フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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24「逃げるな」

 どんなに状況が詰みに思えても。

 自ら死ぬなんて安易なことが正解だとは、どうしても思えなかった。

 それだけはしてはいけないと思った。

 

 せめて負けるとしても。最期まで戦うの。抗うの。

 

 けれど、どんなに気張ろうとしてみても。

 状況は刻一刻と悪化するばかり。

 

 アイは私にひたすら乱暴を続け、本能という名の歪んだ愛欲を満たし。

 私の全身に隙間なく纏わり付いて。私にいっぱいの「愛情」を注ぎ込んで。

 ただそのうち、私がへし折れるのをずっと待っている。

 

 だけど、そのとき。

 

『ユウ。ユウ……!』

 

 聞こえる――。

 

 メリッサの助けを呼ぶ声が。

 

 え――。

 

 つか、える……!?

 

 今までまったく使えなかったはずの力が。

 封じられていたはずの《マインドリンカー》が。

 なぜ。どうして今さらになって。

 

 ――そのときの私は、知らなかった。

 

 私とアイ。二つの特大の『異常』が。

 その繰り返される激突が。二つが一つになりかけるほどの濃厚な絡み合いが。

 事象の特異点を引き起こしていることを。

 もはや何があるかわからない。この戦いに決まった結末はなく、あらゆる可能性が常に揺らいでいることに。

 既にこの戦いは【運命】の縛りを超えて、アルの力も及ばなくなりつつあることに。

 

 けれど何でもよかった。手があるのなら何でもよかった。

 

 メリッサの声に応じて、心を繋ぐ。

 巫女同士は惹かれ合う。

 アイとひとつになるために、私たちは極めて強く繋がるようにできている。

 その親和性を逆用する。

 

「私」が持っていた元々の耐性に、メリッサの持つ強力な精神防御・修復作用が加わる。

 

 衰弱し切っていた心は。あわや融かされようとしていた精神は。

 今一度、反骨心を取り戻す。

 

 突如膨れ上がった力に、アイは目を見開いた。

 

「うあああああああああああーーーーーーーー!」

 

 全力で叫ぶ。

 自身を中心に、魔力による爆発を引き起こす。

 私に纏わり付くために、薄く引き伸ばしていたから。効果はてきめんだった。

 

『くっ。お前――』

 

 こんなので倒せないことはわかっている。お前はもう私より強くなってしまった。

 けれどお前の肉体は、極めて高い再生力を持たせるために。

 柔らかく、傷付けるだけならそんなに難しくはない。

 

 ――もう再生を始めている。今度こそ捕まったら一巻の終わり。

 

 逃げないと。

 

 だめ。身体に力が入らない。

 

 だったら。

 

『心の世界』からディース=クライツを取り出し、自動運転にしてもたれかかる。

 

 メリッサのところへ。せめて君だけは――!

 

 

 ***

 

 

「…………」

 

 逃 が す も の か。

 

 アイはイプリールの右手の再生を優先させ、力を込めた。

 彼女はついぞ知ることのなかった、アイだけが知っている使い方を。

 このアイだけが、五体の力を十全に使いこなすことができるのだ。

 

 振り裂けるは。

 

透破之剣(とうはのけん)

 

 単なる念動力ではない。

 透明な力場による斬撃が、逃げ惑うユウへ瞬時に到達する。

 

 だが極上の獲物を傷付けることだけはしない。あれはわたしが食べるのだから。

 邪魔なものだけを、一太刀の下に断ち切る。

 

 長らくユウと苦楽をともにした愛機は、アイによる一撃であっさりと破壊された。

 哀れ、宙に放り出されたユウは。再び無様にも地に転がりゆく。

 

 アイは鼻で嗤う。

 

 どうした。必死に手など伸ばして。そんなことをして何になるの。

 もはや力の差は圧倒的。

 そこのメリッサも、ほとんど限界だというのに。

 

 ――なに?

 

 転移魔法。

 本来ならば使えなかったはずのそれは。

『至天胸』が持つ強力な対TSP防御によって、アイの妨害さえも突破して。

 もう一度だけ、ユウとメリッサを彼方へ逃したのだった。

 

「……へえ。まだやるの」

 

 愉しみ過ぎた。

 イプリール(この子)が持つユウの独占欲が、あまりにも強かったものだから。

 

「ままならぬものね」

 

 けれど。どこへいったとして。

 わたしは知っている。おまえたちがどこにいるかなど、手に取るようにわかる。

 だって。わたしはずっとそこ(・・)にいるのだから。

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