ゾグマVSガミエル   作:折井昇人

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Second Process「ガミエル2号機、発進!」

 菊水山駅。神戸電鉄有馬線に、かつてそれは存在した。しかし、利用者の減少により、秘境駅と呼ばれるものの、遂に自力で来訪する者もいなくなり、雑誌で取り上げられることもなくなったため、2005年、営業休止。以降、電車がここに停まることはなかった。今から5年前、2025年までは。

 ユラノは神戸電鉄の「各駅停車」に乗り、かつて菊水山駅と呼ばれていた駅に来ていた。先日家に届いた赤い紙に、ここにある自衛隊対Z兵器開発局に来るようにと書かれていたからだ。

 当初ユラノは、祖父母から行くのを反対されていた。が、どうしても気になることがあった。

 何故、あの日、真奈が自衛隊のヘリの中で負傷していたのか。ユラノはそれを確かめるべく、ここ元菊水山駅に来た。

 電車が駅に着いた時のアナウンスは、元菊水山駅。多少電車に詳しいユラノは当初、新しい名前でも付けているのだろうかと思っていたが、そんなことはなかったため、多少拍子抜けした。

 ユラノは辺りを見渡した。ホームは昔と変わらず無人だったが、自動改札機が導入されていた。間違いなく、ここに対Z兵器開発局があるということは分かった。

 だが、周りを見渡しても、それらしき物は、何一つ無い。ヘリポートも、建物も、民家すら無い。ただただ、だだっ広く緑が生い茂っているだけだった。ユラノは再び赤い紙の中に入っていた地図に目をやる。かなり簡易な地図で、どうやら駅から下に行けば、それらしき物があるらしい。と言っても、眼下は緑しかない。

「本当にあるのかなぁ……?」

 それでも、何もしていないのに厳罰を下されるのは嫌だし、何より真奈のことが気になった。もしかすると、ここにいるかもしれない。大怪我だったけど、もしかしたらこの安全な第四北神戸市の施設なら、今の進化した医療技術なら、治せるかもしれない。

 ユラノは微かな希望を胸に抱いて、元菊水山駅から下に降りていった。

 

 

 

 

 

 浪尾は対Z兵器開発局の医務室で、ベッドから無理矢理起き上がっているケイスと口論になっていた。

「いいから寝てろ!」

「出来るわけないでしょうが! 何なのよ、あの欠陥兵器は一体!」

「文句があるなら主任に言え!」

「分かったわよ!」

 そう言って、ケイスは栄養剤を点滴しているというのに、医務室から出ようとした。当然、看護師と浪尾に止められた。

「主任に言えって言ったのはあんたでしょ! 離しなさいよ!」

「んなこと、俺がするとでも思ってんのか!? お前は!」

「ッ……!」

 ケイスは何度か深呼吸をし、ベッドに再び座った。

「いくらもう殆ど怪我が治っているとはいえ、まだ怪我人なんだ。安静にしてろ」

「……了解」

「よし、落ち着いたな。これからのことを言う。まず、ガミエルのことだ。あれは引き続き運用する」

「あんな欠陥兵器を?」

「OSに問題があっただけで、それさえ何とかすれば大丈夫だ」

「って言っても、ガミエルのOSは世界最高のOSなんでしょ? どうする気?」

 浪尾はケイスの耳元に口を近づけ、小声で言う。

「立原主任は今瀕死でな。どう頑張っても助からないらしい。けど、脊髄と脳は生きている」

「……どういうこと?」

 浪尾はケイスに耳打ちをするように言う。

 それを聞いて、ケイスは呆然とした。浪尾もまた、息苦しそうな表情をした。

 重い空気が流れる時、浪尾の携帯が鳴った。

「何だ?」

『ユラノ・呉島が到着しました』

「分かった、すぐ向かう」

 浪尾は、ケイスにもう少し寝ていろ、とだけ言って医務室から出た。

 

 

 何とかして対Z兵器開発局に辿り着いたユラノは、入り口から入ってすぐのエントランスで、辺りを見渡していた。

 そこは、とても自衛隊の基地だとは思えなかった。というよりも、ユラノは自衛隊の基地の中がどのような感じなのかも知らない。怪獣映画などで自衛隊は出てくるが、ああいうのでは大抵作戦室が主なので、こういう入り口の構造がどうなっているのかは分からない。もし出てきていたとしても、どこまでが現実でどこまでが架空なのか、ユラノには分からない。

 電子化が進んだこの2030年。基地の中はSF映画チックな感じになっているのかと思っていたが、それは違った。何も無い、ただだだっ広いエントランスだった。

 奥にあるエレベーターから、二人の男性がユラノに向かって歩いて来る。一人は何だか強面で、もう一人は何だか気味が悪かった。強面のサングラスが浪尾で、気味が悪いのは国枝だ。浪尾がユラノに手をサッと振る。ユラノはガチガチに緊張していて、ポニーテールが顔にまで来る勢いで頭を下げた。

「ユラノ・呉島だな?」

 浪尾が問う。未だ強面だ。

「は、はい……」

 ユラノはビビりながら答えた。

「では、まずはこっちに着いて来てもらおう。時間が無いんでな」

 ユラノには一切気を遣わないマイペースな浪尾たちだったが、ユラノは反抗する気にもなれず、着いて行った。

 そうして着いた場所は、少々暗く、しかしとんでもなく巨大な空間であった。正面には、1週間前三宮でゾグマと戦闘していたあの巨大ロボット、ガミエルがあった。整備をしているのか、あちこちの装甲板が剥がされて、中身のメカがむき出しになっている。

 しかし、胴体は前回の物とそのままだったが、頭部と四肢が全く異なっていた。正確に言えば、より人型に近づいた形になっていた。

「これって……」

「TNS-995-2。対Z兵器2号機、ガミエル2号機。現在調整中の、我々の第二の切り札だ」

「……それで、どうして私をこのロボットの前に?」

 ガミエル2号機を見ながら喋っていた浪尾が、ユラノに振り向く。

 その顔は、どことなく憂鬱であった。喉に物がつっかえているような感じで、浪尾は言葉を口から出した。

「ユラノ・呉島。君には、このガミエル2号機のパイロットとなってもらう」

「……どういう、ことですか?」

 ユラノの質問に答えず、浪尾はただただロボットのようにユラノに告げる。

「メインパイロットは別の者にやってもらう。君は補助、サブパイロットだ」

「大丈夫。操縦するわけではない。操縦の補助をやって――」

「無理、です……」

 弱弱しく、ユラノは腹の底にあった言葉を何とか吐き出した。浪尾たちはユラノを見つめるも、何も言わない。ユラノは言葉を続けた。

「だって、こんな、いきなり過ぎるじゃないですか。訓練も何も受けていない私になんか。それに、私機械とかにちょっと弱いし……」

「まーユラノはそうだよね。スマホもLINEとかSNS以外、ロクに使えないし」

 ガミエル2号機の方から、聞き慣れた声が聞こえてきた。車の整備をする人がよく着ていそうな、対Z兵器開発局のロゴが入ったツナギを着たミカであった。その手にはスパナを慣れたようにくるくる回しながら持っている。ミカは浪尾と国枝に軽く挨拶をし、整備班に指示を出しながら、ユラノに近づいてきた。

「何で、ミカがここに……」

 ユラノの声は震えていた。同時に、ミカのツナギ姿が妙に似合っていると思った。

「いやー、ユラノの家にも来たでしょ? 赤い紙」

「うん……」

「で、まぁそれがアタシのところにも来たわけ。それで来てみたら、このガミエル2号機の整備の任務を与えられたから、そりゃもう受けるしかないじゃんって話。ロボットアニメ大好き人間には最高の役職だよ」

 ミカの感じていることは、何となく分からないでもない。だが。ユラノはそれを分かりたくなかった。分かってしまったら、自分はここで任務を果たさなければならない。その任務が、命を懸けたというものなのだから、承諾したくない。当然だ。

 ユラノは浪尾をしっかりと見て、

「私には、無理です」

 はっきりと自分の答えを浪尾にぶつけた。

 しかし、それで動じる浪尾ではなかった。浪尾は顔色一つ変えずに、

「そうか。では次だ。着いて来てもらおう」

「お断りします」

 即答するユラノ。

 意外に反抗的な態度を示すユラノに、浪尾は苛立ちを覚えた。

 浪尾はユラノの腕をガッと掴み、

「来るんだ」

 強制的に連れて行こうとした。

 ユラノはミカに救いの目を向けたが、

「ごめん、ユラノ。司令に逆らうのはちょっと……」

 とでも言いたげな目配りをして、ガミエル2号機のもとへと戻った。

 ユラノは反抗する気も無くなり、浪尾に着いて行くことにした。ダラダラとした歩調だが、確かに浪尾に着いて行ったため、腕は解放された。国枝は格納庫に残り、整備員に指示を出すことにした。

 格納庫から出て、廊下を歩くこと数分。

 ユラノは医務室、それもICUと書かれたところに連れて来られた。浪尾がカードで扉を開け、待合室らしきところで腕全体の消毒を行い、マスクを付ける。ユラノもそれに倣って動く。

 浪尾はカードを機械に読み込ませ、次にテンキーを叩いた。すると、横のモニターに看護婦の顔が映った。

「俺だ、入るぞ。連れもいる」

「どうぞ。但し、お静かに。先ほど治療が終わったばかりですので」

「了解した。行くぞ」

 自動ドアが開き、浪尾を先頭に、ユラノが入る。

 ICUの中は、想像していた以上に緊張感の糸で張り詰められた空間で、呼吸がしづらかった。マスクのせいではない。この緊張感が、酸素を薄く感じさせているのだ。

 浪尾に着いて行ったその先で待っていた者は。

「ッ!」

 体のあちこちが輸血の他、薬を体内に入れるためのケーブル、心臓モニタリングのケーブルで繋がれ、酸素マスクを付けた真奈であった。目は閉じている。ユラノは真奈に駆け寄ろうとしたが、浪尾に制止された。

「何でッ!」

「ICUだからに決まっているだろう。呼吸はしている。安心しろ」

 そんな問題ではない。何故、どうして真奈がここに、こんな危険なところにいるのか。

「どういうこと、ですか……?」

「怪我を負ったからここにいる。ここが一番安全だからな」

「そうじゃなくて――」

「言いたいことは分かっている。ここでは駄目だ。こっちに来い」

 と、ユラノは浪尾に引っ張られ、ICUの外に出た。ICUの扉は分厚いので、外での会話はほぼ間違いなく聞こえない。

 ユラノは、真奈が怪我を負っているのは知っている。だが何故、ここにいるのかが、腑に落ちていなかった。

 真奈からLINEで仕事のことを訊いていた時、凄く楽しい仕事だと聞いていた。やりがいのある仕事だと聞いていた。

 この大怪我が、その楽しい仕事なのだろうか。

「俺だって、止めたかった」

「……?」

 しばらく両者口を開いていなかったが、先に沈黙を破ったのは浪尾だった。後悔の念に包まれた声で、話し始めた。

「ガミエルの戦闘実験では出なかった、必ずあるであろう問題点をこの目で調べたい。あの目は、世界を救わなければならない。そのためならば、自分の身などどうなろうと惜しまない。決意を秘めた輝きだった。だから俺は主任をヘリに乗せた」

 自分の行ったことを振り返るように話しをしていた浪尾だったが、ユラノは途中から涙を流し、話を聞けるような状態ではなかった。膝から崩れ、嗚咽し、無力感に駆られ、あの顔が血で真っ赤に染まった真奈が、視界に鮮明に浮かんでくる。

「それが、それが間違いだった」

 懺悔を吐露するように言葉を発していく浪尾。

 フラフラと立ち上がったユラノは、目が赤くなり、また、怒っていた。目の赤さが怒りを際立てている。

「あなたが、あなたたちが真奈をこんな……!」

 浪尾はフッと笑った。気味の悪い笑みであった。そして、浪尾はユラノに詰め寄って、まくしたてた。

「俺たち? 違うな。ゾグマだ。悪いのは全てあの悪魔だ。俺たちに牙を向けられても困る。人間には、たった一人の命を確実に救うことすら出来ん。だがあの悪魔は、確実に、人間の命を奪うことが出来る。そう考えれば、人間も同じではあるが、やつは人間ではない。怪獣だ。悪魔だ。殺すことが本能だ」

 ユラノはワナワナと震えた。浪尾の言っていることが全て正しいとは思わない。だが確実に、ゾグマは人間を殺す。浪尾たちが悪いとは思う。だが、もっと悪いのはあの悪魔のゾグマだ。それだけは分かる。

「憎むべき対象は俺たち自衛隊ではない。ゾグマだ。ゾグマを憎め」

 どこまでもゾグマに憎悪を抱く浪尾の言葉に、ユラノは押された。

 何が正しいのか、何が正しくないのか、何が悪いのか。そんなものはもう、この時代では区別をつけられないだろう。

 だからこそ、本来なら時間を懸けて徹底的に自問自答を行い、真の答えを導き出すべきなのだが、そんな時間は無い。次にゾグマが現れるのがいつかは分からない。

 これが、あの赤い紙に書かれていた内容。意味。自分に、自衛隊員になれという内容。そして、あの巨大ロボットのパイロットになれという意味。

 まるで戦中の日本軍のようだと、ユラノは今更ながらに思った。だが、その元凶がゾグマであるということも、ユラノは理解出来ている。

「……分かりました、あのロボットに、乗ります」

 浪尾は少し口角を上げながら、

「よく言ってくれた。では次の場所だ」

 さっさと歩き始めた。まだ行かなければならない場所があるのかと、ユラノは浪尾に気づかれないようハァ、とため息をついた。

 しかしそれも、対Z兵器開発局の廊下を歩いていれば話は別。廊下の窓からは、水の中が見えた。

 対Z兵器開発局は、緑に覆われた地上入り口と木々でカモフラージュした地上の電磁カタパルトを除けば、元菊水山駅の周辺にある石井ダムの中に、その本体はある。だから、廊下からは水の中が見える。基地全体が殆どダムの中なので、水の中にいるような、そして何だか懐かしい感覚に、体全体が包まれる。

 だがユラノは、そんなことを感じている暇もなかった。少々ふらつきながら歩いていた。浪尾にさっさと来いと呼ばれる。浪尾を怒らせたくなかった、いや、浪尾に怒られたくなかったので、ユラノは何とか追いついた。

 

 

 ケイスは医務室のベッドで食事をとっていた。が、不満な顔をしている。箸を置き、師長にねぇ、と声をかける。

「何で怪我人用のご飯はいつ食べても不味いわけ? ねぇ師長さん」

 師長はケイスのパジャマの予備を畳んでいた。一週間前は術後もまだ出血していたため、パジャマ交換が頻繁だった。現在は最新の医療技術で、もう殆ど問題無いレベルにまで来ている。そしてケイスは自分パジャマなどを自分で畳まない。面倒くさいからだ。干したら干しっぱなしの服を着るような性格のため、基本的に身辺整理は師長などに任せている。

 師長はパジャマ全てを畳み終えて、ケイスの前に立った。

「あたしに聞かないでおくれよケイス。栄養のことを考えたら、そういう味になるんだって言われたんだし」

「不味い不味い、あー不味い」

「そんなに文句あるなら食べなくてもいいよ」

 と、師長はお盆に載っている料理を纏めて下げようとした。ケイスは慌てて、

「あーそんな待って待って、食べる! 食べます!」

「ならよろしい」

 師長は笑顔で医務室から出て行った。勝ち誇ったような笑顔であった。

 何でこんな不味いもの

 ケイスがそうボソッと呟いたら、医務室の自動ドアが開いた。師長だった。恐らくケイスがちゃんと食べているか、様子の再確認だろう。ケイスは慌てて愚痴を言うのをやめた。師長はよし、とでも言わんばかりの笑顔で出て行った。

「心臓に悪っ……」

 しかし本当に不味い。見た目が良ければまだ良いが、見た目すら悪い。魚の煮つけ、野菜のお浸し、味噌汁、白飯、漬け物と至ってシンプルなのだが、白飯と味噌汁以外、何故か色が悪い。魚の煮つけは関東の濃い口醤油を使っているのか茶色が濃い。野菜のお浸しも濃い口醤油で味付けをしているのか、野菜の色鮮やかさが完全に死んでいる。しかし、何と言っても漬け物だ。大根の漬け物。一体何日経ったのか分からないような物を出している。他の物はまだ濃い口だと分かれば食べられるが、どうにも目の前の漬け物だけは食べられない。逆に腹を壊すのではないかとケイスは思った。

 インターホンが鳴る。また師長でも来たのだろうかと思い、どうぞー、と投げやりな感じで言った。

 浪尾だった。面白くない。どうせまた作戦の話でもしに来たのだろうと思うと、浪尾の後ろに隠れていたユラノが顔を出す。

 ポニーテールは茶髪。腰まである青のカーディガンに黒のTシャツ、白のすらっとした脚を魅せるパンツ。

 要するに、綺麗だな~~~~~とケイスは思っていた。が、自分が自衛隊員であるということをすぐに思いだし、

「誰?」

 と、浪尾に尋ねた。答えたのは浪尾ではなく、ユラノであった。

「ゆ、ユラノ・呉島と言います……」

「何で民間人がここにいんのよ、浪尾」

「ケイス、後は任せた」

 浪尾はケイスの質問を完全に無視し、自分のことだけを言う。

 ケイスは多少不満だったが、

「何を」

 と、答えた。

「ユラノ・呉島はガミエル2号機のサブパイロットだ。色々と教えてやれ」

「……えっ、ちょ。……はぁ!?」

「俺は仕事があるんでな、じゃあな」

 と言って、浪尾は逃げるように医務室から出て行った。

「あの面倒くさがり男め……」

 恨めしそうにケイスはドアを見続けた。

 一人残されたユラノは、何とも居づらそうな感じだった。だからと言って、ケイスが出来ることは無いので、不味い食事をひたすら頑張って残さずに食べる。

 医務室に訪れたのは、ケイスが食べ物を噛み、飲み込む音と、気まずい沈黙。ケイスにとっては、その沈黙が逆にありがたかった。この不味い食事の味をそこまで感じることなく、飲み込むことが出来た。

 食事も終わり、さてどうしようかと思っていたケイスだったが、沈黙を壊したのはユラノだった。ケイスに話しかけたのだ。

「何?」

「あのロボットって、ガミエルって言うんでしたっけ?」

「サブパイロットなんでしょ、それぐらい覚えなさい」

「凄いなぁって思って」

「どこがよ、あんな欠陥兵器」

「欠陥?」

「アタシに怪我を負わせたのは、あのガミエルの性能が低かったのと、暴走したからよ」

 そう言われてユラノは、まるで真奈が批難されているような気がして、ムッとなった。だが、強く言うことは出来ない。諭すように言う。

「で、でも他の人が開発していたら、もと酷いことになってたかもしれないんですよ……?」

 その発言に、ケイスは引っかかりを覚えた。

「あなた、もしかして立原主任のことを知っているの?」

 ユラノは驚いたように、少し後ろに下がった。

「多分、誰にだって分かるわよ、今の発言」

「そ、そうなんですか……」

「まぁ悪いことじゃないから別に直す必要は無いと思うけど。しかし主任の知り合い、か」

「な、何かあるんですか?」

「まぁいずれ分かるわよ。早ければ今日にも、ね」

 その言葉は重く、暗かった。

 ユラノは何だか嫌な予感がした。

 

 

「ガミエル2号機、本体整備と調整、終わりました! 後はOS移植作業だけです!」

「よし、やってくれ」

 格納庫でガミエル2号機の細かな調整指示を出していた国枝。現在は真奈が瀕死のため、ガミエル開発責任者としてガミエル2号機の調整を行っている。

 格納庫に、二人の男が現れた。一人は浪尾。もう一人は、浪尾も国枝も苦手とする、マッドサイエンティストと呼ぶに相応しい、ガミエル開発主任代理の男。

「北岡、か……」

 北岡は卑しい笑みを浮かべ、目を爛々と輝かせながら、ガミエル2号機に近づいた。

「北岡、危険だから離れてろ」

 北岡は今にもガミエル2号機に、女を抱くかのごとく触れようとしていた。ピタっとロボットのように止まり、腕をあげたままの態勢で、国枝の方に振り向いた。卑しい笑みはそのままに。

「何故です? 人類史上初の、脳と脊髄を機体のOSとした移植作業、一科学者としてこの目でしかと見届けなければなりません」

 その答え方は、まるで田舎から旅行で、東京スカイツリーを見に来て興奮した子供のようだった。

 国枝は、ため息をつきながら、

「……順調だよ、移植作業は」

 北岡は未だ先ほどの態勢で静止状態だった。

「しかし、人道に反するな、これは……」

 浪尾が移植作業を見ながら、そう唸る。

 それを聞いた北岡が、浪尾に近づく。頬を紅潮させ、更に興奮していた。

「人類がゾグマに勝つためです。止むを得ません。それに、このような素晴らしい技術、素晴らしいOSを搭載したロボットのデータを取るのは初めてです。早くテストをし、データを取り、ゾグマを抹殺してもらいたいものです」

 北岡は早口でそう言った。

 浪尾は、北岡の無邪気さに苛立ちと怒りを覚え、北岡の胸倉を掴み上げた。

「それが人間の言うことか、貴様……!」

 そう。人間OS。それは、誰もが残虐で危険で人道に反するものだということは分かっている。そして、人類がゾグマに勝利するには、もうそうするしかない。だが、この北岡というマッドサイエンティストは違う。

 北岡という科学者は昔から人体実験などが大好きで、今回のようなことは夢で何度も見た夢のようなことだ。人間の脳と脊髄をOSとし、巨大ロボットを駆動させる。こんなこと、もう二度と無いだろう。だから、北岡は興奮し、盛り上がる。長年の夢を叶えられる、心を子供のままにして、体は大人になってしまった腐った人間のように。

 国枝が間に入り、浪尾を落ち着かせる。浪尾が深呼吸を数回した時。

 基地全体にゾグマ出現警報が鳴った。浪尾は近くにあった館内アナウンス用マイクで、第一種戦闘態勢を出した。

「こんなにも速く……!」

 ゾグマのデータは長年取り続けていたが、まさかたった1週間で回復するまでに進化しているとは、誰もが予想していなかった。速い。あまりにも速すぎる。

 他の自衛隊基地に連絡を取ってみたところ、戦闘機も戦闘ヘリも戦車も、最低限しか出せないという答えが帰ってきた。1週間でゾグマに検知されずに運ぶことは可能だが、数は所詮知れている。第一中央神戸市の防衛システムも半分が破壊されており、長時間の足止めは不可能。さて、司令官としてどう指示を出すのが一番か。悩んでいたその時。

「OSの移植作業、終わりました!」

 ミカが大声で報告をした。浪尾はミカに問う。

「実戦に出せるか!?」

「えぇ!? いきなり!?」

 驚くのも当然のこと。フィクションならテスト無しで動かしたら、驚異的な性能を見せつけて、敵を殲滅するのがロボット物の常。しかしここはフィクションではない。現実だ。そんな都合の良い話、あるはずがない。ミカはそう考えていた。

 しかし浪尾の問いに答えたのはミカではなく、北岡であった。

「カタログスペック通りなら、機体には問題無いでしょう。あとはパイロットの問題です」

「北岡!」

「構わん。今はゾグマ撃滅が最優先。1パーセントでも可能性があるのなら、それに賭けるまでだ」

 国枝が反論するが、浪尾はスマホでケイスを呼び出した。今すぐ格納庫に集合、ユラノも連れてくること、と簡潔に伝えた。そして、司令室に第三東神戸市陸自基地の山村3等陸佐と、同じ第四北神戸市の黒田3等空佐に発進要請をするよう連絡を入れた。

 無理を言っていることは分かっていた。だが、やらなければ人類は滅ぶ。

 浪尾は発進準備に入ったガミエル2号機を見上げた。

 新しくなった、悪魔のような、鋭い顔つき。1号機と全く異なる、完全な人型の四肢。しかしどこも尖った印象を感じさせる。胸部だけはOSの都合で1号機の流用。そのため、微妙に胸部だけが見た目には浮いている。

「次こそは、必ず……」

 

 

 

 

 

「対Z兵器開発局からお呼びがかかったぞ、黒田3等空佐」

 山村は、やりきれない感じで黒田に言う。

『そっちもな、山村3等陸佐』

 黒田もまた、山村と同じであった。

 結局、航空戦力も地上戦力も、総力を投入してもゾグマの足止め程度にしかならない。それは、市民を守る自衛隊員として、本当に役目を果たせているのだろうかと、疑問に思うことだ。

 だが、果たせる果たせないの問題ではない。

 果たさなければならない。

 山村は基地に補給された僅かな数の90式戦車と、本来後方支援用の88式地対艦誘導弾搭載車両を。黒田も同じく補給されたF-15J改とAH-1Sを、予備を残して発進させた。数は当然足りていない。しかし、これでやるしかない。やらなければ、ゾグマに人類が食い殺されるだけだ。

 

 

 

 

 

 黒田と山村が戦力を出している時、ユラノとケイスはガミエル2号機のコックピットの中で、浪尾から操縦のレクチャーを受けていた。コックピットのメインモニターの一部に、浪尾が映し出されている。

『呉島特別陸尉、確認だ。貴官のやることは?』

 ユラノは急遽実戦投入のため、特別陸尉という扱いを受けていた。が、基本的には「陸尉」に「特別」が付いただけで、浪尾より階級が下であるということに変わりはなかった。

「え、えーと、レーダーの監視。ガミエル2号機の武装ロック解除。大容量電池のバッテリー確認と、現地での電力補給ケーブルの接続操縦補助。……ですよね?」

『そうだ。では次に作戦内容の確認だ。ベレレン3等陸尉』

「いつも通りでしょ。何で言わなきゃならないのよ」

『そういう決まりだからだ』

 しかし、ケイスは何も言わなかった。コックピット内には、無言とガミエル運搬列車の車輪がレールを走るゴォォォォォ、という音しか聞こえない。それなりに真面目な性格のユラノにとってこの無言はかなり気まずかった。

 モニターの向こう側の浪尾は、遂に無言に我慢できなくなり、合掌し、

『言ってくれ、頼む、でないと俺の面目が立たない……』

 ユラノたちだけに聞こえる程度の小声で言った。しかし、ガミエル2号機、というより普通の戦車や戦闘機でも会話のやり取りは機械に記録されるので、どんなに小声で言ってもしっかりと跡は残る。

 浪尾がそんなことを知らないはずがない。だが、そうでもしないと気が紛れなかったのだろう。ケイスが諦めたようにため息をつき、答える。

「残っている戦車、戦闘機隊、第一中央神戸市の防衛システムでゾグマを足止め。その後、ガミエル2号機とグラインバードのレーザー火器で一気に攻撃、撃滅。でしょ?」

 ケイスが作戦内容の復唱をしてくれたことに、浪尾は分からないように安堵した。高感度の記録装置を搭載しているため、全てが終わった後、彼がどうなるかは分からない。そんなことを知らない浪尾は、司令官として声を張った。

『その通りだ。では、到着以後の通信は光ケーブル通信のみとする。以上。通信終わり』

 浪尾との通信が終わった後、しばらくの間、沈黙があった。ケイスのメインパイロットコックピットと、ユラノのサブパイロットコックピットは同じコックピットにあり、空間を共有している。ユラノのサブパイロット席の方が一段高く、ケイスのメインパイロット席の方が一段低い構造となっている。

 ユラノにはその間、真奈のことを考えていた。本当はガミエル2号機の操縦のマニュアルを読まなければならないのだが、どうしても瀕死の真奈のことが気になって仕方がなかった。呼び出しがかかった時、浪尾は「主任がゾグマに食い殺されてもいいのなら、出撃しなくても構わない」と言った。最早脅し以外の何物でもない。そんな人間たちに、真奈を託しても大丈夫なのだろうか。それがずっと頭の中を駆け巡っていた。

 だが、やらなければならない。やらなければ、ゾグマは日本を、全世界を、いや、その前に真奈を食い殺す。それだけは何としても防がなければならない。

 もう、後ろに足場は無い。崖っぷちである。

 心を落ち着かせる。深呼吸を何度もする。すると、運搬列車の走る音が鮮明に聞こえてくる。

「今のうちに何度も深呼吸しておきなさい。どうせ実戦になったら、最低限の呼吸しか出来ないんだから」

 そう言うケイスも、深呼吸を繰り返していた。ケイスはケイスで、シミュレーション無しで、いきなり新型機による実戦で、しかもメインパイロットである。緊張するのも無理はない。

 だからこそ、ユラノは少しだけ安心することが出来た。

 刻一刻と列車は第一中央神戸市に向かっている。

 ゾグマに近づいている。

 実戦が近づいている。

 ユラノにとって、初めての実戦。ケイスにとって、初めての状況での実戦。

『ガミエル2号機、第一中央神戸市到着! 発進準備開始!』

 赤木の通信により、ユラノとケイス、そしてガミエル2号機が現在、どこにあるのかが分かる。コックピット内の緊張感が一気に高まる。

 ユラノは、左右に施されたL字型サブコントロールスティックをしっかりと握りしめる。

『脊髄神経接続システム、コネクト開始!』

 ケイスがパイロットスーツの背中の接続端子に、ケーブルを接続する。少し呻くが、すぐに立ち直る。

 脊髄神経接続システムはその名の通り、パイロットの脊髄神経から送られる電気信号を、機体のOSにダイレクトに送り、認識、アクションを実行させるシステムである。従来の戦闘機の操縦桿方式で、人型ロボットの操縦はよほど高度なOSを搭載しない限り不可能なため、脊髄神経接続システムを採用している。当然欠点もあり、ケーブルの先端に付いている針が脊髄に「直接」接続しているため、その痛みがパイロットの負担となる。

『脊髄神経接続システム、問題無し』

『ハッチ解放。ガミエル2号機、発進態勢。運搬固定ボルト解除。ベッド直立。上部に障害物認められず。司令、いつでもいけます!』

『ガミエル2号機、射出!!』

 浪尾の指令と同時に、ガミエル2号機が地下から地上に射出される。

 一度目の出撃と変わらない、強烈なGがユラノとケイスを襲う。特にユラノは対G訓練なども全く受けていなかったため、呻いていた。ケイスは何も言わない。迂闊に口を開いたら最後、舌を噛んでしまうからだ。

 カタパルトレールのゴールに着き、ガミエル2号機は急停止する。

『最終安全ロック、解除!』

 ガミエル2号機の四肢をロックしていた固定器具が次々と解除され、ガミエル2号機は少々猫背の体勢になる。

『武装ハッチオープン! ハイパー・レーザーライフルと、耐アッシリアビームコーティングシールド、それと通信用光ケーブルです!』

 ガミエル2号機の右腕に、ライフル型のハイパー・レーザーライフルを保持させ、左腕に耐アッシリアビームコーティングシールドを、機体の人間で言うところの脊髄部分に光ケーブルが固定される。

『シールドでビームを防げる時間は10秒が限界です、注意してください!』

「了解。ユラノ、火器ロック解除お願い」

「は、はい!」

 ユラノはサブコントロールスティックと正面HUDのタッチパネルを操作して、全兵装のロックを解除する。

「頭部75mmバルカン砲、ハイパー・レーザーライフル、ハイパー・レーザーソード、ハイパー・レーザーナイフ、耐アッシリアビームコーティングシールド、ロック解除確認」

 さぁいざ出陣、と意気込んでいたその時。国枝から通信が入った。

『ベレレン3等陸尉、ガミエル2号機は武装をほぼ全てレーザー火器だ。それが原因で、稼働可能時間が少なくなっている。電力補給ケーブル無しでの稼働時間は5分だ』

「随分短くなったものね」

『どうにもならなかった』

「やれることをやる。でないと、あいつに殺されるだけってのは、御免なのよ」

『健闘を祈る』

 そうして、国枝との通信は終わった。国枝がああいうのだから、これでもかなり頑張った方なのだろうと、ケイスは一人、整備員たちに感謝した。

『ガミエル2号機、発進!』

「了解! ガミエル2号機、発進!」

 ガミエル2号機を、ケイスが歩かせる。いや、脊髄神経接続システムでダイレクトに操縦するため、実質「ケイスが巨大ロボットの姿で歩いている」とほぼ同義だ。そして、ガミエル1号機との最大の違い。それは、自らの足で、地面を動けることだ。ズシン、と体全体に、ガミエル2号機の歩行音が響き渡る。

 1号機はその機体脚部の形状のため、一応歩行は可能であったものの、バランスが悪かったため、ホバリング移動をしていた。しかし、2号機はほぼほぼ人型の足をしているため、パイロットもバランスが取りやすい。

「さて、行くわよ、ユラノ。しっかり掴まってなさい!」

「ど、どうぞ!」

 メインモニターには、既に戦闘を開始している戦車隊などが映し出されていた。早く行かなければ、全員がゾグマにやられてしまう。

 ケイスはガミエル2号機を走らせながら、バックパックに搭載されているハイパーブースターを点火、ハイパー・レーザーライフルの射程内にまでガミエル2号機を近づける。

「当たれぇ!」

 ガミエル2号機はハイパー・レーザーライフルを構え、走りながらゾグマに攻撃を開始する。光速の熱攻撃がゾグマに直撃。しかし、まだ距離が足りないため、ゾグマの強固な皮膚で防御され、有効的なダメージを与えることが出来てない。更に接近し、ライフルを連射する。

「ケイスさん、砲身温度にも注意してください! そんなに連射すれば!」

「分かってるわよ! 三点バーストに切り替え!」

 ケイスはハイパーブースターをカットし、自走のみにする。いくら市街地が地下に避難しているとはいえ、都市防衛機構用のビル群があるここでは、ブースターでの移動はかえって邪魔となる。

 ゾグマともう500mもない地点からによる三点バースト攻撃。

 だが、それでもダメージが通っているようには思えなかった。レーザーが直撃する度に、光が拡散している。

「まさか、耐性が?」

 ケイスの懸念に、ユラノが反応する。

「耐性?」

 ケイスは、依然ハイパー・レーザーライフルを撃ちながら答える。

「そう。ゾグマは以前受けた攻撃に対して、耐性を付けることがあるの。まぁ俗に言う、進化ってやつね」

「それじゃあ……」

「ネガティブにならない! ライフルが効かないなら、剣で勝負よ! 浪尾、グラインバードは!?」

『あと10秒程だ、凌いでくれ!』

「遅い! 仕掛ける!」

『待てケイス、早まるな!』

 ケイスは浪尾の指示を無視。ガミエル2号機の右腕に装備されていたハイパー・レーザーライフルを手放し、耐アッシリアビームコーティングシールドの裏面に取り付けられているバトン状のモノ――ハイパー・レーザーソードを展開。ハイパーブースターを再度点火させ、一気にゾグマに接近する。

 ゾグマもアッシリアビームを発射するのを止め、体をガミエル2号の方に向け、近接戦態勢に入る。

 ジャラジャラという音が、ゾグマの周囲で響く。ゾグマの尻尾にある、本体の皮膚と同じ物質で出来た強度と、それを活かした切れ味を持つ、蛇腹尻尾剣だ。

 ケイスは蛇腹尻尾剣の存在を忘れていたわけではない。だが、ガミエル2号機の持つ新型近接装備がどこまでゾグマに効果があるのか。それを知りたかった。

 ゾグマまで距離100メートルという地点で、ゾグマは蛇腹尻尾剣をガミエル2号機に向け、ビュッと放った。

 ケイスはガミエル2号機のハイパーブースターを解除後、補助スラスターを点火、寸前のところで回避。蛇腹尻尾剣を頭部75mmバルカン砲で迎撃。そして一瞬だけ隙の出来たゾグマに、ハイパーブースターの最大速度で接近する。

 右腕に装備された、希望の光の剣。目の前の闇を打ち砕くために造られた、正義の剣。誰もが、そうだと思っていた。

 しかし。

「そんな!?」

 ハイパー・レーザーソードは確かにゾグマの皮膚を斬り裂いた。しかし、超高温レーザーを束ねた攻撃は、ゾグマには無意味であった。

 つまり、ダメージが殆ど通っていない。牽制攻撃で使ったハイパー・レーザーライフルの時よりかはマシであったが、この程度では、何百回、いや、何千、何万、何億回と斬らないと、ゾグマの致死ダメージには至らないだろう。そして、ゾグマには再生能力が備わっている。

 そう、今のガミエル2号機の装備、いや、グラインバードでの攻撃も、殆ど無意味であろう。

 呆然とするケイス。それは即ち、ガミエル2号機も棒立ちになるということだ。

 突っ立っただけのガミエル2号機に、ゾグマの蛇腹尻尾剣が襲いかかる。ガミエル2号機の左腕が、いとも簡単に斬り裂かれる。

「グッ……ガァァッッ!!」

 脊髄神経接続システムはその名の通り、機体とパイロットの神経を直結させるものであり、機体にダメージが入れば、それが大きな損害であるだけ、パイロットにもダメージが入る。つまり、この場合、ケイスは左腕を切断され、大量の血が噴出している感覚に陥っている。疑似痛覚であるため、本当に斬られたわけではないが、その痛みは計り知れない。

 しかし、痛みに呻くケイスの声と共に、ユラノには別の声が聞こえていた。

 どこかで聞いたことのある声。身近で聞いたことのある声。とても親しみのある声。

「どうして……」

 どうして彼女の声がここで聞こえるのか。彼女はガミエル2号機には搭乗していない。基地で瀕死のまま、眠っているはず。

 なのに、何故。

 ユラノは目の前で痛がっているケイスにも目を向けながら、ガミエル2号機のOSを調べる。OSの深部まで探ると、信じられない文字が、HUDに表示された。

 Organic Operating System MANA。直訳すれば、有機OS真奈。

「嫌……そんなのって……」

 ユラノの呟きに、ケイスが反応する。

「何、してるの、ユ、ラノ……。操縦、系統は、そっちに、回したから、戦線離脱、するわよ……。逃げるのよ……」

「嘘、だって、こんな……」

「ユラノッ……!」

「何で、何で真奈の名前が、真奈の声が聞こえるのよぉ!!」

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