どんなに状況が詰みに思えても。
自ら死ぬなんて安易なことが正解だとは、どうしても思えなかった。
それだけはしてはいけないと思った。
せめて負けるとしても。最期まで戦うの。抗うの。
けれど、どんなに気張ろうとしてみても。
状況は刻一刻と悪化するばかり。
アイは私にひたすら乱暴を続け、本能という名の歪んだ愛欲を満たし。
私の全身に隙間なく纏わり付いて。私にいっぱいの「愛情」を注ぎ込んで。
ただそのうち、私がへし折れるのをずっと待っている。
だけど、そのとき。
『ユウ。ユウ……!』
聞こえる――。
メリッサの助けを呼ぶ声が。
え――。
つか、える……!?
今までまったく使えなかったはずの力が。
封じられていたはずの《マインドリンカー》が。
なぜ。どうして今さらになって。
――そのときの私は、知らなかった。
私とアイ。二つの特大の『異常』が。
その繰り返される激突が。二つが一つになりかけるほどの濃厚な絡み合いが。
事象の特異点を引き起こしていることを。
もはや何があるかわからない。この戦いに決まった結末はなく、あらゆる可能性が常に揺らいでいることに。
既にこの戦いは【運命】の縛りを超えて、アルの力も及ばなくなりつつあることに。
けれど何でもよかった。手があるのなら何でもよかった。
メリッサの声に応じて、心を繋ぐ。
巫女同士は惹かれ合う。
アイとひとつになるために、私たちは極めて強く繋がるようにできている。
その親和性を逆用する。
「私」が持っていた元々の耐性に、メリッサの持つ強力な精神防御・修復作用が加わる。
衰弱し切っていた心は。あわや融かされようとしていた精神は。
今一度、反骨心を取り戻す。
突如膨れ上がった力に、アイは目を見開いた。
「うあああああああああああーーーーーーーー!」
全力で叫ぶ。
自身を中心に、魔力による爆発を引き起こす。
私に纏わり付くために、薄く引き伸ばしていたから。効果はてきめんだった。
『くっ。お前――』
こんなので倒せないことはわかっている。お前はもう私より強くなってしまった。
けれどお前の肉体は、極めて高い再生力を持たせるために。
柔らかく、傷付けるだけならそんなに難しくはない。
――もう再生を始めている。今度こそ捕まったら一巻の終わり。
逃げないと。
だめ。身体に力が入らない。
だったら。
『心の世界』からディース=クライツを取り出し、自動運転にしてもたれかかる。
メリッサのところへ。せめて君だけは――!
***
「…………」
逃 が す も の か。
アイはイプリールの右手の再生を優先させ、力を込めた。
彼女はついぞ知ることのなかった、アイだけが知っている使い方を。
このアイだけが、五体の力を十全に使いこなすことができるのだ。
振り裂けるは。
《
単なる念動力ではない。
透明な力場による斬撃が、逃げ惑うユウへ瞬時に到達する。
だが極上の獲物を傷付けることだけはしない。あれはわたしが食べるのだから。
邪魔なものだけを、一太刀の下に断ち切る。
長らくユウと苦楽をともにした愛機は、アイによる一撃であっさりと破壊された。
哀れ、宙に放り出されたユウは。再び無様にも地に転がりゆく。
アイは鼻で嗤う。
どうした。必死に手など伸ばして。そんなことをして何になるの。
もはや力の差は圧倒的。
そこのメリッサも、ほとんど限界だというのに。
――なに?
転移魔法。
本来ならば使えなかったはずのそれは。
『至天胸』が持つ強力な対TSP防御によって、アイの妨害さえも突破して。
もう一度だけ、ユウとメリッサを彼方へ逃したのだった。
「……へえ。まだやるの」
愉しみ過ぎた。
「ままならぬものね」
けれど。どこへいったとして。
わたしは知っている。おまえたちがどこにいるかなど、手に取るようにわかる。
だって。わたしはずっと