フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

686 / 710
3-315”ラナソールから来た旅人”

 ついにトレヴァーク襲撃が始まった。

 雑兵はほぼ受付のお姉さんが受け持ち、地に空にと縦横無尽に駆け回る。

 

《お姉さんパンチ》!

《お姉さんキック》!

 

 自慢のお姉さんシリーズが繰り出されるたびに、虹色のオーラが迸り。

 バッタバッタと宇宙のならず者たちが薙ぎ倒されていく様は、爽快ですらあった。

 もらったバフの具合を確かめて、彼女はにやりと笑う。

 

「全然萎える気がしないわ。無限に戦えそう!」

 

 彼女は出し惜しみせず、お姉さんシリーズを全力投入し続けることを決める。

 おかげ様で、ユウとリルナはそれぞれ強敵に集中することができた。

 

 リルナは、『星級生命体』レヴェハラーナとマッチアップする。

 洗脳時、よほど抵抗したのだろうか。

 今は物言うことすらできぬほど徹底的に理性を融かされた相手に、リルナは同情心を覚えないでもないが。

 彼女の本心が助けを求めていることを、高められた心の力は正確に見抜いていた。

 こうして望まぬ者まで残酷な行為に挑ませるとは。

 アイとはあまりにもひどい奴だと、リルナは改めて思う。

 

「心配するな。殺しはせん。この力で元に戻してやろう」

 

 水色の光刃(インクリア)を抜き、星を揺るがす激戦が幕を開ける。

 

 

 ***

 

 

 そして、ユウは。

 かつてまったく敵わなかった相手、フェバルのガゼインと対峙していた。

 アッサベルトの旅の初期に、ほんの気まぐれで殺されかけた相手である。

 しかもそれが遥かにパワーアップしているというのだから、実に始末が悪い。

 当時、全身の骨を砕かれ、片足まで捥がれて。内臓も深く傷付けられた。

 あのときアトリアが来てくれなければ、彼は間違いなく死んでいたことだろう。

 あれから五年ほどになる。

 フェバルの長命からすればほんの瞬きの間であるが、このわずかな期間にユウの得た経験には凄まじいものがあった。

 この男には、目の前で鉱山街を壊滅させられた苦い思い出がある。人もたくさん殺された。

 因縁の宿敵を前に、ユウは静かに睨みを強めていた。

 

「お前のことはあの日から忘れもしなかったよ。ガゼイン」

 

 左手に作り出した剣は、通常の気剣とはまるで異なる――深青の輝きに満ちていた。

 

「お前のことなどすぐに忘れていたのだがな。アイ様が思い出させてくれたよ」

 

 知らぬ輝きを前にしても、ガゼインは本来の気質からまったく敵を侮っていた。

 なぜなら、一片たりとも力強さを感じられないからだ。

 フェバルならば当然有しているはずの、世界を揺るがすほどの力の興りが。まるでどこにもない。

 むしろあのときよりもさらに弱々しく「衰えた」力を鼻で嗤い、ガゼインは嘲りとともに言った。

 

「そんなちっぽけなパワーで。たった一本の剣だけで、お前ごときに何ができると言うのだ」

「……そうだよな。お前たちには散々打ちのめされて、泣かされて、絶望させられてきた」

「無論だ。アイ様は何をこんな雑魚を気にかけているのか」

「でも、いつまでもそれじゃダメなんだ。もう負けるわけにはいかないから」

「下らん戯言を。勝てるわけがなかろう。あのときと同じだ――死ね」

 

 ガゼインは力任せのままに光の魔力波を放つ。

 大気を焦がし、地表に当たれば粉々に砕くだろう。

『世界の壁』も容易に貫く、掛け値なしに星撃級の一撃である。

 だがしかし、ガゼインはそこで思わず目を見張ることになるのだった。

 ユウが想いの力を込めて拳を一払いすると、いともあっさりと光線は打ち上げられて。

 何ら星の脅威となることなく、空の彼方へと消えていった。

 

 なんだ。何をした……?

 

 ガゼインはわけがわからず、ただ困惑する。

 だと言うのに。ユウから感じられる力は、未だ超越者の水準からほど遠い。ずっと人間並みに弱々しいままだからだ。

 そんな芸当ができるとは、到底信じられなかった。

 

「なぜだ。お前の一体どこにそんな力が……!? お前、何者なんだ……?」

 

 理屈に合わない。道理に合わない。現実が嘘を吐いているとしか思えない。

 仮に操られていなくとも、まったく同様の反応を示したことだろう。

 不思議に問うガゼインに、ユウは噛み締めるように語り出す。

 

「俺は地球で生まれ育ち、いくつもの世界で絆と愛と……運命の残酷さを知った」

 

 エラネルでは、かけがえのない青春と友情を。

 ミシュラバムでは、食べることと命の尊さを。

 イスキラでは、夢への情熱と人としての限界を。

 エルンティアでは、フェバルの力への意志と大切な愛を。

 名も無き世界では、そこにある小さな幸せを。

 アッサベルトでは、どんなに足掻いても友を救えなかった『絶望』を。

 ラナソールとトレヴァークでは、誰も悪くなくても時に残酷なことをしなければならない『覚悟』を。

 リデルアースでは、決して消えることのない『痛み』を。

 

「今はなきリデルアースに残された、たった一人の戦士」

 

 かつて地球では、本当はたくさんの人に愛されていたことを。

 そして、自分が本当は何者であるのかを。

 今こうして託された、数多の想いを。その輝きを。

 ほんの一瞬、寂しそうに目を細めて。

 ここに振るう者はいても、君たちはもうどこにもいないから。

『去り行く者』の想いは。『死に行く者』の『痛み』は。

 今を生きる者の切なる願いと、祈りとともに。

 誰かが引き継いで、前へと向かわなくてはならない。

 ただ翻弄され、流されるままの旅から。

 確固たる人の意志をもって、【運命】に立ち向かわなくてはならない。

 そうしなければ。

 この救われないことばかりの世界を、誰が変えられるのか。

 

 彼が剣から視線を離し、改めて敵を見据えたとき。

 もう迷いはなかった。

 

「そして――夢想の世界(ラナソール)から来た旅人だ」

「何をごちゃごちゃと意味のわからないことを」

 

 苛立つ目の前の男には答えず、ユウは思う。

 決して消えない『傷』と『痛み』を抱えて。俺はたぶん決定的に変わってしまった。

 もう純粋だったあの頃には二度と戻れない。

 それでも。だからこそ。今の自分にしかできないことがある。

 この手に何ができるのかを、もう知っている。

 だから。ユウは改めて決意する。

 

 俺はもう逃げない。

 過去からも。運命からも。いかに残酷な人の業からも。

 優しさだけでは、世界は救えないことも。

 甘さだけでは、時に何もかもを奪われることを。

 どんなに望んでも。すべてを救うことはできないことを。

 神ならざる人だから。どうしても選ばなくちゃいけないから。

 けれど。この優しさも甘さも、決して捨て去りはしない。

 それでもできることならば。

 この救われない世界が、少しでも優しくなるように。

 できれば俺は、優しくありたいんだ。

 だが必要なことならば。大切なものを守り抜くためならば。

 どんな残酷なことだってしよう。

 世界だって何だって、この手で斬ってみせる。

 

「お前たちが未来を覆う壁になるというのなら。【運命】が行く手を遮るのなら。この手で切り拓く。最後まで戦って戦って、戦い抜いてやる」

「甘い。甘いんだよ。そんな覚悟一つでどうにかなるような世界に、俺たちは生きてないだろう!?」

「そうだな」

 

 ――確かにこれまでは、そうだった。

 

 今回(・・)の彼一人だけではない。

 きっとこれまでの報われなかった数多の世界線が。『黒の旅人』の執念が。

 この()を願って、たった一度の奇跡を起こした。

『彼』に続く多くの者たちが紡いできた想いは『道』となり、まだこの先へと続いている。

 過去から託されたものを今から未来へ届ける者は――ここにいる。

 

「確かに俺は。宇宙を覆う巨大な【運命】に比べれば、ちっぽけな一つの剣でしかないのかもしれない」

 

 今や【神の器】の力をほとんど奪われて。

 当たり前のようにあった無限ストレージも、技の吸収能力も。ほとんど何もかもが使えない。

 そんな俺にまだ残されたものは。(ここ)だけが。

 いっそう高まる想いを胸に。青剣の切っ先を鋭く向けて。

 

 ユウは目の前の男を通じて、これから挑む世界の大きさに想いを馳せ。

 

【運命】に。その傀儡たちに。

 

 正面から、宣戦布告する。

 

「だがこのたった一本の剣が――お前たちを貫く」

 

 ユウの身に纏う気の質が、明らかに変わっていく。

 白色だったオーラは、次第に青みがかっていき。間もなくはっきりと青白い光を湛える。

 日本人らしい茶色だった瞳は、すうっと溶けるように綺麗な海色に変じていき。

 フェバル特有の星瞳孔が美しい幾何学模様を描いて、淡く白い輝きを放つ。

 欠片残っていたフェバルとしての力の恩恵もすべて投げ捨てて。むしろ等身大の人間へと、見かけの強さはさらに落ちていく。

 

 だと言うのに。測り取れる事実からすれば、自分より遥かに弱いはずなのに。

 ガゼインは、今やはっきりと彼を脅威に感じていた。畏れすらあった。

 わからない。何をそんなに怖がっているのか。

 なぜ俺は震えている。

 だがそこには確かに、まったく測り知れない何かがあるとしか思えなかった。

 

 個の想いで灯す《マインドバースト》をまるで違う次元へ昇華させたその技は。

 TS(トランスセクシャル)能力の見かけに隠された神髄を。

 この世の真実を見極め、魂というべきもの――本源に触れる力。

 TS(トランスソウル)能力者としての、真の力を引き出す。

 

「覚悟しろ。今こそ。この心に、魂に賭けて! 俺はフェバル(お前)たちを超えていく!」

 

 その技の名は――《トランスソウルバースト》

 

 もはや一時のものに限らない『奇跡の力』が。束ねた想いが集約され、現実にまで届くとき。

 TS能力者ユウの最初にして、鮮烈なる一歩が幕を開ける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。