フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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28「ニューヨークラプソディ 3」

[現地時間3月21日 19時31分 ニューヨーク ブルックリン区 ブラウンズヴィル]

 

「準備できたか? たらたらしてると私が勝っちゃうわよ」

「うっせ。テメエと違って装備かさばんだよこっちは」

 

 タクティカルベストの下にボディーアーマーを着込んだセカンドラプターはぼやいた。

 プライマリーウェポンにはバトルライフル、セカンダリーウェポンにハンドガン、コンバットナイフ。

 継戦能力保持のため、大量の弾薬をあちこちに詰め込んでいる。

 彼女自身、市街戦ではサブマシンガンも好んで使うのだが、対TSPがメインとなれば射程と威力のある長銃が優先される。

 TSPによる遠隔操作での誘爆を避けるため、手榴弾やスタングレネードの類はあえて持ち合わせていない。

 ヘルメットにはバイザーも装備されており、夜間でも視界は良好だ。

 一方、ユナはいつものぴっちりスーツと腰に備え付けたハンドガンのみである。

 

「テメエくらいだぞ。そんな軽装で夜戦挑もうなんてのは」

 

 街灯りの多い大都市とは言え、裏町の奥には暗い箇所もある。

 暗視もなしなど、セカンドラプターにすれば自殺行為だが。

 

「私はこっちのが動きやすいんだ。肌感覚を大切にしてるのよ」

 

 暫定世界最強のガンナーにそう言われては反論できない。

 実際、後ろに目でも付いてんのかってくらい正確にスナイプしてくるから憎たらしい。

 そして攻撃面も凄まじいが、ガチでヤバいのは防御スキルだ。

 TSPによるものも含め、あらゆる攻撃を神がかった超直感で捌いてしまう身のこなしこそが星海 ユナの真骨頂。

 本当はTSPで、未来でも読めてんじゃねえかとマジで疑ったが、そうではないらしい。

 その恐るべき技術を何とか盗めないものかと彼女も狙っており、時折(これまた憎たらしいことに)ヒントをもらったりしながら、最近ようやく「何となく」わかるようになってきたが。

 もちろんこれほどの軽装は、ユナ自身がいかに優れていても不可能だ。すぐに弾薬が尽きてしまう。

 一人軍隊はさる協力者のおかげだと、セカンドラプターは知っている。

 

「ベンとかいうヤツだったか。アイツ便利だよな」

「やらないぞ」

「オレは一匹狼だからいいんだよ」

 

 ファーストラプターがそうだったことへのリスペクトなのか、彼女はあくまでソロを好む。

 だからか、ぶっきらぼうかつ暗にレクチャーを要求することはあっても、ただの施しは受けない主義だった。

 能力によるサポートなどもってのほかだ。

 まるで反抗期の娘ができたようで、ユナは何かと嬉しくなり、つい世話を焼きたくなってしまうのだった。

 何せうちには、心優しい旦那といい子過ぎる息子とやたら懐っこい娘(クリアのことだ)しかいないもので。

 皆愛すべき家族であるが、己の本質はやはり戦士に近いものがあるのだろう。

 こいつとは妙にウマが合うのだ。

 お互い、つい真の決着を先延ばしにしたくなってしまうほどには。

 

「ほら。連絡用の通信機だ」

「おう」

「盗聴対策はしてあるけど、向こうにやり手がいるみたいだからな。最悪丸聞こえの想定で動いてくれ」

「しゃーねーな。わかった」

 

 東京で自分を追い詰めようとし、今度はここへ追い込んだ敵の手腕をユナは高く評価していた。

 いかに超人であれ、この身一つにできることは限られている。

 大組織を相手にすればどうしても後手に回りがちで。

 せめて態度ばかりは弱みを見せずにいるが、もどかしさを感じずにはいられない。

 

「んじゃ。いくぞ」

「今からスタートだな!」

 

 二人は勢い揚々とアジトのドアをぶち開け――敵のスナイパーがこちらに狙いを定めていることなど、当然お見通しだった。

 二人同時に地を蹴り、初撃を外させる。

 ステップしながら、バトルライフルの銃口を持ち上げる。

 雑に狙いを付けたようで、その実正確無比にロックオンしている。

 FIRE!

 あわれ襲撃者は、脳天をぶっ飛ばされて即死した。

 

「「1」」

 

 朝飯前の体操のような気楽さで、両者同時にカウントを呟いた。

 

 

 ***

 

 

[現地時間3月21日 19時40分 ニューヨーク ブルックリン区 ブラウンズヴィル]

 

 戦闘開始から未だ10分足らず。

 二人の戦闘狂は……暴れに暴れまくっていたッ!

 

「25、26、27……おりゃあああ! 一気に30!」

「あんた元気ねえ。もっと静かに数えられないの? はい32」

「マジかちょっと負けてんじゃねえか! うおらあああああ! オレも33!」

「35」

「ぐぬぬ」

 

 ユナも負けず嫌いなので地味に張り合った結果、キルスコアが爆増していた。

 ユナはともかく、セカンドラプターだって神童だ。伊達に何年も裏稼業やってないのである。

 力任せに包囲網を一点突破していく様は、猛獣さながらであった。下っ端程度に止められるはずもない。

 彼らはいかに恐ろしい敵を相手にしたかを思い知り――あるいは幸運にもそれを知る暇すらなく、命の仇花を散らしていった。

 しかし快調に進んでいたのもそこまで。

 細道をいくつも抜けて大通りに出たところで、二人は足を止める。

 暴徒と化した民衆がごった返し、押し寄せてきていた。

 

「おいおい。なんだありゃ。ゾンビかよ。白目とか口から泡吹いてるヤツとかいんじゃねーか」

「ああ……あいつらか」

 

 1.20事件のときにも大量に配置されていたのを思い返し、ユナは苦々しい顔をする。

 

「元はごく普通の一般人さ。人が持つ恐怖の感情を増幅して操ってんのよ」

「チッ。胸糞悪りいな」

「同感」

 

 さて日本と違い、銃社会アメリカにおいてカーラスの【フィアー=ホワイト】は真価を発揮する。

 銃へのアクセスの容易さが桁違いなのだ。見れば暴徒たちは一人一人問題のソレを携帯している。

 ホラー映画のパニックさながらの精神状態で、目の前に敵という人参をぶら下げられればどうなるか。

 結果は言うまでもない。

 絶叫した民衆が、我先にとぶっ放し始めた。一人一人が乱射事件を起こしているようなものだ。

 目の前に誰がいようと構わず撃ちまくり、同士討ちが起ころうとも一切構う素振りもない。

 常軌を逸している。無能力者を使い捨てるえげつないやり方は健在だった。

 

「バカだろおい!」

 

 怒涛の爆弾銃撃に、さすがに揃って肩を並べる余裕はなくなった。

 ユナもセカンドラプターも物陰に身を隠し、通信による会話に切り替える。

 

「相変わらずひどいな。可哀想だけど、手加減はしてられないな」

『クソが! オレ超腹立ってきたぞ! 誰だこんなふざけたマネすんのはよぉ!』

「さてね。そいつ隠れるのが上手くてさあ。よほど大事に扱われてるらしいわ」

『とんだクソったれお姫様だな』

 

 性別も年齢も人種も知らないが、卑怯な弱虫だとセカンドラプターは断ずる。

 人を人とも思わぬ所業。

 よほど倫理が欠けているのか、仲間以外への罪悪感がないのか。

 まるで乱暴なストラテジーゲームの指揮だ。

 ユナはそこに幼さというか、無邪気さをプロファイルしているが。

 

「正直すっごいむかついてるからね。ちょっと言ってやりたいこともあるけど。ま、後だ。こんなとこでくたばんなよ?」

『おいおいユナさんよ。誰に向かって物言ってんだ? 舐めてもらっちゃ困るぜ』

 

"I'm the Second Raptor. Easy peasy!(楽勝だ!)"

 

 いつもの名乗り口上とともに、飛び交う銃弾の隙間を縫ってセカンドラプターは飛び出した。

 

【ハートフルセカンド】

 

 おそらく使っているだろう。

 乱暴な特攻戦車のような性格に反して、彼女の動きはハチが舞うように正確だった。

 銃弾一つ一つが視えているように余裕でかわし、返しの一発一発は的確に敵の脳天をぶっ飛ばしていく。

 彼女がやたら感覚的に話すのでユナも詳しい理屈は知らないが、『彼女のための時間』というものが確保されるらしい。

 まるで周囲がスローモーションのようになり、感覚が極めて鋭敏になるとか。格段に身のこなしが上がるとか。

 時空間系能力なのか、もっとシンプルな身体強化なのか。実際のところは当人にしかわからないが。

 はたから見ていても当たる気がしない。あれに対抗するには、自分も《バースト》しなければ不可能だ。

 

「いやー、あいつ飛ばしてんねえ」

 

 若いっていいわねとニヤニヤしつつ、ユナもちゃっと銃を構え直す。

 

「お姉さんはちょっと楽させてもらうよ」

 

 戦い尽くめの生活で慢性疲労も溜まっている。体力の温存も考慮しなければならない。

 一番槍が切り拓いた道を追いつつ、自分に向かう射線を察知して効率的に撃ち倒していく。

 湯水のごとく畳みかける「使い捨て兵士」を哀れに思いつつも、決して容赦はしない。

 無残に積み上げられたキルスコアは、すぐに3桁を超えた。

 快進撃を続けながら、ユナは訝しむ。

 この程度で私を殺れないことは、敵方も重々承知しているはず。ついでに元気な若いのもいる。

 明らかに動きを鈍らせるための重厚配置。連中は何を狙っている?

 

 

 ***

 

 

[現地時間3月21日 19時46分 ニューヨーク マンハッタン区のどこか]

 

「アンターク。首尾はどうかしら」

 

 たぶん無理だろうなと内心覚悟しつつ、カーラスはそわそわした様子で部下のTSPに尋ねた。

 彼は指定した座標(複数可)に彼自身が観測した映像を投影する能力を持っているため、連絡用に重宝する人材だ。

 返ってきたのは、想定以上の言葉だった。

 

『あの……。それが……もう一人いまして』

「え……!? もう一人ですって……?」

 

 知らない。知らないわよそんなヤツ。

 

「ねえ! どんなヤツなの!?」

『若い女みたいですが……。くっ! ヤツら……まったく止まりません!』

 

 アンタークは、カーラス始め幹部たちに自身の見たものを共有する。

 彼女の目の前に映し出されたものを見て、カーラスは絶句した。

 そこには。

 悪魔のように生き生きした顔を浮かべながら、人をトマトケチャップのように潰し。

 快進撃を続ける女バーサーカー二人の姿が、ありありと映っていたのだ。

 

「な、な、な」

 

 せっかく二カ月もかけて丁寧に拵えた人員の壁が、ドミノのように容易く崩されていく。

 まさしく一騎当千。ストラテジー泣かせもいいところである。

 

「何なのよあいつらはああぁーーーーー!?」

 

 彼女の絶叫が、空調の効いたホテルの室内にこだまする。

 コーダが聞いていたら笑って心配しただろう。

 

 そのとき。

 

 あり得ないことだが、一瞬映像越しにこっちを睨んで獰猛な笑みを浮かべた――ような気がした。

 

 瞬間。

 

 グシャッ。

 

 何かとても嫌なものが潰れる音がして、映像が永久に途切れる。

 おそらく彼は……撃たれてしまったのだ。

 

「ひいいっ!」

 

 カーラスは思わずのけぞり、ベッドのふちに足を引っかけて後ろ向きに盛大にズッコケた。

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