フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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172「ユウ、ダイラー星系列に目を付けられる」

 シルバリオを放り出した後で、ランウィーはブレイにやや冷ややかな目を向けていた。

 

「あなたの態度に追随しましたが、少々辛辣だったのでは?」

 

 彼女の見立てでは、シルバリオという男は頭も切れるし気概もある。記憶は別にしても、今後の協力を取り付けられれば調査が円滑に進むのではと考えていた。

 

「仕方ないさ。立場上情けをかけることはできない。最悪皆殺しにしなければならないのは事実だしな」

 

 彼自身気の進まない任務ではあるが、宇宙の安定を守るためにはやむを得ない処置となれば、躊躇わずやる。時には苛烈ならねば、宇宙の番人たるダイラー星系列の役人は務まらない。

 言われて、彼女もそうかと頷く。

 

「まあ……それを知ってしまえば、あの男が素直に協力してくれるとは思えませんね」

「そういうことだ。世間で言われているよりも骨のある男だったな。失言が過ぎれば、立場上首を飛ばさなければならないところだった」

「その前に放り出したと。仕方ないですね。あなたは」

 

 ランウィーは、いたずらをした子供を見るように目を細めた。

 情けをかけることはできないと言いながら、かけていたのだ。彼らしく不器用ながら。

 気恥ずかしさを感じたのか、ブレイは咳払いして、ドーラに命じた。

 

「S-0002。解析した記憶からフェバルに関連すると思われる部分を抜き出して投影してくれ」

 

 ランウィーが目くばせすると、別のドーラが電気を消す。部屋は真っ暗になった。

 S-0002の目から光が放たれ、壁に映像が投射された。

 

 どこかあどけなさの残る少年が、たくさんの部下をなぎ倒しながら、シルバリオのアジトを一気呵成に突き進むシーンから始まった。

 見た目は少年であるが、実際はどうかわからない。

 

「あの人は」

「恐らくフェバルだろうな。だが」

「それにしては動きが随分と……人間らしいですね」

 

 フェバルにしてはすこぶる弱いと、ランウィーは暗に言ったのである。

 

「ああ。あえて実力を隠している可能性もあるがな」

 

 行く先で波風を立てたくない人物である場合、爪を隠して過ごすことはある。

 それにしては積極的に世界に関わる奴だという印象であるが。

 

「ホシミ ユウ。ホシミが姓のようですね」

 

 交渉、和解。協力関係の構築。一連の流れは抜粋されて、映し出されていた。

 

「この星の姓のリストを持っているドーラがいたな」

「データリンクして解析させますね」

 

 間もなく、ホシミという姓はトレヴァークに存在しないことが明らかとなった。

 

「偽名の可能性もあるが……ほぼ間違いないな」

「はい」

 

 二人は改めて気を引き締める。

 観測員の報告から、フェバルが複数潜んでいることは示唆されていた。今一人が炙り出されたわけであるが、氷山の一角に違いない。

 フェバル級がいるとなれば、任務の難易度は跳ね上がる。特別製の紅い機体――No.1フォアデールを除いて、一般のバラギオン程度では対処は厳しいだろう。

 たかが辺境と侮るべきでないのかもしれない。

 観測員の報告を受けた際、既に本星へ追加軍備を要求している。フォアデールの他にも星撃級兵器を複数要求したが、星撃級以上の兵器を多数外地へ派遣する場合、紛失や簒奪の際のリスクが跳ね上がる。費用も安くはない。そのため、議会の承認を含めた諸々の手続きが面倒になるのだ。

 最短で1ヶ月、最長で3~4ヶ月は見ておくべきか。それまでは手持ちの兵器で上手くやりくりしなければならない。

 現地人の掌握など序の口。大変なのはこれからである。

 

 さておき、引き続きドーラによって映し出される映像の数々は、極めて有益な情報をもたらした。

 治らないとされていた夢想病の治療法。ラナソールなる夢想の世界。トレインソフトウェア襲撃事件と世界同時多発テロ事件の首謀者が、同一のフェバルであるという示唆。第三の領域アルトサイドの存在。

 ダイラー星系列が求めていた類の情報が、次から次へと提示されていく。

 さしもの二人も、これほどの当たりを引くとは思わず、唸ってしまった。

 それをもたらした人物にも、興味は向けられる。

 

「ホシミ ユウ。実力こそ見えませんが、中々の人物のようですね」

「ああ。これほど深く調べこんでいるとは思わなかった。穏やかな人柄のようであるし、一度接触してみたいものだ」

「そうですね」

 

 二人の意見は一致する。上手くすれば、『事態』の解決に向けて協力できるかもしれないという期待もあった。

 

「ただ、シルバリオ殿の認識ですと、既に死亡したとのことですが」

「フェバルだろう。簡単には死なんさ。それに現在、星脈は閉じている。仮に死んだとて、どこかで蘇っているはずだ」

「なるほど。確かに」

「それよりも、私には彼の性格の方が心配だな」

 

 懸念材料だ。記憶映像を見る限り、彼がダイラー流のやり方に反するほど清廉に過ぎるのではないか。敵対関係になる恐れも十分にあった。

 いずれにせよ、接触する価値はある。会って見定めるという方針で悪くないだろう。

 味方になるのならば良し。邪魔になるのであれば、始末する。

 

「ランウィー。手配してくれ。ホシミ ユウを見つけ次第、動きを封じて大使館まで連れてくるようにと」

「承知いたしました」

 

 すべての機械兵器に対し、ホシミ ユウを発見次第拘束し、大使館まで送り届けるよう極秘の指示が出された。

 トレヴァークの人たちも、何となく嫌な予感がして機械兵器と接触を避けてしまった当のユウ本人も、もちろん知る由はなかった。


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