いつもと何ら変わらない朝だ。
まもなく季節が変わる。寒い冬から、暖かい春へと変わる。
「そっかあ、もう三月なんだねえ」
隣で飛龍がのどかに言った。
「あはは、飛龍、なんかおばあちゃんみたい」
「えー、蒼龍だって似たようなもんだよ」
何となく暇だった。
暇な時はいつもあそこに行っている。
今日もまた、同じコースを辿った。
「ねえねえ提督〜」
だが開けた部屋には誰もいなかった。
「そっか、いないのか……」
ふと壁に掛けてある服に目をやった。いつも提督が来ている服だ。
何セットかずつ持っているらしい。クローゼットの中にはもっと服があった。
提督が今着ている紺色のは、第一種軍装。主に冬季に着用するやつ。
そして第二種軍装。夏季に着用するやつ。白色の軍装だ。
そして、第三種軍装。陸上戦闘時などに用いられる、機動性のいいものだ。
ちょうど手元にあった第一種軍装を着てみることにした。
「あ、意外と着れる。もっとぶかぶかかと思ったけど」
鏡で見てみた。なかなかいい感じ。
「あ、でも胸が結構キツイかも……」
「ゴホン!」
「ひえっ」
いつの間にか背後には飛龍がいた。
「ひえっ、じゃないよ!私は戦艦じゃありません」
そして、飛龍は空っぽのデスクを見て、
「なんか、やっぱり足りないよね」
とぽつりと言った。
「ふぅん〜、やっぱり飛龍って提督にぞっこんなんだねえ」
そう揶揄うと、飛龍は顔を真っ赤にして、
「へ?い、いや別にその……ね?ほら、蒼龍だって似たような感じじゃん。はたから見て、明らかに『提督がいなくて寂しいな〜』って感じの顔してたよ」
「ひ、飛龍に言われたくないし!」
「二航戦が揃いも揃って何しているんですか……」
「「あっ……」」
鳥海さんに見つかった。
「山口司令官!」
いくらか探したが、やっと見つけた。
「おう、赤城か。何か用事でも?」
言うのが躊躇われる。しかし、思い切って言った。
「次の戦いの情報を何でわざわざ東京まで取りに行くのですか?しかも陸軍省……」
「……不審か?」
しばらくの間があった。
「予想がつかないことはありません。海軍省から嫉ましく思われたのでしょうか?」
「……」
重い空気が流れた。そして、山口司令官自らの手でそれは破られた。
「……我々の仕事とは、戦線にて活動し、内地に平和と安全をもたらすことだ。気にすることではない」
「しかし……」
「もういいだろう」
そして顔を伏せながら、山口司令官は去っていった。
「その海軍中将も哀れだな。目立ってしまったばかりに組織から消されようとされているとは」
「人の不幸は蜜の味、とは言いますがね」
すると、目の前の老人はニヤリと笑って、
「だがこの海軍中将の不幸を利用して海軍の奴らに苦汁を飲ませてやろう、と考えたのだろう?ノープランは許さんぞ」
と言った。
「もちろん、練りましたとも。問題は、誰が実行するかですが」
「君が考えたんだから、君の手でやるべきだ」
めんどくさい。だがこの参謀長の老人から言われて断るわけにもいくまい。取り敢えず、
「御意」
と答えた。すると老人は機嫌良さそうに、
「君、まあ黙認はしてやっているが、たまには陸軍推奨の『〜であります』を使ったらどうだ」
といたずらな顔をして言った。
「どうも格式ばったものは苦手なもので」
すると老人は鼻を鳴らして、
「君は勤める所を間違えたようだな。海軍の方が向いているぞ」
と言った。
「海は苦手であります」
「できれば次から『〜であります』は声を張って言った方が良いぞ」
取り敢えず微笑してごまかし、老人の前から去ることにした。
結局、仲は悪くても陸も海も大して変わらないのではないか。
「陸軍的に言うと『大差ないのであります!』だな。ははは」
低い笑い声は分厚い壁へと吸い込まれていった。