フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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69「5月10日② 星海 ユナ、身支度をする」

 当然の権利のように病院を無断で抜け出したユナ一行は、シュウのキレキレ運転テクに従って星海家に一旦は帰宅する。

 ユナもまた今一度自前の武器の手配をしなければならない。

 QWERTY本部がダメになっても、星海家に第二のセーフハウスとしての役割を持たせるようにはしていた。

 

「んじゃ、まずは腹ごしらえだな。あんま時間ないし、ここは私がぱぱっと」

「待て!」「待つんだ!」

「……?」

 

 セカンドラプターとシュウが慌てて静止したのを、シェリルは要領を得ないまま首を傾げている。

 

「ユナ。君は武器とか色々準備があるだろう? 確かに時間は貴重だ。ここは僕が作ろう」

「と、愛する旦那様が仰っておいでだ!」

 

 妙に息ぴったりの二人にユナは怪訝な目を向けるも、道理ではあるので素直に頷いておく。

 

「そうかい。じゃあ任せたよ」

「うん。しっかりね」

 

 素直に地下の武器庫へ降りていったのを見届けて、二人がほっと胸を撫で下ろす。

 シェリルがそろそろと近付き、セカンドラプターの肩をつついた。

 

「何がそんなに問題……なんだ?」

「アイツ、腕が壊滅的なのになぜだか妙に自信だけはあってよ。無駄に作りたがんだよ。で、無邪気に振舞われたソイツを頂いたら、病院送りくらっちまった。劇物指定だぜ、ありゃ」

「そうか。大変だったな」

「いや、さすがに話を盛り過ぎだ。別に食えないことはないよ。愛する妻の料理にそこまで言われると、僕もね」(ゴゴゴ)

「だー! めんどくせえなテメエら夫婦は! テメエはもう慣れちまってんだよぉ!」

 

 ふと思う。物心付く頃からあんなものを食い続けたガキのユウとやらの毒物耐性、凄まじいことになっているのではないかと。

 何だか気付いてはならない哀しい真実の蓋を開けてしまった気がしたので、セカンドラプターはそっと胸にしまっておくことにした。

 

 早速シュウが料理を始めた。待っている間は手持ち無沙汰であるので、セカンドラプターはユナの準備に付き合うことにする。

 シェリルはテレビを付け、「審判の日」の情報を得ようとしているようだ。

 地下へ降りると、ユナが手慣れた様子で持ち出し武器を吟味しているところだった。

 

「ほらよ。こいつも海を渡って主のもとへお帰りだ」

 

 放り投げたリルスラッシュを受け取り、ちゃっと背負うユナ。

 

「ありがと。もう役に立つ場面があるのかはわからないけどねえ」

 

 このところにわかに活発になっているのは、赤目女とACWであり、どちらも斬撃武器はさして有効ではない。

 まして例の再生する化け物などには無用の長物にもなりかねないところではあるが。

 セカンドラプターもまったく同意している。

 

「斬っても死なねえ奴と戦車が相手じゃなあ。けど御守りに持っときたい武器ってのは、プロじゃ誰しもあるもんだろ?」

「だな。にしちゃ嵩張るけども」

「普通、異次元の武器庫なんてもんはねーんだ。オレたちの苦労がわかってよかったじゃねえの」

「かもね」

 

 支度をしながらふと、ユナはレンクスが贈ってくれた胸元のネックレスに目をやる。

 こいつもまあ御守りだな。どうやって作ったのか知らないが、念動力をくらっても飛行機事故でも傷一つない頑丈さには笑ってしまう。

 なあレンクス。直接あんたの助けを借りることはできないが、力をくれよ。

 今一度握り締め、念じておく。

 

 

 ***

 

 

 出発の支度が終わる頃、ちょうど朝食兼昼食ができたようである。

 ユナはセカンドラプターと連れ立って一階へ上がり、配膳の準備を手伝う。

 食器棚には家族用のものと、来客用のものが分けて並べて置いてある。

 そこで不意に、ユナは気付いてしまう。

 

「なあシュウ。どうして揃いのコップ、四人分(・・・)あるんだと思う?」

「さあ。けどおかしいね。客の分はしっかり分けて揃えているはずなのに」

「シュウ。これって……」「ああ……」

 

神隠し(かくれんぼ)】は本人の情報だけは隠し通せても、それ以外のすべての痕跡を消すことはできない。

 もう誰かも二人には思い出すことはできない。けれど確かに存在していた。

 ユナも知識としては知っているのだ。フェバルにも己の存在認識を都合良く変化させることのできる男がいた。

 TSPとして、彼の亜種に当たる人物がいてもおかしくはない。

 そして家族ほど絆の深い者が、己を世界に忘れさせてでも護り通したかったことなんて。

 そんなことは、一つしかない。

 

「ありがとうな。ユウを護ってくれたんだろう?」

 

 最重要任務をやり抜いたこと。

 労わるようにコップへ手を添え、冥福の祈りを捧げる。

 

 

 ***

 

 

「美味い。やっぱ日本人は米に限るのよねえ!」

「病み上がりとは思えない食いっぷりだなオイ」

「これから一日踏ん張ろうってときに、慎ましく食ってる場合じゃないでしょ」

 

 持ち前の回復力で胃腸は何とか塞がってくれたので、実に2週間近くぶりのまともな食事なのだ。

 しかもアメリカ暮らしで米はろくに食えなかったと来たものだから、五臓六腑に染み渡るのも当然の摂理。

 

「ほら、あんたも遠慮しないで食いな。私ほどじゃないけど、シュウも中々の腕よ?」

「オレはライスよりピザ派なんだよ」

 

 とぶうたれつつ、どの口で腕前のこと宣うんだと思いつつ。

 ぱくりと一口。

 

「お、中々いけるな!」「でしょ?」

 

 漢も顔負けの食いっぷりで進んでいく両者を、残る二人は控えめに眺めている。

 

「賑やか過ぎるだろ……こいつら」

「はは。元気で結構じゃないか」

 

 核を止めたとは言え、世界最後の日になるかもしれなかったことにもうちょっと敬意を払って欲しいと、真面目なシェリルはつい思ってしまう。

 しかし平気そうに振舞ってはいても、時折痛みに顔をしかめているのをセカンドラプターは見逃さない。

 

「見立て50%ってとこか。強がっても全然回復し切ってねえじゃねーの」

「あら。人の見定めするなんて余裕じゃないか」

「シェリルもいることだしよ。オレらしっかり頼って、あんま無茶すんなよ?」

「サンキュ。でもやるとき無茶を通さないで守れる明日があるかって話よ」

「けどよぉ」「…………」

 

 セカンドラプターもシェリルも、あえて口にはしないが煮え切らない思いを抱えていた。

 あの手記を拾ってから向こう、ずっとユナの様子がおかしい。どこか生き急いでいるように。

『光』だとか運命だとかいうワードに対して彼女が語るとき、やけに切なく寂しそうにしていることを。

 それが杞憂だと、何でもないのだと思えるほど、セカンドラプターは能天気ではない。

 

 テメエ、死ぬつもりじゃねーだろうな。

 

 セカンドラプターは疑いの目を向けていて、でもあえて多くは語らず覚悟を決めた女には言い出せずにいる。

 彼女が何のために泣いていたのかなんて、すぐ想像も付きそうなものなのに。

 

 ……はあ。ヤボなことは、聞くもんじゃねーよな。けどなぁ。

 

 セカンドラプターは、ずっともやもやしている。

 この折れない女にまで悲壮な決意をさせる運命とやらが、どうしても気に入らなかった。

 

 そんな二人のことを、シェリルはじっと熱い眼差しで見つめている。

 今一度、勇気をもらおうとしている。

 

 

 ***

 

 

 ちょうど食事も落ち着き、時刻は11時30分を回ったところ。

 トレイターによる最後通告がなされた。

 

『非能力者人民諸君。トレイターだ。

 とうとうこの日が来てしまったな。審判の日だ。

 我々にも、諸君にも。痛ましい数多くの犠牲があったことと思う。心よりお悔やみ申し上げる。

 だがすべては大義のためのこと。仕方のないことであったのだ。

 ――――』

 

 そこから始まり、すらすら長々と口上が続いていく。

 おおよそのことは人類社会への苦言だとか、提言だとか、持って回ったような言い回しが多かったが。

 だが最後にはっきりと。事実上の名指しでこう言ったのだ。

 後に歴史家にとって、この発言の解釈は無数に別れるが。

 真実はシンプルに一つの呼びかけだった。

 

『知られざる影の英雄よ。お前の最も大切なものは預かった。取り返したくば、我が秘匿の世界へ挑むがいい。

 さあ、一刻の猶予もないぞ。標準時5月10日12時ちょうどをもって、僕は最後の審判を下そう』

 

 もはや体裁を取り繕う必要もなくなった男の、最後の挑戦である。

 

 放送をテレビ越しに聞いた一同は各々思うところがあり、沈黙が流れる。

 まず口火を切ったのは、シュウだった。

 

「普通に聞くと、ユウがそこにいるってことだよね」

「海で行方不明って話じゃなかったのか。どんなミラクル起こしてんだよ」

「トレイター。私も数えるほどしか話してないけど……無駄なことをする人ではないと、思う」

 

 考えようによっては、行方不明の状況から話をわかりやすくしてくれたともとれるわけだ。

 そして皮肉にもユウがフェバルである以上は、まず無事だ。

 インフィニティアを信用するならば、戦う力もろくにないと来てる。

 ユナはそこまで考えて、決断する。

 

「まずは話を聞いて。場合によってはとっちめるとするか」

「だな」「よし」「それがいい」

 

 そこでセカンドラプターが、思い出したように疑問を呈する。

 

「ところでよぉ。肝心の『ずれた』世界とやらには、どうやって行くんだよ」

「大丈夫さ。それについては当てがある」

 

 というより、最初から『それ』を知っていたような話だなと、ユナは内心苦笑いするのであった。

 

 

[5月10日 11時45分]

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