話をしながら歩いていると、何でも屋『アセッド』トリグラーブ支店に着いた。
明らかな戦闘の跡がある。ナイトメアや暴走した機械兵士の攻撃を受けたのは例外ではなかったらしい。
店員のみんなは無事だろうか。すぐに安否を確認しよう。
それにしても、ずっとダイラー星系列に手配されていたから、堂々と俺の店に入るのも久しぶりだな。
「あ。ユウくん」
車椅子に座ったハルが俺に気付いて手を振る。俺も手を振り返す。
既に見送りのシェリングドーラの姿はない。店員に身柄を任せて帰っていったようだ。
ハルに付き添っていたのは、俺が不在時の責任者であるダンと、女性店員のイズナだ。
よかった。二人とも無事だったのか。
「ダン。イズナ。よく無事だったね」
声をかけると、イズナは若干涙ぐんでいた。
「ユウさん。ボスやこの方から話は聞いていたのですが、本当に生きていたんですね……!」
「心配かけたね。留守の間を守ってくれてありがとう」
ダンもまた、感極まった様子で顔を綻ばせている。
「店員一同、ユウさんの帰りをお待ちしておりました」
彼が合図すると、店員たちがぞろぞろと現れて整列した。
トリグラーブ支店の人員62名。怪我こそあるものの、一人として欠けている者がいない。
「みんな! 無事だったか!」
明るいニュースだ。やっぱり身内だけでも無事というのは嬉しい。
ダンは語る。
「正直、もうダメかと思ったんですが。不思議と底力ってやつが湧いてきまして。全員で何とか凌ぎましたよ」
それを聞いてよくやったなと思うが、同時に疑問でもあった。
ナイトメアも機械兵士も、普通の人間ではまったく太刀打ちできないほどに強いはず。なのに底力くらいで全員助かるなんて、そんな都合の良い奇跡が起こるものだろうか。
そう言えば、以前にもこんなことがあった。
エルンティア解放戦争のときのことだ。あのときも、やはりあの世界の機械兵士やバラギオン相手に戦士たちは善戦し、本来予想されていたよりも遥かに犠牲者が少なかったではないか。
それはなぜだったかと言えば――。
俺が気付くのと、ハルがこちらに向けてウインクするのが一緒だった。
そうか。ハルのときと同じだ。ここでも繋がる力が効いていたんだ。
たとえ《マインドリンカー》を明示的に使っていなくても、俺の助かってくれという想いに心の力はちゃんと呼応していた。【神の器】は繋がりのある人物に力を貸し与えてくれた。たぶんそういうことなのだろう。
心から嬉しく思うと同時に、ぞっとすることでもある。
ここでも、もし俺が黒い力に溺れていたらどうなっていただろうか。
確実に繋がりは切れていたはずだ。切れてしまえば、一般人はなすすべもなく殺されていただろう。
『黒でも白でもない、お前自身の道を見つけるんだ』
『さもなければ、お前もいずれすべてを失うことになる。俺と同じ道を辿ることになるぞ』
あの力を使うとろくなことにならない。
もう一人の「俺」が言っていたことも、今ならより痛切に感じられる。
俺は最悪、ハルも、何でも屋の店員も、エインアークス本部を守っていたシズハたちも、一度にすべて失うことになっていたかもしれなかったのだ。
そしてきっとそれは……ただの偶然ではないのだろう。
俺は改めて、あの力には頼らず、自分なりの道を探すことを心に誓った。