地に倒れ伏し、絶望の淵に沈むユウに。
破滅の光が、いよいよ地表に迫ってくる。
ついにリデルアースそのものが終焉を迎えようとしていた、そのとき。
虚ろだった彼の瞳に、到底信じられないものが映った。
決してあり得ないはずの後ろ姿。
現実逃避に、幻でも見ているのだろうか。
壊れかけた、ぼんやりとした思考のまま。
その名を、心の声で呼ぶ。
リル、ナ……?
「ああ。わたしだ」
力強く。本物の声が答えた。
《アールリバイン》の拘束を引き抜いて、しかとユウの手を握る。
人肌の感触をほぼ完全に再現した、温かく優しい手。
それから彼女は、上空を見上げて。
もう一人の「私」を奪い取った、憎き敵の姿をしかと確認して。
「あいつか。お前を散々苦しめた奴は」
凛として、問いかける。
ユウは深く傷付き、満足に答えることもできないが。
わずかに意志の光が戻った様を見て、彼女は頷く。
声一つ出せないユウに、彼女も念じるだけで答える。
ずっと聞こえていたぞ。
泣き叫び、助けを求めるお前の声が。
彼女にとっても、非常に心苦しかった。
中途半端なタイミングで助けに入っては、ただ無様に殺されるだけになってしまう。
だから。ここぞというタイミングで。
奴が大技を繰り出す絶体絶命のピンチにこそ、彼女は唯一の活路を見出した。
「遅れてすまなかった。助けに来たぞ。ユウ」
もう一度、絶望の覆い尽くす空を睨んで。
今のままでは絶対に敵わないことは、火を見るよりも明らか。
勝てないと見るや、歴戦の戦士は冷静に逃げの一手を打つ。
彼女には己の人生に誓った、揺るぎなく強い決意があった。
ユウ。お前をただ一人、絶望の淵には置かないと。
どんなに遠く離れても。必ずそこへ辿り着く。
ミックとメレットと共同開発した、ある特殊武装。
《パストライヴ》を魔改造し、【運命】の理すらも捻じ曲げて。
フェバルシステムの根本からを破壊してしまう、まさに掟破りの一手。
遥か宇宙の彼方の星々を渡るほどの長距離移動を、わずか一瞬で可能にするその技術は。
《エーテルトライヴ》
破滅の《セインブラスター》が、二人に届く寸前――。
間一髪のところで、ユウとリルナはリデルアースを脱出した。
***
やがて、粉々に砕け散った星の残骸から。
バラバラに分かたれたアイの肉片が集まり、徐々に女の形を成していった。
『…………』
先ほどまで、絶頂の極みにいたアイは。
今はすごぶる不機嫌になっていた。
奪い取ったユイの顔を、わかりやすい膨れ面にしている。
あのまま星の爆発に巻き込まれて、死んでしまえばよかったものを。
星を消すほどの大技を放っていたため、さすがの彼女も一切身動きを取ることができなかった。
あの泥棒女の邪魔一つ、満足にすることもできなかった。
――忌々しい雑魚が。また一匹。
『……いいでしょう』
この力の差を前にしてなお、お前たちが無駄に立ち向かおうとするのならば。
今度こそ追い詰めて。徹底的に味わって。
お前たちを。完膚なきまで奪い去ってくれる。
きゃはははははははははははははははははははははははははははははははは。
大気の存在しない宇宙空間で、アイの声なき高笑いがいつまでも続いていた。
***
この物語は、まだ終わらない。