「なあ、頼むよ。お前の所ならできるだろ」
「と言ってもなあ、何で今更旧バージョンのやつを改造するんだよ」
俺は同級生に電話していた。そいつは某有名企業に勤めていた。数々の名作機を生み出した企業だ。
「目的は言えないんだよ、軍事機密だからな。わかってくれよ堀さん」
「何が『掘さん』だ。全く。要求性能を送れ。やれるだけやってみる」
「ありがとな。じゃ、よろしく〜」
「誰に電話を?」
「ああ、特務参謀。ちょっと零戦を改造してもらおうと思ってな。海軍御用達の例の企業に勤めている掘ってやつに電話していた」
「ああ、その事ですか……」
そして長特務参謀は少し考え込んでから、
「私は提督のキス島まで零戦を引っ張るその案には賛同しかねます」
と言った。
「敵機との性能差がありすぎです。精神論では敵機を撃ち落とせません」
「その性能差を埋めるために今電話したんだ。改造零戦を見てから無理か無理でないか決めても遅くはないだろう」
「……」
その頃、掘とその技術者達は苦悩していた。
「あっちを立てればこっちが立たず。海軍お得意の無茶振りかよ。この仕事受けなきゃよかった」
「相当大規模な改装が必要ですね。発動機から変える必要がある」
「でかいエンジンを積みたいが、そしたら零戦が重くなるしなあ」
「掘主任、納期はいつまでですか?」
「2ヶ月半後までに試作機を納入しろという事だ」
「2ヶ月半!」
無茶であるということは誰の目にも明らかだった。
不眠不休の努力が続いた。まさに月月火水木金金だった。
外国の機体も研究した。そしてついに要求された試作機が出来上がったのである。
「ええと、掘主任でしたかな。右側の試作機はともかく、左側の試作機は本当にあの零戦の改装版なのか?」
「ええ、もちろん」
長特務参謀がそう聞くのも無理はなかった。二機ある試作機のうち、右側にある試作機は零戦とは似ても似つかぬ姿をしていたからだ。何方かと言えば彗星の方に似ていた。
「今回は二機、試作機を要求されたので。左側の方は彗星と同じ液冷エンジンを利用した液冷零戦、右側は零戦二一型を全体的に機能向上させた零戦改」
そして掘は機体の説明を始めた。
「液冷零戦は、大馬力の液冷エンジンの下で、速度への耐性もつけました。その分増槽を大きくして、航続距離は保っています。旋回性能が落ちているので格闘戦は不得手です。一撃離脱型の機体です。零戦改はエンジンをバージョンアップしました。旋回性能が二一型よりも高くなっています。速度耐性が低いので、下手に一撃離脱すると空中分解します。格闘戦向きです」
「長特務参謀、つまりだな、液冷零戦で一撃離脱して、敵を乱したところを、零戦改で刈り取ってしまおうという事だ」
「なるほど。それは結構な事です。しかしですね」
長特務参謀は息をすっと吸い込んでから一気に話し出した。
「航続距離を保つために仕方がないのでしょうが、見たところどちらも翼いっぱいに燃料があって、よく燃えそうです。あと、特に液冷零戦、これは一発カスダメをもらっただけでもすぐにやられそうですな。液冷エンジンは冷却水がないとダメですから、そこをやられたら終わりです。あと、作戦終了後はアッツ島に立ち寄って整備してから帰るそうですが、液冷エンジンは整備が大変な事は有名な話です。以上のように、問題は多くあります。飛行機に気をかけるよりも対空兵装に気をかけたほうが良いですな」
すると、技術者としての血が騒いだのか、掘がそれに反論し始めた。
「液冷零戦は降下時には相当な速度が出ます。相手が反撃する前に離脱することが可能です。零戦改はある程度の防弾性能はあります。整備については、私が何人かと一緒にアッツ島まで行って対応します」
「えっ?!堀、アッツ行くの?」
すると、堀は当然だ、というような顔をして、
「液冷は整備が難しいからな。それと、この零戦がどれだけ戦えたかみてみたいし」
と言った。
「相変わらずだなぁ。全く」
こうしてこの鎮守府の零戦二一型の半分は液冷零戦に、もう半分は零戦改へと改造されることになった。