フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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115「夢想と現実のミスコンテスト! 1」

「木々に花あり、街に華あり! 今年も温かくなってまいりました。レジンバークの皆さんこんにちは! 春と言えば皆さんお待ちかね、ミスコンの季節ですよーー! ミスレジンバークコンテスト、始まんぜおらあああああ!」

「「ワアアアアアアア!」」

「司会・進行はわたくし、みんなの隣、受付のお姉さんがお送りいたします! かわいい子を! 特等席で! 見たいのよっ!」

 

 ありのまま団漢祭りばかりはスルーした彼女であるが、毎年レジンバークの可愛い子や美人が集まるこの日は気合の入り方が違っていた。

 

「第62回を迎える今回も、16名の華たちが集結して下さいました! 私が見たところ、今年は超レベルが高いです! 皆さん期待していいですよ!」

 

 特設会場の老若男女の期待値が上がっていく様子を満足気に見回してから、彼女は続けた。

 

「そろそろですが……出場者紹介の前にルールを確認しましょう。と言っても、とっても簡単! お手持ちの入場券がそのまま投票券になっておりまして、あなたが一番と思う子を記入して投票箱へ! ね、簡単でしょ? そうそう、もし私のことが可愛くても、私に投票しちゃダメだぞ♡」

 

 軽妙なトークで場を温めつつ、準備が整うまでの時間を稼いでいた。

 

「お待たせしました! ようやく準備ができたようです! 早速まいりましょう! まず一番の方はこちら!」

 

 光魔法のスポットライトが煌びやかに輝く。そこにブロンド髪の女性が歩み出てきた。

 

「なんといきなりこのお方が登場だ! 喫茶店『ココレラ』から、みんなのマスター、クォマイ・ココレラ!」

 

 二十代後半の彼女は、店の宣伝もかねてか、あえて普段喫茶店でよく見せている格好そのままで現れた。開いた胸元は大人の色気を漂わせつつも、顔立ちは整った丸顔で可愛らしさがある。

 気取ったパフォーマンスは得意のようで、腰をくねらせたセクシーなポーズで壇上を優雅に歩いてみせた。

 ココレラーと呼ばれる喫茶店愛好者から、恍惚の溜め息が漏れる。それから主にカーニン・カマード(この日ばかりは脱ぐのを自重したようだ)からやかましい声援も飛び出した。

 規定の位置につくと、彼女はほんのりと微笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下げた。

 

「では続いてまいりましょう! 二番の方!」

 

 快調に出場者紹介が続いていく。そして。

 

「お次は10番! おっと、あなたも出てしまうんですか!? 何でも屋『アセッド』より副店長、すっかり街の顔としてお馴染み、ユイ・ホシミちゃんの登場だーーーーーっ!」

 

 ユイが現れた。元々彼女は参加などする気はなかったのだが、周りからの期待の声と受付のお姉さん直々の頼みによって断り切れず、押される形での出場となった。

 ユイが出場すると聞くや即連絡を入れてきたのは、以前ユウと二人で服の素材の依頼をこなした、とある服屋の女性店主だった。

 母親譲り、映画スター顔負けの抜群のプロポーションを誇るユイを一目見て、ナチュラルな素材の良さを生かしたいと熱を上げた。

 コンセプトは「ちょっぴり色気付いた天使」。基本は白で固められた。

 ふわりとした柔らかな素材を基調とし、一見健全な可愛さを引き立てつつも、アピールポイントはしっかり薄くすることで、色気をちらつかせていくスタイルだ。

 腰のくびれははっきりと目立つし、上体を反らしたとき、へそがちらりと覗くような際どいところになるように、あえて上着の下を少し短めにしている。健全に胸を覆い隠しつつも、豊かな膨らみのラインはくっきりわかるデザインだ。二の腕や太腿は付け根の途中から露出していて、ひじとひざより先はまた布で覆われている。健康的な白肌とはみ出る肉感をちらつかせながら、隠れている部分をも想起させるようになっている。

 中々に攻めた格好をさせられた彼女であるが、気取りながら歩くとかはできないので、笑顔を振りまきながらも若干緊張しつつトコトコ歩いて来る。その初々しさをかえって好印象で受け止める者もいた。

 

「ユイちゃーん!」

「好きだー!」

「結婚してくれー!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 前列では、口々にファンからの熱愛発言が飛び出す。特にレンクスの声が大きかった。

 一般的なファンの他に、一部では親愛隊なるものが組織されていると言われている。

 歩くうちに気持ちが据わってきたのか、定位置に立つときにはもう堂々としていた。

 

「では11番! お、またまたですかぁ? まさかの上司と部下の対決! 再び何でも屋『アセッド』より従業員、ミティアナ・アメノリスの登場だあーーー!」

 

 可愛らしいフリルの付いたドレスを着こなし、颯爽とした足取りでミティが現れた。

 実は出場したのはユイだけではなかった。こちらはミティ自身が乗り気で「今日だけはわたし、負けませんよぉ!」とユイに堂々宣戦布告しての出場である。

 そんな彼女のコーディネートは、まさにアイドルがコンセプトだった。ピンク色を基調とし、そのままステージ上で歌って踊れそうな、軽妙な恰好だった。

 

「ミティちゃーん!」

「がんばれー!」

 

 健気に料理を振舞う姿と、常に明るいキャラクターもあって、あざといながらも一部の男性からは熱烈な支持を受けていた。

 これまでのどの出場者よりもサービス精神旺盛に、跳びはねつつ笑顔を振りまいていく。与えられた時間を目いっぱいアピールに活用していた。

 ユイの隣に立つと、彼女をちらりと見てふふんと笑いかけ、ライバル意識を見せたのだった。

 

 そして、普通なら観客席で二人を応援しているはずのユウは……しかし、この場にはいなかった。

 

 

 ***

 

 

 同時刻、トリグラーブ某会場。

 

 これが現実だよ……。

 

 俺は、がっくりと項垂れていた。

 

『第62回 ドキッ! 男だらけのミスコン大会』と銘打たれたポスターが、壁一面に貼られている。

 男子校の学園祭か何かかよ。

 正直な感想だった。

 いわく、女性の美しさを競わせて優劣の価値を付けるのはどうなのかとか、そういうフェミニンな理由があるらしく、トレヴァークで通常のミスコン文化は育っていない。

 代わりになぜか、可愛い男を集めてきて「ミスコン」が開かれるのは恒例となっていた。男なら競っていいのだろうか。それはいいのだろうか。色々突っ込みたいけど、実際やっていてそれなりに盛り上がっている以上は、言っても仕方がない。

 だが男たちは、そして目立ちたがりの女性たちはきっと夢見ていた。せめて夢の中では本物のミスコンをしようと。それがミスレジンバークコンテストの正体だろう。

 協賛はエクスパイト製薬、つまりエインアークスが影のスポンサーだ。ついでに企画からありのまま団の影がちらついて見えるのは、気にしないようにしよう。うん。

 正直言うと、俺はあまり出たくなかった。中学生のときの恥ずかしい記憶が蘇ってしまうからだ。

 でも「私も仕方なく出るんだから、あなたも出ておいで」とユイに「断ることは許さない」とばかりの笑顔で送り出された。

 後で『心の世界』の記憶を眺めてにやにやする気だ。絶対そうだ。

 しかもどこで聞きつけたのか知らないけど、シルヴィア経由でしっかりシズハに伝わっていて、トレヴァークへ着くや否や身柄を取り押さえられてしまった。

 無理に逃げると今後に角が立ち、世界間の移動にも悪影響がありそうだったので、泣く泣く参加するということになり……。

 仕方ない。出るからにはしっかりやろうと心を決めた。

 となれば女装をする必要があるわけだけど、普通なら服選びやら何やら苦労するところ、とにかく女の恰好をすることには慣れていたので迷いがなかった。

 まあ……女の子やってたからね。

 

 滞りなく準備は済ませて、当日を迎えた。

 ちなみに他の人はどうするのかというと。

 リクは元々何もなくても男ミスコンは見に行くつもりだったらしい。俺も参加することを伝えると、「マジですか! 絶対見に行きますよ!」と楽しみにされてしまった。

 そしてシズはもちろん、彼女から俺の参加を聞きつけて、ハルも来場者に加わることとなった。どうやらいつの間にかシズとハルは仲良くなっていたようで、ちょくちょくメールを送り合ったりしているみたいだ。おそらくは興味からだろうけど、外出許可をわざわざもらい、車椅子を押してまで来てくれるようだった。

 結局、色んな友達からの注目を浴びることになってしまったわけで。知ってる人の注目を浴びると恥ずかしいな。やっぱり。

 

 今は鏡の前で化粧を済ませ、最終チェックを念入りに行っているところだ。何回もしたことがあるので、着替えも化粧も慣れたものだった。

 元は一緒なのだから、しっかりおめかしして女装すれば、大体ユイみたいになるだろうとは予想していたけど……。

 思った以上姉そっくりに――すっかり女の子らしく仕上がってしまった自分の鏡姿を見て、思わずほうっと息が漏れた。

 さすがに小中学生の、女の恰好をすればまったくわからないとまで言われた全盛期には劣るけれど。

 まだまだ俺も捨てたもんじゃないな。いや、こんなところで捨てたもんじゃなくても嬉しくないけど。

 コーディネートのコンセプトはユイと概ね一緒にした。ただし、サイズと露出度だけは変えた。特に露出は少なめにしている。

 というのも……修行の弊害だ。今の俺はしっかり筋肉が付いている。お腹を出したりしていると、鍛え上げた腹筋が割れているのが見えてしまうからね……。

 当然、胸もないので、適当にパッドを仕込んでおいた。長さが足りない髪もカツラで補う。声は元々高めだから、喋ることがあっても聴衆をがっかりさせることはないだろう。

 細部チェック完了。服装乱れなし。パッドずれなし。カツラずれなし。化粧崩れなし。うん。完璧だ。

 ……何やってんだろうな。俺。

 ふと冷静に返るとこんな異世界に来てまで何やってるんだろうと馬鹿らしくなってくるけど、もう後戻りはできない。最後までやり切って、後で笑われるだけだ。たっぷり弄られようじゃないか。

 

 コンコン。控え室のドアがノックされる。

 

「どうぞ。空いてますよ」

 

 入ってきたのは、若い高校生くらいのぱっとしない男の子だった。

 

「あ、どうもです」

「こんにちは。君も参加者かな?」

「はい。優勝狙ってます」

 

 初対面で言い切るなんて、結構な意気込みだな。

 

「そうなんだね。って、あれ。君は……」

 

 よく見ると、どこか見たことがあるような気がして、記憶を辿る。

 そうだ。あのときの。

 

「もしかして、アマギシ エミリの路上ライブで激しく踊っていた人?」

「え、見ていたんですか? 恥ずかしい。いやあ、大ファンなんですよ! 僕」

 

 女装してカツラを被って、オタ芸を超越した何か、もはやアイドルなりきりと言った方が良いレベルで踊っていた人だ。範囲数メートルに近寄り難いオーラの固有結界を張るほどだったので、妙に印象に残っていた。

 あの女装は堂に入っていた。今日のミスコンみたいなイベントに参加しているとしても納得だ。

 アイドルの話題を振ったことで、俺もファンだと思われたのか、彼は喜んでその方面の話を展開してきた。

 いかに彼女が好きか、素晴らしいかをアイドル論を交えて素直に熱く語る彼を見ていると、ちょっと気圧されそうになるところもあるけれど、まあまあ好印象を持った。好きなことを好きに語れるのはいいことだよね。

 そしてどこか話しやすかった。慣れているというか、初めて話したような気がしないというか。不思議な感じだ。

 ひとしきり話が盛り上がったところで、意気投合した俺たちは、連絡先を交換しようという流れになった。

 

「あ、そうだ。よかったらこのご縁に、連絡先を交換しませんか?」

「もちろん。いいよ」

 

 まず俺の方から、アドレスと名前を送る。向こうにはホシミ ユウの名前が表示されているはずだ。

 

「ホシミ ユウ……。ってことは、エントリーNo.10、ユウちゃんですね!」

「うん。そうだよ」

 

 本番では「ユウちゃん」とちゃん付けで呼ばれることになっている。これが俺のペットネームだ。

 つまり、本名が男らしい人もいて、そのまま呼んでしまっては興が乗らないので、このミスコンでは予め申請しておいたペットネームで呼ばれるというルールがある。ただ俺はそのままでも問題ないので、本名を使わせてもらうことにしたわけだ。

 そこで彼は、改めてじろじろと全身を舐め回して、感心したように深く頷いた。

 

「むむむ、やっぱり可愛いですね。強力なライバル出現だ」

「はは。ありがとう」

 

 こちらは曖昧に頷いておく。女のときだと可愛いって褒められるとそれなりに嬉しいものだけど、今はそんなに嬉しくないかな。

 

「ですが、僕も負けませんよ! 女の子になり切るのは自信があるんです!」

 

 この男、女装にかけては一家言あるのか、妙に張り切っていた。そこまでして証明したいことなのだろうか。だったら俺はこだわりないし、この子に優勝させてあげてもいいかなという気が個人的にはしていた。

 

「ところで、君はどんなペットネームなの?」

「言ってませんでしたね。ほら、ここのNo.11――ふふ、ちょうどあなたの隣ですね」

「どれどれ。――ん? んん!?」

 

 そこに、あり得ないはずの名前が。妙に見慣れた名前が。

 なんで? どうして?

 唐突なあまりの衝撃に、混乱して軽くパニックを起こしかけた。

 

「え、え? 君…………え?」

「? どうしたんですか」

 

 …………いやいや。マジで!?

 

「あ、僕も連絡先送りますね」

 

 ピロリン。

 

 電子音が流れて、電子画面に文字が浮かび上がる。

 

 そこに、記されていた名前。

 

 

 アメノ ミチオ。

 

 

 ミチオ。

 

 アメノ。

 

 ミチオ。

 

 ちょっと。待て。待って。ってことは、まさか。

 

 色んな記憶が頭に駆け巡って半ば放心していると、目の前の青年はちょうどカバンからカツラを取り出し、被ってみせるところだった。

 

 その姿は――。髪の色こそ違えど――。

 

 まさに。まさしく。

 

「…………お」

「はい?」

「お前かあああああああああああーーーーーーーーーっ!」

 

 まさかの正体に、思わず俺は相手を指さし、ラナソールノリで声高に叫んでいた。


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