「わたしに本気で挑むつもりなの。愚かね」
「人様の娘を奪って、ユナに似た面だけしやがって。むかつくんだよ!」
「これはわたしのものになったの。だからもうわたしなのよ」
たった一丁の銃で挑みかかるセカンドラプターの攻撃を、軽く捌きつつ。
未だ内側で必死に抵抗し続けるユイを苦々しく思いながら、アイはあくまで強がった。
アイは、まだ完璧にはユイと融合できていなかった。
カラダは完全に融け合っても、まだ心とやらが融け合っていないから。
ユイの記憶と感情は読めても、それ以外のことはわからない。
すっかりひとつになってしまえば。
「大好き」な『弟』のユウと甘美に、滅茶苦茶に犯して愛し合いたかったのに。
きっと相性最高の姉弟なら、この世の何よりも極上の体験ができたでしょうに。
そうして、みんな奪われて。絶望したユウをねっとりと受け入れて、ひとつにしてあげたかったのに。
『弟』と「くっつく」のが大好きなあなた。愛しているのでしょう。恋人に嫉妬もするのでしょう。
もっと素直になればいいものを。「家族愛」なんてものが邪魔をする。
だから、口惜しい。女の子になれば可愛いのにと、精々メスにして痛めつけることしかできなかった。
「何浸ってんだ。舐めてんじゃねーぞ」
口だけは威勢良く煽りながら、セカンドラプターはクレバーな立ち回りを続けていた。
とにかく命を大事に。一分一秒でも長く引き付けるために。
アイは面倒臭そうにあしらい、触手や『封函手』による念動力を繰り出して彼女を攻撃する。
セカンドラプターは度々瞬間的に加速し、アイの超能力などは不思議と一切を退けていた。
身のこなしだけは中々のものだと感心するが、そもそも根本がお話にならない。
「あなたの攻撃が眠たくってね。こんな茶番、いつまで続けるの?」
「うるせえ。こっちは一生懸命やってんだよ!」
戦士が決死の想いを込めて撃ち出すものは『凍れる時の弾丸』。
確実に対象へ命中するそれも、到達するより早く弾いてさえしまえばまったくの無力だった。
いかに地球と言えど、加速した銃弾ごとき見切れなかった不完全な姉とは違う。
リデルアースにいた頃なら、ちょっとは手を焼いたでしょうけれど。
『女神の五体』を得た今、あくびが出るほど遅い。
こんな下らないもの。もうただの一発だってもらってはやらない。
ほら。せっかく不意打ちで開けた傷だって、もう塞がろうとしている。
姉には持ち得なかった『至天胸』の素晴らしいこと。メリッサがわたしに尽くしてくれている。
そして――。
――――――――
「結局風穴を開けるどころか、一つだってまともにダメージを与えられなかったわね」
アイは心底嘲り、息も絶え絶えのセカンドラプターを見下す。
【完全なるハートフルセカンド】の酷使により、致命傷だけは辛うじて避けていたが。
やはり『女神』とたった一人の人間では。
いかに地球の許容性の低さが程度の差を埋めようと、元より圧倒的な実力差は如何ともし難い。
シャイナと戦ったときとは、悔しいが現実まるで比べ物にならない。あまりに強さの次元が違っていた。
しかし最悪の姉に挑んだあの日の惨めさなど、彼女には微塵もなかった。
「はん。揃いも揃って間抜けだな。テメエら姉妹はよ」
「……わたしをあんなのと一緒にしないで」
「そうやってすぐ不機嫌なるところもそっくりさ。大間抜け」
テメエが
たった一発の弾丸。
本当に貫いたのは、テメエの身体なんかじゃない。
『道』は通してやったぞ。
それはあえて言わないが、セカンドラプターは内心ほくそ笑んでいた。
あとの戦いはすべて、
「ざまあみろ」
アイは彼女がどうしてやけに勝ち誇っているのか、まるでわからなかった。
困惑に包まれたまま、しかしこいつを生かしておいてはならないと初めて強く感じた。
触手を伸ばし、彼女にトドメを刺そうとしたとき――。
ついに一人の戦士が現れて、颯爽と彼女を抱えた。
「――ユウ」
星海 ユウが、正面からアイを見つめている。
「ふふ。わざわざわたしを追いかけて。こんなところまで来てしまったの」
アイはあくまで余裕の態度は崩さずに、しかし内なる冷徹な部分が警戒を強めていた。
特徴的なのは青白いオーラ――ラナソールで、
魂あるいは本源を断つ、厄介な力。しかしそれだけではない。
今までのユウとは、何かが――何かが違う。
セカンドラプターはにやりとして、自分を抱き上げた彼に気安く声をかけた。
「よう。遅かったじゃねーか」
「すみません。色々あって遅くなっちゃいました」
「ま、間に合えばいいさ。ヒーローはそういうもんだってな」
彼女は、熱い眼差しでユナの子を見つめていた。
星海 ユナは誰が見ても、完成された戦士だった。
あいつに『異常生命体』としての才があれば、とっくにこの戦いは終わっていた。
たった一つの武器が――【運命】に通用するだけのものが欠けていた。悲劇の女だ。
星海 ユウは誰が見ても、決して戦うべきではない「普通の子」だった。
たった一つ、異常なほど【運命】に
だから分不相応にも、色んなものを背負わされた。悲劇の子供だ。
それでも彼(彼女)は、ひたむきに己の【運命】と向き合い続けた。
その真っ直ぐで、そして母親譲りの負けず嫌いな心で。
数多の人々の想いと壮絶な経験を背負って。ついにここまで来た。
ありし日の母が持っていたもの。
何者にも、いかなる苦難にも敢然と立ち向かう「強さ」を携えて。
くっく。面影以外、あんま似てないとは思っていたけど。
やっぱ血は争えないもんかねえ。
最高だ。あいつに――ユナにそっくりないい目をしていやがる。
お前、泣き虫だったくせに。とうとう追いついたんだな。
「もう子守りはしなくてよさそうか」
「――ええ。今まで、本当にありがとうございました」
受け継ぐ者から、さらに受け継ぐ者へ。
母から子へと。随分長いバトンになっちまったけど。
お前から受け取ったもの、きっちり繋いで。確かに渡したぜ。ユナ。
「んじゃ、美味しいとこは任せたぞ。ユウ」
「はい。ところで、立てますか?」
「大丈夫だ。まだガキに迷惑かけるほど落ちぶれちゃいねーよ」
このまま居残れば、必ずひどい手で利用しようとしてくるのは火を見るよりも明らか。
オレは足手纏いだけにはならねえ。そう決めてんだ。
セカンドラプターは自らのこめかみに銃口を向け、空っぽの弾丸を自分に向けて放つ。
アニエスの『異常』な(ゆえに許容性を無視し、かつ妨害されない)転移魔法を予め受けておき、効果を止めておいたものを今解除したのだ。
安全な場所へと、彼女の姿が薄れてゆく。
「あばよ。クソったれの化け物」
「この女……」
最後の最後まで綺麗にコケにして、セカンドラプターはクールに去っていった。
最悪の姉妹共々鼻を明かして、彼女はようやく胸のすく思いだった。