フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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「ディースルオン改都」

 エルンティア独立戦争から、ちょうど7年の歳月が経った。

 汚染の激しい南のティア大陸より、比較的綺麗な北のエルン大陸へのヒュミテの移住は早いペースで進んだ。

 逆に汚染をものともしないナトゥラは土地の安い南を訪れ、優れた技術で生存可能領域を広げていく。

 ヒュミテとナトゥラの交流はかつてなく活発となり、復興も急ピッチで進展したのだった。

 

 そしてこの日、首都では象徴的な記念式典が開かれることとなった。

 壇上では英雄王テオが、集まった大勢の観衆に挨拶から始める。

 

「みんな集まってくれてありがとう。数多くの痛みと苦しみを乗り越えて、無事この日を迎えられたことを嬉しく思う」

 

 彼自身の飾らない言葉で、祝言をつらつらと述べていく。

 決してその名を口にすることはないが、異世界に旅立った影の英雄へ改めて感謝の想いを馳せながら。

 最後にこの言葉で締めくくった。

 

「ナトゥラの名もヒュミテの名も、ただ一方のみを掲げることはもうしない。以後ディースナトゥラは――全民統合の首都ディースルオンとする!」

 

 彼の宣言とともに。

 観衆からはヒュミテもナトゥラも問わず、拍手万雷の大歓声が上がった。

 

 

 ***

 

 

 ディースナトゥラ改め、ディースルオン市立公園。

 今日の式典に合わせて、ナトゥラとヒュミテの統合を象徴する像がお披露目となった。

『ともに歩みゆく』と題されたそれは、見る者が見れば誰と誰をモデルにしたかは一目瞭然だが。大衆には片方しかわからない。

 男女両雄、手を取り合って並び立つ。

 一方は救世の戦姫リルナ。もう一方はユウであった。

 ただしユウの功績は詳らかにすると、人工生命の星エルンティアの闇が浮き彫りとなってしまうため。

 彼(彼女)の存在と活躍は秘匿されることとなり、表立っては一般的なヒュミテをイメージしたものとしている。

 実際ユウのことを知る者は極めて限られていたので、像を見た者のほとんどは「なぜテオでないのか」と首を傾げることとなった。

 しかしテオが奥ゆかしい性格であることは周知の事実であったため、本人が目立つことを恥ずかしがったのだろうと結論された。

 

 さて像の周りでは、早速パーティーが開かれている。

 ナトゥラヒュミテ問わず、老若男女和気藹々と平和を楽しんでいた。

 

「なんともまあ、しまるようでしまらないご挨拶だったな」

「王様らしくないところがまた良いのよね」

「くっく。違いない」

 

 王の盟友クディンとそのパートナーのルミは、壇の近くで民衆に囲まれているテオを眺めて笑い合っている。

 二人は子供の機体チルオンから大人の機体アドゥラに更新することもできたのだが、あえてそうはしなかった。

 自由化されたと言え、機体更新に大きな費用がかかる点は今も変わらない。

 したくても色々な事情でできないアウサーチルオンは、まだまだ残っている。

 二人は恵まれない者たちのアイコンとして、引き続きこのままの姿で活動を継続しているのだった。

 

 

 ***

 

 

 像の近くでは、一人の少女が子供たちから遊びに誘われていた。

 集団はナトゥラもヒュミテも仲良く入り混じっている。新時代らしいのどかな光景だった。

 誘われた少女は、律儀に母へお伺いを立てる。

 

「行ってもいいですか? お母さま」

「いいぞ。でもあまり遠くへ行かないようにな。エレンシア」

「はーい」

 

 エレンシアと呼ばれた少女は、母親譲りの艶やかな黒髪を北風に振り撒いて。にこっと笑う。

 そして英雄の像の周りで、子供同士でぐるぐる追いかけっこを始めた。

 愛娘がきゃっきゃ楽しそうにしているのを眺め、幸せそうに目を細める母親へ。

 アスティはにやにやして、その肩を突っついた。

 

「ラスラねえもすっかり良いママになっちゃいましたねえ」

「む。そうか」

「ロレンツパパもまあでれでれしちゃって」

「いやあ。それほどでも」

 

 母の隣で、父がだらしなく笑う。

 目に入れても痛くない愛娘に対しては、かつてのプレイボーイも形無しだった。

 

「あの浮気性が親バカになったって聞いたら、デビッドさんきっと驚くよなあ」

 

 先日大人の機体に更新したばかりのリュートが、故人の戦友を想い微笑む。

 クディンとルミの決断とは逆で、こちらは「自由に大人になれること」の象徴として振舞うことを決めたのだった。

 

「違いない」「ですね」

 

 嫁も含めて味方が誰もいないことに、ロレンツは狼狽える。

 

「おいおい。お前ら、オレを何だと思ってんだよ」

「エロチンパパ」

 

 アスティから、容赦ない断定評価が下された。

 

 ちなみにエレンシアが生まれたのには、語るも恥ずかしいしょうもない理由がある。

 ある日のこと。

 夜遊びからでろんでろんに酔って帰ってきたロレンツは、一人寂しくやけ酒を煽るラスラに遭遇した。

 

『いたのかよ。(おとこ)女』

『なんだ。軽薄エロ助か』

 

 いつもの煽り合いから始まり、あることないことやいやい言い合っていたが。

 とにかく二人とも酔っていた。

 

『相変わらず女っ気ねえよな。そんなだから貰い手が付かねーんだぞ』

『うるさい』

『で、さみしくやけ酒か。しょうもねえなあ』

 

 繰り返し煽ったロレンツに対し、ラスラもカチンときた。

 そして何を思ったのか、つい言ってしまったのだ。

 

『だ、だったら! 試してみるかっ!?』

『お、おお? 言ったな!?』

 

 思わぬ展開にロレンツが激しく動揺しながらも、何とか凄んでみせる。

 ラスラは一瞬怯みかけたが、言い出した口を引っ込めることは意地としてできなかった。

 

『いいだろう! し、しょ、勝負だ!』

『こ、後悔すんなよ!』

 

 お互いこうなってしまっては、戦士の性で引くに引けず。

 ラスラが軍装たるセフィックの胸元を勢いがばっと開くと、鍛えられたナイスバディが露わになる。

 くびれた腰が。おっぱいが。弾けている。

 男ロレンツ、正直唸るものがあった。

 

『お、おおう』

 

 誤魔化し切れない男の反応に、女ラスラ(処女)は心臓バクバクしながらも虚勢で勝ち誇る。

 

『ふふん。どうした粗チンよ。畏れたか?』

『いや。お前、思ったよりさ……』

 

 待て。待て待て待て!

 皆まで言わせては、やってられない!

 

 羞恥で顔を真っ赤にしたラスラが、やけくそに叫んだ。

 

『とっとと来い! ロレンツッ!』

『くっ! 据え膳食わぬは男ロレンツ、生涯の恥ッ! いったらあッ!』

 

 こうして、謎の真剣勝負が始まり。

 この後めちゃくちゃセ◯クスした。できた。

 

 とまあ、ロレンツとラスラが勢いで爆発からのデキ婚をかまし、見事生まれた一人娘である。

 かように経緯は残念この上ないが、新しい命に貴賤はない。

 そんな愛娘は、エルンティアから名前を拝借して名付けられた。

 誕生時には皆ひっくり返したようなどんちゃん騒ぎとなり、テオからも直々に祝福を受けたのだった。

 

 ラスラは散々からかわれた意趣返しにと、アスティへウインクする。

 

「貴様もそろそろ結婚したらどうだ? 子供はいいぞ」

「あらら。すっかり立場が逆転しちゃいましたかね」

 

 言われた当の彼女は、しかしあっけらかんとしていた。

 実際見目麗しく人当たりの良い彼女はモテモテで、まだまだ男遊びをしたい盛りのようである。

 

 

 ***

 

 

 そこから少し離れた木陰では。

 プラトーが濁り空を見上げ、いつものように黄昏ていた。

 二千年の生活で染み付いた習慣というか、もはや趣味のようなものだ。

 

「リルナ。ユウ。お前たちが守った日常は、今もこうして続いているぞ」

 

 そんな空気をぶち壊すように、わんぱくチルオンの双子がはしゃいでいる。

 今度は、像の周りで始まった追いかけっこがどうしても気になるようだ。

 

「僕たちも混じってきていいかな!?」「いいよね?」

「がっはっは! いいぞいいぞ。行ってこい!」

 

 ステアゴルは自慢のパワーアームを振り上げ、豪快に笑う。

 その隣で、華奢な一般女性ナトゥラが幸せそうに笑っている。

 彼も復興の裏でちゃっかり結婚し、今では立派な父である。

 ジードとブリンダは並び立ち、そんな彼を穏やかに見つめていた。

 

「相変わらずやかましいな。あいつは」

「まあまあ。いいじゃないこんな日くらい」

 

 ロレンツとラスラの電撃カップルに当てられ、とりあえず近場同士で付き合い始めはしたものの。

 そこから目立った進展はなく、居心地の良い距離感に留まっていた。

 自分たちには自分たちのペースがあると、二人とも呑気に考えている。

 そこへ黄昏れ気分を削がれたプラトーがやって来て、ぼそっと呟いた。

 

「あいつ、いい加減ユウに会えただろうか」

「さてな。ただ確実に言えることは」

「会うまでは絶対に追いかけることを止めないでしょうね」

「間違いない」

 

 彼女の執念深さを浮かべ、三人は笑い合うのだった。

 

 

【】

「」

《》

 

 

 ――――

 

 

 この星の人工生命たちは。

 原初なる『彼女』の――そして今回の(・・・)星海 ユウの影響によって。

 リルナという最初の『異常』個体に端を発し。皆が持ち得ないはずの心を伝染的に持つようになってしまった。

 宇宙で最も先進的なダイラー星系列によっても実現できない、極めて不自然な『異常生命』である。

 元を辿れば原初なる『彼女』の影響ゆえに、繰り返しを経ても永久に発生自体を妨げることはできないが。

 本来は誰一つとして、決して存在してはならないものなのだ。

 ゆえにエルンティアは滅び去る。そのように古より(・・・)定められている。

 今回の(・・・)星海 ユウが関わったかどうかさえも、決定的な問題ではない。

 幾百年、幾千年、幾万年を経ようとも。

 何度も。何度でも。きっかけは訪れる。

 いつか滅びるまで。

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