フェバル~TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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EX「To be continued…」

 八千年もの長きに渡り、夢の世界を維持し続けるだけの生ける屍と化していたトレインは、ついに想剣によって貫かれた。

 妄執に囚われた男は、泡と消える。

 ラナもまた、彼を解放してくれた英雄に感謝を述べながら、消えていく。

 

 狭間の世界で、死闘と言う名の茶番を演じていた黒の旅人と始まりのフェバルは、自らもまた世界とともに消えつつあることを悟った。

 黒の剣を鍔ぜり合いつつ、最後の応酬を繰り広げる。

 ついにこのときがきた。

 アルは、感情を剥き出しにしてほくそ笑んだ。

 

「おい。ユウ。僕が今、考えていることがわかるか?」

「わかるさ。お前の考えていることなんて。いくらでもな」

 

 宇宙を何度繰り返したと思っている。どれほどの腐れ縁だと思っているのか。

 お前がろくでもないことしか考えないのは、よく知っている。

 

 だがいまいち理解できていないと見たアルは、はっきりと断言する。

 

「お前の負けだ。ホシミ ユウ」

 

 だが『ユウ』は、動じなかった。

 

「果たしてそうかな」

「強がりを。ならば、なぜ止めなかった。僕の狙いがわかっていたのなら」

「見解の相違だ。俺は――あの二人を信じている」

「僕の強さを知りながら。あんな一回分の雑魚に、望みをかけると?」

「ああ。そうだ」

 

 ついに、アルトサイドのすべてが消える。

 彼らの存在の拠り所は完全になくなり、ともに浄化されて、消えていく。

 

 消えゆく最中、アルは勝ち誇り、『ユウ』は二人に望みを賭けていた。

 

 

 ――頼んだぞ。お前たちなら、きっと。乗り越えられるはずだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 光に包まれて。そして――。

 

 なに……。ここは……どこ……?

 

 またどこか。真っ暗な空間に出てきていた。

 

 ――何もない。

 

 声を出そうとして、まったく声が出ないことに気付く。

 

 それどころか、息もまともにできないことに!

 

【反逆】《不適者生存》

 

 慌ててレンクスの技を使うも、まったく効果が表れない。

 

 どうなってるの……苦しい……!

 

 一体化していたユイの心が、心配で呼びかけてくる。

 

『ユウ! 大丈夫!? 変なところに出ちゃったみたい』

『やばい! 早くここから出ないと、意識が……!』

 

 必死にもがき続けるも、脱出方法がまったくわからない。

 未だに想いの力が身を守ってくれてはいたが、このままではいたずらに命を消耗するばかりだった。

 

 せっかくやり遂げたのに……こんな、わけのわからないところで……。

 

 次第に朦朧とする意識の中、芯に響くような冷たい声が心に響いてきた。

 

 

『ここは宇宙の外だ。お前たち内なる者は、本来招かれざるところ。フェバルの力ごとき、及ぶ領域ではない』

 

 

 だけど。

 

 この声は、知っている。

 

 うっすらと目の前に現れた人物に。

 

 その記憶と寸分変わらぬ姿に。

 

 え。

 

 なんで。

 

 どうして。

 

 なんで君が、ここにいるんだよ……?

 

 

 ミライ。

 

 

 ねえ。

 

 どこに行ってたの。こんなところで、何やってるんだよ。

 

 話がしたくて。必死に手を伸ばそうとして。

 

 

 ――心がまるで違うということを悟るのに、一瞬遅れてしまった。

 

 

 

 ユイの必死に呼ぶ声が、やけに遠く聞こえる。

 

 

『待って! 違う。そいつは、ミライじゃ――!』

 

 

 

 

『そうだな。僕がオリジナルの――アルだ』

 

 

 

 

 !?

 

 

 

 彼のかざす手が、私に触れた途端。

 

 身体に力が、入らない……!

 

 あれほど溢れるばかりだった心の力が、嘘のように急速に衰えていくのを感じていた。

 

 オーラの輝きは消え、死の脱力感が襲ってくる。

 

 

 ダメだ……力が……。

 

 

 

 ***

 

 

 

 もはやぴくりとも動かなくなった女の身体を吐き捨てるように一瞥して、アルは独りごちた。

 

「惜しかったな。まあいい。復活は後に取っておくとしよう」

 

 自身が復活し、宇宙へ降臨するという最善の結果とはならなかったが、これが次善のプランだった。

 あの残滓は、よく時間を稼いでくれた。

 たとえ復活ならずとも、この一瞬だけ、影響力を及ぼす機を作ってくれたのだ。

 

 星海 ユウが、今までにない妙な力を付けようとしていることはわかっていた。

 

 だからこうして、釘を刺しておく必要があった。

 真なる【神の手】によって、開きかけていた扉は閉じてやった。

 これでもう、あの妙な力は使えない。無理に使おうとすれば、不完全な白か黒の力へと転じるのみ。

 

「しかし。こいつめ……」

 

 アルは、何度絶望に叩き落とそうとも立ち上がってくる永遠の宿敵を、殺さんばかりに睨みつける。

 

 だが彼には、どんなに憎くても、ユウを直接殺すことはできないのだ。

 

【運命】に最も強力に縛られているこいつは、同時に【運命】によって最も強力に守られているからだ。

 

【運命】の範疇にある者では……こいつを真に始末することはできない。

 

 ならば。

 

 アルは再び手をかざした。

 

 星海 ユウを。この忌々しい女を、真に葬り去るため。

 

 特別な世界へ招待してやろう。

 

 これからお前たちの行き着く先は――リデルアース。

 

 もう一つの地球。

 

 星脈は閉じている。

 

 お前以外は来ない。誰も助けは来ない。

 

 そして――。

 

 

 To be continued in the Episode I.




この後時系列上は4章『I』へと続きますが、引き続き本編を読み進め、過去編1章『地球(箱庭)の能力者たち』に入って頂ければと思います。
その後、満を持して4章へお進み下さい。
ただし4章は、非常にシリアスかつ性的な描写・残酷な描写を含む内容であるため、R18版のみの連載としたいと思います。

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