フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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1-73"反攻の惑星エラネル"

[惑星エラネル アウナキア霊峰 ふもと]

 

 ラシール大平原は身を隠すには絶望的に拓けており、オーリル大森林は適しているが最も危険なサークリスを挟んで反対側にある。

 ミリアとエイミーが潜伏場所に選んだのは、ナボックからサークリスと反対側に進んだアウナキア霊峰のふもとである。

 カルラは『仮面の集団』時代の知識と経験を活かし、定点転移技術をもって二人と合流することに成功する。

《マインドリンカー》を介して繋がったからこそ互いの位置を知ることができ、スムーズに会うことができた。

 ちなみに定点転移技術とは、その名の通り定められた特定の地点同士を結ぶものである。具体的には転移装置間を結ぶ。

 当時の『仮面の集団』は、これを網の目のように張り巡らせて高い機動力を確保していた。

 任意の地点にマーキングできる転移魔法ほど使い勝手はよくないが、長命種ネスラでなくてもロスト・マジックに精通している者ならば扱うことができる。

 ネスラでもあった在りし日のマスター・メギルは、種族固有魔法である転移魔法の価値をよく理解していた。

 カルラにとっては初恋の人を殺したクソ野郎ではあったが、皮肉にも彼の遺した技術が役立ったと言える。

 無事合流できた三人は、ユウの「助けに来る」という言葉を信じて逞しく隠れ潜んでいた。

 サークリス魔法学校およびその教育を範にしたアリス魔法教室は、サバイバル訓練が必修である。

 突然の山中行となった三人であるが、雨風を凌ぎ食料を確保する技術は十分に有していた。

 だが状況は余談を許さない。

 

 炎龍、雷龍、風龍、土龍、水龍、光龍。

 現存する六色の惑星最強生物が空を旋回し、彼女らを血眼で探している。

 アイに命じられたレンクスの指揮の下、「言うことを聞かない」彼女らの発見と抹殺を目論んでいるのだ。

 さらには人海戦術による星中の捜索が続いていた。探し出そうとする者の中には、アリスたちも当然に含まれている。

 既にニアミスも何度かあり、一度でも見つかればしもべの全員に位置情報を共有されてしまうため、極限の緊張を強いられていた。

 それでも必死にやり過ごしていたのだが、とうとう見つかってしまう。

 

「お前たち。そんなところにいたのか」

 

 イネアが真っ白に輝く気剣を構えて、三人を射殺すばかりの眼で睨んでいた。

 

「イネアさん……!」

「くっ! ついに気付かれた!」

「はわわ!」

 

 エイミーはイネアの放つ鋭い殺気に恐怖し、せめて二人の邪魔にならないようにと縋り付きたい気持ちを懸命に堪えている。

 ミリアは戦慄しつつ、嫌な予想が当たってしまったと嘆いていた。

 この方には優れた感知能力がある。一番に見つかるなら彼女かもしれないと警戒していたのだ。

 気と魔法の違いがあるものの、イネアは当代最高の魔法使いアーガスと双璧を成す世界最強の戦士である。

 こちらにも《マインドリンカー》によるバフがあると言えど、アイが洗脳強化を重ねている以上、相対的な力の差はまったく埋まっていない。

 ミリアもカルラも、そしてエイミーも。まるで勝てるビジョンは見えなかった。

 

「アイ様は殺せとの仰せだ。死ぬがいい」

 

 彼女の口から聞きたくもない台詞が飛び出し、《バースト》全開で容赦なく斬りかかってくる。

 近接戦闘のスペシャリストに、魔法使いでは分が悪い。

 

 迎え撃とうとするよりも圧倒的に早く。

 万事休すかと思われた、そのとき。

 

 三人の目の前で、眩い光が弾ける。

 何かと何かの激しくぶつかる音がする。

 

 気付けば、そこには――。

 

 彼は極めて異質な、青白いオーラの衣に包まれていた。

 左手には目の覚めるような、青い輝きの剣が握られていて。

 イネアの斬撃を真正面から受け止め、鍔迫り合いに持ち込んでいた。

 

 ミリアとカルラは、懐かしい後ろ姿に胸が熱くなった。

 

 ――ユウ。

 

 さすがに振り返る余裕はないか、剛剣を受け止めながら彼は言う。

 

「よかった。間に合った」

 

 イネアは、返ってくる手応えに信じがたいものがあった。

《バースト》をかけているのに。力では圧倒しているのに、押し込まれようとしているだと。

 分の悪い鍔迫り合いから一度身を引き、構え直して悪態を吐く。

 

「ユウ。この不孝者めが」

「……こんな形で戦いたくはなかったです」

「アイ様のため。容赦はせんぞ!」

 

 だから。

 

 再び鬼のごとく斬りかかるイネアに、ユウは想いの剣をもって応えた。

 

「――今度はお互いずるなしにしましょう。先生」

 

 その場にいた誰もが、目を疑った。

 

 アイに歪められた、イネア渾身の一撃を。

 ユウは、易々と完全に見切り――。

 

 すれ違いざま、青剣による一太刀は――彼女の胴を深々と斬り抜いていた。

 

 しかし彼女の命を傷付けることはなく、彼女を支配していたものだけを根元から断つ。

 まさに電光石火の一撃。

 異世界の強者たちと、過酷な【運命】と戦い続けてきた旅の十余年は。とてつもなく重く。

 かくもこの弟子を目覚ましく成長させ、気付けば今や世界屈指の強者すら圧倒していたのだ。

 

 まるで次元が違う。スケールが違う。

 かつて肩を並べて戦った友の、あまりにも凄まじい強さに。恐ろしいまでの変わりように。

 この人はついに、ウィルやレンクスの――フェバルの領域に届いてしまったのだと。

 そこまでの何があったのかと。

 ミリアもカルラも啞然として、すぐには言葉が出て来なかった。

 何も過去を知らないエイミーですら、並々ならぬオーラに息を吞むばかり。

 

 気を失い、崩れ落ちる彼女を抱き留めたユウは。

 やっと懐かしい顔で眠る師を見つめて、物悲しげな表情を見せた。

 

 片や想いの力を重ね、片や無理に強化され戦わされて。これがお互いに実力だとは思っていない。

 先生とは、借り物なしの真剣稽古がしたかった。

 きっと今なら、あの日の期待に応えられる。立派に成長したところを見せられると思うから。

 だから、また今度にしましょう。先生。

 

 そして、遠く彼方に去ってしまったジルフさんに胸の内で報告する。

「約束は果たしました。無事助け出しましたよ」と。

 

 ミリアには、黙祷を捧げる彼がやけに神々しく、そして儚げに映った。

 まるでもう、とっくに人ではなくなってしまった何かのように。

 秘めたる意志はどこまでも力強いのに。どこか寂しそうで。

 壮絶な『覚悟』と『痛み』を抱えながら、祈るように剣を振るっていた。

 並大抵のことでは到達できない、究極の戦士の領域に彼はいた。

 

 あなた、どこまで……。

 

 まだなんて声をかけたらいいか迷っていると、ユウがゆっくりと振り返る。

 

「ただいま。遅くなってごめん」

 

 ああ。そっか――。

 でも、確かに変わらないものもあって。

 くれたものは、あのときの優しい笑顔のままで。

 この人は。私たちのような人を守るために、人を超えようとしているのだ。

 誰よりも強く。手に届くだけのものを掴めるように。

 あの日の純粋で、真っ直ぐな決意のままに。一心で歩み続けたに違いなかった。

 

「見違えた。綺麗になったね。ミリア」

 

 ようやく安心したミリアは、胸いっぱいに潤む瞳を湛えて言った。

 

「おかえりなさい。ユウ」

 

 

 ***

 

 

 遡ること少し。

 ルナトープからはラスラ、ロレンツ、アスティ。ディーレバッツからはステアゴル、ジード、ブリンダ。

 バックアップ要員としてアニエスとJ.C,、遊撃担当の「おじさん」ことヴィッターヴァイツ。

 人工生命の星エルンティアから、名だたる戦士たちが惑星エラネルにやってきた。

【運命】の秩序は乱れ。「本来」ならば、絶対にあり得ないことが起きていた。

 なおビームライフルを失ったプラトーは、みんなの総意でお役御免である。

 

 アスティが「弾の込めていない」ライフル銃をちゃっと構えて言った。

 想いの弾が武器の特別仕様である。

 

「ここがユウの青春の故郷ですか。変わった空の色してるんですね♪」

「がっはっは! ユウ()のため、存分に暴れてくれるわ!」

「馬鹿力で潰すなよ。ステアゴル。元はただの民間人なのだからな」

「さすがにわかってらあ!」

「ふふふ。大活躍間違いなし。わたくしのガスが火を噴きましてよ」

 

 非殺傷兵器を持ち味とするブリンダは、ここぞとやる気に燃えている。

 

「妙な流れで帰って来ちゃいました。ご先祖様がいっぱい……」

 

 アニエスは、当人にしかわからないことをぶつぶつと言っている。

 

「で、これからどうする。隊長」

 

 久々に連合隊の総指揮を取ることになったリルナは、副隊長のラスラに問われて声を張る。

 

「皆、いいか。わたしたちの目的は露払いだ。ユウの友達が望む戦いができるように。そしてユウがレンクスと一対一で戦えるように」

 

 リルナもかのフェバルの反則じみた強さはよく知っている。

 今までの敵とは一味も二味も違うだけに、ユウ以外では太刀打ちできないだろうとも感じていた。

 せめて愛する者のため、余計な脅威は排除する。

 

「存分に暴れろ。ただし誰も殺すな。アイの支配から解放してやれ」

「「応!」」

 

 総員散開し、星全体をまたにかけて各々の戦いが始まった。

 空を見上げ、我が物顔で飛び回る彼らを目にしたリルナは。そこに自分の戦いを見つける。

 

「話に聞く伝説の龍とやら、一度手合わせしてみたかったのだよな」

 

 エラネルやトレヴァークでユウが散々苦労したと身振り手振りいっぱいで語ってくれたので、強く印象には残っていた。

 殊にこの星では偉大なる存在として敬われており、龍と伍することが超一流の戦士たる証であるともいう。

 そこまで聞けば、嫁としてもぜひどんなものか。同じ苦労と体験を味わってみたく。

 エルンティア最強のナトゥラは、エラネル最強の生物たちに臨み。

 

まとめて(・・・・)いくぞ。がっかりさせてくれるなよ?」

 

 何を勘違いしたか、当然同時に戦うものだと思い。

 リルナは不敵な笑みを浮かべ、六色の龍に意気揚々と挑みかかっていった。

 後でユウから確実に「やっぱ君ってとんでもないよね……」とドン引かれるに違いない案件だった。

 

 

 ***

 

 

 ユウは手短に状況を説明すると、《マインドリンカー》をさらに強く繋ぎ直した。

 この技は、直接手で触れた方がより深くかかるのだ。

 

「積もる話は落ち着いた後にしよう。アリスたちやレンクスがもう気付いて、迫ってきている」

「ついにこのときが来てしまいましたか……」

「いざ戦いに行かん。エデルの決戦を思い出すわね」

「むむむ。世界の行く末が私たちの手にかかってるってことですね!」

 

 三者三様、気合いを入れ直したところで。

 ユウはミリアの目を真剣に見つめて言った。

 

「ミリア。アリスのことは任せてもいいかな」

 

 こんなに強くなっても、ちゃんと人を頼ることを忘れない。

 ミリアは嬉しくなり、胸を張って頷いた。

 

「わかりました。親友として、ばっちり目を覚ましてやりますよ」

「うん。頼んだよ」

「アーガスのヤツは任せてちょうだい。性根叩き直してやるわ」

「お願いします。俺は――レンクスを」

 

 一瞬、空に向けて鋭い視線を飛ばして。激しい戦いになることを覚悟して。

 それから、残る一人の彼女に優しい瞳を向けた。

 

「エイミーだよね」

「はい!」

 

 エイミーは、『知られざる英雄』からの呼びかけに背筋が伸びる思いだった。

 隣のミリアさんと同じ年月を生きてきたはずなのに、見た目はあどけないままの男の子が不思議に映っていた。

 しかし確かにその佇まいには、重ねた人生経験を感じさせる。それも結構やばめの雰囲気な。

 何だか聞いていた話と、ちょっと違いませんか……?

 ただ彼女としては、困惑よりも純粋に伝説の人に会えた嬉しさが勝った。

 元に戻ったアリス先生とぜひ一緒にお話ししてみたいと、そう強く思う。

 

 そんな健気な想いを受け取りつつ、ユウは彼女にお願いした。

 

「君はイネア先生を介抱しつつ、遠隔で二人を手助けしてほしいんだ。できるかい」

「もちろんです! あ、でも。私は戦う魔法使いとしてはちょっと弱くて。足手纏いになりませんかね」

「大丈夫。君の思い描いていた魔法が、今なら使える(・・・)はずだ」

 

 不思議な瞳。自分の心を見透かされたように感じたエイミーは、なぜそれを知っているのかとは問わなかった。

 術式魔法。彼女自身の「才能不足」によって置き去りにされていた数々の奇跡が、今なら使えるかもしれない。

 

「じゃあみんな、行ってくる。また無事で会おう」

 

 ユウは再び青白のオーラを纏い、空の彼方へ猛スピードで飛んでいった。

 

「……あの子、見た目だけはあのときのままだけど。随分とまあ男前になったわね」

「ええ。本当に」

 

 しみじみと呟くカルラに対し、込み上げる温かく切ない気持ちとともにミリアは頷いた。

 より深く「繋がった」とき、ユウを想う同士たちの存在にもとうとう気付いてしまったのだ。

 しかし驚きはなく、薄々予感していたことがそのまま来てしまったという納得だけがあった。

 

 ですよねー。あんないい人、誰も彼もがそのままで放っておくはずがないですから。

 見た目のなよなよして頼りなさそうな雰囲気から、一目で好きになる人は多くはないとしても。

 深く関われば、本質を知って心から好きになる人は必ずいる。私のように。

 むしろ寂しがりで甘えん坊のあの人に、永遠を誓う相手ができてよかったと心から思いますよ。

 

 ……でも、もしかしたら。私の方が早ければ。

 

 ――いいえ。あのときはそれが私たちにとっての選択だったのですよね。

 

 お互いにかまけている余裕がなかった。愛よりも友情を重んじた。

 あと一押しの勇気がなかった。

 そんな青春の甘酸っぱさを、ほろ苦く噛み締めながら。

 誰よりも早くあの人の魅力に気付いた。心奪われてしまった。

 人を見る目があり過ぎて、永遠に婚期を逃してしまったと苦笑いしながら。

 

 どうしてくれるんですか。

 あなたのせいですよ。まったく。

 

 それでもミリアは、もう二度と会えないと思っていた大好きな人にまた会えたことが。

 人前も憚らず泣いてしまうほど、本当に嬉しかったのだ。

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