フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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・あらすじ
 リデルアースは、儚くも露と消えた。
 もう一人の「私」の姿を纏う最悪の敵、アイ。
 アイの魔の手は、さらに宇宙の隅々まで。かつて過ぎ去った世界をも脅かそうとしている。
 これからすべてを奪われようとするとき、それでもまだ残っているものは何か。
 かつて無力だった子供は。友を知り、愛を知り、力を知り、絶望を知り。
 運命の残酷なることを。それでも生きようとする人々の切なる想いを知って。
 ついに過去を知り、自分が本当は何者であるのかを。そして何ができるのかを知る。
 これはユウの旅と人生、そして【運命】との戦いの物語。

・話の傾向
 お楽しみ下さい。

・キャラクター紹介
 All World Characters of FabL Part Ⅰ!


I 後編
あらすじとキャラクター紹介~31「星を泳ぎ ヒトを奪う」


 ひとしきり哄笑を終えた後、アイは何もない宇宙空間に佇んでいた。

 通常の意味での衣服こそ身に纏っていないが、代わりに白きオーラの衣が身を包み。

【神の器】純粋の性質――複製された星脈としての由来を反映し、全身が淡く光り輝いている。

 まさに神々しきは『女神』の姿。

 そして。人より遥かに強靭で、あらゆる環境にも容易に耐える肉体は。

 か弱き人の身体しか持たないユウとは違う。【神の器】の受け皿としても、十全な役割を果たしていた。

 実際八十億の人格と力を喰らっても微塵も揺らぐことなく、まったく彼女の怪物的な精神性を保持している。

 理性ある『神性体』を獲得し、常時維持すること。今やアルを除き、誰も知ることはないが。

『原初のユウ』――古の『女神』とほとんど同質の存在に、彼女はなりつつあった。

 確かに現行宇宙において、アルの下らない想定など遥かに超えて。真なる『女神』はここに再臨したのだ。

 だがまったく同じというわけではない。大きな違いは主に二つ。

 一つは単純な経験値。

 当時宇宙の大半と繋がりを得ていた『彼女』に対し、現状アイが喰らい得たものはリデルアース星一つ。

 ゆえに現時点では、まだまだ実力では遥かに及ばない。しかしそれも時間の問題である。

 もう一つは、人外の化け物であるための制約。

 アイには人の心がわからない。

 ゆえに【神の器】において、本来の保有者ユウが駆使していた『人の心を知り、繋がる力』の部分だけは掌握し切れなかった。

 これだけは未だユウの手に残されている。だから態々リルナを招き、取り逃がすような事態になったのだ。

 もっとも。繋がることはできずとも、奪うことは可能。

【侵食】によって、能力は実質的に補われている。

 今まで通り。すべて支配し、喰らえばよい。

 

 しかし……。

 

 アイは散々追い詰めても追い詰めても、まだ心折れず、逆らうことを止めない姉弟に舌を巻いていた。

 本当に本当にしぶとくて、諦めの悪い子たち。可愛くて、憎たらしいほどに。

 アイは強欲だから。『星海 ユウ』のすべてを奪い尽くすことを諦められない。

 欲望に妥協することは、アイではない。

 やはり姉弟揃えて、身も心もぜんぶわたしのものにしなければ。完全な勝利とは言えない。

 それにはやはり、ただ殺すのでは足りない。ただ肉体を喰らうのでも足りない。

 二度と味方するものが現れぬよう、何もかも徹底的に奪い尽くして。

 ひとりぼっちになったあなたを。誰もいなくなったあなたを。

 わたしが滅茶苦茶にして、融かしてあげる。

 

 ユウ。お前に残されたものは、残り滓のわずかな力だけ。

 それ以外のすべての能力は。

 完全記憶能力も、無限に等しいストレージも。

 フェバルとしての因果も、圧倒的な力も。

 最愛の姉のカラダも、散々この身を傷付けてきた魔力も。

 すべてわたしのものだ。

 情けないあなたに代わり、わたしこそが【運命】を超越する。

 創造主を超えた至高の『女神』となり、みんなアイになる。

 未来永劫、永遠なるアイを約束する。

 

 ――さあ、旅を始めましょう。

 

 アイは『手』をもって空間を裂き、自らこじ開けた星脈へ飛び込んでいく。

 彼女にとって、遥かな星々への道はそこにある。

 外なる拓かれた宇宙へ。ごちそうのいっぱい待つ数多の世界へ。

 

『女神』の肉体は、星脈と本質的に同等であるから。

 どんなフェバルにも成し得なかった反則を、いとも容易く可能とした。

 星脈へ入り込んだとしても、脆弱な彼らのようにただ流されることなく。

 大いなる流れの中を自在に泳ぎ、流れに逆らって動くことさえも勝手だった。

 つまり、フェバルの力を得ておきながら。彼らが持つ時間的・位置的制約をまったく無視することができた。

 人はそれを、『異常生命体』と呼ぶ。

 フェバルにして、星級生命体にして、異常生命体。

 アイはすべての超越者のカテゴリを兼ね備える、宇宙で唯一の。極めて強靭無比な存在となったのである。

 

 さて。リデルアースは、第79セクターに位置する。

 地球が存在するのは、第97セクター。宇宙の辺境にある。

 セクターは番号が若ければ若いほど、それが宇宙の内側にあることを意味する。

 星脈は基本的に宇宙の中心に向かって流れ行き、その逆へ向かうことはほぼない。

 

 したがって。わたしのすることは。

 

 彼女は嬉々として、星脈を「逆走」し始めた。

 ユウとともにしたユイの旅の記憶を隅々まで読み取り、ほくそ笑む。

 

 アイの当面の行動目的は、ただ一つ。

 

 地球。エラネル。ミシュラバム。イスキラ。エルンティア。

 名も無き世界。アッサベルト……は、もはやどうでもいいか。知る者は誰もいないから。

 そして、トレヴァーク。

 ラナソールはお前が消してしまったからね。ふふふ。かわいそうに。

 

 ユウのかつて旅した世界へ辿り着き、あらゆるものを侵し尽くす。

 

 アイは奪い取ったユイのカラダを抱きすくめ、期待に胸を膨らませる。

 

 アルシア。アマンダ。イプリール。メリッサ。そして、ユイ。

 

 すべての五体が完璧に調和する、『女神』のカラダももちろん素晴らしいけれど。

 その気になれば、いつでもなれるから。お楽しみは後にとっておくとしよう。

 あの子たちからすべてを奪う。そのときまでは。

 この『姉』の姿こそが、あの子を傷付けるには相応しい。

 

 みんな。待っていてね。

 今、そっちへ行くからね。

 

 

 ***

 

 

 第79セクターから、第97セクターへ。彼女の大移動が続く。

 アイは行く先々の星で、『響心声』と【侵食】を用いてあらゆる住民を一挙にしもべと化した。

 さらに【神の器】を併用し、気力や魔力をもらい受けることで、己の力をますます高めてゆく。

 ただしリデルアースのときとは違い、彼らを直接喰い荒らすことまではしなかった。

 しもべにはただ精神支配を施すだけで、その肉体を変質させることもなかった。

 リデルアース以外の者には、アイ因子が存在しないことが理由の一つと言える。

 彼女が一斉にリデルアースの者たちをおぞましく変え、取り込むことができたのは。やはり特殊要因が大きかったのだ。

 ただし、呑み込み喰らうことすらしなかったのは。

 果たして先を急ぐことを優先したのか、それとも――。

 

 当人の性質からすれば、少々不可解な動きを見せたアイであったが。

 やがて星々を侵し荒らす怪物が現れたことは、宇宙でも大きな噂になった。

 

 セクターの枠を超える被害に、ついにダイラー星系列が動き出す。

 ダイラー星系列は急ぎ、彼女の討伐隊を結成する。

 多数の超越者と兵器群からなる混成軍が、怪物アイに対して派遣された。

 

 アイが奪い取った姿と力の性質から、『星海 ユウ討伐部隊』と命名されたそれは。

【運命】によって誘導された、哀しき大いなる誤解であったが。

 

 ともかく彼らはアイに接触し――そしてあっさりと壊滅した。

 

 既に凡百の超越者など遥かに超え、圧倒的な力を誇る『女神』には。

 彼らの力と兵器が束になってかかろうとも、さしたる痛痒にもならなかった。

 むしろ洗脳され。しもべとして逆用され。

 彼女に宇宙の様々な情報をもたらした上で、宇宙の覇者たる彼らにも多大なる被害をもたらす。

 

 このときの被害感情が、後々までダイラー星系列とユウに遺恨を生むことになるのだが……それはまた別の話である。

 

 

 ***

 

 

 レンクスは独りユウを求めて、あてもなく星々を彷徨っていた。

 エーナによれば、もはやあの子の運命は見えない。

 ただひとりぼっちで、最悪の敵と戦っているのだという。

 助けに行きたくて仕方がなかった。だがどうしようもなかった。

 わからねえ。あのリデルアースとかいう「閉じた」星に向かう方法が、さっぱりわからねえんだ……。

 

 そうしてやるせなく燻っていた、ある日。

 最愛の子の後ろ姿が、いつまでも雪の降りしきる曇り空を見上げていた。

 レンクスの顔が一気に綻ぶ。

 

 なんだよ。驚かせやがって。

 無事じゃないか。ずっと心配してたんだぞ。

 いつもの変態(ノリ)で向かうタイミングを見計らいつつ、まずは真面目に。

 

「ユウ。どこで何してたんだよ。会いたかったぜ」

「へえ。わざわざ来てくれたの。レンクス」

「そりゃあよ。お前に会うためだったら、宇宙の果てでもどこでもよ」

 

 彼女はいつまでも振り返らず、まだ冬の空を見上げている。

 いつもと様子がおかしい。

 さすがの彼も、「ユウ」の違和感に気付いて。

 

「なあ……お前、どうしたんだ。なんかよ、雰囲気が……」

 

 振り返った彼女の瞳は、ギラギラと真っ赤に輝いていた。

 

「お前……誰だ」

 

 アイは奪い取った女の子の笑顔を溌剌と振り撒き、彼に絶対の忠誠を命じた。

 

「ねえレンクス。わたしのしもべになってくれる?」

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