フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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外「名も無き世界の静かな攻防」

 星脈の流れ方はフェバルそれぞれの【運命】を反映して、大筋として宇宙の外側から中心へ向かっていくにせよ、個々人では幾分異なる。

 ただユウとユイは【運命】を共にしており、固有の星脈の流れもまったく同じ。

『姉』に紐付けられた流れを逆らうように辿り、アイはユウが未来に至ると「約束された」世界から、過去の世界へと。

 リバースオーダーで次々と世界を渡っていく。

 もちろん行く星々では、【侵食】を用いた洗脳と【神の器】を用いた気力や魔力のお手軽回収を行いながら。

 特殊事情により直接至れないトレヴァークだけは一つ飛ばし、ついにアッサベルトにまでやってきたアイは。

 もう誰もユウの知り合いの生存していないことをつまらなく思いつつも、淡々と洗脳・回収をこなす。

 

 そして次にやってきたのは、名も無き世界。

 この世界に残存する人類は、たった二人だけであると『姉』は記憶しているが。

 いや、子供が増えていれば「三人以上」か。

 傍らにレンクスを伴い、アイは上空から人の気配を探る。

 緑針樹と名付けた木々がたくさん生える森に住んでいるはずだが。

 

 おかしい。どこにもいない……。

 

 しばし注意深く探ってみるも、一向にヒトの反応は見つからなかった。

『響心声』を使って、全世界へと呼びかけてみる。

 

『わたしはアイ わたしのもとに永遠の安らぎを与えよう さあ おいで』

 

 ……やはり、ヒトの反応がない。大型生物どもは直ちに従ったが。

 

 アイは思案する。

 猛獣や病気の蔓延る世界だ。どこぞで喰われたか、くたばりでもしたか。

 助けたつもりがかえって悲惨な死になる。それはそれで皮肉なものだし、結構なことだけど。

 

 どうする。まだ調べることはできるけれど。

 多くてもたった数人。些事にこだわっている時間がもったいないか。

 彼女は合理的に判断し、決断する。

 

『次へ行くとしましょう。レンクス』

『はい』

 

 アイとレンクスは空間をこじ開け、また星脈を泳いで渡っていく。

 

 

 ***

 

 

 リルナは《ディートレス》を発動し、名も無き世界の三人を全身で抱え込む。

 案の定ミズハは、名も無き世界という大自然の魔境のほとんど反対側に出てしまったため。ここはリルナが引き継いで三人の捜索に回った。

 そして、間一髪で間に合ったようだ。

 彼女の生みの親ルイスが開発した、生命エネルギーを遮断するバリアは。

 リルナ本人を護るのみならず、エスタ、アーシャ、そして小さなユウまでもの生命反応を完璧に覆い隠す。

 触れた者を一緒に包んでしまう仕様は欠陥かと昔は思っていたものだが、こうして人を護るための仕様であったと理解すれば、素晴らしいものだとリルナは改めて痛感する。

 上空のアイがこちらに気付きやしないかと、戦々恐々としていたが。

 ようやく奴が去り、バリアを解除した際には、リルナの息はすっかり上がっていた。

 

「はあ……はあ……」

 

 これが本物のユウであれば、もちろん誤魔化すことはできない。

 最愛の人には心を読む力があるのだから、すぐにでもわたしたちを見つけていただろう。

 だがあの化け物はどうか。

 奴には人の心がわからない。不要とさえ断じているに違いない。

 だからこそ、リルナがこうして白昼堂々と活動しても。直接視認されない限りは気付かれることがなかった。

 生命反応さえ覆い隠してしまえば。奴には「餌」のことしかわからない。

 最悪星を壊されるかと懸念したが、名も無き世界は巨大生物の宝庫。

 おやつをみすみす失うのはもったいないと、奴はそう判断したのだろう。

 とにかく助かった。

 

 しかし、なんて恐ろしい奴なのだ……。

 リルナは覚悟していてもなお、身体の震えが止まらなかった。

 それだけアイの放つ生命波動には他を隔絶した、凄まじいものがあった。

 いったいどれほどの星の力を得たものか――。

 

 そこで、エスタ、アーシャ、そして小さなユウがじっと自分を見上げていることに気付き。

 リルナは安心させるため、何とか笑顔を作ってみせた。

 

「もう大丈夫だ。脅威は去った」

 

 エスタと「ユウ」は何があったかわからず、まだきょとんとしているが。

 

「危なかった。びびった。助かった!」

 

 野生の勘の鋭いアーシャは、自身が最大の危機にあったことを正確に見抜いていた。

 溌剌とした笑顔で、リルナに感謝の飛びつきをかます。

 

「よくやった。えらい」

 

 群れのリーダーは、活躍した者を称えるのだ。

 

「お、おう」

 

 リルナも彼女の勢いに生返事をして、それから神妙なエスタに顔を向ける。

 彼には一応常識的な感覚があるので、すぐに尋ねてきた。

 

「あなたはどちら様ですか。また外の星から?」

「ああ。お前たちのよく知るユウの妻――まあちょうどお前たちのような関係だな」

「え! ユウの奥さんですか!?」

「ユウか!」

 

 夫婦は顔を見合わせ、感極まって今度はそっちの二人で抱き合っている。

 恩人の妻ともなれば。人を疑うという概念を知らない二人は、もう嬉々満面であった。

 先に出会ったのが悪意の塊アイでなくてよかったと、リルナは心から思う。

 

「そうか。ユウにもこんな素敵な人が」

「子供、つくったか?」

「いや……そういうのはいないんだ」

 

 リルナは鼻息荒いアーシャにやや気圧されながらも、とりあえず正直に答えた。

 彼女は機械人間であり、そもそもフェバルに子供は作れないらしいから、何をどう間違っても子供はできない。

 そういうことはまあ……男女でも女同士でも心ゆくまでしたが。

 

「子供できない、わかる。むずかしい」

「僕たちもよく『なかよし』してるんだけどね」

「ねー」

 

 もう何年にもなるのだが、最初の「ユウ」を授かってから中々次ができていない。

 実際は四人以上に増えると、近親配合によって子孫が繋がっていく可能性が高まるため、【運命】によって可能性を蓋されているのだが。

 あと、どうやらユウは行為のことを「なかよし」と教えたらしい。

 不意打ちのセンスにツボりかけ、別の意味で肩を震わせるリルナだったが。

 一方、小さなユウはずっと大人たちの話がわからなかった。自分を指差して首を傾げる。

 

「ユウのこと、どうしたの?」

「違うよユウ。お前のことじゃなくてね」

「世話になった、もう一人のユウ」

 

 父と母は優しい目をして、母はそっと我が子を引き寄せる。

 そしていつものようにわしゃわしゃと頭を撫でた。

 本当に温かく素敵な家族だなと、リルナも目を細める。

 

 ――おっとそうだった。本来の用件を伝えなくては。

 

 急場は凌いだが、また奴がこの世界に戻って来ないとも限らない。

 三人は《エーテルトライヴ》で宇宙船に避難させることを決める。

 

「お前たち。もう一度ユウに会いたいか」

「「もちろん!」」

「ユウも」

 

 超長距離ワープの起動準備をしながら。

 リルナは緊迫の面持ちで空の向こうを睨んだ。

 

「まずいな。次はもうエルンティアだぞ」

 

 想定していたよりも、ずっと手が回るのが早い。

 このままではすぐにでも地球へ到達し、最終防衛ラインまであと一歩と迫るだろう。

 こちらはまだ、宇宙船がトレヴァークに辿り着いてすらいないというのに……。

 

 そして彼女は、直ちに最悪の想像に至ってしまう。

 エルンティアは人工生命の星。

 わたしと同様、誰も『響心声』などには耳を貸さないだろう。

 なまじ【侵食】が通用しないとなれば、よほどひどいことをされはしまいか。

 今すぐ助けに行きたくなるが、奴の凄まじさは先刻も承知の通り。

 今のわたしでは、無駄死にになるだけだ。

 ヒロイックに身を捧げて捨て鉢になるわけにはいかない。それは今すべき戦いではないのだ。

 忍耐で生き延びると決意した初心を忘れず歯を食いしばり、故郷は仲間に托す決断をする。

『観測者』たちが、きっと何か良い手立てを打ってくれるはずだと。そう信じて。

 

 

 ***

 

 

 三人を宇宙船に送り届け、リルナは急ぎユウの過去と向き合うことを決断する。

 一度『痛み』との戦いを始めてしまえば、いつ戻って来られるかはわからない。

 それでも、今決断しなければ間に合わないと判断した。

 そこに眠る大きなユウを示し、彼女は一人部屋に籠る。

 

「「ユウ~~~!」」

 

 エスタとアーシャは、苦しみ眠り続けるユウを見るなり、いっぱいに涙ぐんで縋り付いた。

 

「僕たち、ずっとお礼を言いたかったのに。ひどい……」

「ユウ、たいへん。おきて!」

 

 アーシャなどは恥じらいを知らない野生の女なので、縋る貫頭衣の端から豊かなものがまろび出ている。

 そんなものを見てしまった童貞のミックは、がっつりどぎまぎし。

 つい自分のミックが暴れ出してしまったため、やや前屈みになっていた。

 

「くっ。コラテラルダメージか……!」

「お兄ちゃん……」

 

 いつまでもちらちらと視線を外さない兄に。

 隣では妹が、とても残念なものを見るような目で見ていた。

 

 小さなユウは両親が取り乱し、泣いて心配する様をどこか不思議な気持ちで見つめていた。

 

 この人が、ユウのなまえのもと。

 おとうさんとおかあさんの、いっぱい大好きな人。

 

 決して二度と出会うはずのないものが出会ってしまった。

 とても不思議な縁を、でもきっと素敵なものを。小さなユウはそれとなく直感していた。

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