フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜   作:レストB

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1-77"いってきます”

 エメラルドの空が夕暮れに霞む頃。

 サークリスを始めとしたセントリア共和国一帯は、アイの支配から解放されつつあった。

 特にリルナなどはすべての龍を一度に相手して、見事に勝利を収めていた。

 レンクスと長時間に渡る死闘を繰り広げたユウは、ほとんど限界が近かったものの。

 最後の力を振り絞って、一通り残った者たちを正気に戻す。

 未だ星全体を解放したわけではないが、当面の安全を確保することはできた。

 

 解放した仲間たちにも《マインドリンカー》で心を繋ぐ。

 ここでユウとアニエスは示し合わせて、イネア先生にはジルフさんのことを伝えないようにした。

 ただでさえ、友や愛弟子を傷付けようとして内心深く傷を負っているのに。さらに抉ることはどうしてもできなかった。

 それは嘘が苦手なユウが最後まで守り通した、たった一つの優しい嘘だった。

 それがまたきっと、いつかくる未来の何も知らないアニエスのためにも間違いなかった。

 

 サークリスに皆集まり、再建されたオズバイン邸にてささやかな晩餐会が行われた。

 アニエスは、仲睦まじいご先祖様たちをにまにまと微笑ましく見つめている。

 ユウも疲労困憊だったが、とにかく無事青春の友達を取り戻せたことが嬉しかった。

 もちろん嫁の紹介も欠かさない。

 

「みんな。紹介するよ」

「リルナだ。うちのユウが大変世話になったと聞いている」

 

 彼女が真摯に礼を述べると、一同から喝采が起こった。

 

「む。綺麗な方、ですね」

「まったくユウも隅に置けないわね~。このこの」

 

 ミリアが複雑な表情を浮かべ、アリスは笑ってユウの頬をつついた。

 

「お前、随分と尻に敷かれそうな嫁を連れて来たな」

 

 イネアが面白がって朗らかに笑う。

 どことなく気の強い自分に似ているところに、まさかなと思うところは少しだけあったが。

 

「いやあ、ほんとそうなんですよ」

 

 実際色んな意味で押されっ放しのユウが同意すると、リルナが「こいつめ」と肘で彼を小突く。

 

「大変だぞ。こいつはわたしが引っ張ってやらんと、すぐめそめそするからな」

「「確かに!」」

 

 一同納得し大笑いする中、ユウは照れ臭く苦笑いしていた。

 

「おめでとう。良い人見つけたのね。あなたも」

「カルラ先輩も。おめでとうございます」

「ええ。今とっても幸せよ!」

 

 新婚アツアツのハグを見せ付けて、アーガスはすっかりたじたじだった。

 

「それよりお前、どれほど腕上げたんだろうな」

 

 彼が明らか照れ隠しで言ったので、ユウもしれっと当時のノリで返す。

 

「ぼちぼちかな」

「謙遜も大概にしろ。しばらく見ないうちに、とんでもない奴になりやがって」

「まあ色々あったからね」

 

 そこから男二人、あれやこれやと話し込む。

 アーガスはあのときの約束をまったく忘れておらず、忙しい中でも精力的な研究を欠かしていなかった。

 近頃は宇宙空間の存在と性質を示した論文を発表したという。

 

「こうして会えたのは嬉しいが、ずるはなしだ。いつか正々堂々と宇宙の扉をこじ開け、お前に会いに行ってやるぜ」

「うん。いつまでも待ってるよ」

 

 ユウは胸が熱くなって頷いた。

 

「私も! 私も全力で協力しますからね!」

 

 エイミーは今日深めた自信を、いつか必ず誰でも使える形にすると胸に誓った。

 アーガスが末は頼もしいなと穏やかに笑う。

 

「ふっ。手加減はしねえ。きっちりついて来いよ」

「はい!」

「いいわねえ。青春思い出しちゃうわ」

 

 アリスは愛する生徒を見つめ、にこにこしている。

 その間、リルナはミリアと視線を交わしていた。

 土俵にすら上がらなかったミリアに今さら対抗心はないが、それでも自分の気持ちに嘘は吐けない。

 

「当然、お前もか」

「はい。お話を伺ってもよろしいでしょうか」

「構わないぞ」

 

 恋バナはミリアを加えてついに四人フルメンバーとなり、途中でアリスたち他の女子勢も横入りして大盛況となった。

 特にユウの懐かしい思い出をたっぷり知っているエラネル勢により、たくさんの恥ずかしいエピソードや可愛いエピソードが共有されたのだった。

 しまいには未練を片付けてこいと、みんなで温かくミリアを送り出して。

 ユウとミリアは、二人でたっぷり話し込んだ。

 ほろ苦い青春の思い出に、気持ちの整理を付けるために。

 ちなみにどんなやり取りがあったのかは、二人の胸の内だけの秘密である。

 

 

 ***

 

 

 翌日。

 話し合いの結果、ユウは結局単独で地球へ向かうことになった。

 狡猾なアイが人質作戦を取ってくることを、誰しもがありありと浮かべてしまったからである。

『女神』アイの実力があまりに隔絶しており、対抗できるとすればやはりユウしかいないことも大きかった。

 

「俺ですら足手纏いなんだから、恐ろしいよな。代わりに能力はばっちりかけといたからよ。頼んだぜ」

 

 ユウはもちろんレンクスからも想いの力を受け取っていた。

 真の力を取り戻した【反逆】が、さらに強力なバフとして上乗せでかけられている。

 

「わかった。レンクスの分まで頑張るよ」

「おう。しっかりユイを救ってこい!」

「ああ」

 

 いよいよ送り出す段になって、一人一人と言葉をかわしていき。

 

「あたしたちは、直接は行けないけれど。でもここでみんなで祈っているわ」

 

 アリスとは、昨日存分にできなかった分のハグを。

 十数年ぶりの親友との変わらぬ友情をしかと確かめて。

 

「忘れないでね。あなたはひとりじゃないってこと」

「うん。ありがとう。アリス」

 

 懐かしい匂いと感触に包まれながら、あの別れの日のことをユウは思い出していた。

 星屑の願いは、言わずにいれば叶うかもしれないとされている。

 もう一度君たちに会いたいという、決して叶わないはずの願いは。

 随分大変なことにはなってしまったけれど、また本当に叶ってしまった。

 二度も叶った。本当にすごい奇跡だと思う。

 でも、もう願うだけのことはしない。他力本願な星頼みのままで終わることはしない。

 今度は必ず自分の意志でここへ帰ってくると、ユウは固く決意して。

 

「また星屑の夜に。次は『私』を取り返して来るから」

「ええ。待ってる」

 

 離れ際、互いにしっかりと約束のシミングを結んで。

 頃合いを見て、アニエスが告げる。

 

「ウィルお兄さんが空の上で準備しています。送りますね」

「頼む」

 

 最後に全員へ振り返って。

 

「じゃあみんな。いってきます」

「「いってらっしゃい」」

 

 エラネルとエルンティアの仲間たちに温かく送り出され、ユウは最後の戦いのため旅立っていった。

 

 

 ***

 

 

[魔法大国エデル 跡地]

 

 ユウがレンクスと戦闘に入ってくれたおかげで監視の目が外れたため、ウィルはようやく本格的に作業を再開することができた。

 ついに今しがた、惑星エラネルと地球を結ぶ道は整った。

 あとはこの転移装置に乗るだけで、あいつを生まれ故郷に送り届けることができる。

 

「ウィル」

 

 噂をすれば現れたと、ウィルは顔をしかめた。

 やはり面と向かえば、どうしたってむかつくところはあるのだ。

 

「なんだ。少しはマシな面をするようになったじゃないか」

 

 ユウは彼に面と向かうと、これまでの分を込めて深々と頭を下げた。

 

「今まで、大切なことを忘れてしまって。全部君に押し付けて。本当にごめん」

「今さら謝るな。鬱陶しい」

 

 長年積み重なった恨みつらみというものは、ちょっとやそっとのことではどうしようもない。

 これからの態度と行動で示していくしかない。それはどちらもわかっていた。

 だからせめてユウは申し出る。本当は己が果たすべきだった責務を。

 今や力の大半を失い、もう二度と務めることができない彼に代わって。

 

「君が受け継いできた『破壊者』は、これからは俺たちが背負うよ」

「どうだかな。甘っちょろいお前にできるのか」

 

 言いながら、こいつはもうやるだろうとウィルは確信していた。

 憎たらしいほどに『覚悟』の据わった目をしていやがる。

 最初からそうだったら、僕もこんな苦労はせずに済んだだろうに。

 

「やるよ。そのときが来れば。どんなことでも」

「ならば、いかに険しい道でもやり通してみせろ。もう逃げるなよ」

「わかった」

「……まあ、その力があれば。今までほどひどいことにはならないだろうがな」

「そうだといいな……」

 

 ユウの決意のほどを目の当たりにして。

 やっと少しだけ溜飲を下げられたウィルは、ぶっきらぼうに手を差し出した。

 あまりに意外な行動に、ユウは思わず目が点になる。

 

「それって」

「一度だけだ。お前に手を貸すのは、これきりで勘弁してもらいたいな」

 

《マインドリンカー》が、長きに渡りいがみ合っていた二人の間でようやく結ばれる。

 トラウマそのものと繋がって、ユウの心はついに欠けるところがなくなった。

 ウィルはまた、素っ気なくユウの肩を叩いて言った。

 

「大好きな『姉』を助けに行くんだろう。さっさと行って決めてこい」

「――ああ。行ってくる!」

 

 転移装置の台座に乗り、ユウは彼に温かな胸の内を伝えた。

 最初に出会ったとき、決して言うはずがないと思っていたその言葉を。

 

「ありがとう。ウィル」

「……ふん」

 

 決意に満ちた彼の姿が、光に包まれてゆっくりと消えていく。

 そうして、完全に見えなくなったのを見届けて。

 どっと肩の荷が下りたか、その場に崩れるように腰を下ろして。

 ウィルは長い長い溜息を吐いた。

 

 ――やるだけのことはやった。後はもう託すしかない。

 

 超えてみろ。【運命】の壁を。

 

 大仕事をやり遂げた彼の隣に、そそっと人懐こい気配が近付いてきた。

 誰かなど見るまでもない。

 

「本当にお疲れ様でした。ウィルお兄さん」

「まったく。どこまでも手のかかる『弟』だ」

 

 二人は、その星のある方角を熱い眼差しで見つめる。

 想像を絶する苦労を重ねてきた者同士。それぞれ何を想うだろうか。

 

 そして、舞台は決戦の地――地球へ。

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