フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜 作:レスト / 三端由也
宇宙船がトレヴァークへ着陸する。
辺りは草原が広がっており、遥か向こうには立派な街並みが見える。
トリグラーブを望む地、トラフ大平原に着陸したようだ。
個室を出た二人を、仲間たちの温かい歓迎が出迎えた。
ミックは白衣をはためかせ、腕組みで座席に立っている。
メレットは隣で顔を綻ばせている。
「遅かったじゃないか。ユウよ」
「おかえり。二人とも」
と、メレットはそそっとリルナに近付いて、にこにこで耳打ちした。
「空気を読んで入らないようにしておきました」
「む。感謝する」
薄々お察しだったリルナは少し気恥ずかしくなったが、精一杯すまして言った。
ミックはサイエンティスト高笑いをかまし、ユウへ指を突き付ける。
「はーーーはっはっは! 見たか! 必ず我が研究は物にすると言っただろう! 約束は守ったぞ! 助手よ!」
そして高らかにサイエンティストポーズをキメるミックに、ユウもまいったなと肩をすくめて笑う。
確かによく言っていた。
【神の器】を解き明かし、いつか自分の助けになると素直に言うのは恥ずかしいから。
下らない
最後は
子供の君はずっと夢みたいなことを言って。大人になっても真剣に願い続け、本当に助けてくれたのだと。
「最高だよ。ミック」
「うむ。そうだろうそうだろう。もっと褒め称えちゃってプリーズ!」
「もう。すぐ調子に乗るんだから。お兄ちゃんは」
メレットも頬を膨らませながらも、まんざらでもない様子。
リルナから、彼は日夜渾身の努力を惜しまなかったとユウは聞かされており。
それを茶化して微塵も感じさせないところは、この男の矜持なのだ。
だから、ユウはあえて茶化すことなく。真っ直ぐ礼を述べた。
「ありがとう。君たちのおかげで、またこうしてここへ戻ってくることができた」
あのまま無残に殺されていれば。きっと二度と「挑む」ことはできなかっただろう。
真実の記憶を取り戻したユウには、今なら『光』がいかに自分を支配下に置こうと手ぐすね引いているかがわかる。
フェバルは死んでも蘇るが、この『奇跡』は一度死すれば失われてしまうと。彼は正しい理解をしていた。
「う。あんまり真っ直ぐ言われると照れるのだが」
つい形無しになったミックに、うんと頷いて。
すると、今度は自分たちの番だとばかり。うずうずしていたエスタとアーシャが飛び出した。
「「ユウ~!」」
「わっと」
倒すかの勢いで跳び付く二人を、両腕を広げて全身で受け止める。
「見違えた。大きくなったね。二人とも」
「よかったぁ! もう目覚めないかって、すごく心配したんだよ!」
「お礼、言えないかと。思った!」
声変わりしても。身体つきは立派になっても。ずっと子供みたいに純粋で。
変わらぬ温かな心に触れて、ユウは心から嬉しくなった。
少し距離を置いたところでは、黒髪の小さな男の子がおずおずと迷いがちに視線を向けている。
髪色や纏う雰囲気はエスタを、顔立ちや瞳はアーシャをどことなく彷彿とさせるものがあった。
ユウはすぐに察して。
「この子は、君たちの」
「うん。紹介するよ。僕たちの子の」
「ユウ」
「そうか。俺の名前を……」
「つけたの。優しい子、なるように」
その名に込められた願いも、まったく一緒で。
ふっと穏やかに微笑んだ大きなユウは歩み寄り、小さなユウに屈み込んで目線を合わせる。
「はじめまして。ユウくん」
「……ユウも、ユウなの?」
「そうだよ。君と同じユウだ」
抱っこして、胸に抱き留めて。優しく背中を撫でてやる。
そうされると、小さなユウは不思議と心安らいで。森が包み込むような温かさを感じた。
上から覗き込んで、大きなユウは言った。
「君はお父さんとお母さんのこと、好きかな」
「うん……。ユウね。だいすき」
「そっか。これからも家族仲良く。大切にしてあげてね」
自分はほんの小さなときしか、側にはいてあげられなかったから。
せめてこの子は親子共々、健やかにそして幸せに過ごして欲しいと大きなユウは願う。
小さなユウにも、この人が何か大切な想いを伝えようとしていることだけはわかった。
前から疑問に思っていたことを、小さなユウはぶつけてみた。
「おっきいユウは、どうしていなくなったの?」
「それはね。旅へ……すごく遠くに行かなくちゃいけなかったからだよ」
「あえないくらい?」
「会えないくらい」
「……さみしくなかった?」
「それは寂しかったさ。君のお父さんにもお母さんにも、もう会えないと思っていたからね」
見れば。父と母は健気な子を差し置いて、涙ぐんでいる。
「これからは、いっしょ?」
「ごめんね。そういうわけにはいかないんだ」
「また、いっちゃうの?」
「うん。俺はね。君たちがもう怖い目に遭わないように。そのために行くんだよ」
「そうなの?」
「そうとも」
「そっかぁ。ちょっとさみしいけど、がんばってね。おっきいユウ」
「わかった。ありがとう」
小さなユウと指を結び、健やかなる想いを受け取る。
野生児だったアーシャが今は母の顔をして、小さなユウを引き取った。
「大きいユウと。お話、できた?」
「うん。ちゃんとおはなしできたよ」
「よかったな。ユウ」
「うん!」
親子三人の仲睦まじい光景が目に映る。
大きなユウは。このかけがえのない幸せを護らなければならないと改めて心に誓った。
***
宇宙船を降りると、もう当然の顔をして。目の前に誰かがいた。
真っ赤に燃える髪を風に揺らし、真っ黒な台帳を小脇に抱え。
メイド服のようなものに身を包んだ彼女は、優雅に一礼をかまして。すらりと口上を並べ立てる。
「この度は『冒険者』御一行の皆様。はるばるトレヴァークへお越し頂き、誠にありがとうございます。当星の素晴らしいところと言えば、まず遠景に映りますは『世界の壁』グレート――」
いきなり現れて。まるで観光ガイドのような堂の入りっぷりに、周りはきょとんとしていたが。
彼女の人となりを知るユウだけは、思わず吹き出してしまった。
「何の冗談ですか。お姉さん」
「ふふふ。どんな難関クエストも。まずは受付を通してからってね♪」
宇宙船をいち早く見つけて嬉しくなり。
超人パワーでつい先走っちゃった受付のお姉さん――アカツキ アカネは。
下らない演技を止め、熱く握り拳を唸らせた。
「ようこそ。『最終防衛戦線』トレヴァークへ! みんな首を長くして待ってたぞ。このやろー!」