脅し?いえ、本気です
「これよりキス島撤退支援作戦要綱を説明する」
鎮守府の一室に艦娘たちが集められていた。話しているのは長特務参謀だ。部屋の後方では多聞中将が不満そうな顔をしている。外は土砂降りの雨だ。海もしけている。
「私は参謀本部より派遣された長だ。しばらくの間、ここで特務参謀の職に就く」
このことを知らなかった艦娘たちの間に動揺が走る。参謀本部よりの派遣。つまり陸軍からの派遣であるからだ。しかし、長特務参謀はそれを遮るように話し始めた。
「この度の作戦の目的はキス島守備隊の撤退を支援することにある。編成は軽巡1、他駆逐。ここまでで質問は?」
すっ、と加賀が手を挙げた。
「特務参謀はまだ理解していないのでしょうが、当鎮守府には全国最高レベルの空母機動部隊があります。燃料、弾薬、ボーキサイトが重いのは分かりますが、戦力の小出しは愚です」
すると長特務参謀はフッ、と笑って、
「仮にも私は参謀本部の者です。戦力の小出しの危険性は一々ご教授願わなくとも理解している。こちらとて偶然空母機動部隊を出していないのではなく、あえて空母機動部隊を選んでいないのだ」
と言った。
まずい……と思った。そちらの方を見るとやはり加賀が怒りに手を震わせている。彼女の大切にする「誇り」が傷つけられたのだろう。それでもなんとか怒りを抑えて、
「理由をお聞かせ願います。空母機動部隊を出さない理由を」
と言った。
「軍事機密事項である」
それを特務参謀は冷たく突き放すように答えた。
加賀の中で何かが吹っ切れたのだろう。より一層特務参謀を睨んで、
「斯くなる上はその身をもって空母機動部隊の強さを味あわせます」
と、矢を構えた。特務参謀は顔色一つ変えない。
「ここで私を殺したところで事実は変わらない。殺したければ殺せばいい」
と言った。しかし、その後に、
「しかしながら大和男子としてそう易々と死ぬわけにはいかない」
と付け加えて、胸の辺りから一つの黒い物体を取り出した。拳銃だ。
「この拳銃には4発の弾が装填されている。一つはあなたのため、一つはそこにいる提督のため、一つは後ろにいる山口中将のため。最後の一つは私自身のためだ」
「それはつまり……脅しですか?」
「受け取り方はその人次第だ。懸命な判断をお願いしたい」
加賀はふう、と息を吐いて矢をつがえるのをやめた。
その時である。特務参謀は銃口を加賀の方へ向け、引き金を引いた。バンッ、と大きな音がして、「あっ」と声を上げた時には、加賀の後ろの壁が弾でえぐれていた。多くの艦娘たちが震えている。加賀の唇も少し青くなっているように見えた。しかし、加賀はそれでも口を開いて、
「なんのつもり。だまし討ちした上に、わざと外したわね」
と言った。
「これが私のやり方だ。各々、よく覚えておくように」
そう言って特務参謀はつかつかと部屋から出て行ってしまった。
「……これは一体なんだ?」
その日の夜遅くのことである。長門ら戦艦組が一つの書類を提出してきた。
「彼が発砲した時点ではもう加賀に抗戦の意向がなかったことは明らかです。それをあの特務参謀とやらは撃った。駆逐艦なども彼のことを怖がっています」
「……何が言いたい」
しばしの沈黙がある。外では雨がざあっ、ざあっと音を立てている。先ほどよりも強くなったようだ。
「我々としては……彼を特務参謀として迎えることは出来ません」
その時だ。突如として長特務参謀が現れた。
「ほう。私が参謀として適任ではないと言うか。よろしい。ならば演習でもしようじゃないか」
「え、演習?!」