フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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195「ラナソール=フラグメント」

 アルトサイドから抜け出した俺の目に飛び込んで来たものは。

 一見してトレヴァークではあり得ない、現実離れした光景だった。

 

 世界が……砕けて……。

 

 ラナソールは辛うじて残存していた。

 暗黒の空に漂う無数の浮島――フラグメントとして。

 以前の二大大陸は見る影もなく。

 欠片の一つ一つは、嵐が吹けば消し飛んでしまいそうなほど儚い。

 

 世界そのものが滅亡しているという最悪の予想は免れたものの、それに近い悲惨な状態だ。

 良くない想像はしていたけれど。実際目の当たりにしてしまうと、言葉が出てこない。

 人は生きているのだろうか。みんなは無事なのだろうか。

 不安と焦燥感に駆られるが、落ち着けと自分に言い聞かせる。

 

 たぶん、辛うじて大丈夫だ。今のところは。

 トレヴァークの約十人に一人が夢想病に倒れてしまったが、逆に言えば残りの九割は普通に生きている。

 ラナソールそのものはまだ存続している事実から、砕けてしまった世界のどこかで、今も人々は逞しく生きているはずだ。

 そうだよ。ラナソールの人たちは、一般の世界よりも遥かに逞しい。

 S級魔獣にだってひけを取らない実力者もいるんだ。きっとそう簡単にはやられていないはずだ。

 

 よし。生存者を探そう。周囲に人里はないか。

 

《パストライヴ》の連続使用で、疑似的に空を飛ぶ。ラナソールだと多少の無茶は効く。

 俺が立っていた浮島は残念ながらさほどの大きさはなく、空から一望してみたが無人のようだった。

 他の島はどうだろうか。

 さらに空高く飛び上がり、いくつかの浮島を観察してみるも。建物一つ見当たらない。

 建物はなかったというのに、嬉しくない奴はいた。

 浮島のいくつかは闇の異形のテリトリーになっているようで、連中が我が物顔でのし歩いているのが見えたのだ。

 そうだった。こっちにもいるんだったな。

 アルトサイドほどではないにせよ、結構な数がいるみたいだ。

 もし気付かれたら、また追い立てられて大変なことになるぞ。

 化け物たちに気取られないよう慎重に観察を続けたが、残念ながら見える範囲に人のいる様子は見受けられない。

 

 ――もっと向こうへ行ってみるか。

 

《パストライヴ》をさらに駆使して、飛んでいく。

 ところがしばらく進んだところで、先へ行けなくなってしまった。

 というのも、空に浮かぶ土塊を闇の空が吸い込んでいるのが見えてしまったからである。

 つまりあそこから先は、ぱっと見何も変わらないけど。アルトサイドに繋がっているということか。

 うーん。せっかくこっちに来たのに、また飛び込むのもな……。

 じゃあ別の方向は――。

 結論から言うと、ダメだった。

 どの方向もある程度まで行くと果てがあり、その先はアルトサイドになっているようだ。

 つまり、ラナソールの一部が空間ごと切り取られて、完全に隔絶した状態になっているらしいことが判明した。

 しかも俺のいる領域には、まったく人がいないようだ。

 

 これはまた厄介なことになったぞ。

 俺は頭を抱えたい気分だった。

 ラナソールにさえ来られれば、人伝てに移動できると楽観していたけど。甘かった。

 人が暮らしている当たりの領域を引くまでは、あてどもなく移動しなくちゃいけないのか。

 それにどう考えたってだよ。ラナソールは人のいない領域の方が圧倒的に広い。

 未開の地ミッドオールが、面積としてはほとんどを占めているからだ。

 だから世界各地が分割され、配置もランダマイズされたこの状況。

 残念ながら、当たりを引く可能性の方が遥かに低いと考えられる。

 ここまで来て、なお分の悪い運任せになるとはね……。

 またアルトサイドを命懸けで進まないといけないのか……。

 それも当たりを引くまでは、何度でも。

 

 けどもう一度闇の化け物に襲われたら、どうする。

 唯一有効なエーナさんの光魔法は一発しかないんだ。

 また囲まれたら、どうしようも……。

 

 ――いや、あるにはあるのか。ちくしょう。

 

 闇の化け物に取り憑かれたときに呼び起こされた、俺の中のあの力が。

 黒の力が。

 あれを使えば、おそらくは通用する。けど……。

 とてもそんな気にはなれない。

 本当に使うしかないのか? できれば使いたくないと言った矢先に。

 俺はあんな恐ろしくて忌まわしい力に、頼らないといけないのか……?

 弱いから。手段は選べないと……?

 

 ……今はとりあえず移動しよう。

 

 ここにいても何にもならないのだから、動くしかない。

 厳しいとわかっていても、行くしかないんだ。

 あの力が必要になる事態が来ないことを祈って。

 

 けれど、現実はやはり厳しかった。

 再びアルトサイドに突入した俺を手厚く歓迎したのは、おびただしい数の闇の化け物の群れだった。

 しかも、俺の天敵である悪夢を見せるタイプが複数待ち構えていた。

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