「聞こえるか?よし。蒼龍、予定通りに彩雲を」
「はい。索敵開始します!」
今回の作戦はいかに敵を早く発見するかにかかっている。見つけさえすれば……もう九割方こちらの勝ちだ。
「それと飛龍、烈風を発艦させて敵の索敵機の警戒を。見つけ次第撃墜していい」
「了解しました!」
あの提督は航空科の卒業生。ならば基本である索敵を大事にするはず。必ず飛ばしてくるだろう。問題はその後だ。
「加賀、彩雲を。それと、艦隊は島の影に隠れて」
俺は司令室で指揮を執っていた。
「赤城、何も搭載せずに流星改を12機発艦。それと、赤城、加賀合わせて12機の烈風も発艦しら敵の彩雲を狩って」
「「了解!!」」
「提督、我々は何をすれば良い?」
「長門は逆探で敵の電探を拾って。他の艦は目視で上空を確認」
「よし。艦隊、この長門に続き、上空見張り!」
それから数分後、
「提督、流星隊より報告、敵の索敵機を発見!敵がこちらに気づくのも時間の問題かと」
「よし。今すぐ近い烈風隊を直行。流星隊は時間稼ぎを!絶対に艦隊の位置を悟られてはならん!」
赤城には見えていた。それぞれが持つ艦載機は母艦と強くリンクしている。目を閉じて集中すると、その機体から見えている景色が見えるのだ。
敵の彩雲は降下して、旋回し、流星を引き剥がそうとした。しかし、旋回している間に他の流星が回りこみ、彩雲を包囲する。流星は20ミリ機銃を装備している。格闘戦も可能だ。彩雲はなおも直線に逃げようとする。「我ニ追イツクグラマン無シ」の彩雲だ。元は攻撃機の流星では速度でかなわない。
あわや、逃げられるかと思ったその時、上から轟音がしたかと思うと、烈風が彩雲に襲いかかった。烈風の20ミリ機銃が火を吹いたかと思うと、彩雲は撃墜判定を食らっていた。
「索敵機の被害が増えているな……」
次々と彩雲からの電波が途絶えていく。このままでは全滅だ。
「やむを得ん。紫電改二を出せ。残っている彩雲は撤収」
「了解しました」
今回は演習なので、敵の編成はわかっている。つまり、見つけるだけでいいのだ。そのくらいなら艦戦にもできる。陣形なども詳しく知りたかったから彩雲を出したのだが……仕方がない。
「参謀、敵索敵機を撃墜しました!」
「よし。よくやった。続行せよ」
敵も索敵機の被害が増えそうだ。次はどう出るか……
「提督、敵の彩雲が引き揚げていくようです」
「よし。こちらも今出てる艦載機を引き揚げて。流星は帰ったらすぐに装備換装をして、発艦準備!そろそろ彩雲が見つける頃だろう」
「しかし提督、こちらの彩雲に被害が出てるようです」
「続行だ。何としても先に見つけるぞ」
「「了解!!」」
索敵が思うようにいかないのは想定外だった。ある程度の防空網が張ってあるのだろう。長特務参謀は航空戦はあまり経験がないというが、少し厄介なことになりそうだ。
「だがこちらとて航空科の卒業なんだ。負けるわけにはいかん。なあ鳥海さん」
「はい。赤城さん達も一航戦としての誇りがあるでしょうし」
「誇り、か……」
俺も、航空科卒業生としての「誇り」で戦っているのだろうな……
そんなことを考える暇を、特務参謀は与えてくれなかった。
「提督、我が艦隊上空に敵機です!機種は不明。発見されました」
「なんだと!」
「はは。どうやら、かくれんぼはこちらの勝ちのようだ」
「特務参謀、どうしますか?」
「自艦隊上空に残しておくのは10機でいい。他は全部連れて行け!発艦用意!」
すごい人だ。飛龍はそう思った。
提督は航空科の卒業生。それに対してあの特務参謀は航空戦の経験はあまりないという。
でも、あの提督よりも早く索敵に成功した。
あの人は本当にすごい人なのかもしれない。そう思っていた矢先だった。
「何機ぐらい墜落したら成功するだろうか……」
「敵の艦戦をですか?」
「いや、こちらの攻撃機がだ」
「え?」
頭の中が真っ白になった。
「蒼龍、私、攻撃隊発艦させない」
そう自然に口から出ていた。
「ええっ、何で?何かあったの?」
そして、今あったことをそのままに話した。
だが、蒼龍は賛成しなかった。
「うちの艦隊は敵と比べて火力がないんだよ、だからその分を航空隊で補わないと。それにね」
そして蒼龍は続けた。
「みんながみんな、優しい上官なんじゃないんだよ。今、私はあのMIで今の提督に助けられて、ここにいるけど、前の上官はそんなに優しい人じゃなかったよ。でも、その中でも頑張らないと。それが私たちの仕事。ね?」
「でも……私たちは無力なの?何もできないの?これは演習だから実際に墜落する訳じゃないけど、もし、実戦だったら、血のにじむような訓練してきて、やっと育てたかわいい艦載機のみんなを、現場のことなんて考えもしない愚かな指揮で失くすの?艦隊を守る艦戦もなくなったら、その時は沈むかもしれないんだよ!死を恐れる訳じゃないけど、でも、そんな愚かな指揮で犬死にするのは、私は嫌だ!」
「形あるもの、いつかは壊れる。提督だって完璧じゃない。間違った指揮をすることだってあるかもしれないし。それで、もし間違った指揮で沈んだら、それは仕方がないよ。私が沈むことによって、一艦でも他の艦が助かるなら」
やや風が出てきた。
艦載機を飛ばすには良い風だ。
「そういえば」
蒼龍が口を開いた。
「何で私たちはあの特務参謀に選ばれたんだろう?先に選べたんだから、一航戦の先輩の方を選べばよかったのに」
「知りたいか」
通信機の向こう側から突如として声が聞こえた。
「「特務参謀!!」
「マイクの電源を入れっぱなしだ。指揮官への愚痴をこぼす時はこれからマイクの電源を確認するように」
「すっ、すいません」
まあいい、と特務参謀は言うと、
「では、この演習で勝利したら、教えてあげよう。ただし、負けたら永遠の謎となるぞ」
「は、はいっ」
風は吹き続いている。
「さ、飛ばそう、蒼龍」
「うん。飛龍」
「「第一次攻撃隊、発艦!!」」