フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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55「戦士は死出の旅路へ、一つの幕が引く」

[現地時間4月30日 20時06分(日本時間5月1日9時06分) アメリカ ホワイトハウス]

 

 一連の核事件の顛末について、セカンドラプターは対策チームへ報告を行った。

 もちろんユナから聞いた異世界やフェバルのことなど、話しようがないことは上手く避ける形でだ。

 核の脅威は退けられたが、しかしまた核を製造すればいつ同じ脅威に晒されるかわからないのだと、口を酸っぱくして言っておく。

 まあ当面は世論が許しはしないだろうし、権力者にとっても悪夢の出来事だっただろうから、次が造られるとしてもよほど先だろうなとは思う。

 

 その折、トレイターから最後通告が為されたが、電波ジャックの規模感からしても苦し紛れの宣言だと見られている。

 

 ちょうど報告を終えた辺りで、【無限の浸透(インフィニティ=ペネトレーション)】を介して、タクからとんでもない連絡が来た。

 通常の通信が何者かの手でしばしば妨害され、信頼性を損ないつつある今、彼女の力は大変重宝しているのだった。

 

『はあ!? ユナが海に落ちただぁ!?』

 

 聞けば、トゥルーコーダが自爆特攻する形で相打ちとなったのだと言う。

 例の武器庫を潰しちまったせいで、可哀想にパラシュートを開くこともできなかったのだと。

 

 無事だよな……? あいつが落下死なんてつまんねー真似するとは、到底思えねえんだ。

 

 生死不明としか返って来ないかもしれないがと、逸る気持ちで確認してみれば。

 ガキのユウいわく「危ないが、まだ無事」だと言う。

 セカンドラプターは心底ほっとした。

 

 ほらな。やっぱりじゃねーか。

 テメエのしぶとさはオレが一番よく知ってんだ。それでこそオレが見込んだ女だぜ。

 

『じゃあタク、テメエは司令部気取って待機。ガキ二人に先生に、メンバー六人加えてこれから救助に向かおうと。そういうことだな?』

『そうっすね。僕が直接行っても、役には立たないんで』

 

 僕は僕にできることをするだけだと、あくまで彼は情報の収集と取りまとめに専念する心積もりだ。

 

『オーケー。ならオレもオレにできることをするだけだ。予定通りジャパンに向かうぜ』

『ええ。待っていますよ』

 

 念話を打ち切る。

 悔しい事故は起きちまったが。トゥルーコーダを引き付けてくれたのは、ある意味でアイツの狙い通りだ。

 もうヤツの脅威がなくなった以上、空の旅は快適で安全なものになる。何も憚るものはない。

 潰された特殊機に頼らずとも、通常の軍用機で向かうことができる。

 最悪ユナの野郎が使い物にならないことも考えて、オレらが気張るつもりでいねーとな。

 

「にしてもトゥルーコーダ。あいつ、メスガキだったのかよ……」

 

 搭乗記録から判明したことには、本名はコーラ=エヴィングプール。弱冠11歳だったそうだ。

 インフィニティアによれば、カーラスは徹底的に犯され、全身を引き裂かれて、実に惨たらしく殺されていたのだと言う。

 ちょっとむかつくところはあっても、マブダチのシスターがいて。

 唯一と言って良いレベルで懐いてる相手が、そんな目に遭わされたのだとしたら。

 まあ同じ女として、思うところはあるわな。

 特にケツの穴の青いガキには、我を忘れて仇と世界すべてを恨むくらいにはしんどかったんだろう。

 自分も「そういうされ経験」はあるので、同情しないでもないが。

 真実はまったくの誤解で、本当の仇は別にいるってんだから。

 

「ままならねーな。現実ってヤツはよぉ」

 

 やるせなく呟きつつ、ユナに託されたリルスラッシュの輝きをぼんやりと見つめる。

 

 ……今度こそ、準備は念入りにしねーとな。

 

 対例のバケモン戦を見据え。

 ワシントンにもある自身のセーフハウスに立ち寄ったセカンドラプターは、特殊兵装で装甲車を満載にした。

 

 

 ***

 

 

[現地時間4月30日 21時48分(日本時間5月1日10時48分) アメリカ ワシントンD.C. セーフハウス前]

 

 セカンドラプターが一足先に作業を終えて、ふと見てみると。

 ヒカリとミライは長旅で疲れたのか、後部座席で肩を寄せ合って仲良く眠っている。

 どっか悟ったようで、スレたようで。やっぱこうして見ると可愛いというか。年相応なんだよな。

 

 最後の積み込みで、シェリルが戻ってきた。

 いざ振り向く。右目に真っ黒な眼帯を被せて、にやりと笑うはセブンティーンの女。

 

「へっへ。どうよ中々のモンだろ。強そうでイカすだろぉ?」

 

 ガキのように得意気に見せびらかしてくるので、シェリルは思わず乾いた笑いを堪えるほど呆れてしまった。

 逆の目に同じような重傷をこさえてしまった自分が、アホコンビのようで恥ずかしい。

 

「スナイパーにとって、距離感は重要。片目は……致命的」

「オイオイ、真面目な話すんなよ。シケるだろ。わかってるよそんくらいよ」

 

 でもその程度のハンデ跳ね返せないでなんだと、セカンドラプターは大真面目に考えてもいるのである。

 もちろん、自分だけ手当をするつもりは彼女には毛頭なかった。手にしたもう一つを放り投げる。

 

「おらよシェリル。テメエの分はそれだ」

「お前とお揃いというのは……ぞっとしないな」

「あぁん? なんだ。じゃあやらねーぞ。いいんだな。せっかく似合うと思って選んだのによー……」

 

 普段は狂犬みたいなのに、ぶつぶつと残念がる様子はまるで子犬のようで。

 毎度毎度、ペースが乱される。本当に、何というか。困る。

 

「……仕方ない。受け取ってやる」

 

 渋々と言った体で付けてみると、確かにこれ以上ないほどしっくり来た。

 サイズやフィット感など、測ってもいないのにまるで完璧だ。

 バカのようで、実は人をよく観ているのだと知る。まあそうでなければ、一流のスナイパーは務まらないか。

 

「ほらな。やっぱよく似合ってんじゃねーの」

 

 にっと笑って、拳を突き出すセカンドラプター。

 どうして本来敵同士が、こんな仲良しごっこをやっているものか。

 この女。ズカズカと入ってきて。たいそうな夢があって。

 ずっと前を向いて生きている。

 

 本当に。薄汚れた私には……眩し過ぎる。

 

 顔を背けつつ、拳を合わせるシェリル。

 赤くなっているのには、気付かれていないだろうか。

 

「へへ。また次あのバケモン来たらよ、今度はもっと上手くやろうぜ。負けっ放しは悔しいだろ?」

「そうね……。あれは本当に……悔しかった」

 

 今でも殺された子供たちのことを想うと、腸が煮えくり返りそうだ。

 

「いいか。オレが足で、テメエが銃だ。期待してるぜ。ダチ公」

「……ああ。やってやろう」

 

 

 ***

 

 

[現地時間5月1日 11時19分(日本時間5月2日0時06分) アメリカ ワシントンD.C. 青少年の家]

 

 翌日。ヒカリとミライのことは、民間の青少年保護施設へ預けることになった。

 別れを済ませれば、いよいよJBAB(Joint Base Anacostia–Bolling)から軍用機で日本へ向かうことになる。

 

「前政権と言え、政府絡みでACWなんてモンやらかしてやがるからなあ。国に預けるのは違うだろって」

「ご配慮ありがとうございます」「ふん。当然だ」

 

 こじんまりとしたところだが、温かい雰囲気が漂っている。

 ヒカリにも悪い未来は視えなかった。一安心だ。

 

「ここは小さいけど、ユナの息がかかったとこだからよ。きっと大丈夫だ」

「何から何まですみません」

「もっとも支援元のQWERTYアメリカ支部は、核でドッカーンしちまったわけだが」

 

 ちらりと下手人の仲間を見やると、シェリルは複雑な表情を浮かべていた。

 

「わりい。今さらだ。テメエを責めたいわけじゃねーよ」

「……そう」

 

 なので今後資金面での支援が乏しくなるだろうから、将来どうなるのかまでは約束できないけれども。

 当面暮らすには良い場所だ。話は既に通してあるから、アンタたちは中へ入るだけでいい。

 ユナからの受け売りで、セカンドラプターはすらすらと説明していく。

 

「ま、落ち着いたら二人仲良くジャパンへ行けばいいさ。何たってジャパニーズなんだしな。ユナのヤツもそう言ってたろ?」

「ですね」「僕は安全に暮らせれば、どこだっていいけどな」

「くっく。パートナーはしっかり大切にしろよ?」

 

 セカンドラプターは全方位ツンツンしたミライが気に入ったのか、親愛とからかいを込めて頭をうりうりしていく。

 

「うるさい。言われなくても、だ!」

 

 態度ばかりは立派な騎士(ナイト)でも、純粋に好意で攻められては彼も形無しだった。

 

 

 ***

 

 

「元気でな。達者で暮らせよ! もう変なのに捕まるんじゃねーぞ」

「あなたたちの前途に幸あらんことを……祈っている」

 

 対照な片目ずつを失った戦士は、お揃いの眼帯を付けて。

 いざ覚悟を決めて、戦いの地へ赴く。

 

 やがて、二人の後ろ姿が見えなくなった頃。

 

「わたしも……祈っています」

 

 ヒカリは目の端に涙を浮かべ、小さな肩を震わせながらそっと呟いた。

 

 いい人たちだった。気持ちの良い人たちだった。

 世界があんな素敵な大人たちで溢れていたら。

 

 でも……いい人ほど早く過ぎ去っていく。

 

 彼女に視えたものは――いや、もう考えるのはよしにしよう。

 

「さあ行こう。疲れただろう。つらいものを、たくさん視過ぎたよな」

「そうだね……」

「僕も……少しくらいは、祈ってやるよ」

「うん……。ありがとう」

 

 ミライはヒカリの肩を優しく叩き、連れ立って建物の中へと入っていく。

 

 ここで二人の出番は、いったん幕を引くこととなる。

 再び運命が交錯するのは2年後。

 まともな大人の支援もなしに住む国を移すというのは、中々大変なことである。

 様々なハードルを乗り越えて。

 二人は命の恩人と交わしたある約束を果たすため、ようやく日本へとやって来た。

 まだ名前しか知らないその子を探し出し、友達になるために。

 決してただの義務感からではなく、そうだと思わせたくはないから。知っても素知らぬふりをしようと決めていた。

 何の因果か、「偶然」にも一発でその子のもとへ転校してくることになるのだが……それはまた別の、未来の話だ。

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