抱えて、項垂れる。一々とてもわかりやすい反応だった。

 彼の素直な反応を見ていると、何だか昔の自分を思い出すようだ。

 俺は砕いた20個のうち、3個だけを残して他はしまった。これだけあれば当面は十分だろう。

 リクに欠片を差し出して言った。

 

「君の名義でこれを売ってきて欲しい。実家の財産を処分するとか何とか言っておけば問題ないだろう」

「え。でも、こんなの僕に任せてしまって大丈夫なんですか? もしかしたら、そのまま持ってどっか行っちゃうかも」

「君はこのくらいで人を裏切るようなことはしないと思ってるよ」

 

 目を見ればわかる。心の動きを観察すればおおよそのことはわかる。

 万が一裏切られたとしたら、それは俺に人を見る目がなかったということだ。

 ダイヤの原石はまだまだあるし、別の手段を使えばいいだけの話。

 まだおどおどして自信のない様子の彼を見かねて、俺はぽんぽんと肩を叩いてやる。

 

「あ……」

「リクがいて本当に助かってるんだ。頼りにしてるからね」

「はい! ありがとうございます」

 

 彼は笑顔になり、声には力がこもっていた。

 

 

 ***

 

 

 リクは手筈通り、ダイヤモンドを換金してくれた。

 店を出て来た彼の手が小刻みに震えている。

 声をかけると、彼はどこか浮ついた声で言った。

 

「ユウさん、すごいですよ! 七万二千ジットになるそうです……!」

「結構な金になったね」

 

 この世界でもお金の単位はジットである。しかし札の絵柄はまったく異なる。

 例えば、100ジット札に描かれているのはラナの肖像画ではなく、オブリ シゲルという昔の偉い人の顔だ。

 

「お金は後日、僕の口座に振り込まれると思います。でももちろんユウさんのお金なので」

「うんありがとう。じゃあ次は俺が住む部屋を用意――ん?」

 

 どうも――こちらを監視しようという何かの意志を感じるな。どういうわけか。

 

「…………」

 

 俺は意志を感じる方向に注意を向けた。確かにそこには常人よりも力強い気を感じる。

 姿は見えないが。ビルの中にいるそいつへ向けて、俺は意図的に鋭い睨みを飛ばしてみた。

 謎の監視者から、驚きと恐れの感情が飛び込んでくる。

 そいつの反応はそそくさと離れていった。

 

「ユウさん。急に怖い顔してどうしたんですか?」

「……いや。何でもない」

 

 笑顔に戻して、リクへ向き直る。

 リクを見ていたのか。俺を見ていたのか。単にこの宝石店を利用する者を見張っていたのか。

 そこまではわからないが。

 誰かは知らないけど、今のでびびるならその程度の相手ということだし、本気ならばいずれは接触する機会もあるだろう。

 うん。やっぱり相手の気を感じられると対応しやすいな。

 ラナソールだと人の気が一切読めないせいで、調子悪かったからなあ。シルに振り回されっぱなしだったし。

 

「次は住む部屋の確保だ。もちろん君の名義で借りることになるわけだけど」

「僕の部屋は一人暮らし用ですもんね」

「それもあるけど、色々やるつもりだから。一緒に住んでると君の迷惑になるかもしれない」

「色々?」

「色々さ」

 

 不動産屋に行った俺たちは、良さげな部屋を適当に見繕い、内見を済ませるとリク名義で即借りてしまうことにした。

 リクたっての希望で、その部屋は彼のアパートから歩いていける距離になっている。

 リクの家に帰り、家具やらなにやらをネットで購入していると一日が終わった。

 

 翌日から、俺の新たな生活が始まった。

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