フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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81「ユウ VS 奇術師ルドラ・アーサム」

 バイクをひたすら飛ばして、指定された倉庫までやって来た。

 敵に奪われないよう、ディース=クライツは『心の世界』にしまう。

 かかった時間は30分程度。1時間は経っていない。

 中にも外にも敵の気配を感じながら、倉庫に入る。広々とした空間に、貨物コンテナがいくつも置かれている殺風景な場所だ。

 明かりは小さく、窓もない。数メートル先さえはっきりと見通すことはできなかった。

 こんな場所にわざわざおびき寄せたということは、敵は間違いなく罠を張っている。

 十分に警戒しながら、一歩ずつ進んでいく。

 そろそろか。向こうもシズハを殺してはいないはずだ。殺してしまっては人質の価値がなくなる。

 敵は当然、彼女を利用してくるだろう。対して俺はリクとシェリーの二人を背負ったまま、庇いつつ戦わなければならない。

 正直普通に考えるとかなり不利な状況だ。敵ながら俺の性格を見越して、用意周到に有利な条件を作り出した手腕は認めざるを得ない。

 シズハを助け出し、二人を守り。かつ敵を打ち倒すためには。

 多くてもチャンスは一度だけだ。絶対に失敗はできない。

 こんなときこそ冷静になれ。

 俺は深く息を吸い、吐いて。それから隅々まで行き渡るように声を出した。

 

「来てやったぞ。出て来い!」

 

 コンテナの陰から、若い男が現れた。

 暗さで顔全体はぼんやりとしか見えないが、薄ら笑いを浮かべる口元は判別できる。

 

「来たな。ホシミ ユウ」

「シズハはどこだ」

「言われなくても出してやるとも。おい、引っ立てろ」

 

 

 ***

 

 

 不覚。

 私、このような無様……晒すとは。

 縛り付けられて。猿ぐつわ。

 悔しい。奇術師め。

 くっ。身動き、取れない。縄抜け……使えない。

 

「来てやったぞ。出て来い!」

 

 な。ユウの、声!?

 バカ。なぜ来た?

 私、お前の……敵。来る義理、ないはず。

 なのに、なぜ……。

 この……バカ。バカ。お人好し。

 死ぬまで……治らない、のか。

 

「来たな。ホシミ ユウ」

「シズハはどこだ」

「言われなくても出してやるとも。おい、引っ立てろ」

 

 コンテナの上。引きずり出された。

 

 ……わかる。暗くても鍛えた目、ある。

 こんな怒っているユウ……見た。初めて。

 

「シズハ! 待ってろ。すぐ助けてやるからな」

「おっと。動くんじゃないぞ」

 

 奇術師。銃……持ち出した!

 ユウ、睨む。ちょっと……怖いくらい。

 

「それがお前のやり方か。卑怯者め」

「フフッ。オレは用意周到な方でね。スマートと言って欲しいな」

 

 容赦なく。撃つ。嗤いながら。何発も。

 手、足、肩。次々、撃ち抜かれて。

 わざと急所、外している。悪趣味な、やつ……!

 ユウ、黙って。耐えている。とても、苦しそう。

 

「くっくっく。我々のことをこそこそ探っていたらしいけどねえ」

 

 とうとう膝、ついた。

 もう、見ていられない。

 

「~~~~~!」

 

 何も……できない。悔しい。喋れない。

 逃げろ。どうして……そこまで。

 私なんか、いい。逃げて……!

 

「遊びじゃあ済まないんだよ。うちを嗅ぎ回るのがどういうことか」

「……っ!」

「勉強代が高くついたなあ。クソガキ」

「くそ……! お前、許さないぞ」

「くっくっく。許さないからどうだって?」

 

 装填された8発。全部、撃ち切って。

 嗤っている。とどめ、刺す気!

 

「~~~~っ!」

「さあ、ショーの仕上げといこうか」

 

 指、動く。ワイヤー、来る……!

 ダメ。ユウ、引き裂かれる!

 見たく、ない。

 

 だが、ユウの断末魔。ならなかった。

 

 ユウ、目の色……変わった……?

 突然、跳ねるように。動く。

 速い。

 まるでダメージ……ない……?

 はっと。気付く。

 まさか。すべて。やられた、ふり……!?

 ワイヤーを引く、一瞬。奴の隙、それだけ。

 ずっと。狙っていた……?

 

 ユウ、一気。加速した。奇術師に、飛び込む。

 見えないワイヤー……全部、引き千切って……!?

 

 そして――。

 

 目……疑った。信じられない。

 

 ユウの拳。

 めり込んで、いる。

 深く。深く。奇術師の、腹に。

 

「お、お……!」

「……あまり俺を見くびるなと。シズハから聞かなかったのか?」

 

 淡々と。当然のように……そう言って。

 ユウ。とても、怒ってる。

 

「バ……そ、んな……! が……うぷっ……!」

 

 あいつ……立てない。

 喘ぎ。苦しみ。膝突く。

 少し前まで……想像も付かない。

 あまりに、重い。一撃。

 

「見誤ったな。お前の負けだ」

「あ゛っ……!」

 

 奇術師、びくり。呻く。

 ショック……与えた? 

 あいつ、のびた。もう、動かない。

 気絶……している。完全に。

 

 そしてユウ、動き。早かった。

 次の瞬間……どこから、取り出した?

 ナイフ、投げつけて。

 私の見張り。二人とも。

 簡単に、倒した。

 

 私、助かった……?

 

「ふう……」

 

 ユウ、一息。駆け寄って、くる。

 縛り、解いて……くれた。

 さるぐつわ……外して、くれた。

 

「大丈夫か。シズハ。怪我はないか?」

 

 もう、よく知ってる。隙だらけ。

 そうしか見えない。甘い顔。

 

「……平気。別に……助けに、来なくても……このくらい」

「よかった。そんな口を叩けるくらいなら大丈夫そうだね」

 

 笑う。いつも、見てた。明るい顔。

 本当に。今なら、私でも……殺せそう。

 そう見える。

 でも、私……見た。

 今まで。見てた。

 

 無様。倒れてる男、見つめる。

 奇術師、ルドラ。

 私より……一段、二段、上。なのに。

 馬鹿な。こんなこと……あり得るの……?

 

 ……ホシミ ユウ。

 

 強い。戦い慣れている。

 

 私たちより。ずっと。

 一体、どれほどの。

 修練の果て。戦いの果て。ここまで……。

 底が、見えない。

 人のレベル……遥かに、超えている……?

 

 今さら、震えている。

 武者震い? 恐怖? 感動? 安堵?

 

 ……たぶん、すべて。

 

 こんな強かった、なんて。

 全然、ちっとも。そんな風……見えないのに。

 

「さて。外の連中はみんなびびって逃げたみたいだけど」

 

 事実。

 こくん。黙って頷く。

 

「このままだと、第二第三のこういう事件が起こらないとも限らないよなあ」

「組織……敵対者、許さない」

「だよね。うーん……」

 

 ならば。どうする?

 逃げるなら……協力する。

 拾った命。惜しくない。

 

「本当はこんなことしたくなかったんだけど……仕方ない」

 

 ユウ、あっさりと。言った。

 

「悪いけどさ。君の組織、少しばかり痛い目を見てもらうことにしよう」

 

 私……学んだ。今、学んだ。

 この人。怒らせては、いけない。

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