フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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49「よくある一つの不幸な事件」

[4月29日 12時36分 東京 とあるご家庭]

 

 高宮 アリサはユナの大学時代の同級生であり、ユナ以外ではQWERTY設立メンバーとして現存する最後の一人である。

 彼女はQWERTYの表の顔として、児童養護施設や青少年教育施設の運営に携わっている。

 ここ最近彼女はずっと忙しくしており、ユウやクリアにもあまり構ってやれないほどであった。

 最大の理由は、TSP保護の相談が相次いでいるためだ。

 大抵のTSPが困難とともに生きているが、すべてのTSPが生まれついての不幸を抱えていたわけではない。

 だがTSGの活動開始以後、とりわけトレイターによる核攻撃とTSP保護隔離要求声明以来、世間の空気は一気にTSPを恐れ、積極的に隔離すべきとなってしまった。

 もはや自分のところにはとても置いておけないと世間体を気にする親、あるいは純粋に子の安全を考える親が増えたのだ。

 その中で国の指定する特定区域へ無造作に押し込めることを偲びないと考えた家庭では、第二の選択肢としてTSP養育対応施設への保護を求める動きがあった。

 しかしTSP対応可の施設は極めて限られており、事実上国立のNAAC運営か非営利のQWERTY運営の二択である。

 そうした背景もあり、彼女の運営する施設に相談が急増。アリサは休む暇なくご家庭を駆けずり回っていたのだ。

 今も一人、お子さんを預かるところであった。

 

「よろしくお願いします」

「承りました。お任せ下さい」

 

 両親は別れる前に自分たちの小さな男の子を抱きしめた。

 この子は十分愛されて育った側のようで、アリサも温かい光景に目を細める。

 

「落ち着いたらまた迎えに来るからな」「向こうでもお友達と仲良く暮らすのよ」

「うん。ぼくいいこにしてがんばるよ」

 

 男の子を車の助手席に乗せ、QWERTY本部への帰路につく。正確にはその地上部の養護施設にであるが。

 健気にも両親の前では平気に振舞ってみせた彼だが、やはり寂しいのだろう。

 そわそわと落ち着きがないので、アリサは柔らかく声をかけてやる。

 

「新しい生活は不安かもしれないけど、すぐ馴染めると思うわ。あなたと同じ境遇のお友達がたくさんいるからね」

「そっかあ。ぼく、みんなとなかよくできるかな」

「みんないい子だし、あなたもいい子だから。きっと大丈夫よ」

「そうかな」

「ええ。お姉さんもあなたが楽しく過ごせるよう力になるから、何でも言ってね」

「うん」

 

 それからお話を続けているうち、ようやく楽しみな気持ちが出てきた様子で、ほっと胸を撫で下ろす。

 せっかく新しいお家に来てくれるのだから、せめて幸せに過ごして欲しいものだ。

 そんなことを思いながら、信号待ちで車を止めていると。

 また物騒なヤツが隣に付けてきた。

 

 ACWか……。

 

 アリサは物憂げに顔をしかめる。

 今や東京の街を我が物顔で自立運行する戦車型汎用兵器は、治安維持へ大いに一役買っていることは認めざるを得ない。

 だが――。

 ユウが散々怖がっていたのも、ずっと謝っていたのも。今では納得しかない。

『特殊生体素材の軍事利用における基礎研究』――つい先日タクが突き止めたばかりの真実は、アリサにとっても度し難いものだった。

 日本政府も各国も、その事実を薄々知りながら利用判断を下したところに、まこと人間社会の闇があった。

 確かに効果的に機能しているが、果たして必要悪として認めてよいのか。

 それが倫理上許されないことは明らかであるのはもちろん、生のTSPと数多く触れ合ってきた彼女にとっては、彼らも能力を除けば普通の人間と何ら変わりないことを知っている。

 例えば隣に座るこの子が惨たらしく殺され、おぞましい兵器に変えられる様を想像してみるがいい。

 ああ。考えるだけで胸が苦しくなる。吐き気がする。

 だから余計に悲しかったし、腹立たしかった。

 現在ユナっちが製造プラントを調べてくれているようで、まだ結果報告が届いていないけれど。ろくでもないことになるのは目に見えている。

 一度造られてしまったモノが二度と元に戻るわけではない。そんなことは彼女も重々承知しているが。

 今後の運用方法の見直し、最低でも新規製造の即時中止は絶対に譲れないラインだとアリサは考えている。

 

 怒りと哀しみの混じった複雑な思いで、隣に静止するそいつを見つめていると。

 

 突然、砲塔がこちらを向き――。

 

「え」

 

 車両は大破炎上した。

 

 不幸中の幸いであったのは、彼女も男の子もほとんど痛みを感じる間もなく即死したことであろう。

 その最期は世界に溢れる無数の死にゆく声に紛れて、ユウのもとにもはっきり届くことはなかった。

 

 ACWから作業用アームが伸びて、小さな亡骸の首を刈り取っていく。

 焦げ付いた生首を備え付けの収容カプセルへ納めると、何処かへと走り去ってしまった。

 

 

 ***

 

 

 この頃には、ACWが時たま誤射を起こすことは広く世の中に知られた事実であった。

 本来大問題のはずだが、TSPの危険性を敵視する世論と相まって、それは必要な犠牲として受け入れられつつあった。

 ゆえにこの悲劇はよくある一つの不幸な事件として埋没し、取り立てて大きく騒がれることはなかった。

 

 QWERTYのメンバーは、その日の夕方にネットニュースで彼女が亡くなったことをようやく知ることになる。

 奇しくもNAACがACW制作協力であることをタクが突き止め、強制立ち入り調査を検討していた折に。

 

 そして星海 ユナは再会叶わぬまま、最後の学友を永遠に失ってしまったのだった。

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