「ふう。今日は仕事が早く終わってよかったです」
「そうだね、神通。でもだからって、川内姉さんの後をコソコソとストーキングする必要あるの?那珂ちゃん休みたーい」
「休みたいなら休んで結構です。私はこのままこの任務を続行します」
「ねーねー。なんでそこまでするの〜」
「では那珂は見た事がありますか?夜戦以外であんなにキラキラしている姉さんを」
「はっ!そういえば、川内姉さん、すっごくいい顔してる」
「そういう事です。別に私が後をつけていることで何か助けになるわけでもありませんが、なんというか……見てて面白いというか。まあそんなところです」
「あの人たち、何やってんだろう……」
この二人が周りから大変不自然、と言うか不審に見られているのは本人たちの知る由ではない。しばらくして、彼女たちは職務質問を受ける羽目になるのだが、それはまた別の話である。
街は平和である。それもそのはず、大半の国民はMIの敗戦を知らないのだ。それどころか、人類の手に海が戻ってくる日も近いと思っている。
だが、空は平和ではなかった。時折陸軍航空隊の飛行機が上空を通る。海軍は恐らくこのMIの敗戦を正式には伝えていないだろう。だが、陸軍には優秀な諜報がある。どこからか情報を掴み、本土防空のために警戒を始めたのだろう。飛んでいる飛行機もかの大戦の時のものを模したものだ。妖精さん達が造ったものだと聞く。だが海軍のと違い、機体に生身の人間が乗っている。そういう風にできているらしい。やはり妖精のことはよくわからない。色々秘密もあるのだろう。そして、その飛行機が起こす風でたまに川内のスカートの中身が見えること、これも秘密ではある。
「黒か……」
「え?どうしたの、提督?」
「いや、なんでもない。少し哲学的なことを考えていただけだ」
「ねえねえ提督、うちの鎮守府って、なんで索敵機を街中に飛ばしてんの?」
「は?いやいや、そんな事してないぞ。たぶん」
いくらあの多聞中将だって、そこまではしないだろう。
「いやでも、そこに飛んでるのって彩雲……」
俺のすぐ上空にはその機体があった。「我二追イツク敵機ナシ」のその機体があった。
「なあ川内、今25ミリ三連装機銃なんて持ってないよな」
「そんなの持ってるわけないじゃん。ていうかあったらどうしてたの?まさか彩雲を撃墜するとか?」
俺は諭すようにして、
「川内、彩雲は索敵機だ」
「そのくらい知ってるよ」
「どの空母が持っているものか知らないが、彩雲は見たそのままを母艦へと伝える」
「まあ、それが索敵機だからねえ」
「ここからはもしもの話だがな、もしも、もしも彩雲が我々を発見しているとすればだ、我々は今、誰かから常に監視されているということだ」
「……ねえ提督、何処か高角砲でも売ってる店知らない?」
「すまない。私は知らないな。だが、我々には一つ希望がある」
「希望?」
そして俺はその希望を川内に示した。
「今日何回か陸軍航空隊が上空警備をしているのを見ただろう」
「ああ、あれね」
「陸軍航空隊が、いきなり彩雲に会ったらどう思うかわかるか?」
「……絶対怪しむよね」
「そして立ち退きを要請するだろう。単純に邪魔だし」
「うんうん」
「はっきり言おう。あれは我々の彩雲だ。陸軍航空隊ごときに撃墜されたりはしない」
「彩雲は高性能だからね」
「だが、彩雲は索敵機だ。敵の戦闘機の編隊に会ったら逃げるしかない」
「と、いうことは、彩雲はいなくなるってこと?」
「その通りだ。ほら、もうすぐそこに陸軍航空隊の編隊だ。我々はもう自由だ」
さっきは陸軍航空隊を馬鹿にするようなことを言ったが、その陸軍航空隊もなかなか訓練されている。組んでいる編隊が綺麗だ。
「ねえねえママ!あっちにも飛行機がいっぱいいるよ〜!」
「本当ね。大規模な演習かしら」
その子供が差した先には大規模な編隊があった。陸軍のそれよりももっと大きなものが。
「ねえ提督、あれってまさか……」
「我が鎮守府が誇る烈風か?いやまさかそんな……」
人々は演習だと思っただろう。だが、今この空では陸軍vs海軍が始まろうとしているのである。
「い、急いで帰ろう!」
「なんか大変なことになってる!」
俺たちは急いで帰り、飛行機を発艦させた後の加賀さんを発見した。
提督が鎮守府にたどり着いたころ、神通たちは孤軍奮闘していた。
「私はただただ夜戦狂の姉が別のことに目覚める瞬間を目撃しようとしただけであって!私は無実です!」
「アイドルにそんなことしちゃダメなんだからねっ!」
「……」
この警官、勤務もなかなか長いベテランな方だが、ここまで困難な職務質問は初めてであったという。