フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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245「ユウ、ダイラー星系列と接触する 2」

 仕事を受ける方向で考えていることを告げると、ブレイは言った。

 

「では、まずはお前の心を繋ぐ能力とやらを一時的に解除してもらおうか。この話は内密にしてもらわなければいけないのでな。無用な混乱を避けるため、個人的にも他人に聞かせないことを強く勧めておこう」

 

 強く勧められてしまった。そこまで言うなんて、ランドたちを遠ざけた理由と関係があるのだろうか。

 

「正直、これに関してはお前を信用するしかないのだ。能力の発動の有無がわからないからな」

 

 どうやら《マインドリンカー》は、使用している当人たちにしかわからないステルス能力のようだった。確かに見た目には何もわからないからな。【神の器】の技は一度もダイラー星系列に妨害されなかったことから、たぶん事実だろう。

 つまりブレイは俺の人柄を見込んで話をしようというわけで。この信用は裏切らない方がいいだろうな。

 素直に解除しよう。

 ランドとシルは一方的に解除しても平気だろう。深く繋いでいるハルは影響が大きいから、ちょっと断って――

 

『聞こえてるよ』

『わ。びっくりした』

 

 まるでユイの地獄耳だな。

 

『えへへ。ごめんね。一回やってみたかったんだ。ユウくんとまた話ができるのが嬉しくてね』

『俺もだよ。でもちょっと悪い。向こうがさ』

『事情はわかったよ。後で相談しようね』

『そうだな。また』

『うん。また』

 

 名残惜しく繋がりを切る。

 

「解除してくれたか?」

「しましたよ」

 

 頷くと、席にかけるよう勧められた。

 シェリングドーラがティーセットを運んでくる。

「彼女」が給仕係をしていることに驚いたような、妙に納得したような。

 メイドがちゃんとメイドしてるよ。変な言葉だけど。

 しかも中々の淹れっぷりだ。プロにも負けてないかもしれない。

 何だかディアさんの店でウェイトレスをやってたときのことを思い出すな。ジャックも元気だろうか。

 飲み物に一口付けたところで、ブレイは語り始めた。

 

「本星はどうか知らないが、まず我々個人としては苦渋の決定であることをよく踏まえた上で聞いて欲しい。あまり取り乱すなということだ」

「はい」

 

 やはり問題のある内容なんだろうな。心構えをしておく。

 

「星脈に穴が開くという前代未聞の現象が起こっている。穴は徐々に拡大しており、このままでは宇宙全体が巻き込まれて崩壊する恐れがある。この前提についてはいいな?」

 

 頷く。ウィルが言っていたことを改めて追随された形だ。

 本当に大変なことになってるんだよな。宇宙そのものがやばいなんて。

 

「我々のシミュレーションでは、安全に処理ができるのは暫定であと86日までだ。それ以上はリスクが高過ぎる」

「たった86日しかないんですか?」

 

 具体的なタイムリミットを示されると、本当に時間がないんだなと思う。

 数百年をかけてゆっくり世界が終わっていくと言われていた時代が遠い。

 

「よって、期日までに本件の収束を見ない場合――原因の根本であるトレヴァークおよびラナソールを、完全に消滅させることとした」

「そんな……!」

 

 かつてのエストティアを壊滅させたダイラー星系列だ。やるとなれば容赦なくやるだろうとは思っていた。

 覚悟はしていた。仕方がないことも重々わかっているが、それでもショックを隠せない。

 これは……確かに現地人に聞かせるには酷な話だな。

 でもダイラー星系列には悪いけど、民衆はともかく、仲間にずっと隠しておくわけにもいかない。話し方は考える必要があるけど。

 

「気持ちはわかるが、我々も仕事だ。宇宙の秩序を守る使命がある。どうしても事態を解決できないのであれば、やむを得ない措置であると理解したまえ」

「それは……はい。わかっています」

「よし。タイムリミットについては理解したな? それから当然だが、予測ははずれることもある。現在のタイムリミットはあくまで暫定であり、状況によって早まることも理解したまえ。我々が最低限保障できるのは、星消滅兵器の発射準備が整う75日後までだ。ここまではよろしいか?」

 

 楽観視はできない。75日が期限だと考えて行動しなければならないな。

 

「……はい。続けて下さい」

「よろしい。先に脅しから入ってすまないが、本題に入ろう」

 

 カップに口を付けて喉を潤してから、ブレイは続けた。

 

「一部に過激な星裁執行者がいることは否定しないが……我々も基本的には、平和的解決ができるのであればその方が望ましいと考えている」

「非常にありがたく思います」

「うむ。して、これは私個人の所感だが……お前たちの目の付け所は大きく外れてはいないと思う」

「俺たちがやってきたこと……世界の成り立ちを調べる旅のことですか?」

「ああそうだ。ラナソールという許容性無限大の世界は明らかに異常な存在だ。明らかに異常であるのに、その正体も発生要因もわからない。わからなければ対処のしようもない」

「そうですね。回り道に見えるかもしれませんが、まずは知ることが大切だと考えています」

「同感だ。かの世界の成り立ちを突き止め、何らかの方法で異常状態を解消することができれば……あるいは事態が収束するやもしれん」

「俺もそう思います」

 

 なるほど。中々話のわかる人物のようだ。

 向こうもそう思ってくれているのか、穏やかな調子で話は進んでいる。

 ダイラー星系列の星裁執行者はひどいのは本当にひどいらしいからな。「外人(外地の人間)は人にあらず」みたいなのもたまにいるらしい。これもレンクスが言ってたことだけど。

 大変な状況だけど、彼が執行者なのは幸いだったな。

 

「して、これも私の予想だが、ダイラー星系列流の武断的なやり方では、あまり上手く行かないような気がしているのだ。おそらく我々では、いつ消すかという判断しかできないだろう」

 

 だが、とブレイは強調する。

 

「だが理解したまえ。そうした役割も必要なのだ。お前のような若者が理想を追う一方で、誰かが最低ラインを守り、現実のバランスを取らねばならない。政治とはそういうものだ」

「では、俺たちに何を期待しますか?」

「もうわかっているだろう。もし世界を消し去る以外のより優れた解決方法があるならば、それに越したことはない。それをお前たちに探って欲しいのだ。なあに。お前たちが今までやってきたことと何も変わりはないさ」

「つまり、活動を公認して頂けるということでしょうか」

 

 本当に願ってもないことだ。彼らとの関係で考え得る限りは、理想的な展開だった。

 だがふと思う。

 もしあのとき、ヴィッターヴァイツを憎しみのまま殺そうとしていたら。黒い力を使い続けていたら、どうなっていただろうか。

 奴は殺せただろう。だがそれだけだ。

 ハルは戻って来なかっただろう。破壊の規模は病院に留まらなかったかもしれない。さらに犠牲者が増えていたかもしれない。

 俺はやはり危険人物として、この人たちから追われていたのではないだろうか。そんな気がした。

 

「あくまで私の現地判断だがな。本星から上位命令があった場合は覆ることがある。そのことは含み置いて欲しい」

「はい」

 

 本星という言葉を語るとき、あまり良い顔をしていない。

 本星の方が厳しい判断を下す可能性が高いということだろうか。

 

「とにかく、私の権限が及ぶ限りで、調査の件についてはお前に一任しよう。どうせ我々だけでは、ラナソールもアルトサイドもろくに調べる手段がないのだからな。どう考えても直接行くことのできるお前が適任だ」

「ありがとうございます。あなたたちはどうするつもりですか?」

「我々は待とう。無論ただ待つだけではない。可能な限りお前たちが気兼ねなく動けるよう、より厳重に守りを固めておく。ヴィッターヴァイツの【支配】も、能力の性質がわかっているなら対策のしようはある。二度と同じ轍は踏まんさ。お前たちを調べてわかった、『世界の破壊者』ウィルやナイトメア=エルゼムの存在については……正直言って恐ろしい連中だが、最大限警戒はしておこう」

「なるほど。役割分担ですか」

 

 ありがたい。常にみんなの安全を気にしながらでは、活動に集中できそうになかったから。

 それと、ダイラー星系列でもウィルやエルゼムは恐ろしい連中なんだな。これについては俺も現状どうしようもないから、襲って来ないことを祈るしかないのか……。心苦しいな。

 

「ただし、当然だが紐は付けておきたい。あまり好き勝手動かれても困るのでな。日に一度、包み隠さず調査状況を報告せよ。また、大きな判断をする場合は、必ず事前に相談し、許可を仰ぐことだ」

「わかりました。その条件で依頼を受けましょう」

「話が早くて助かるな」

 

 助かったのはこちらの方だ。本当に。

 確かにアニッサ……アニエスか? の言う通り、逃げずに取り調べを受けてよかったよ。

 ブレイは軽く咳払いをすると、改まって言った。

 

「世界を守りたいのならば、期限までに解決策を示し、実行することだ。これが我々にできる最大限の譲歩である。貴殿の成果を期待する」

 

 彼と握手を交わす。有意義な対談は終わった。


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