フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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71「5月10日④ 異相世界 東京」

 ユナたちが『穴』へ飛び込んで辿り着いた先は、「異相世界」東京だった。

 通り抜けた瞬間、『穴』が消える。ユナが話していた通り、わかりやすい帰り道は断たれた。

 三人はまず慎重に周囲の様子を窺う。

 

「誰もいない……」

「随分寂しい場所に来ちまったなオイ」

 

 建物だけは現実世界そっくりそのまま綺麗に残っているが、一方で生物の気配はどこにもない。

 空は暗雲に覆われて、現実世界と同じく雨がしとしと降り続けている。

 向こうには都心随一のランドマーク、東京スカイツリーが聳え立っている。

 GPSは機能していないが、ユナの頭脳が見える距離と角度からおおよその位置を割り出していた。

 

「江戸川区の辺りか。また微妙な場所に出たもんだな」

「そいつはどの辺なんだ」

「東京で言ったらまあ東の方だな」

 

 とりあえず、目に映る範囲にトレイターもユウもいないことはわかった。

『神の穴』はピンポイントで望む者のいる場所へ飛ばしてくれるわけではなく、幾分の誤差は生じる。

 

「さて。目標はどこかな」

 

 ユナは気を読むスキルで人の気配を探る。

 ノイズとなるものが何もないため、鋭敏に狙いの生命反応を探り当てることができた。

 

「どうやらずっと向こう、かなり遠いが西の方にいるな。一人は初顔だが、もう一人はユウだ。間違いない」

「うわ。出たぞ謎技術」

「了解。道案内よろしく」

 

 あくまでツッコミのセカンドラプターに対し、シェリルはもうそういうものだと受け入れている節があった。

 

「急がねーとな。指定時間に間に合わなかったら事だ」

「引き続き飛ばしていくぞ。遅れるんじゃないよ」

「ユナさんこそ、無理はしないで」

「人様の心配するとは、立派になったじゃないの」

 

 明らかに高速移動だけでも時折苦しそうではあるが、セカンドラプターもシェリルも戦士の意地には極力目を瞑っていた。

 早速移動を開始する。無人の大東京を我が物顔で闊歩するのは奇妙な感じがするが、スムーズに動けるのは今はありがたい。

 

「待て」

 

 しばらく行動したところで、ユナが静止する。嫌な気配がして、彼女は直感に従った。

 前方では、突如として空間に穴が開いた。そこから『できそこない』たちが、ぞろぞろと現れて来る。

 現実世界からこちら側へ渡って来たということなのだろう。

 

「あの赤目女ども。神出鬼没と思ったら、ああやって行き来してやがったのか……!」

「弾薬も限られてるからな。避けられる戦いは避けたいが」

「そうもいかない、か……」

 

 彼女たちもユナと同じく生命反応を感知する術を持っているのか、明らかにこちらへ視線を向けている。

 めいめい腕を変形させ、刃状に研ぎ澄ませていく。

 特別製のそいつに斬られた経験のあるシェリルにとっては、嫌な記憶の蘇る光景だ。

 ただACW製造プラントのときと違い、この場は限られた空間ではない。行く手を完全に塞がれているわけではなく、無理に殺し切る必要もない。

 ユナが冷静に状況を見極め、二人へ指示を飛ばす。

 

「こいつらはタフだが、再生はしない。弾は最小限だ。足ぶっ飛ばしてさっさと脇をすり抜けるぞ」

「「応!」」

 

 ついに「ずれた」世界で初めての交戦が始まった。

 

 

 ***

 

 

 NAAC最深部にて、アルの依り代であるケイジとシャイナが「立ち話」をしている。

 

「今度こそはという顔をしているな。確かに今日が『その日』だ。お前ならばやれるかもしれないな。存分に暴れてくるといいさ」

 

 彼女は妖艶な笑みを浮かべ、主に背を向けると『加護足』を使って滑らかに加速する。そしてすぐに見えなくなった。

 彼女を見送った後、今はゆらゆらと培養液を漂うI-3318の入ったカプセルをなぞりながら、彼は独りごちる。

 

「あいつもそろそろ用済みだな。まあ即席で仕上げた使い捨ての駒にしてはよく働いた方か。最後の一仕事、精々張り切ってもらうとしよう」

 

 とうに彼女にも「消費期限」が差し迫っていることを察していたケイジは、あっさりと冷たく見限っていた。

 それを聞いたアイの思うところは、嘲笑か。あるいは――。

 

 

[5月10日 18時29分]

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