艦隊司令部長
「提督、艦隊司令部長より、呼び出しがあっています」
「艦隊司令部長?そんな役職あったかな?」
「最近設置されたものらしいですよ。MIの後、元帥はもう閑職になって、実権はこちらに移ったみたいです」
「で、そこから呼び出しか。普通に電話じゃダメなのか?」
「仕方がありません。どうしますか?私がついていきましょうか?」
「なあ鳥海さん」
「はい」
「俺ってさあ、たぶん赤レンガから嫌われてるよな」
「何でですか?AL作戦も立派に遂行したのに」
「でもそれも撤退の命令を無視したものだしなあ。それに、ここのところ資源について文句を言われるようになった。ボーキサイトの使いすぎだ、って」
「確かにそうですね」
「多聞中将についてきてもらおうかな。あの人いると心強いし」
「わかりました。手配しておきます。でも、提督と山口中将がいない間の艦隊の指揮は誰がすれば?」
今まで、俺が不在の時は多聞中将が艦隊を指揮していた。しかし今回はその代りを誰かがしなくてはいけない。
「鳥海さん?」
「私には重すぎますので」
「そう、なら仕方がない。じゃあ赤城さんにでも頼もう、手配しておいて」
「はい。赤城さんに伝えておきます」
「出発は明日の0800だな」
「なんで儂が行かんといけないのだ」
「いたら心強いですし」
多聞中将は一式陸攻の中でもブーブー言っていた。
「それにお前には悪いが、儂はこの一式陸攻はあまり好きじゃない」
「えー、何でですか?流星ほどじゃなくても、かわいい方だと思いますよ」
「通称、一式棺桶。当たりどころが悪かったら火だるまだ。しかも回避などがうまい機体というわけでもない。もちろん、確かな制空の下に行動すれば優秀なものさ。だがな、今、この空は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。MIで敗れたと言えども、最前線は未だ健在です」
「ならいいが……」
「そこまで言うなら、次から二人で九九式艦爆にでも乗りますか?運動性能はなかなか良いですよ」
「おい、九九式艦爆はもっと装甲が薄いじゃないか。つけている機銃も7.7ミリだろう」
「冗談ですよ、冗談」
「年寄りをあんまりからかうなよ」
多聞中将がフラグを建てまくるのでいささか不安になったが、無事に赤レンガに着くことができた。
「やっぱりここは何回来ても好きになれん」
「何か嫌な思い出でも?」
「いや、そう言うわけじゃないんだが、何となく、な。現場を知らず、現場を知ろうともせず、言うだけ言って、できなかったら現場の責任。まあ好きにはなれんだろ」
「……」
多聞中将の言葉には重みがあった。
ドアをノックすると、中から「入れ」という声がした。艦隊司令部長とか言う重そうな役職についている割に、若い声だった。
「さて、君を呼んだのは他でもない」
その司令部長は俺よりも少し年上であるくらいに見えた。そして、多聞中将をチラッと見ただけで、特段興味を示さず、単刀直入に話しはじめた。
「君、AL作戦のとき、撤退せずに攻撃を続行、その後、キス島を占領したな」
その話か、とうんざりしたが、ただ、「はい」と答えるにとどめた。
「キス島守備隊が追い詰められている。連日の空襲、艦砲射撃だそうだ」
「し、しかしAL方面の敵は殲滅しました」
「もし君のその報告を信じるとしたら、新しいのが来た、ということではないかね」
その言い方は「その報告は嘘ではないかね」と言わんばかりだった。
「守備隊の撤退のために、一定時間だけでいいから制海権を取るように陸軍が言ってきた。このキス島は君が獲ったものだ。君自身の手で決着をつけたまえ」
反論はできない。キス島を獲ったのは自分だし、何より彼は上官だからだ。
「作戦には空母とか、戦艦とか、重巡とかを使ってはいけない。軽巡は一隻だけ許そう。他は駆逐でやりたまえ」
「我が鎮守府の主力は空母機動部隊だぞ!何の意図があって空母を使うなと!」
たまらずに多聞中将が怒鳴った。無理もない。
「艦隊司令部長、我々は空母を中心とした作戦を今まで展開してきました。それを使うなというのは……」
俺は怒鳴りたい欲求を抑えて、静かに言った。すると、
「君の鎮守府は資源の消費が多すぎるんだ。この国全体で間もなく資材不足になるだろう。その中で未だボーキサイトを湯水の如く消費するのかね。もうこれ以上話す気はない。私が次に君と話すのはこの作戦が成功してからだ」
そう言って艦隊司令部長は出て行ってしまった。あとには呆然としている俺と多聞中将だけが残された。
これで良いのだ。きっと奴等は狼狽することだろう。そもそも、多くの士官がAL・MIの後、位が落ちた中で、奴だけぬくぬくとその地位を守った。不思議に思い、調査したら、官邸から圧力がかかっていたことがわかった。海軍の中に政治を入れようとするのは、創設以来大きな戦果を残してきた海軍の輝かしい伝統に反する。それに、彼は前回の作戦での唯一の勝者だ。最前線で日々奮闘している提督が主戦場で多大な損害を被っている中、別動隊として勝利した。それも命令を無視して。組織として、あってはならないことだ。彼には一度、負けてもらう必要がある。そして、その責任を問うて、どこかに飛ばして仕舞えば良い。組織を乱すものを成敗するのだ。
艦隊司令部長、その人は低い笑い声をあげながら、赤い絨毯の廊下を歩いて行った。