フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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【それは神話の時代の物語 ― Fable long long ago ― 2】

(彼女)』が「閉じた宇宙」を創造してから、また数多の繰り返しがあった。

 

 あるとき、星海 ユウという『異常生命体』が発生した。

 

 彼女の『異常』とは、『(彼女)』にとって最もあってはならないことだった。

 宇宙のあらゆる情報を保存し、広げ畳む際の網となるもの。

 星脈という最大のシステム――そのコピーを彼女は内包していた。

 

 言うなれば、星海 ユウという女は。

 生まれながらにして、彼女自身の新たな宇宙の種を宿していた。

 

 彼女は地球という、あらゆる許容性に恵まれて、文明の非常に進んだ星の下に生まれた。

 彼女は両親や友人からよく愛されて育ち、やがて自然な興味から故郷の星を旅立ち、宇宙の星々を巡る自由の旅に出る。

 彼女は人懐こく心優しい性質を有しており、大抵は行く先々で愛され、人々と絆や思い出を結ぶに困ることはなかった。

 彼女が自然の寿命を超越して、歳を取らない己の異常に気付くのに、さほど時間は必要としなかった。

 彼女はこれを天与の恵みと歓び、悠久の時間の許される限り、この宇宙の隅々までを己の良心と好奇心とをもって旅してみようと決断した。

 

 ところで、この時代はまだ【運命】の力が今に増して絶対的であり、ほとんど皆無と言って良いほど『異常生命体』が少なかった。

 二種の超越者と呼ばれる者たちが、宇宙の星々を支配するか、破壊的な影響力を持っていた。

 

 一に、フェバル。

 一に、星級生命体。

 

 この二種の違いは、元が『異常生命体』であったかそもそも『予定』通りに生まれてきた強靭な生命であるか、本質的にはその程度である。

 

 彼女の長き旅において、最も好まざる者にして許しがたい存在が彼らであった。

 彼らはしばしば己の運命に絶望しており、あるいは力に溺れた、破滅主義者か刹那的な快楽主義者であった。

 度々圧倒的暴力によって星を破壊し、銀河を傷付け、各地に生きる人々を苦しめていた。

 

 彼女は己の良心から苦しむ人々を放っておくことはできず、やがて彼らと本格的に対決するときを迎える。

 戦いの果て、とうとう彼女は追い詰められるが、そこでついに己の力の真価に気付くこととなる。

 

 彼女が旅してきたすべての世界情報を結び付け、己の力へと変じることができる事実に。

 

 後に《全要素結合(オールリンク)》と呼称されるその力の解放は、彼女を人をまったく超えた凄まじき存在へと変質させた。

 星脈特有の白い光を、全身から煌々と放ち。

 その身に宿すオーラの力強さ、そして神々しさは、誰の目にとっても明らかだった。

 

 あらゆる超越者をも一足飛びで遥かに凌駕し、『(彼女)』の領域にさえ一瞬で迫った『彼女』は――その圧倒的な力で宇宙の狼藉者たちを殲滅した。

『彼女』の恐ろしいところは、神にも近しいその力を有しながら、今回の(・・・)ユウのように理性を飛ばされることが決してなかったことだ。

『彼女』は欠けることのない知性を有したまま、完全なる白の姿を纏っていた。

 人の心を読み抜き、膨大に蓄積された世界情報から最適解を下す。最強の戦闘者だった。

 ただし、覚醒に何も代償がないわけではなかった。

 彼女が持っていた生来の心優しさは『神格』によって幾分歪められ――それからの『彼女』は、敵に対しては厳格で容赦しない存在となった。

 

 そうして、力に目覚めた『彼女』は。

 さらに数多くの人助けをし、絆を結び。自らの内に宿した【器】の性質によって、ますます際限なく力を高めていく。

 

『彼女』はいつしか『白の旅人』と呼ばれ、あるいは単に『女神』と呼ばれるようになった。

 

 そんな『彼女』の最大の不幸とは、どんなに望んでも新しい家族をなせなかったことである。

 その特殊な性質の代償なのか、極めて子の出来にくい体質だった。

『彼女』は行く先々で時折愛を育んだけれど、結局は新たな命をお腹に宿すことはなかった。

 それでも『彼女』はまだ【運命】には呪われていなかった。十分に愛され、決して寂しくはなかったと言えるだろう。

 子の出来ぬこと。それは『彼女』にとってまだ許容できる不幸であり、『(彼女)』や宇宙の命運にとっては最も幸いなことであった。

 

 

 ***

 

 

(彼女)』は唯一にして絶対であるが、しかしあまりに存在が大き過ぎるゆえ、普段は宇宙の外側から観察するに留めていた。

(彼女)』の顕現は、それだけで宇宙にとってあまりに与える影響が深刻過ぎるのだ。

(彼女)』は自ら創った宇宙(箱庭)を、ほとんど眺めることしかできなくとも、それでも愛していた。

 

 しかしただ遠巻きに観察しているだけでは、宇宙の個々の出来事までは容易に見落としてしまうことがある。

 

(彼女)』が『彼女』の存在に気付いたときには、『彼女』は既に「閉じた宇宙」の旅の大半を終えていた。

『彼女』の内に溜め込められた情報量は、巨大銀河をいくつ抱えても優に超越するほどであった。

 

 もはや『彼女』の内側では――既にもう一つの『彼女』自身の宇宙が育ちつつあった。

 

(彼女)』は、大いに恐れた。

 もしもそれほど膨大なものが、何かの拍子で『彼女』の内側から弾けてしまうのならば。

『彼女』が内包する新たな宇宙は、『(彼女)』の愛する宇宙を塗り潰し、完全に消し飛ばしてしまうだろう。

 また破滅する。すべてなくなってしまう。そのような危険があった。

 

 ゆえに『(彼女)』は、最も信頼できる者へ頼みを下した。

 

(彼女)』が最初に見出した『異常生命体』――最も寵愛を与えし、最強なる【運命】の奴隷。

 万能にも等しい【神の手】を与え、『(彼女)』の騎士(ナイト)として、事実上宇宙内部のきめ細やかな制御の一切を一任する守護者にして管理者。

『始まりのフェバル』アルを、『彼女』のもとへ遣わすことにしたのだ。

 

『異常生命体』をフェバルとするためには、必ず一度は亡き者にして星脈へ回収する必要がある。

 

(彼女)』は望んだ。

 

 何としても『彼女』を殺し、【運命】によってわたしの膝元へ縛り付けなくてはならないのだと。

 

 あなたの可能性は、わたしの宇宙において最も不要のものである。

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