ダンのところへ向かい、彼の手を借りてトレヴァークへと帰還する。
戻ってみると、何でも屋のオフィスルームだった。
ダンの近くでは、リクが難しい顔でPCのタッチボードを弄っている。俺の姿を見るなり、リクは「おかえりなさい」と声をかけてきた。
「どうでした? 収穫は」
「ばっちりだよ。たくさんの力をもらってきた」
「さすがっすね。……ところで、心配なことがあるんですけど、報告してもいいですか?」
「もちろん。どうした」
「その。色々あったので、知人の安否を確認してたんですけど……」
幸運にも、彼の知人はほとんど全員無事だったのだという。
ただ一人を除いては。
「シェリーさんと繋がらなくて」
「そうだ。シェリー!」
言われて思い出して、狼狽える。
前に彼女の反応を探ってみたとき、反応が薄くてよくわからなかったんだよな。
それだけなら必ずしも危険というわけではなく、ただ近くにいないということなんだけど。
でもこのご時勢、トリグラーブにいないというだけで心配だから、近いうちに探そうとは思っていたんだ。そのときは。
けれど、明らかに危機に陥っていたシズハの救出から、エルゼムの襲撃、ヴィッターヴァイツの襲撃と、一連の事件が続いたせいですっかり頭から抜けてしまっていた。
危ない状況かもしれない。手遅れでないといいけど……。
「ユウくん」
「ハル。あれ、どうしたの!?」
焦りを覚えているところに、ハルが"普通に歩いて"部屋に入ってきたので、思わず目を丸くする。
「ふふ。びっくりしたかい? 君がたくさん繋いでくれたおかげで、ほらこの通りだよ」
「驚いた。常時パワフルエリアばりの補助がかかっているのか」
むしろ単純にパワフルエリアにいるより遥かに強い。気力だけでも常人を優に超えている。ハルは強く繋いでいるから、恩恵も大きいのだろう。
「うん。で、今度はボクのところからフェルノートに行くつもりだったんだろうけど……もっと優先したいことがあるみたいだね」
「ああ。時間がないのはわかっているんだけど、シェリーを探したい」
「キミならそう言うと思ったよ。だからね」
ハルがリクに目配せして、彼が言葉を継ぐ。
「既にエインアークスの方や、ランドさん、シルヴィアさん、アニエスさん、J.C.さんに捜索してもらっているんです。僕は捜査状況を取りまとめていまして。彼女……どうも聖地ラナ=スティリアに向かったみたいなんですよね」
「そうか。被災地だからってことで向かおうとしたんだろうな」
けど俺たちが行ったときには既にいなかった。死体も――幸いにして見つかっていない。
「結局行かなかったのか。入れ違いになったのか」
最悪の可能性は考えないようにして推測を述べる。
「というわけで、ランドさんたちには、聖地からここまでの範囲で見てもらっているんです。見つかる可能性が一番高いので。あと、全然ついでじゃないですけど、皆さんには他の被災者の救助活動も同時にしてもらっています」
「だからね。こっちのことはボクたちに任せて、キミはキミにできることを優先して欲しいんだ。みんなの力を借りるとか、世界の記憶のこととか」
ハルは俺に手を差し伸べて微笑む。
「時間は限られているから。ね」
「……そうだな。わかった。シェリーや他の被災者のことは頼む」
確かにリクやハルの言う通りだ。俺一人が加わるよりも、ここはみんなを信頼して任せた方が効率が良いだろう。
きっとシェリーは見つかるはずだ。アニエスやJ.C.さんがいるなら、「多少の手遅れ」は取り戻せるかもしれない。
みんなの力とシェリーの無事を信じよう。
俺は意を決すると、ハルの手を取り、フェルノートへと向かった。