研修中の士官というのは、やはりただの雑用でしかない。
掃除、書類の整理、当直。研修とは関係ないものもたくさんやった。いや、やらされた。
もちろんちゃんとしたことも学んだ。
水雷戦術、航空攻撃、夜襲、奇襲。士官学校の机の上で学んだことを今度は実際に体で学んだ。
楽ではなかった。教科書の上ではうまくいくことも、実際にはうまくいかない。一種のもどかしさを感じた。
研修期間中、俺は周りからは研提と呼ばれた。「けんしゅうちゅうていとく」の略だ。俺はもうこのまま研提でもいいと思うようになった。提督の判断一つで、多くの人の命が助かるし、同じ判断一つで、多くの人の命が失われる。前者の場合、提督は世間から拍手喝采を受け、昇進することもある。後者の場合、世間からは叩かれ、地位を剥奪されかねない。特に、注目度が高い程、前者も後者も激しくなる。世論ほど、ご都合主義的なものはない。それが、俺が研修期間中に特に学んだことだった。
研修期間も終了し、俺は元帥に呼ばれて都内某所に来ていた。この瞬間が今後の人生を決めると言っても過言ではない。士官学校での成績、研修先の提督が下した評価に基づき、配置を言い渡される。先輩からは、すぐに終わると聞いていた。やりとりの一つもなく終わると聞いていた。はずなんだが…
「君、高校は男子校かね?」
「いえ、共学校に通っておりました」
「恋愛経験は」
「ありません。」
「恋をしたことは?」
「ありません。」
「では今も?」
「ありません。」
「よろしい。君は士官学校での成績は優秀。研修の評価も高い。そこでだな、今春に新しくできる鎮守府で艦娘の指揮を執ってもらう。試験的に最新の設備とかを導入している。敷地はそこそこ広いはずだ。それで、場所なんだが…」
「第二戦ですか。」
「ああ。だから艦娘の育成とかには時間をかけられるはずだ。どうだ?君の返事次第なんだが……」
元帥に対して否定の返事などできるはずがない。それに、新生鎮守府への着任は、新しく鎮守府が建設される年の、成績優秀者だけの特権だ。基本、転属はないし、なにより一つ鎮守府を最初から、定年で退職するまで発展させられるなんて、提督冥利につく。断るなんて言う選択肢は俺の頭の中にはなかった。
「慎んでお受けいたします。」
「そうか、そうか。よしよし。こちらから適当な艦娘を着任させる。開発だったりなんなりで、鎮守府を育てていってくれ。頑張れよ」
新生鎮守府への着任。この俺の人生の色はバラ色になることが今日決まった。ことにする。そして俺は軍の専用車両で我が鎮守府へと出向いた。