「異相世界」新宿駅の正面に陣取り。
決して一人も通さぬ誓いを守るため、赤目の怪物どもと激闘を続けていたシェリルとセカンドラプターであったが。
21時を迎え、街頭モニターに衝撃的な映像が映し出されて。
あまりのことに数瞬気取られてしまってから、何やら敵方の事情までもが変わったことを悟る。
ケイジより念話で残る能力の回収に向かえと指示を受けた『できそこない』たちは、まるで潮目が引くように次々とその場を立ち去っていった。
しかしながら、落ち着いて息を吐く暇など許されてはいなかった。
彼女たちと入れ替わるようにして、真の想定敵が姿を現したからである。
シャイナ。
『できそこない』たちとは一線を画すまことの怪物は、残る戦士たちを今度こそ亡き者にせんと襲い掛かる。
冷気が弱点であることは、二人ともユナより聞き及んでいた。
けれど哀しいかな。どんな優れた決意でも、意気込みだけでは。
具体的手段を、たった一つの武器さえ見つけられないのならば。
いかなる奇跡だって、容易に起こるものではない。
ゆえに当然の帰結として、前回の戦いをほぼ繰り返しなぞるばかりとなり。
彼女たちはそれでも懸命に戦っていた。しかし本質的な有効打もなく、次第に深く傷付き。
そして――。
ついに殺戮の牙は、片割れのシェリルへ届いてしまう。
細く引き延ばされた肉色の刃が、彼女の中心を無残に刺し貫いていた。
***
命の灯火がかすれ消えゆく中、シェリルにはとうとうはっきりわかってしまった。
究極まで死が近付いたからか、彼女にもよく『光』が視えるようになっていた。
永遠にも感じられる引き延ばされた最期の瞬間、隣に立つ戦士の嘆き悲しむ顔を見た。
彼女に宿っているものは私と同じ……今にも消えそうな命の輝き。
【運命】は等しく、彼女からも未来を奪おうとしている。
ずっと考えていた。私の生きる意味とは、何だったのかと。
TSPはすべて、世界に呪われてこの世に生を受けた。
私たちは、生まれて来てはいけなかったのだろうか。
私たちはみんな、ただ無様に殺されて死ぬために生きていたのか。
本当に何も残すことは……できないのだろうか。
違う。そんなこと、ない。何か、あるはずなんだ。
こんな薄汚れた人生を歩んできた私でも。
それでもきっと、未来のために。何かのために戦っていた。
……ユナさんは、言っていた。
私の力は。本質的には、貫く力なのだと。
だとするならば。【運命の弾丸(バレット=オブ=フェイト)】よ。
私が今、一番貫きたいものは。
この私はどうなってもいい。このまま死に行こうとも構わない。
けれど。どうか、目の前のこの素晴らしい若者だけは。
どんなときも諦めることを知らない。馬鹿みたいに前向きで明るくて、闇を歩く私には眩し過ぎるこの戦士だけは。
運命よ。この素晴らしい人だけは、どうか連れて行かないでくれ。
だから。お願い……たった一発でいい。この一撃だけは。
弾は要らない。
願い、祈り、込めて。
私が命を賭けても、すべてを賭してでも貫きたいものは。
セカンドラプター。
お前を覆う絶望の『光』は、この私の命と一緒に連れていく。
私の願いと祈りが、お前の銃になる。そうすればお前は、きっとその足で歩いて行ける。
どうか、受け取って――生きて――。
***
戦士の片割れを惨たらしく仕留め、勝ち誇るシャイナは。
突然繰り広げられた奇行に、我が目を疑っていた。
死せるシェリルは不敵に笑うと、何かを込めて空砲を放った。それも味方へと向けて。
そして満足したように、斃れていく。
彼女の命の火が消えると、同時。
――何だ。何が起こっている。わからない。わからない!
シャイナは、大いに混乱していた。
セカンドラプターを満たす生命力はなおいっそう、力強く溢れんばかりに膨れ上がり。
そして明らかに、人の領域を踏み超えつつあった。
「ああ――わかったよ。確かに、受け取ったぜ」
撃ち抜かれた胸を悼むように、力強く握り締め。
「シェリル。テメエ、カッコつけ過ぎなんだよ」
熱い涙を零しながら、セカンドラプターは死にゆく友へ感謝の祈りを捧げた。
ユナも、テメエも。
誰がガキのように心配されて、こんなお膳立てされなきゃ。
まともに戦えもしねーんだ。まったく情けないよな。
心配すんな。このオレが、そう簡単に死んでやるかよ。
これでも悪運だけは、昔から強いのさ。だから。
「もう大丈夫だ。テメエは少しだけ先に、休んでな」
死せる
激しい戦闘で傷付き、ボロボロになった眼帯が雨風に乗って飛んでいく。
そして露わになったものは、無残に潰された生来の青い瞳ではなかった。
ゆっくりと開かれたそれは、まるで
黄金の瞳は、美しく燃えるように灯って。闇に生きた彼女の、それでも輝ける未来を願った心底を宿し。
どんな困難にあっても、決して消えることのない鋭い眼光を湛えている。
そして間もなく訪れる死の危険を、完全に見通していた。
世界によって「定められた」時間を、「彼女自身の」時間で塗り替えるために。
戦士の弔いとは、ただ嘆き哀しみに暮れることではない。
数え切れないほどの者たちが、【運命】に殺された。
そうだ。テメエにも……たくさん殺されたんだ。
一人の戦士たる自分が今、何よりもすべきことは。
死せる者たちの遺志を継ぎ。猛禽のように、目の前の敵と果敢に戦うことだ!
"I'm 'the' Second Raptor. I've got 【Heartfelt 'Totally' Second】."
バケモノに心意気は直接伝わらないだろうが、彼女はあえて堂々たる名乗りを上げる。
明らかに身に纏う雰囲気が変わったことに。
シャイナの足は意図せず竦み、得体の知れぬ威圧感に全身のぬめ肌が打ち震えていた。
セカンドラプター。
彼女には、対応するフェバルの能力が何一つとしてない。
【ハートフルセカンド】――それは彼女に与えられた、彼女だけの時間だ。
自らの成長に合わせて、能力もまた成長していくこと。無限に開かれた可能性を持つ者。
他のどのTSPにもない、どんな強力なフェバルだって持ち得ない。
生まれつき『予定通り』与えられたものではない、彼女だけのユニークな特徴である。
だがそんな裏事情は欠片だって関係ないのだろう。
彼女はたとえ最初から「与えられた」【運命】だったとしても、決して一度たりとも諦め俯きはしないだろうから。
その輝ける黄金の精神が、厚かましいくらいの前向きさこそが。
そうして。あらゆるTSPに混じって発生した、この地球という星の唯一にして真なる『異常生命体』は。
この世にあり得べからざる、第二の到達者は。
【不完全なる女神】へ、万感の想いを込めて。猛き吼える。
"Bite you!"
[5月10日 21時15分]