フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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「イスキラ崩壊危機」

 ここはイスキラ。ユウがエルンティアの直前、三番目に訪れた異世界である。

 彼(彼女)はそこで発明家のミック兄妹と出会い、ほっとくと死んでしまいそうなので生活の面倒を見ていた。

 傭兵や魔獣ハンターをやりながら数々の実験台になりつつ、仲を深めたのであるが。

 彼(彼女)が去ってから5年後。

 かつてのゴミ捨て場付近に建てられた兄妹のラボは、異様に立派な面構えに様変わりしていた!

 ミックは少年の心を持ったまますくすく成長し、『超圧縮袋』の利権をもって財を成した。

 それを元手とし、後に時空間輸送技術革命とされる一連の発明をわずか数年で成し遂げてしまったのである。

 彼はおっぱい好きの変態にして変人だが、紛れもなく超天才であった。

 もちろん彼一人の力だけで成し遂げたわけではない。

 常に妹メレットの支えがあった上、ある人物による「ささやかな」支援投資があった。

 

 その人物とは、アイビィ・ラスター。

 彼女は惑星アキュムレーションポイント出身の宇宙商人である。

 アキュムレーションポイント、すなわち集積地をそのまま星の名前としたものだが。

 鎖国的政策をとるダイラー星系列と外地を繋ぐ唯一の正規玄関口として有名である。

 貿易や交流のため、人も物も金もすべてが一挙に集まってくる随一の商業惑星だ。

 その輝かしさの一方で過酷な市場競争で知られる一面もあり、競争に負けた者は星を出て流れ者になるしかない厳しい現実があった。

 彼女もそんな『負け組』な宇宙商人の一人であり、外地の星を転々としては宇宙貿易によって食い扶持を繋いでいた。

 特に遅れた文明の産品を持ってきて先進星に売りつけるアンティーク貿易に強みを持っている。

 彼女には捨てられない夢があった。

 いつかアキュムレーションポイントに返り咲き、一等地に自前の店を構えることである。

 ところでダイラー星系列の統治下にある星民には、技術的制約法という鉄の掟がある。

 これは無用な技術的拡散を防ぐために定められた、極めて重要な法律である。

 ダイラー星系列の定める各セクターにおいて、その文明が有しない特定の先進技術を無断で用いた場合、多額の罰金に加えて長期禁固刑もしくは死刑・封印刑に処されるという厳しいものだ。

 例えばごく短時間に大量の物資を輸送できる時空間輸送技術については、特定の先進技術に該当するとされている。

 アイビィはもどかしかった。

 せっかく優れた技術を持っていても、行く先々で使えないのでは意味がない。

 宇宙船に物理的に載せて運ぶにも限界はある。商いのスピードやしやすさで著しい制約を受けてしまうのだ。

 まあ、だからこそレトロなものには希少価値が付くのだが。

 そこで彼女は、かねてより考えてはいた。

 だったら各地で自前で技術開発させて利用してしまえばよいのではないかと。

 ただそれほどの才能を持った人間がいないので、すべては夢物語のはずであったが……。

 折りしも近年第97セクターでは、とある星から幻の宝石性金属メルテリオンが産出されたと噂になっていた。

 早速儲け話に飛び付いた彼女であったが、意気揚々とやってきたらすべては後の祭りであった。

 手ぶらになってしまった失意を癒すべく、新たな商材の開発も兼ねて未開域文明のぶらり旅に出かけたアイビィは――そこでミック兄妹と衝撃の出会いを果たす。

 彼の天才的頭脳に目を付けた彼女の「ささやかな支援」(グレーゾーン)によって、ミックはイスキラの文明レベルに似合わぬ設備をラボに構えることができた。

 そして着々と成果を上げていったのである。

 

 ただこの天才科学者ミックは……とんでもないアホであった。

 

 彼は素晴らしい発明もたくさんするが、それ以上にしょうもない失敗作や趣味に走った一品ものを乱発する。

 そしてどんなに利益を上げても下らない発明やら慈善事業やらに注ぎ込み、たまに大損害をやらかすので、個人の生活はいつもカツカツである。

 妹メレットにだけはひもじい思いをさせないようになったが、ほっとくと彼自身の食事はどんどんおろそかになっていく。

 毎月末には利権から収入が入ってくるが、直前は平気で豆だけのスープなんか啜っている。

 なので結局、彼女がやれやれと面倒を見る感じになっていた。

 手料理を振舞うこともしょっちゅうだ。料理の腕なら、かつてユウがばっちり仕込んでくれた。

 今は二人にとって思い出の品、魔獣ワーケルの肉を乗せた特製トーストを仲良く分け合っているところだ。

 

「ほいどうぞ」

「うむ」

 

 言われた当の兄は行儀悪く、トースト片手にペンをひと時も離そうとはしない。

 今は人肌感素材にとことんリアルを追求したハイパーダッチワイフ《おいたしちゃうよベイビー8号》を誠意開発中である。

 もちろんおっぱいにもチョメチョメにもこだわる。いかに本物に近しい感触を得るか、彼はその天才的頭脳を己の欲望のみに注ぎ続けていた。

 そういう用途のものに限らず、彼は人型製造物には必ずいい感じのおっぱいを付けることにしている。

 なぜなら……男の夢だからだ。

 この開発内容を堂々言ってしまうと下らないと妹に潰されそうなので、一見小難しい式を並べて内緒で進めている。

 またそっちに夢中でいつまでも口にしようとしないので、妹は窘めた。

 

「ちゃんと食べようねー。お兄ちゃん」

「わははは! 天才に立ち止まっている暇などないのだ! アイムメイビーレジェンド!」

「何だかんだ実績だけは伴ってきているよね。お兄ちゃん」

「くるしゅうないぞ妹よ。もっと褒めちゃってプリーズ」

「はいはい。えらいえらい」

 

 ミックは今年で23歳、メレットも19歳になる。

 相変わらず哀しいことに彼女の胸は小さいが、かの『世界の壁』もとい大平原よりは遥かにマシである。

 豊かだったら豊かだったで変態の兄が何かと顔を谷間へ突っ込もうとしてきただろうから、これでよかったのだと本人は渋々納得している。

 もっとも兄は妹がどうあれそういうことはしないと固く誓っているのであるが、普段が普段だけに信用はない。

 ようやく兄がトーストへ齧り付く。

 

「む。美味い。さすが我が妹」

「まあね。私のことももっと褒めちゃっていいよ?」

「よしよし。これからも右腕として兄を頼むぞ。妹よ」

「しょうがないなー。お兄ちゃんは私がいないとダメなんだから」

 

 とまあ、何だかんだで仲良し兄妹ではあった。

 食事を終えると、ミックは再び開発に没頭している。

 

「ここの先端が……もう少し比率と色味を……」

 

 ぶつぶつとクリエイターっぽいことを呟いているが、すべて彼の女体造形の趣味の話である。

 メレットは洗い物を終え、まったり読書しながらいつものように兄の様子を見守っていると。

 突然血相を変えて、緑髪の女性がラボへ飛び込んできた。

 歳はそれなりだが、見た目はまだまだ若い。ダイラー星系列による長命化手術を受けたためである。

 彼女こそ二人への投資者、アイビィ・ラスターその人だった。

 ミックはまた成果の催促でもしに来たのかと呑気に思う。

 趣味で作っていたものでは怒られそうなので、彼は設計図を後ろ手に隠した。

 

「おおっ! 我が愛しきスポンスゥアーではないか! また支援でもしてくれるのかな?」

「キミはあげたらあげただけ使っちゃうでしょーが! って、言ってる場合じゃない!」

 

 今はそんな漫才をしている場合ではない。事は急を要するのだ。

 

「貸し倒れはなしさ! いいからさっさと逃げる準備をするよ!」

「んん? 逃げるってなぜ? ほわい?」

「どこへ連れて行く気ですか?」

 

 常識人のメレットが困り顔をすると、アイビィはとにかく焦った様子で続けた。

 

「この星の外さ! 時間がないんだ! このままじゃキミたち、死ぬよ!」

「「ええーーっ!?」」

 

 兄妹の驚く声がハモる。

 

「待つのだスポンスゥアーよ。急に死ぬと言われても。僕たちこれでもこの地に愛着はあるんだ」

「そうです。お兄ちゃんは変ですけど、世界には必要な人ですし」

「ああもう! 気持ちの問題じゃないんだよ。外見ればわかるさ。ついておいで!」

 

 アイビィに連れられて、二人はラボの外へ出る。

 見上げれば、一目で明らかな異常が起こっていた。

 

 上空に――真っ黒な穴が開いている。

 

 それはまるでブラックホールのようだった。

 しかも見ている間にも少しずつ大きくなってきている。

 

「おいおい。なんだ……あれは……」

 

 ミックはいつものサイエンティスト的余裕を失って、愕然としている。

 メレットもあまりの光景に足が震え、言葉が出て来ない。

 アイビィが絶望的な調子で言った。

 

「宇宙の恐ろしい自然災害――時空間の破れさ」

 

 宇宙では稀に小さな破れの穴が生じることがある。それは周囲の一切を巻き込んで消滅させてしまう恐ろしいものだ。

 発生原因は不明とされているが、一度起きてしまえばよほどの技術がなければ対処は厳しい。

 基本的にはその星や、規模によっては恒星系全体を捨てるしかない災厄である。

 真相は創造された宇宙が不完全であることから発生する一種のバグのようなものだが、知られていない。

 

「わかったかい? ここにいたらキミたち兄妹、揃ってお陀仏だよ」

 

 穴の広がる速度からして、このままではあと三十分もしないうちに地表に達すると彼女は言う。

 兄妹は直ちに逃げなければならないことは理解した。だが当然の疑問が湧く。

 

「待ってくれ。僕たちはいいとして、世界のみんなはどうなる?」

「私の宇宙船は定員四名きりさ。全員なんてとてもとても」

「それって……私たち以外みんな死ぬってことですよね……?」

「仕方ないでしょ。世の中諦めが肝心よ」

 

 アイビィだって鬼じゃない。思うところがないわけではない。

 でもそれなりに宇宙を旅していれば、この世がどれほど過酷で救えないものかを嫌でも知ることになる。

 人の住める環境というだけでも珍しいのに、宇宙は自然天災と超越者による人為天災に満ちている。

 普通の人間は無力で、どうにもならないことがあまりにも多い。

 そうした『どうしようもないもの』を上手くやり過ごしていかなければ、満足に生きることもできない。

 それがこの宇宙のルールだ。逆らおうとしたヤツから早死にする。

 

 だと言うのに。

 この自称天才科学者は……とんでもないアホだ。

 一瞬シリアスに覚悟を決めた目を見せたと思ったら。

 

「くっくっく。はーっはっはっはっはっは!」

 

 轟くばかりのサイエンティスト高笑いをかましていた。

 

「悪いなスポンスゥアー。僕は残るぞ! こんなとき、狂気のサイエンティストは呪われし世界に挑むと相場が決まっているのだ!」

「何かの見過ぎだと思うよ。お兄ちゃん」

 

 ツッコミながら、メレットも決意を固めたいい顔をしている。

 ミックは理想の科学者を纏い、びびりの本心を覆い隠して己を奮い立たせる。

 

 どんなときだって簡単には諦めないことを。負けず嫌いであることの大切さを。

 僕はユウ(あの人)から学んだんだ。

 

「カッコつけてるとこ悪いけどね。私の投じたお金はどうすんのさ。このままじゃ丸損だよ」

「ラボにあるものは一切持っていってもらって構わない。どうぞ足しにしてくれたまえ」

「あのねえ。そういうことじゃなくってさ。うぅ~」

 

 私が最も価値を見出していたのは、キミたちという人材そのものだったのに。

 と、そんなことを悔し紛れに吐き捨てる。

 死なれちゃ寝ざめが悪いという言葉が素直に出てこないのは、彼女の困ったツンデレ気質だった。

 ミックも何となく真意を察し、あえて不敵に笑い続ける。

 

「案ずるな。黙って死んでやる気など毛頭ない!」

 

 彼は勢いラボのガレージに駆け込み、何やらごっつい車両を引っ張り出してきた。

 元は戦争で打ち捨てられた軍事車両を拾ってきて、手ずから改造したものである。

 

「こぉれだ! パンパカパンパンパーン!」

 

 もう全体の姿は見えているが、セルフ効果音で演出を忘れないのが彼なりの粋である。

 上部にはパラボラアンテナのようなものが備え付いており、そこから何かが発射できるようだった。

 ミックはここぞとばかり、サイエンティストが言いたい台詞ナンバーワンを高らかに宣言する。

 

「こんなこともあろうかと! 超圧縮ビーム発射装置を開発していたのだッ!」

「あー。あのときの失敗作か」

「こら。失敗作言うな妹よ。せっかくいいとこなのにカッコ付かないじゃないか」

「でもいいチョイスかもしれないね」

「ふははは。そうだろうそうだろう!」

 

 メレットが苦い思い出を振り返りつつ、今は良い選択かもしれないと頷く。

 なんと彼は『超圧縮袋』の技術を応用し、ぶち当てたものを急速に圧縮する超兵器を開発していたのだった。

 実際ものすごい効果なのだが、たった一つ致命的な欠点があった。

 必要エネルギーとコストが馬鹿みたいに高過ぎるのだ。

 結果として試運転の一発で都市部までの電力を食い尽くし、大停電を起こしてしまい、巨額の賠償金を抱えることになった。

 なので永久にお蔵入りとなるはずだったが、いざここに再び日の目を見たのである。

 堂々登場最終決戦兵器に、だがアイビィはまだ疑いの眼差しを向けている。

 

「確かにキミの発明は面白いよ。けどそんなもので本当に何とかなると思ってる?」

 

 時空間の破れは、それこそダイラー星系列があらかじめ発生を予見し、万全に事前準備して初めて対処できるレベルの巨大災害だ。

 いくら天才と言え、こんな片田舎の一発明者の装置なんかでどうにかできたら苦労はしない。

 だが不屈の男、若き科学者はあくまで運命に打ち勝つつもりのようだった。

 

「実証実験もしないで不可能と決めつけるのは、サイエンティスト的態度ではないからな!」

「……あーもう! わかったよ。死ぬんならキミたちで勝手に死ぬんだねっ! 私はいよいよ危なくなったらすぐ逃げるからね!」

 

 つまり、見届ける気にはなったということだ。

 

「恩に着るぞ。スポンスゥアーよ」

「ふん。ほんとバカなんだからさ、もう」

「うちのお兄ちゃんがいつもすみません」

「キミもだよ。バカの妹」

「でないと妹は務まりませんから」

 

 にやりと笑ってから、ちょいちょいと手招きする兄に従って助手席に乗り込む。

 

「ではやるか。妹よ」

「オーケー。お兄ちゃん」

 

 そして意味もなく、白衣をバサッとキメる仲良し兄妹であった。

 

「今から電力供給を開始する! エネルギーメーターをよく見ておいてくれ!」

「了解。また後で街に謝りに行かないとだね。お兄ちゃん」

「世界の危機を前にして、お叱りの一つや二つ屁でもないぞ!」

 

 ミックが起動スイッチを叩き付けると、莫大な電力要求によるブラックアウトが近隣都市で発生する。

 そして、エネルギーメーターがみるみる上昇していく。

 

「出力30……40……これどこまで待つの?」

「120だ!」

「100超えちゃってるよー!」

「限界突破。それこそが浪漫というものだ! わからんかね!?」

「全然わからないよお兄ちゃん」

 

 とにかくバカ兄の言うことを信じて、メーターが100を振り切るまでじっと待つ。

 その間に兄は照準を合わせ、時空の破れに狙いを定めていた。

 今も空間に開いた穴は徐々に大きくなっていっているが。間に合うのか。

 いよいよメーターの針が100を飛び越え、上限のところでカクカクと小刻みに振動している。

 

「出力120。マックスパワーきたよ!」

「よろしい。いざ発射用意!」

「発射スイッチは、と。わかりやすいね」

 

 前方中央にドンと構えた真っ赤な発射ボタンがある。

 メレットが手を伸ばすと、そこにミックの手が触れた。

 

「こいつに僕たちの命運がかかってる。一緒に押すか妹よ」

「いいね。そういうの嫌いじゃないよ」

「「せーの」」

 

 兄妹ぴったりと息を合わせ、お決まりの台詞とともにボタンを押し込む。

 

「「ポチッとな!」」

 

 パラボラの先端から、眩いばかりの光線が照射される。

 それはミックの計算通りにターゲットへ命中し、当たった端からみるみる吸い込まれていく。

 始めの数秒は、まるで効いた様子がなかった。すべては無駄に終わるかと思われたが……。

 なんと穴の広がりが止まり、むしろ収縮に転じ出したではないか。

 

「うそ。マジで小っちゃくなっていってる……!?」

 

 アイビィはいつでも逃げられるよう宇宙船の運転席に退避していたが、まだ発進せずに戦いの行く末を見守っていた。

 一方、兄妹は祈るようにボタンを押し込み続けている。

 

「負けるなマイリーサルウェポンよ! お前にすべてを托したのだ!」

「がんばれ! お兄ちゃんの発明は負けないんだから!」

 

 最初は半径数十キロメートルはありそうだった穴も、推定数キロメートル、そして1キロメートルとどんどん小さくなっている。

 

「「いけ。いけーーーーーーーっ!」」

 

 ところが、そこからがしぶとかった。

 半径数百メートルほどとなったところで、拡がろうとする力と閉じようとする力が均衡してしまう。

 以降はどんなにビームを注ぎ込んでも、そのままの大きさで押し留めるのが精一杯だった。

 

「やばいよ! 出力がなくなってきてる!」

 

 妹が叫ぶ。

 最初は120あったメーターも、もう10を割るところまできている。

 街中の電力を使い切っての全力攻撃だ。次の発射はとても間に合わない。

 

「くっ。万事休すか!」

 

 ダメか。やっぱり無理なのか――。

 

 諦めかけたそのとき。奇跡が起こった。

 

 時空の破れはなぜだか突然、拡大しようとする力をまったく失ったようだった。

 それまで拮抗していたのが嘘のようにみるみる萎んでいき、ついには完全に消滅してしまったのである。

 世界に静寂が戻り、兄妹はしばらく手を重ねたままポカンとしていたが。

 ようやく遅れて実感が湧いてきた。

 

「やった……。やったぞ!」

「すごいよお兄ちゃん。私たち、やったんだね!」

 

 一方、宇宙船のアイビィは面食らっていた。

 

「うわぁ……。とんでもないねキミたち……」

 

 もう見ているだけでハラハラドキドキ、冷や汗だらだらものだった。

 

「本当に奇跡を起こしちゃったよ……」

 

 予想を遥かに超える成果に引きつつも、やばい掘り出し物を見つけたかもしれないと感動に胸を打ち奮わせている。

 遅れた文明でちょっと手助けしただけで、これほどのものを……。

 もしや才能だけなら、ダイラー星系列の連中より上なのでは?

 

 ミック兄妹は彼女の戦慄もつゆ知らず、無邪気に喜び合っている。

 

「はっはっは! 未来は我が手にありッ! 世界は救われたのだッ!」

「やったね! お兄ちゃん!」

 

 運転席と助手席から身を乗り出し、抱き合う仲良し兄妹。

 

「うぅ。正直、ちびった……」

「結局しまらないねー。お兄ちゃん」

 

 実は滅茶苦茶怖かったので、後から涙が出てきた兄を妹がやれやれと慰めた。

 

 事の顛末を語ると。

 時空の破れというものの真の脅威が、この星では知られていなかったため。

 世間では謎の発射体が原因不明の穴を掻き消したとして、ちょっとした話題になった程度で終わってしまう。

 ミック兄妹は意図せずして、ユウと同じ『知られざる英雄』トロフィー獲得を果たしたのだった。

 なお、兄妹は後でこってり叱られましたとさ。

 

 

 ***

 

 

「ふう。危ない危ない」

 

 アニエスはミック兄妹が極限まで小さくした時空間の穴を閉じる最後の一押しを、人知れず遂行していた。

 超圧縮技術では時空間の破れをしばらく押し留めることはできても、完全に消滅させることは不可能だからだ。

 この最後の一仕事は、時空間魔法のエキスパートたる彼女にしかできないことだった。

 ただし、決してあのビームが無駄だったわけではない。むしろ極めて重要な役割を果たしている。

 いくら術式魔法でカバーしても、利用できる周囲の魔力リソースには限度がある。

 破れが元の大きさのままではとても時空魔法の出力が足りず、力負けしてしまっていただろうから。

 世界を救うあと一歩のところまで独力で迫った兄妹を、アニエスは素直に賞賛する。

 

「実に素晴らしいお手並みでした」

 

 さすがは例のアレを開発する超天才くんとその妹さんですね。

 

「あたしと同じ『異常生命体』なだけはありますか」

 

 彼女は知っている。

 ユウがあの兄妹の世話をしなければ、二人ともとっくの昔に野垂れ死んでしまっていたことを。

「不自然」に生き延びた存在だからこそ、待ち受ける滅びの【運命】を切り拓く可能性を持っていた。

 

 これでとりあえず今回も(・・・)世界は守られた、か。

 

「いやあ、お見事。助かったぜ」

「一時はどうなることかと思ったわ」

 

 隣で推移を見守っていた二人の戦士も、安堵の表情で彼女を迎える。

 イスキラ崩壊危機を『観測』してしまった二人の『観測者』は、急ぎウィルを介して彼女へコンタクトを図ったのである。

 

「いえいえ。こちらこそありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします」

「お互い様だもんな。同じ『観測者』同士、助け合っていこうぜ」

「はい!」

 

 セカンドラプターとインフィニティア、そしてアニエス。

 知られざる三人の『観測者』たちは、喜びのグータッチを交わした。

 

 

 ***

 

 

 それからしばらく経った、ある日のこと。

 アイビィは常にイスキラに滞在しているわけではなく、今は仕入れに別の星で活動している。

 いつものようにミックが下らないものの開発へ没頭していると、妹が血相を変えて飛び込んできた。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん! 大変なのー!」

「ん? どうした妹よ」

 

 もしやまた世界の危機かと焦る兄に、機微を察した妹はひとまず宥める。

 

「あ、世界がやばいとかそういうのじゃないよ」

「なんだ。驚かせないでくれよ」

 

 メレットは語る。

 彼女が何となしに空を眺めていると、付近のゴミ捨て場に何やら飛行体が墜落してきたのだという。

 早速現場に向かってみると。

 カプセル型の金属製の何かが、クズ山の頂上にめり込んでいた。

 形状や材質にはどうも既視感がある。兄は印象のまま呟いた。

 

「あれ……宇宙船じゃないか?」

「そう言えば、アイビィさんのやつにちょっと似てるかも」

 

 誰かが入っているかもしれない。危ないヤツだったら大変だが、新しい出会いかも。

 ミックはちょっとびびりながらも、やはり好奇心が勝った。

 

「よ、よし。確認するぞ。付いてこい。妹よ」

「うん」

 

 もしものときはいつでも妹を逃がせるよう、兄が先頭となって慎重に近付いていくと。

 目前まで来たところで、煙を吐き出してゆっくりと宇宙船のハッチが開いていく。

 そして姿が露わになったものの一目の美しさに、思わず二人は息を呑んでしまった。

 透き通るような水色の長髪に、造られたように白い肌。

 すらりとした手足の先は金属に覆われて。輝く白銀の軽鎧を纏っている。

 

 目を閉じたまま、スリープモードですやすやと眠る――リルナの姿がそこにあった。

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