フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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66「星海 ユウの忙しい一日」

 あの後、しばらくユイと慰め合ってから一階に下りた。

 みんなには謝り、とりあえずもう大丈夫だからと言っておいた。

 レンクスもエーナさんもジルフさんも、とても心配していたけど、俺が笑ってみせるとひとまず安心してくれたようだ。

 ミティは一人仕事を頑張ってくれていたようで、申し訳なかった。

 それでも危ないところだったが、ユイが本気を出して残りの料理を手早くしっかり仕上げたので、何とか食堂の開店には間に合った。

 俺のせいなので、この時ばかりは全力で手伝わせてもらったよ。主に魔法を使わないところで。

 魔法ってずるいくらい便利だよなと、使えないこの身のままでいると思う。

 夜には久しぶりに食堂のお客さんと触れ合った。

 みんな俺の帰還を喜んでくれて、常連客からはどこ行ってたんだよと質問攻めでもみくちゃにされた。

「まあ大きな依頼があって」と誤魔化しておいたけど。

 ユイと久々のマジックショーも披露した。

 エーナさんとジルフさんも、そのような催し物はめっきり見ていなかったらしく、大いに楽しんでくれたようだった。

 

 さて。翌日から、俺も『アセッド』の仕事に復帰することにした。

 時々トレヴァークの調査も続けながらにしようとは考えているが。まあしばらくは目の前のできることを一つずつやっていくことかなと思っている。

 幸いにして、この店には老若男女様々な人が依頼を持ってくるし、中には普通の人じゃ滅多に関わらないような大きな依頼もある。

 二つの世界を行き来できる俺なら、依頼の背景や裏側を見るチャンスがあるかもしれない。

 夢想病を治すヒントも掴めるかもしれないし、シンヤみたいに治せる条件が揃う人も出てくる可能性もある。

 焦らずいこうじゃないか。楽しみながらいこうじゃないか。

 と、意気込んではみたものの。

 

「はい。これがユウの仕事ね」

 

 ドン、ドン、ドン、ドン。

 四コンボ。確信犯的なにっこり笑顔で書類の束を積んだユイ。

 恐る恐る上から一枚取って、目を通してみる。

 ミティにまとめさせたという依頼書だった。丸っこい字がいかにも女の子らしい。

 俺は、血の気がさーっと引いていくのを感じた。

 

「あの……。これ、全部?」

「うん。全部ユウ宛だよ。人気者だね」

「あは、は……」

 

 約二カ月。それだけ放っておくと、こんなに仕事が溜まるのか……。

 どうしよう。俺、死ぬんじゃないかな。トレヴァーク行こうかな。

 などと現実逃避しそうになっていたが。そこに素敵な助け船が。

 

「色々考えたのだがな。俺も店を手伝うことにした。今のところ、他にやりたいこともないしな」

「ジルフさん……!」

 

 さすが頼れる師匠の師匠。どこかの役に立たないレンクスとはレベルが違う。

 ちらりと某ごみ拾いさんに視線を向けると、彼はぐだーっとふんぞり返って余裕の笑みをこちらに向けていた。

 俺は何もしないぜ、と全身からありありと主張している。うざったくウインクまで返してきた。

 いつも通りだな。

 冷めた感想を抱きつつ、翻って大師匠は。

 

「能力こそ使えないが。ユウ、気の扱いに長けたお前とできることはそこまで違わないはずだ。一応イネアの奴と世直しして回った経験などもあるしな」

 

 イネア先生との世直しとか、ものすごく聞いてみたいんだけど。今度ゆっくり聞かせてもらおうかな。

 それはともかく。本当に助かった。死ななくて済むかもしれない。

 

「ジルフさんが手伝ってくれるなら百人力ですよ。そうだ。早速なんですけど」

 

 ユイのにっこり笑顔を真似して、四つあった束のうち二つを流れるように押し付けた。

 ジルフさんも書類の意味を理解し、顔が引きつっている。

 

「お、おう。随分多いな……」

「頑張りましょう。ジルフさん」

 

 ふと思う。この店、ブラックなのかもしれない。

 まあ給料はかなり良いはずだから、そこはね。

 ユイが俺に腕を絡めてきて、言った。

 

「もちろん私も手伝うよ。一緒に頑張ろうね」

「ありがとう」

「でしたら、ミティは雑用兼指令本部担当ですね! 仕事のフローチャートとか考えますよぉ! 効率良くぱぱっとこなしていきましょう!」

「いいわねえ。楽しそうで。私も張り切っちゃおうかしら!」

「「あ、エーナさんは掃除してて下さい」」

「はい……。しくしく」

 

 全員一致。

 すまない。これがベスト采配だ。

 

「俺は何も――」

「「あんたは黙ってろ」」

「……おう」

 

 めでたく役割分担も決まったところで。

 ユイとミティの作ってくれたお弁当がみんなに配られて、それぞれが仕事へ出発することになった。

 

 

 依頼1「レア素材求む」 依頼人:冒険者ギルド 場所:冒険者ギルド 報酬:時価

 

 最初は簡単なやつからだ。

 俺がトレヴァークに行く前に狩っていた奴や、前にビンゴ大会でユイとエーナさんが色々狩ったときの余りが『心の世界』にもう入っている。ただ渡すだけでいい。

 ミティもユイもこれを最初に乗せてきたということは、久しぶりに挨拶に行っておけということなのだろう。

 

 ギルドの扉をくぐると、二人の見慣れた人物がすぐに出迎えてくれた。

 

「受付のお姉さん。あとミーシャも、久しぶりだね」

「はい。お待ちしておりました」

「二カ月ぶりくらいですか? 寂しかったですよ」

 

 俺がやってくると聞いてすっ飛んできた、酒場のミーシャ。

 細い体に見合わず大食いのグルメで、ギルド酒場のウェイトレスでありながら、ライバルであるうちの食堂の隠れファンでもあったりする。

 初日にギンドから助けた件もあって、彼女には結構気に入られているようなのだ。

 ちなみにマイクを持っていないお姉さんは、大人しい通常モードだ。

 この状態だけ見ると普通なんだけどなあ。本性はご存知の通りである。

 

「この間は急なお願いでビンゴ大会を司会して頂き、ありがとうございました」

「いえ。こちらこそ楽しかったですよ。やりたいときはまたいつでも言って下さいね」

 

 素材を納入して、しばらく雑談に花が咲いた。何でもない話からギルドの近況なども窺えるので、有意義な時間だ。

 なるほど。ランドとシルヴィアはさらに進んでいるのか。ラナクリムで俺と行った場所もしっかり入っているな。

 剣麗レオンが、「ミッターフレーションの到来」を唱えて暴れ回ったという終末教の一団を制圧。

 ミッターフレーション。予言された世界の終わりだったか。

『ヴェスペラント』フウガが、情報都市ビゴールを襲撃。防護システム『ラナの聖三角領域』が一時機能停止。

 レオンが捜査団に加わるも、またも逃亡される。

 なるほど。色々ときな臭い動きも出て来ているみたいだな。

 

「あ、そうでした。近々大魔獣討伐祭が催されるので、ユウさんもぜひ参加して下さいね!」

 

 ミーシャが、実に楽しみという顔で教えてくれた。

 大魔獣討伐祭。レジンバークより遥か北にあるダイバルスポットという高原で開かれるイベントだ。

 この場所は年に一度魔獣が大発生する。放っておくとレジンバークにまで大量に魔獣が押し寄せてきて、えらいことになるらしい。

 そこで冒険者を大量に駆り出して、大発生と同時に狩ってしまう。

 得られる素材からの経済効果も大きく、単純に盛り上がるし、いつしか祭りと呼ばれるようになっていた。

 

「うん。もちろん参加するつもりさ」

 

 普段は各地に散っている冒険者たちが集結する。

 こんな楽しそうなイベントを逃す手はないだろう。

 

「うふふ。お姉さんも血が騒いできちゃうわね」

 

 お姉さん。本性漏れてますよ。

 

「ところでお姉さん。前から気になっているのですが」

「ええ。何でしょう」

「お姉さんのお名前は、何と――」

「一つだけご忠告しておきましょう。世の中には知らない方が良いこともあるのですよ?」

 

 事務的な笑顔の裏側に、何かとても恐ろしいものが垣間見えたような気がした。

 びびった俺は、そこで会話を切り上げて、慌ててぺこりと一礼した。

 

「いつも依頼ありがとうございます。また来ますっ!」

 

 素材と引き換え報酬の二万三千ジットを手に、そそくさと逃げ去った。

 

「あ、もう行ってしまいました。まだ話したかったのに」

「ふふふ……若いですね」

 

 お姉さんの本名を知る者は、誰もいない。

 

 

 依頼2「決闘を申し込む!」 依頼人:伝説になり隊No.252,378,551 場所:地図上指定の×印 報酬:198ジット

 

 連絡した上で指定の場所に向かうと、奇抜な髪色に染めた三人の男が待ち構えていた。

 

「いつもいきなり襲ってくるのに。果たし状とは感心だな」

「Yo! Yo! Yo,yoyo! よく来たな!」

「逃げ出すんじゃないかと思ったZe!」

「待ってたyo! ちょっと寂しかったのは内緒だyo!」

「はあ」

 

 なんだ。相変わらず変なやつら。

 

「さあ、yo!」

「いくぞお前ら! 来いよユウ、カモーン!」

「ユウyo! お前のパゥワーを見せてみろぉ!」

「……気断衝波ーーッ!」

「「ぐわーーーっ! つよいyo! やられたーーーー!」」

 

 ノリいいな。俺もか。はい次。

 

 

 依頼3「私の話を聞いて下さい」 依頼人:匿名希望レディ 場所:喫茶店『テルネ』 報酬:80ジット

 

「それでね。ひどいのよ。ダニオったら、私なんかよりあっちの女の方がいいって!」

「うん。うん。君は悪くないよ。その人は見る目がなかったんだね。かわいそうに」

「そうよね! ほんとひっどいんだからぁ~」

 

 要するに恋の愚痴を聞いてくれという話だった。なるほど「俺向き」ではあるのか。

 もうかれこれ二時間くらいは貼り付けにされている。

 

「それにしてもあなた。かわいいわね。優しいし、好みかも。どう? 今度お食事でも」

「いえ。俺なんかじゃとても。まだ子供ですから、あなたを満足させてあげられないかも」

「ふうん。そうかしら?」

「少しだけ、疲れているんですよ。寂しいですよね。大丈夫。あなたは魅力的な方ですから、すぐに良い人が現れますよ」

「そうかしらねえ~。うん。無理言ってごめんなさいね、お仕事中なのに」

「いえいえ」

 

「ありがとう! 元気出たわ。また頼むわね」

「はい。また」

 

 ふう。やっと終わった。

 気付けば昼過ぎか。話聞いただけでどっと疲れた。

 うちを相談所か何かと思っている人も結構いるんだよな。何でも屋だから間違ってはいないんだけど。

 お弁当食べて次いこう。

 

 

 依頼4「共に素敵な汗を流さないか」 依頼人:"男の中の男"マンダム 場所:ドミ川沿いの通り 報酬:応相談

 

「やあ、ミスターホシーミ! 待っていたよ。どうだい、僕の肉体美は?」

「…………」

「君も脱いだらすごいって聞いてね! さあ、共に走ろう! あの川の向こうまで!」

「…………」

 

 俺は何も言う気になれず、次の依頼が書かれた紙へ目を落とした。

 

 

 依頼5「変態が毎日股間を見せつけてきます。何とかして下さい」 依頼人:マナリー・ラフレイア 場所:ドミ川沿いの通り 報酬:300ジット

 

「よし。ちょっとこっち来ようか」

「ノオオオオオオオーーーー! 私が何がしたというのかね!?」

「してるも何も。すっぽんぽんじゃないか!」

「それはああ! ありのまま団の教義にしたがってえええ!」

「知らないよ」

「嗚呼、同志よ! 私がいなくなっても第二第三の肉体美が君を真理に導く! 剥かれてしまえ!」

「はいはい。そうですか」

 

 収監。せめて下半身は履くように説得した。次。

 

 

 依頼6「うちの子に剣を見せてあげて下さい」 依頼人:ビゼド・アーサンダー 場所:アーサンダー家 報酬:350ジット

 

「うちの倅が、何を見て憧れたのか。大きくなったら冒険者になりたいって言い出して聞かなくてですね」

「なるほど」

「剣をやりたいというものですから。やれどんなもんか、体験させてみようと思ったんですよ」

「そういった事情でしたか」

「どうかセルムに、冒険者の夢を見させてやって下さい」

 

 いい親じゃないか。

 引き合わされた息子セルムくんは、俺を一目見るなり、鼻息荒く興奮して飛びついてきた。

 

「うわあ! ユウさんだ! 本物のドラゴンスレイヤーだあ!」

「おっとっと」

 

 どうも知らないところで憧れの対象になっていたらしい。

 

「すっかり懐いてますねえ。それでは、後はよろしくお願いします」

「はい。わかりました」

 

 親は下がって、こちらの様子を見守っている。

 二人残された俺とセルムだが、彼は曇りなき期待の目で俺のことをじーっと見つめ上げている。

 

「ユウさんは、何やってくれるの!?」

「そうだなあ――よし。セルム。よーく見てろよ」

 

 俺はセルムに与えられた練習用の木剣を手に取った。

 この剣でもできると思わせた方が、夢があると思ったからだ。

 それからアリムの実を一つ『心の世界』から取り出して、ちょうど庭に設置されていたテーブルの上に乗せる。

 セルムを連れて、一歩、二歩、と離れていく。

 数メートルほど離れた位置で、静かに木剣を構えた。

 セルムは息を呑んで、しかし輝く瞳はわくわくを抑え切れない様子で、これから何が起こるのかと見つめている。

 俺はじっとタイミングを待った。

 やがて、成熟したアリムの実の甘い匂いにつられて。

 小さな荒らし者、ミニングバードが実をつつきにテーブルへ降り立つ。

 小鳥が実の前に塞がったとき。そこが狙い目だった。

 横凪ぎに剣を振り払う。

 ヒュンと、耳に残る音が響いて。

 俺の振るった剣は――。

 前を塞ぐミニングバードには一切の傷を付けず、後ろにあるアリムの実だけを真っ二つにしていた。

 相当な技巧を要する技だ。

 その意味するところを理解した少年は。ぶるぶると肩を震わせて、もう大はしゃぎだった。

 

「すっげー! なんだよあれ! うわあ!」

「剣を極めれば。斬りたいものを斬り、守りたいものを守ることができるんだ」

 

 別に俺も何も極めてなどいないけど、適当にそれっぽいことを言っておく。

 ついでに、伝えておきたいことも伝えておく。

 

「強くなりたいなら、ただやみくもに傷付けるような人になっちゃいけないよ」

「うん! わかったよ! ユウさん!」

 

 キラキラ目で見つめてくるセルムは、それから俺の言うことなら何でも素直に聞いてくれた。

 夢を与えることには成功したみたいだ。

 中々楽しい仕事だった。次。

 

 

 依頼7「痛いところの面倒を見て欲しい」 依頼人:ドモハン・キンポウ 場所:安らぎの家『ベルサ』 報酬:一人当たり30ジット

 

 次の依頼は、いわゆる老人ホームで身体の痛いところの面倒を見てほしいというものだった。

 治療の類は気力の方がずっと容易で効果が高いからな。これも「俺向き」というわけだ。

 

「おお。来てくださいましたか」

 

 温かく迎えてくれたのはドモハンさん。この安らぎの家『ベルサ』の長だ。

 彼に連れられて行った大広間では、既にたくさんのご老人が談笑していた。

 

「こんにちは!」

 

 耳が遠い人もいるだろうと思って、大きめに声をかけると。

 俺の姿を認めた多くの人から、ばらばらと挨拶が返ってきた。

 

「私は腰が痛くてなあ」

「わたしゃ膝が」

「俺は肩だなあ」

 

 そのうち、我も我もと痛みを訴えて殺到してきた。すごい人数だ。

 何人いるんだろう――118人。

 うわ大変だ。こんなとき正確にわかってしまう自分の能力が憎い。

 ご老体も集まればすごいエネルギーで、もみくちゃにされる。

 困った俺は、苦笑いしながらやんわりと申し出た。

 

「あ、あの。皆さん。順番に並びましょう。ちゃんと治療しますから」

「おお。本当ですか。ありがたやありがたや」

「いい子じゃ」

「孫に欲しいくらいですねえ」

 

 世間話も交えながら、てきぱきと治療に当たる。

 痛いのを治して欲しいのも確かだが、みんな若い外の人と話がしたいらしく。

 俺はこの日、ホームの人気者だった。

 

 

 依頼8「モッピーとお散歩」 依頼人:ワンディ・トレロア 場所:アーマン通り 報酬:100ジット

 

「ユウさん。来てくれてありがとう」

 

 最初の依頼以来となるワンディと、子モコのモッピーとの再会だ。

 何でも、モッピーを助けた件を親に話したら、ちゃんとお礼をしなさいということで。

 100ジット札を一枚持たせて、こういう依頼の形になったのだとか。

 別にお礼なんていいのにとは思うが、教育上のこともあるだろう。丁重に頂くことにした。

 

「モッピー、あれからすっかり元気になって」

「よかった」

 

 彼はしっかり胸に抱いていたモッピーを、こちらへ差し出した。

 

「きゅー」

 

 モッピーはよく懐いて、舌で顔を舐め回してきた。

 助けてあげたことを覚えているのかな。

 

「あはは。だから、くすぐったいってば。かわいいやつだな」

「ほんと、よく懐いてますね」

 

 それから、ワンディと一緒にアーマン通りを散歩した。

 複雑に入り組んだこの町では数少ない、あまり見通しの悪くない通りだ。

 リードはしっかりと彼の手に握られている。

 彼は近況をよく話してくれた。

 親や友達が心配してくれたこと。もうすっかり元気になって上手くやっていること。

 何でも楽しそうに話してくれた。

 だけど、ふと。たった一言だけ。

 ひどく思い詰めた顔で、それまでとまったく繋がらないことを言ったのだ。

 

「あのね。ぼく、もう大丈夫だから。モッピーがいなくても、もう大丈夫だから」

 

 ――ああ。そうか。そうだったのか。

 だから君は。あんなにも深く沈んでいたのか……。

 

 ようやく裏側の事情を理解して。

 俺は、ワンディの足にすりついているモッピーを抱き上げて、しっかりと彼に持たせた。

 

「大切なんだろう。いるさ。ちゃんと『ここ』にいる」

 

 胸に手を当てて、微笑みかけてやる。

 

「あ……」

「頑張るんだよ」

「……はい!」

 

 胸のつかえが取れたようだった。

 目に滲んだ涙を拭った彼は、それからはもう暗い顔をすることはなかった。

 

 

 ***

 

 

 モッピーとの散歩が終わってからは、ユイとの協力依頼が並んだ。

 結局この一日で12の依頼をこなすことができた。

 だが半日以上かけて、たったの12か……。

 あの紙、まだまだ残っているんだよな。考えたら鬱になりそうだ。

 ああ。もうくたくただよ。ゆっくり休みたい。

 ダメだ。まだ夜の食堂があるんだった。

 

「つかれたー」

「うむ。こんなに大変だとは思わなかったぞ……」

 

 ジルフさんも、フェバル専用テーブル(レンクスがいつも寝てる窓際)でくたばっていた。

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ様」

 

 ミティが温かいお茶を出してくれる。

 ユイは肩を揉んでくれた。

 

「どうも」

 

 ありがたく甘えて、啜る。

 ほっとすると、全身を心地良い疲労感が満たして、くたってきた。

 でもまあ気持ちいい疲れだったかな。こんな一日も悪くないか。

 

 この後、ずっといない間に俺恋しさをこじらせたミティが、異次元のルームサービスを仕掛けてきて。

 大変な修羅場になるのだが、それはまた別の話。

 もう勘弁してくれ。

 そして結局、ひっきりなしに新しく入ってくる仕事を捌きつつ、溜まっていた仕事を片付けるのに一カ月近くかかってしまった。

 離れ過ぎは気を付けようと心に誓うのだった。


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