フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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E1「ハッピーキッチンにて」

[惑星ミシュラバム ハッピーキッチン]

 

「あら」

「む」

 

 J.C.とヴィッターヴァイツの義姉弟は、この場所で奇妙な再会を果たした。

 かつてユウがウェイトレスとして笑顔を振りまいたその店だとは、お互いつゆ知らず。

 

「まさかあなたとこんなところで再会するとはね」

「格好付けて別れた手前、しまらんな」

「まあいいじゃないの。姉弟水入らずで愉しみましょう。ここのレストラン、美味しいって評判よ?」

「そうするか。オレも風の噂で聞き付けてな」

 

 アイビィ・ラスターという宇宙商人が、近年目覚ましく販路を伸ばし存在感を示しつつある。

 彼女は現在第97セクターの商材を中心にアンティーク貿易を行い、また『第97セクターのよさ』を紹介する伝道師にもなっていた。

 中でも人気の連載として『アイビィさんのグルメ来訪記』があり、ここ惑星ミシュラバムのハッピーキッチンは☆10/☆5という限界突破の評価を受けていた。

「何ならダイラー星系列の一等地に構えても全然通用する!」と豪語するほどの絶賛ぶりで。

 これがたちまち評判となり、星の外からもお忍びで訪れる者がちらほらと現れるまでになったのだとか。

 J.C.もヴィッターヴァイツも、星脈の流れが偶然こちらへ向いたこともあり。せっかくなので愉しみにしていた。

 彼も以前なら力ずくで作らせたのだろうが。今日はもちろん正規の料金を払って大人しく参加している。

 

 ウェイトレス(もちろんユウではない)が、優雅な所作かつ親しみやすい雰囲気を醸しながら、頃合いを見てコース料理を進めてくれる。

 

「お待たせしました。当店シェフ自慢のコース『ディアスペシャルEX』――こちら本日のメインディッシュになります」

 

 ミシュラバムで最高級とされる獣の肉を贅沢に使った肉料理である。

 厨房の方では、ジャックと名を叫ばれた男が「腕を上げたな」と誰かに褒められているのが丸聞こえだった。

 名を叫んだのは、店長のディアだろうか。

 

「む。美味い」

「ええ。ほっぺたが落ちそう」

 

 さすがの人生経験が為せる技なのか、ヴィッターヴァイツは粗暴そうな見た目に反して完璧なマナーでコース料理を愉しんでいる。

 J.C.は食事ももちろんそこそこに、何より向かいのヴィットが人間らしく美味しそうにしているのが何よりの「ごちそう」だった。

 雑談にも花を咲かせる。

 

「あれからどう? 調子は」

さっぱり(・・・・)だ。まったく【支配】が使えん」

「随分と嬉しそうに言うのね」

「まあな。むしろ心身の方は調子が良くてな」

 

【支配】を斬られたあの日から、彼は一つの重大な変化を感じていた。

 日々無意味だと断じつつも習慣で止められなかった鍛錬に再び意味が生じていた。

 生まれ持ったフェバルの制約を超えて、彼の実力は再び向上の兆しを見せ始めている。

 忌々しい能力を失い、代わりに武人としてさらに高みを目指せる。なんと心地の良いことか!

 そのことに気付いたとき、彼はまたユウに心の内で深く感謝したものだ。

 これはあいつの手によって、自身が『異常生命体』になったのではないかとヴィットは考えている。

 

 余談であるが、J.C.も実は今回(・・)がわずか2周目の新米フェバルである。

 今回(・・)の立場としては義姉だが、周回も含めて見ればヴィットの方が遥か先輩に当たるというやや込み入った関係だった。

 彼女は、「本来」死ぬはずだったところをかつて星海 ユナに救われた。

【運命】の機能が著しく不完全な現状、死して『光』漬けにならなかった事実上の『異常生命体』と言って差し支えない。

 ゆえにこそ、【生命帰還】はフェバルでありながら【運命】の枠を超えた数々の奇跡を起こすことができるのだ。

 奇しくも義姉弟は、星海母子の手によって各々が『異常生命体』へと回帰していた。

 

 のんびり食事と会話を愉しみ、大満足でレストランから出てきたところ。

 

「あーっ! いたいた! やっと見つけましたっ!」

 

 アニエスは茶色がかった赤髪を振りまき、息も絶え絶えになりながら駆けてくる。

 どうしてこんなに時間がかかってしまったのか。

『神の穴』が使える勢はいいのだが。本来広い宇宙の中からたった二人の人物を探し出すというのは、大変困難なミッションなのだ。

 ユウくんの旅の順序からすると「逆方向」だったために、かえって盲点になってしまっていたところはあった。

 J.C.さんもヴィッターヴァイツも、ユウとは異なるフェバルなのだから。当然可能性として考えて然るべきだったのに。

 この「見落とし」には何か、【運命】めいたものを感じないでもなかったが。

 

「赤髪の女ぁ!?」

 

 これまでのろくでもない仕打ちに、反射的に怒りが湧きそうになるヴィッターヴァイツだったが。

 よく考えれば、ユウの味方であるには違いなく。

 

「ぐぐ……貴様は星海 ユウの協力者だったな」

 

「おじさん」は理性的になり、過去のことはあえて水に流すことに決めた。

 一方、知り合いのJ.C.は気安いものである。

 

「アニエスじゃないの。今度はどうしたの」

「そ、それがですねっ! もう大変なんですよ!」

 

 彼女が血相を変えることと言えば、姉弟にとって心当たりは一つしかない。

 

「『星海 ユウ』が宇宙を荒らし回っているとかいう、あの馬鹿馬鹿しいゴシップのことか?」

「私たち、もちろんあんなもの信じてないわよ」

「それもあるんですけど! 急がないと間に合わなくなっちゃいます!」

 

 アニエスは先ほど、とてつもない危機を察知していた。

 人工生命の星がため、【侵食】が効かないとみたアイは――惑星エルンティアを一手に滅ぼしてしまったのだ。

 これはかの地滅ぶべしという【運命】の収束にも他ならないと、アニエスは推察していた。

 だが皆厳密にはヒトではない人工生命だからこそ、強力な時空魔法の「巻き戻し」と【生命帰還】の合わせ技をもってすればまだ「間に合う」。

 ちょうどラナソールにて、目の前の男に殺されかけたハルにそうしたようにである。

 それも奇跡が届くには、時間が極めて限られている。もはや一刻の猶予もないのだと。

 

「細かい事情は後で話しますから! 今から二人とも、一緒に転移しますねっ!」

「ええ。わかったわ」「うむ」

 

 アニエスは早速、イネア先生直伝の転移魔法を起動する。

 彼女の時空間魔法適正と魔改造によって、それは星から星への超長距離移動を可能としていた。

 ただし、リルナさんの《エーテルトライヴ》とは一長一短。

 彼女の魔法は「繋がりのない」世界にもどこへでも行けるが、あれほど遠くまでは行けない。

 星から星への転移魔法には、どうしたってそれなりの起動時間がかかる。

 もどかしい。早く。早くしないとあいつが。

 

 へえ――。

 

 ぞっとするおぞましい気配が、背後に突然現れて。

 

「何やらネズミが裏でちょろちょろしていると思えば」

「こいつら、『異常生命体』みたいですね」

 

 ――――

 

 アイとレンクスが、三人の前に現れた。

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