フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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14「クランシエル孤児院」

 クランシエル孤児院。

『警察都市』ビュートシティの郊外にあり、TSF(私たち)のお膝元からは車で一時間ほどと言ったところ。

 自然豊かな環境で伸び伸び育って欲しいという思いから、街中の喧騒を避けた立地になったと本人からは聞いている。

 そのため生じた微妙な距離が今は心配のタネになっているのだから、皮肉なものだ。

 移動は付き添いのスタッフが運転する車に乗せてもらう形で行っている。巫女は護衛対象でもあり、当然のVIP待遇である。

 都合五度目の訪問となる今回、アマンダは申し訳なさそうにしていた。

 

「いつもすまないね。あたしの勝手に付き合わせてしまって」

「いいの。共同生活では引っ張ってもらってるんだから。このくらいはね」

 

 彼女は三人の巫女の中で唯一、実際に私よりも年上だった。

 持ち前の姉御肌で、素直になれないイプリールと突っかかられる私をとりなし、やや控えめなメリッサをリードしてくれるのは日頃感謝している。

 

「アイの奴はちっとも尻尾が掴めないのかい」

「みんな頑張ってくれてるけど、難しいみたい」

 

 通報を受けて現場に駆けつけても、毎度手遅れが続いている。

 歯痒い。しもべを使い、悪意すらカモフラージュして逃げ隠れするのが本当に上手くて困る。

 私たちの力を熟知し、徹底的に慎重に立ち回っているに違いなかった。

 

「ここ数日、またちょっと静かなのが不気味なんだけどね」

「何企んでいるのだか。早いとこ子供たちが平和に暮らせる日が戻って欲しいもんだよ」

「ほんとにね……」

 

 このまま何もないってわけには……いかないだろうな。

 これが嵐の前の静けさに過ぎないと、私もアマンダも正しく認識していた。

 

 

 ***

 

 

「ユウだ!」「ユウだー!」「ユウおねえちゃん!」

 

 孤児たちともすっかり顔なじみになり、揉みくちゃにされる。

 

「わ、ちょっと。順番にね」

「はっはっは! 相変わらず子供に好かれる才能があるようだねえ。すっかり取り合いじゃないか」

 

 そう言って笑うアマンダお姉さんも育ての親。もちろん大人気で、おんぶにだっこでもう手が塞がっている。

 元気な子供たちの遊びに付き合いつつ。機を見て引っ込み思案の子にも声をかけ、輪に入れてあげる。

 

「おいで」

「……うん」

 

 袖をぎゅっと握られる。小さな男の子は、抱っこをご所望のようだ。

 胸に抱き留めて、あやしてやる。

 

「よしよし」

 

 女になって。ウェイトレスにアイドルじみたことに、色々やって(やらされて)はきたけれど。

 いよいよこうして子供たちの世話をする日が来るとは思わなかったな。

 ふふ。すっかりママみたい。

 

 ――そう言えば。

 私も昔小さい頃、こんなところでよくお世話になっていたような。

 確か――。

 

「うっ」

 

 頭痛と眩暈がする。またか。

 

「ユウおねえちゃん、だいじょうぶ?」

「……うんうん。平気。心配してくれてありがとね」

 

 小さな子供にまで心配されるようでは、世話ないよね……。

 

 アマンダも見かねたのか、落ち着いた後で声をかけてくれた。

 

「あんた最近、どうも顔色悪いことが増えてるよ。あたしゃ心配だね」

「昔のことを思い出そうとするとね。アイが現れたあの日から、地味にずっと悩まされてて」

 

 彼女には正直に言っておく。

 自分だけで抱え込まないのは大事なことだ。特に心配性の姉御の前では。

 

「トラウマでも刺激されちまったのかい」

「そうかも」

「相手がアレじゃあ無理もないか」

 

 あの化け物と向き合っていると、生理的に揺さぶられるからか。

 またこのリデルアースが、やけに地球そっくりだからだろうか。

 忘れてしまった、たぶん大切なことをやけに喚起させるの。

 でもそれが思い起こされようとするたび、耐え難い痛みとなって襲いかかる。

 やっぱり。ただのトラウマというだけのことではない気がする……。

 つらいことで言えば、ラナソールの出来事や他だって相当なはずなのに。

 もうとっくに向き合えてもいいはずなのに。

 まるで昔の記憶そのものが、パンドラの箱のように。

 悪意のある何かが仕掛けられているような、そんな気がして。

 

『じっくり向き合っていくしかないよ。焦らないで』

『そうだな……』

 

 一体化しているユイからも、励ましの言葉を頂く。

 君自身も思い出せなくて、同じ痛みを共有しているからね。

 

 ただ……そうやって先送りにしていていいのだろうかという気持ちもある。

 ラナソール世界崩壊の日から向こう、忙しさを言い訳にして。さして向き合う暇もなかった。

 今も正直、そんなことしている場合ではないけれど。

 いつまでも避けていてはいけない、大事なことのような気もしている。

 アイも。あいつも何かを知っている――。

 

「おいどうした。また難しい顔してるぞ」

「あ、うん。アマンダも心配性だよね」

「まあねえ。メリッサより年上ってのも聞いちゃいるんだが。実際可愛らしいあんた見てると、どうも庇護欲がな。むくむくと」

 

 気付けば引き寄せられ、頭を強めにわしゃわしゃされていた。

 

「こんな胸ならいつでも貸してやるさ。うちをもっと頼りな」

「うん……ありがと」

 

 もたれかかっていると、不安がすーっと溶けていく。

 やっぱり巫女同士ってのは何か……本能的に安心する。

 身を委ねてしまいたくなるものがある。

 

「さすがみんなのお母さん」

「そうさ。年季が違うのよ」

 

 ちょっとだけ揶揄ってみたけれど。まったく動じずににっこりされてしまった。

 

 アマンダも。イプリールもメリッサも。

 そして……今はもういない、アルシアも。

 巫女はみんな良い人たちだ。良い人たちだった。

 

 

 ***

 

 

 その日は無事何事もなく。

 共同生活の家に帰り、子供たちの話をたっぷりすると。

 

「ずるいですわ。わたくしも可愛い子供たちに囲まれて、きゃーきゃー言われてみたいですわ!」

 

 可愛いもの大好きイプリールは、実にわかりやすく羨ましがっていた。

 

「ユウなんかより、わたくしの方が子供たちに好かれましてよ」

 

 あはは。別にそんなところで張り合わなくたっていいのにね。

 

「確かにイプリールは、子供たちの遊び相手にはぴったりかもねえ」

「ええ。何せご自身もお子ちゃまですから」

「くっく。違いない」

「もう。メリッサお姉様。アマンダお姉様まで!」

 

 顔を真っ赤にしてぷりぷりしているが、間違いなくこういうところが愛される所以なのだった。

 それからアマンダに色々話をされていると、ついに我慢ならなくなったらしい。

 

「う~。もう無理ですわ。ダメですわ。今度はユウの代わりに、わたくしを連れて行って下さいまし!」

「うーん。そうしてやりたいのは山々だけど……。大丈夫かねえ?」

「でしたら、私とユウもそう遠くはないところで待機しておきましょうか。いいですよね。ユウ」

「そうだね。行ってくるといい」

「よろしいですの……?」

 

 言い出しておいて、実際我儘なことはちゃんと理解しているらしい。

 やや所在なくしているところ、アマンダお姉様の鶴の一声で決まった。

 

「よしわかった。二人がそう言うんなら。行くか。イプリール」

「はいっ!」

 

 目キラキラさせちゃって。ずっと軟禁というのも、実際ストレスが溜まるからね。

 もちろん警戒は必要だけど、多少の気休めも必要だろう。

 何かあればすぐ駆け付けられ、かつ市中の事件にも対処できる位置に付けておこう。油断はしない。

 

「ふふん。ユウ。圧倒的イプリールお姉様の圧倒的包容力。格の違いを見せつけてあげましてよ。最高の土産話を、首を長くして待っているがいいですわ」

 

 三日後。帰ってきたイプリールはほくほくしており、何か思い出しては顔がだるだるに蕩けていた。

 私と張り合うこともすっかり忘れて。やっぱり君が一番可愛いかもしれない。

 

 

 ***

 

 

 そうして、私とイプリールは交代で「見回り」をすることになり。

 彼女の当番も四度を数えた日。十分警戒はしていたはずなのに。

 その日、不気味な沈黙を保っていたアイがついに動き出した。

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