フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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22「アメリカ大統領からの支援要請」

[3月20日 18時05分 QWERTY本部]

 

 依然として小規模事件は散発的に発生しているものの、主導者である『炎の男』が死亡したことで、TSPの日本における活動は劇的に縮小していた。

 1.20事件からちょうど2カ月の節目をもって、ついに西凛寺首相(まだ在任中)は『国家緊急事態宣言』の解除を決定した。

 18時よりの記者会見にてその旨語っているところを、QWERTY本部のモニターが映している。

 もっともユナを通じてスタッフたちには事前に通告されているため、彼らにとっては確認作業であるが。

 とにかく。各国においてTSGが攻勢を強める中、世界初の快挙である。

 ACWの十分な初期配備があったことが決定的要因だろう。当然に警察および自衛隊やQWERTYの尽力も大きい。

 痛々しい破壊の傷跡が残り、未だあちこちをACWが巡回する物騒な東京であるが、徐々に人の流れが回復してきている。

 なお、ユナがやらかした表参道駅ホームロケラン爆破事件だが。

 あれに関しては証拠がなく、その後に続く地下トンネル崩落の方が目立ったため、しれっと連中の仕業に混ぜ込まれた。

 主にタクが頑張ったらしい。エナドリとカップ麺の容器が大量に散乱していたのを、複数のスタッフに目撃されている。

 

 そしてついに、QWERTYも緊急体制の缶詰め状態から解放されるときがきた。

 代表して、ユナが労いの言葉をかける。

 

「みんなひとまずはお疲れ! ボーナスたっぷり弾んでやるから、しっかり休んで大切な人たちと一時を過ごしてくれな」

 

 大きな歓声と拍手が巻き起こる。

 

「あ、タクみたいなぼっちは悠々自適に過ごしてね」

 

 小さなひと笑いも添えて。

 毎度ダシにされるタクも慣れっこであるが、形式上たいそう悔しがっている演技をしている。

 そんな彼を「しゃーないな」と見つめているケイラの視線があることに、果たして彼は気付いているのか。

 盛り上がりも落ち着いたところで、ユナは今後の体制について業務連絡を続ける。

 散発的に事件が起きている以上、まったくの平時運用に戻すことはできないが、常に何割かのスタッフが交代で常駐することで話がまとまっていく。

 そしてユウにとっては、秘密基地での生活の終わりを意味していた。

 リモート卒園式という哀しいイベントを味わってしまった彼は、小学校の入学式はどうやら普通にできそうである。

 そのことを母親から直接聞いて、嬉しそうに飛び跳ねていた。

 久しぶりにお家に帰ってお父さんに会えることも、すこぶる楽しみらしい。

 

「みんないてたのしかったけどさ。やっぱりきゅーくつ? だったもんね」

 

 覚えたての言葉を背伸びして使いつつ。でもちょっぴり寂しさも滲ませている。

 しかしよほど寂しいのは、大人たちのようだった。

 

「ああ。癒しがいなくなってしまう」「またおいでね」「元気でなあああ」「いい子でね」

「だいじょうぶ。またあそびにくるよ!」

 

 みんなに無邪気な笑顔を振りまく、天使のユウであった。

 一際感極まったタクが、彼を抱き上げて無精ひげを擦り付けている。

 

「いつでも来いよぉ!」

「タクおにいちゃんは、せーかつきをつけてね」

「……おうよ」

 

 だらしないデスクを見つめて、どこか冷静に突っ込まれてしまうタクであった。小さな子供はよく見ているのだ。

 指を咥えて寂しげにしているクリアに、ユナは目敏く気付いて声をかけてやる。

 

「心配するな。クリアハート隊員」

「……?」

「国家緊急事態が解除されたからっても、安全になったわけじゃないからな。小学校の送り迎えも欲しい」

「……! それは、つまり」

「最重要任務は継続だ。シュウには伝えてあるから、嫌じゃなければうちおいで」

「もち。クリア、うちの子になる」

 

「さすがわかってる。愛してるぜ」とばかり、クリアはユナに飛び付いた。

 昔はこの子が一番しがみ付いてたなと懐かしい気持ちになりつつ、ユナは彼女の頭をわしゃわしゃしてやる。

 いつの間にかタクから解放されていたユウも、もちろん大喜びだった。

 

「てことは、クリアおねえちゃんとまだいっしょにいられるの? やったー!」

「ユウ。おまえという子は……!」

「わ、つよいよクリアおねえちゃん」

 

 もう放してやらないとばかり、今度は彼に駆け寄り抱きすくめたクリアにぎゅうぎゅうされるユウ。

 実の仲睦まじき姉弟のようなほっこりするやり取りに目を細めつつ。

 ユナ自身は、休まる暇がないと肩をすくめた。

 

「で、私は残念ながらまだ帰れませんと」

「先ほどホワイトハウスから支援要請がありましたね」

 

 仕事モードになったタクが、メールの映ったPC画面をコンコンと小突く。

 

「手が空いたら早速こっち手伝ってくれって?」

「そういうことみたいっす」

 

 アメリカはACWの主導開発国であり、最も多くの公認TSPを擁する。

 当然、TSP対策も最も強力ではあるが。

 如何せん国土が広過ぎて、手が回っていない。

 それと銃社会であることも、混乱に拍車をかけているようだ。

 そこで日本を鎮圧した功績を買い、西凛寺首相の伝手でゴールマン大統領から連絡が来たのだ。

 

「けど日本離れるのは、まだちょっと心配だな」

「それについては、人員の配置入れ替えということで打診されまして」

「私の代わりがそう易々と務まるもんかねえ」

「オレでは不満カナ?」

 

 ちょうど良いタイミングで現れた大柄の男に、ユナは破顔一笑した。

 

「おー! マジか! ベンじゃん! よく来たな。会うのは久々だねえ!」

「ユナ! 会いたかったゼ!」

 

 片言の日本語ではあるが、しっかり使いこなすいかつい黒人のスキンヘッド。

 ベンサム・デイパスは、オリジナルの【火薬庫(マイバルカン)】保有者である。

 彼が許可した人物だけ、彼が保有する異次元の武器庫からあらゆる武器にアクセスすることができる。

 

「いつも世話になりっぱなしですまないね。1.20事件でも助けてもらったよ」

「HAHA、役に立ってんナラいいってコトよ!」

 

 いわゆる能力の過労死枠ではあるが。

 一度アクセスを付与してしまいさえすれば、ベンはアクセスをログ的に視られるだけで、特段負荷はない。

 そういうわけで、本当の過労死枠はタクだけという哀しみだった。

 

「もちろんあんたが代わりをやってくれるってんなら、不満はないさ」

「ソイツは来た甲斐があったナ!」

 

 彼は元傭兵であり、数多の武器の扱いや戦闘能力についても折り紙付きである。

 ユナほどの絶対戦力ではないが、彼女に次ぐナンバー2は間違いない。

 事件が小規模化した日本なら、他の隊員のサポートを受ければ十分回していけるだろう。

 

「しかしどうやって来たのさ。空港まだ開いてなかったでしょ。船か?」

「あー。それはですね」

 

 タクの言葉をベン自身が継ぐ。

 

「対策済の特別軍用機でナ。ユナも折り返しでお迎えだゼ」

「なるほどね」

 

『国家緊急事態宣言』が解除されても、飛行機の民間機は遠隔ジャックの危険が常に消えていない。

 ゆえに海外渡航制限までが解除されたわけではないが。

 ベンは秘密裏に米軍用機で日本へ来たようだ。例の能力も対策が為されている特別機だという。

 

「ところデ、ユウのボウズはゲンキにしてるカ?」

「あわわわわ」

 

 会うのは何度目かになる強面スキンヘッドに気を向けられてしまったユウは、すっかり泡食っていた。

 デカい風体と、彼特有の手厚い「スキンシップ」には、どうしてもびびってしまうようである。

 立場上、さっと『弟』を守る構えを見せるクリアであるが。

 それには及ばないと、ユウはそろそろと歩み出る。

 

「へ、へーきだよ。ベンおじさんがやさしいのはし、しってるもんね!」

 

 ほんのちょっと涙目のユウ、深く愛されていることはわかってしまうため。

 健気な男らしさを見せて、ベンに寄っていく。

 どうせ逃げても無駄で、可愛がりをされるまでは満足しないと知っているのだ。

 男は案外子供好きで、しかもからかい好きなため。

 

「おーボウズ、いい度胸ダ! カワイイナア! ほーらヨ!」

「うわあああああーーーーっ!」

 

 高い高い放り投げverを食らい、絶叫マシンばりに喚くユウ。

 されることはわかっていた。まったく楽しくないわけではないけど。

 やっぱりこわいものはこわいぃ!

 ユウは半泣きで叫びながら、存分にベンおじさんの愛情を食らっていた。

 隊員たちから生暖かい目が注がれ、笑い声が響く。ユナが一番面白がっている。

 クリアは少しだけ心配そうな顔を見せるが、いつものことかという気持ちにもなり、小さく溜息するに留めた。

 

「ひい……はあ……。ひどいめにあった」

「ん。おつかれ」

 

 ようやく解放されたユウは、ご褒美のよしよしを『姉』にもらいつつ。

 いそいそと準備を始めた母をじっと目で追っていた。

 やがて出立の準備が整ったようだ。

 

「んじゃ、ちょっくら会ってきますか。大統領に」

「うわぁ……!」

 

 アメリカ大統領という響きは、ユウにとって完全に世界のラスボスであり。

 アメコミのヒーローか、何なら秘密結社の首領でもやってるイメージだった。

「いいなー」「すごいなー」「かっこいいなー」と、しきりに目を輝かせているちびユウである。

 子守り脳なクリアお姉ちゃんは、そんな彼を見て頬が緩みっぱなしであった(当人比)。

 

「行ってくる。お父さんとクリアと、いい子で待ってるんだよ。入学式、付き添ってやれなくてごめんね」

「うん! だいじょうぶだから。おみやげまってるね!」

 

 最後に我が子の頭をぽんと優しく叩いて、母の頼もしい背中が遠ざかっていく。

 いつまでも健気に手を振り続ける小さなユウ。

 小旅行のつもりで見送った彼だったが。

 長期間の別れになることを、そのときはまだ知らなかった。

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