コックピット内にガミエル2号機改のエンジンの轟音が響く。ユラノはその轟音が心地良く聞こえた。ちなみにオートモードで飛行しているため、特に操縦を気にする必要は無い。
サブパイロット席に座っているケイスには、ユラノの顔を見ることは出来ないが、自衛官としての勘で、ユラノが何だかいつもと違うことに気づいた。
「どうしたの、ユラノ?」
「はい?」
ユラノは振り向くことなく答えた。振り向きたくても振り向けない。一応、メインモニターを見ておく必要は、いくらオートで飛行しているとはいえ必要だ。
「あなた、さっきよりもスッキリした感じね」
「スッキリなんてしてないですよ。ただ、このガミエル2号機改のエンジン音を、真奈の生命の音を聞いていると、何だか落ち着くんです」
穏やかな口調。とてもこれから人類の存亡を賭けた、最後で最期の戦いになるかもしれないというのに、その言葉は優しさに包まれていた。
「それと、気づいたことがあるんです」
と言って、ユラノは対Z兵器開発局との通信を一時的にカットした。
「何? アタシにだけ言いたいことって」
「やっぱり、真奈がまだ好きなんです」
「そんなこと知ってるわ。で、アタシにどうしろと? 諦めろって? 残念だけどアタシ、結構しぶといわよ」
「それは前回の戦闘で分かっています?」
「それじゃ?」
「真奈がどんな形になっても、私は真奈が好き。それだけです」
それだけ言って、ユラノは再度回線を繋ぎ直した。
すると、浪尾の怒号が飛んできた。
『何で回線をカットするんだ!』
「す、すいません!」
『第一中央神戸市に急行しろ! 残存都市防衛機構がかなり破壊され、民間人にまで被害が及んでいる!』
「都市防衛機構の殆どが破壊されたらしい」
長距離砲撃型新幹線「のぞみ」の砲撃遠隔操作室にいた山村は、端末で戦況を見ながら、回線の繋がっている黒田に言った。
『こちらでも見えている』
「対Z兵器開発局の巨大ロボット兵器は?」
『あと少しで到着するらしい』
「こちらは『のぞみ』が無事旧新神戸駅まで来ることが出来るかを心配し、更には『のぞみ』の攻撃が本当にあの悪魔に効くかどうかの心配もしなきゃならん」
『おまけに一発攻撃を喰らえばおじゃんと来た』
長距離砲撃型新幹線「のぞみ」は、その火力と引き換えに、装甲は連続砲撃に耐えられる程度、つまり最低限の装甲しか施されていない。ゾグマの蛇腹尻尾剣は当然、アッシリアビームを喰らえば一撃で沈む。それも、内部の弾薬を引火させ、大爆発を起こしながら。
だが、それでも使うしかなかった。
それぐらいに、人類は追い込まれているということが、山村と黒田にヒシヒシと肌に伝わった。
『ガミエル2号機改が第一中央神戸市に着いたらしい』
「あとはこちらの『のぞみ』か」
『神に祈るしかない』
「ガミエルは天使の名前を貰っている」
『人類を救いへ導く天使なのか。はたまた滅亡へ導く天使なのか』
「救ってもらわなければ困る」
『それもそうだな』
ガミエル2号機改のハイパーブースターを最大出力で噴射し、急いで第一中央神戸市の上空に到着してみたら、そこは紅蓮に燃え上がった、地獄の業火が支配する世界と化していた。その中を、人類を喰い殺す悪魔、ゾグマが我が物顔で街を蹂躙し、アッシリアビームを発射したりしている。
ユラノは思わず、右手に強化され、装備されたハイパー・ビームライフルを発射した。効果が無いということは分かっていた。
重金属を粒子レベルに溶解し、それを銃弾の形にして超高速で発射するハイパー・ビームライフル。現状、ガミエル2号機改の手持ち飛び火器としては最強の武装である。
しかし、ゾグマはそんなハイパー・ビームライフルを物ともしなかった。むしろ、何か熱いブツが触れた、という程度にしか見えなかった。
「ユラノ!」
「地上戦に移行します!」
ガミエル2号機改の背部に取り付けられた、グラインバードのバードウィングを畳んで、機体を業火が燃え上がる第一中央神戸市の大地に着陸させる。同時に、新神戸駅の防衛に回っていた戦車隊、戦闘機隊、ヘリ部隊もやって来た。更に、残り僅かとなった都市防衛機構も全て起動し、攻撃が開始された。
ガミエル2号機改は着陸した場所でまず背中に電力補給ケーブルを接続した。全ての兵装をビーム兵器に変更したガミエル2号機改はケーブルが無いと確実にまともに動かないからだ。そして、ハイパー・ビームライフルとグラインバードに装備されていたビームカノン二門を、銃身、砲身がオーバーヒートする寸前まで撃ち続けた。戦車隊、戦闘機隊、ヘリ部隊も持てる火力を一気にゾグマに投入した。そこに更に、都市防衛機構のレールガンとミサイルをありったけ撃ち込んだ。
が。
「高熱源反応! アッシリアビームだわ、ユラノ、避けて!」
「シールドで守ります! 耐アッシリアビームコーティングですよね!?」
「了解! 耐アッシリアビームコーティングジェル、展開!」
ギュイイイイインッッ!!
閃光となったアッシリアビームが、容赦無く人類に襲いかかる。
地上を薙ぎ払い、戦車隊が全滅し、そのまま空中のヘリ部隊と戦闘機隊に向けた。
超高温のビームは戦闘機をあっさりビーム剣のようにスッパリと溶断し、ヘリを光で呑み込んだ。
機体全体に耐アッシリアビームコーティングの他に追加された防御ジェルを纏わせていたガミエル2号機改だけが生き残った。同時に、アッシリアビームを発射したゾグマに、隙が生まれた。
「今よユラノ! ウルティメイト・フォース・ブラスターの準備!」
「もう出来てます!」
「準備が早いのは良いことよ! 発射!」
「了解! ウルティメイト・フォース・ブラスター、発射!!」
ユラノはウルティメイト・フォース・ブラスター使用ロック解除の掛け声を発しながら、コックピットの右側にある大量のスイッチを纏めて押す。
右腕のハイパー・ビームライフル、背部のビームカノン二門にロング・ビームキャノン、そして胸部に搭載されたハイパー・ビームブラスターを一斉に一点に向けて発射し、収束ビームとしてゾグマを攻撃する。それがガミエル2号機改の必殺技とも呼ぶべき武器、ウルティメイト・フォース・ブラスターだ。
いつアッシリアビームがガミエル2号機改に襲来してきてもいいように、耐アッシリアビームコーティングシールドと、全身に耐アッシリアビームコーティングジェルを再度展開する。
ウルティメイト・フォース・ブラスターと、アッシリアビームが同時に放たれた。
一方は虹色に輝く人類の希望の塊。
もう一方は人類を喰い殺す闇の輝き。
光と闇が衝突した瞬間、凄まじい爆風が生じた。
ガミエル2号機改は何とかハイパーブースターで耐えたが、残存していた都市防衛機構は全て爆風で吹き飛ばされた。その破片と思わしき大きな物体が、ガミエル2号機改にぶつかる。
「ユラノ、今しかないわ、ハイパー・ビームソードで奴を!」
「は、はい!」
ハイパー・ビームライフルを腰にマウントさせ、ガミエル2号機改の耐アッシリアビームコーティングシールドの裏側に装備された、大出力のビーム剣、ハイパー・ビームソードを展開した。ハイパーブースターを噴射させ、一気にゾグマに接近する。
全長75mもの人類の希望の巨体が爆風の中を一気に駆け抜け、ゾグマを視界に捉える。
しかし。
「!? あの動き……! ユラノ!」
時既に遅し。
ケイスがユラノに忠告する前に、ゾグマはガミエル2号機改に向けて三つの蛇腹尻尾剣を放った。
ユラノは蛇腹尻尾剣の存在はデータでは知っていたものの、まだゾグマとの距離はハイパー・ビームソードの届かない距離であったため、警戒していなかった。と言うよりも、初実戦のユラノに蛇腹尻尾剣の軌道と速度を予想して、ガミエル2号機改を操縦しろという方が無理なものである。
ガミエル2号機改は三つの蛇腹尻尾剣を何とか回避しようと各部に装備された補助スラスターでランダムに動いたが、回避しきれず、遂には耐アッシリアビームコーティングシールドを装備した左腕を破壊された。
「ッ――……!」
脊髄神経接続システムでガミエル2号機改と痛覚までもが繋がっているユラノは、言葉にならない悲鳴を上げ、もがき苦しんだ。コックピット内の機器から火花が飛び散ると同時に、ユラノとケイスの耳に、真奈の痛がる声が聞こえた。
ゾグマは悪魔らしく、身動きの取れないガミエル2号機改に対して、更にアッシリアビームを放った。
ケイスはガミエル2号機改の操縦系統を一時的に自分のものにし、何とか各種バーニアを使ってアッシリアビームの直撃を回避した。しかし、完全回避とはいかなかったため、一部の姿勢制御用バーニアが破損した。
「ユラノ、大丈夫!?」
「な、何とか……」
ユラノは立ち上がり、操縦系統を元に戻した。
すると、ゾグマが突然行動を停止した。
「な、何……? なんなの……?」
ユラノは恐怖した。あれほど活発に動いていたゾグマが、突然行動停止するなど、何かがあるに違いない。
そう感じていたのはユラノだけではなく、ケイスも、対Z兵器開発局の人間も同じであった。
対Z兵器開発局では、ゾグマの突然の行動停止で慌ただしく動いていた。浪尾はメインモニターに映し出されていたゾグマを見て、驚愕していた。
こんなことは今まで一度も無かった。少なくとも、ゾグマが日本に上陸する前でも、こんなことはなかった。
「ゾグマの反応は!?」
「生体反応は確認出来ています!」
「なら殺せるというものです! 呉島特別陸尉、ウルティメイト・フォース・ブラスターを使いなさい!」
浪尾の後ろに立っていた北岡が突然叫んだ。
「北岡!」
北岡は浪尾の胸倉を掴み上げて、目を真っ赤にしていた。
「今殺さなくていつ殺すのですか! 奴は我々を喰い殺しに来たのですよ!」
「今攻撃したらどうなるか分からない! 奴の体内には大量の酸素があって、それが更に増えているとして、攻撃でもしてみろ! 考えられない規模に爆発が生じるぞ!」
「浪尾司令!」
赤木が浪尾を呼んだ。
浪尾は北岡を強引に引き離した。
「何だ!?」
「ゾグマに変態現象確認! 映像、出します!」
と、別の場所に付けられたカメラから撮影された映像が、メインモニターに映し出された。
そこには、正に悪魔とも言うべき光景が映されていた。
「あ、あれって……」
「つ、翼……なの?」
ゾグマの変態現象を静観していたユラノとケイスは、ゾグマの新たなる異様な姿を見て、恐怖していた。
ゾグマの背中から巨大な漆黒の翼が、自身の皮膚を破壊し出血しながら、生え始めていた。この青空を一瞬にして漆黒に染めるかのような禍々しい色だった。
恐竜型の怪獣に、翼が生えた姿は、正に伝説上の世界にしか存在しないとされているドラゴンのよう。いや、ドラゴンを越えた、人智を更に超えた、人類の破滅を導く史上最大の大怪獣と言えよう。
ゾグマはその漆黒の悪魔の翼を羽ばたかせ、青色が広がる空へと飛翔した。
そして、空からアッシリアビームを最早瓦礫の山と化した第一中央神戸市に向けて発射した。
暗黒の光が、地球の皮膚を砕き、剥がし、中心部を起点に大爆発が起こった。
「ユラノ、飛んで!」
「はい!」
ガミエル2号機改は爆発から逃れるため、ゾグマと同じように飛翔した。しかし、爆発の影響で、ガミエル2号機改の背部に繋がれていた電力補給ケーブルは切断された。コックピットに、機体の稼働可能時間が表示される。
空中から見た第一中央神戸市は、まるで太平洋戦争で空襲を受けた後のような、悲惨な有様だった。
都市防衛機構に使われたビルは全て崩壊し、残っていた市民の住宅街も全壊。家の中にあった大切な物を幾つかは持ち出しているだろうが、残っている物は全て燃え尽きただろう。何より、家という大切な帰る場所と、思い出を一度に奪ったゾグマは、正真正銘の悪魔と言える。地獄絵図という言葉が一番相応しい光景であった。
ユラノはそれを見て、絶句していた。しかし、目の前には翼有化したゾグマが、ガミエル2号機改を見据えている。
「ユラノ!」
「ッ……!」
ゾグマがアッシリアビームを放つ。もう耐アッシリアビームコーティングジェルは殆ど残されていない。使えても、精々あと一回というのが限界であった。それに加えて、電力補給が出来ないという状況。
ユラノはとにかく回避に専念した。バッテリーをなるべく消耗しないよう、慎重にハイパーブースターと補助スラスターを吹かした。
その最中、対Z兵器開発局から通信が入った。ケイスが対応する。
「この忙しい時に何!?」
『ウルティメイト・フォース・ブラスターを使うのです!』
「はぁ!?」
通信の相手は浪尾ではなく、北岡であった。
北岡は浪尾が使っていたインカムを奪い取り、マイクの部分を掴んで叫んでいた。
「北岡!」
北岡は浪尾の制止を振り切り、マイクに向かって続けた。
「いいですか! 奴を殺すには、ウルティメイト・フォース・ブラスターしかないのです! まだ飛行に慣れてない今がチャンスです! 撃ちなさい!」
『で、でも……』
ユラノからの答えは、躊躇いがあった。
北岡はそれを踏み潰すかのように言葉を返した。激情していて、普段敬語の北岡の口調はかなり荒くなっていた。
「この際一人の人間の意思がどうなろうと、私の知ったことではない! これは全人類の存亡を賭けた戦いだ! やれ!」
それを聞いた瞬間、浪尾は北岡からインカムを強引に奪い取り、殴り飛ばしていた。
「何をするか!」
「あんた、人間の命をなんだと思ってる!?」
「幸いまだビーム兵器は効くというのに、貴官はそれを邪魔するというのか!?」
「まだ分からないか!」
「何を!」
浪尾は荒れた呼吸を一旦鎮め、そして再び声を荒げた。
「あんたのやり方では、ゾグマには勝てない!」
「私は主任だぞ!」
「人の意思も尊重しない奴など、あの神戸の上空にいる悪魔と何ら変わらない!」
「私は悪魔でも何でもいい! 殺さなければ、私が死ぬ!」
「本音が出たな」
「ッ!?」
北岡は何を言っているか分からない、とでも言いたげな表情で浪尾を見ていた。
浪尾はその表情を見て、胸倉をガッと力一杯掴み上げた。
「自分は死にたくない。でもゾグマは殺さないと自分は死ぬ。そのためには何でも使う。たとえそれが、年端もいかない子供であっても」
「その通りだ! それの何が悪い――」
「おい誰か、こいつを独房にでも突っ込んでおけ! こいつがいたら、それこそ人類が滅ぶ!」
浪尾は警備を呼び、北岡を強引に連れ出してもらうよう指示した。
あまり力の無い北岡は、あっさりと二人の警備に両脇を抱えられ、司令室が去ろうとしていた。
北岡は司令室から出る間際、浪尾の隣に立っていた国枝に声をかけた。
「国枝、何とかしてくれ! その男は、人類を滅亡に導こうと――」
「黙っていろ屑! それと俺は2等陸佐で、貴様は特別陸尉。呉島特別陸尉と同じ階級だろうが! けど、それも変わったな! あんたに階級を与えた俺たちが馬鹿だったよ! 独房で大人しくしておけ!」
こんな奴を置いていては、本当に人類は滅ぶ。害虫はさっさと追い出した方がいい。国枝はそんな目で北岡を見ていた。
北岡は司令室から出る際、何か喚いていたが、もう浪尾と国枝の耳には届いていなかった。
真に人類のことを考えない、ただの邪魔なマッドサイエンティスト。
浪尾は頭を切り替えて、国枝に問うた。
「国枝2等陸佐。質問があります」
「国枝でいい、浪尾戦闘指揮司令。で、何だ?」
浪尾はそれまでピシッと綺麗に直立して、国枝と話していたが、それを聞いた瞬間から、姿勢を楽にした。
「ゾグマの体内で爆発を起こさせれば、奴は爆散するか? それと再生機能は奴にはあるのか?」
国枝は両腕を組んだ。
「まず再生機能から。あると言えば、ある」
「そうか……」
「悲観的にならなくていいぞ、浪尾。その再生速度を上回ればそれでいいだけだ」
「それは、内部でビームライフルを撃てば、出来るのか?」
「何をするつもりだ?」
「一度だけならチャンスはある」
ガミエル2号機改は背部にグラインバードを背負っているため、空中戦が可能だ。だが、可能なだけであって、ガミエル2号機改本来のスピードを発揮することも出来なければ、火力も出すことが出来ない。
つまり、実質飛べるだけ、である。
空中で使用可能な武器は、装備されている武器のどれか一つのみである。全てがビーム兵器となった以上、これまで以上の電力を使用するからだ。
しかし、その肝心の重金属溶解ビーム兵器も、ゾグマにはあまり効果が無いように見て取れた。
「電磁波吸収フィールドは貫いてるはずなのに……!」
「多分、奴の皮膚そのものが、ビーム兵器に対して進化してるのよ!」
ユラノとケイスは残存稼働時間に目をやりながら、最低限の回避運動でゾグマの攻撃を避けていると、
『ユラノ、ケイス!』
浪尾からの通信が入った。
「遅いわよ浪尾、何してたの!?」
『今から六甲山脈防衛システムを起動させて、大砲撃を開始する。旧JR新神戸駅にも長距離砲撃型新幹線『のぞみ』が到着していて、そこからの砲撃もあるから、注意してくれ!』
「ちょっと、いきなりすぎない!?」
『俺からは以上だ。国枝に代わる』
ケイスの文句にも反応せず、浪尾は通信を国枝と交代した。
『国枝だ。早速だが一発勝負の作戦に出る。これに失敗したら全てが終わる』
「さっさと言いなさいよ! こっちは回避で手がいっぱいなんだから!」
『砲撃で奴の電磁波吸収フィールドを強引に解除する。解除時間は恐らく3分とて無いだろう。その間に一気に接近し、背部に予備として装備させておいた超振動大剣を奴に刺せ。あの剣は改造で、内部に高出力のビームライフルが仕込まれている。それで内部からゾグマを爆散させろ。以上、通信終わり。健闘を祈る』
そうして、浪尾たちからの一方的な通信は終わった。
通信はユラノにも聞こえていて、既にガミエル2号機改は地上に向けて急速降下を開始している。
六甲山の方を見ると、既にそこは今までの六甲山ではなく、六甲山脈防衛システムが起動しており、山がスライドして、中から46cm砲が大量に出てきていた。六甲山脈全てを覆うぐらいのとんでもない数であった。ざっと400はあるだろうか。砲撃が開始される。
「す、すごい……」
「色んな意味で、ですけどね……」
ユラノとケイスは少々困惑気味に六甲山脈防衛システムの凄さの感想を述べた。
事実、六甲山脈防衛システムの攻撃は凄まじかった。空中にいるゾグマに対して、とにかくこれでもか、というぐらいの砲弾攻撃を行っていた。幾つもの時限信管砲弾が空中で爆発し、空は爆炎に包まれた。しかし、それで終わりではなかった。
「まだ武装されてるの……?」
「いつの間にこんなことやってたんだろう……」
ユラノとケイスは完全に引いていた。
よく見ると、何とスライドしていた部分が、まだ動いていた。何が出てきたかは分からなかったが、その弾道で何なのかは分かった。
レールガンとミサイルだった。レールガンはともかく、ミサイルはもうありったけ詰め込んでいるという感じで発射されていた。レールガンは流石に電力をかなり消費する兵装のため、ミサイルほど多くはなかったが、それでもよく電力が賄えるな、と思えるぐらいの弾丸が空を切り裂いていた。
ユラノの自宅からでも、六甲山は見えるため、まさかこんな大規模な要塞化をしていたとはユラノは思ってもみなかった。
大量の46cm砲弾が、ミサイルが、レールガン発射される。
その間にガミエル2号機改は、残り少なかったバッテリーを、電力補給ケーブルを繋いでチャージする。
更にそこに、最初の対Z兵器である長距離砲撃型新幹線「のぞみ」が到着し、攻撃準備に入っていた。新幹線の中にどうやって格納していたかすら分からないサイズの三連装砲塔が次々と出てくる。こちらの数もざっと50はありそうだった。
六甲山脈防衛システムの攻撃に、「のぞみ」からの砲撃が加わる。
時限信管砲弾の砲撃、ミサイルの爆発、レールガンの直撃により、空は完全に真っ赤に染まっていた。まるで人が怒った時の赤い顔のような赤さだった。
「圧巻ね……」
流石のケイスも、これだけは予想出来ていなかった、というか知らされていなかったらしい。完全に面喰っていた。
しかし、その数の暴力とも言える砲撃も虚しく、ゾグマのアッシリアビームによって少しずつ破壊されていった。
「これだけの攻撃をしても駄目か……」
「のぞみ」の砲撃を担当していた山村が愚痴を漏らす。それもそうであろう、この馬鹿みたいな数の攻撃をしてもなお、ゾグマは空を飛び、アッシリアビームを放てるのだから。
いつ、「のぞみ」が狙われてもおかしくない。
そうなれば、もう人類の望みは現在補給中のガミエル2号機改に託すしかない。
だが、それだけは山村は嫌だった。と言うよりも、託したくなかった。
「今のガミエルのパイロットは子供だ。そんな子供に頼る大人なんて、俺は出来る限り見たくない」
それに、人類の希望を、若き子供に託したくない。若者を死線に立たせたくない。
『死線の立つのは、俺たちだけで十分だ』
黒田から通信が入った。
そう、その通りだ。人類の未来を担う若者が、死線に立つ必要などない。ましてや、最前線など以ての外だ。
人類の未来は、我々人間の手で守り抜かなければならない。
だが、この人類の未来を守るのは誰だ?
そう、今を生きる若者たちだ。
「若者の未来は、我々大人が守り抜かければならない。」
だからこそ、山村と黒田はその身をかけて、ゾグマを何としても撃滅しなければならない。
そう胸に誓って、空を飛ぶ悪魔に砲撃を続けた。
「効果は!?」
「怯んではいますが……!」
「クソッ!」
六甲山脈防衛システムの攻撃管理は、対Z兵器開発局が行っている。
事実上の最後の切り札でも、ゾグマに対して効果は見られない。むしろ、どんどんゾグマの攻撃で、防衛システムが破壊されてきている。
基地でシステムの管理を行っているため、兵装が破壊される度、兵装管理パネルから火花が散る。破壊された際の電流がオーバーロードしているのだ。全てをコンピュータで管理していないための欠点である。
ゾグマの飛行速度は決して速いという程でもなかった。だが、その遅さを最大の特徴である強固な皮膚と電磁波吸収フィールドで完全に補っている。このまま攻撃を続けても、状況は刻一刻と悪化するのは目に見えていた。
それでもやるしかない。抵抗せずに喰い殺されるより、最大限抵抗して喰い殺される方がマシだと、対Z兵器開発局の隊員全員は思っていた。
地上でバッテリーを補給していたガミエル2号機改も援護射撃を開始する。が、基地のサブモニターに表示されているガミエル2号機改の様子を見れば、段々とバッテリーの補給が追いつかなくなってきているのが分かった。
ガミエル2号機改のバッテリーが少しずつ、しかし確実に減ってきているということは、ユラノとケイスも分かっていた。原因はビーム兵器だ。レーザー火器なら、多少バッテリー消費量はマシだったかもしれない。電力補給ケーブルを繋ぎながら攻撃してバッテリーが減るなど、重金属溶解ビームを発射するのに膨大な電力が必要だからに違いない。
そして、ユラノにもその反動が来ていることは、ケイスにも見えていた。
機体と限りなく一体化に近い状態にするための脊髄神経接続システムを繋いでいるため、常にガミエル2号機改から膨大な情報量が脳に送られる。殆ど訓練を受けずとも操縦は可能だが、素人同然のユラノにその負荷は凄まじいものである。
「ユラノ、大丈夫!?」
「な、何とか……!」
今にも倒れそうな声だった。それでもユラノは、立ち続けた。
今ここで自分たちが倒れたら、誰が人類を救えるのだろうか。それはただ単に自信過剰なだけかもしれない。けど、事実である。
こんなところで倒れてられない。
ここで倒れたら、真奈に会わせる顔が無い。
だからユラノは立ち続ける。戦い続ける。
六甲山脈防衛システムも、かなり破壊されてきている。長距離砲撃型新幹線「のぞみ」が生きているのが不思議なぐらいだ。その不思議なことも、今となっては貴重な戦力なので、ありがたい。
とにかく、電磁波吸収フィールドが解除されるまでは、ロクな攻撃は通じない。物量作戦で強引に電磁波吸収フィールドを解除するしかない。そのためには、ガミエル2号機改の総火力も必要だ。
しかし、それと同時にガミエル2号機改は人類の希望であり究極の切り札。迂闊に全エネルギーを放出するわけにはいかない。
ケイスは策を思い付いた。浪尾に通信で話す。
「六甲山脈防衛システムと『のぞみ』の残存火力を全て、ゾグマの一点に集中させるのよ。もしかすれば、それで電磁波吸収フィールドは解除されるかもしれない」
『了解だ。少しでも可能性のあることはやってみよう』
そうして、残存戦力によるゾグマの電磁波吸収フィールド一点突破攻撃が開始された。
先ほどまであった膨大な数の砲弾、ミサイルではなかったが、それでも効果がありそうな量は十分にあった。
それを黙って喰らうゾグマではない。ゾグマも生きている。生きるためには己を消滅させようとするものに抵抗しなければならない。
ゾグマもアッシリアビームや、蛇腹尻尾剣でミサイルや砲弾を撃ち落した。何度も、何度も。
それに人類が諦めることはなかった。しつこく、しつこくある限りの火力をゾグマに叩き込んだ。何度も、何度も。ガミエル2号機改も、消費電力を抑えながら強力なビーム兵器による攻撃を続けた。唯一、電波吸収フィールドに邪魔されず、直接ダメージを与えることが可能なのが、ガミエル2号機改の重金属溶解ビームだけである。
しかし、それも無意味に思える瞬間が訪れた。
ゾグマが遂に、全ての六甲山脈防衛システムを破壊した。これで残っている戦力は「のぞみ」とガミエル2号機改のみである。
「まずいわね……」
ケイスがポツリと呟く。それが聞こえたユラノは、ガミエル2号機改の残存稼働時間がもうあまり残されていないことに気づく。電力補給ケーブルを繋いでこの残存稼働時間であったため、もう内部バッテリーがビーム兵器の使用によることで、冷却と補給が全く追いついていないのだろうとケイスは判断した。
その時だった。
「え!?」
先にユラノが驚いた。ケイスも驚いた。
ゾグマから、黒いドロドロ血が地面にドロッと垂れている。ベチャっという、気持ちの悪い音がした。
幾度となく、しつこく攻撃をし続けた結果だった。
「電磁波吸収フィールドが、解除された……」
一瞬、ユラノとケイスは茫然とした。あれほど破れなかった電磁波吸収フィールドが、破壊出来たのである。
その後も続いた攻撃で、ゾグマは少しずつ、しかし確実に出血を始めており、電波吸収フィールドを解除出来た証だということが呑み込めた。
『一気に叩け、ユラノ、ケイス!』
「言われなくても! ユラノ!」
「はい!」
電力補給ケーブルを強制解除し、ハイパーブースターで一気に空へ飛ぶ。
「これで最後にするわよ!」
「そのつもり、いや、やります! 必ず!」
「火器管制の方を全部アタシに寄越しなさい! あなたは機体の操縦に専念して!」
「了解!」
ガミエル2号機改は一気にゾグマに近づき、ハイパー・ビームライフルを捨て、ハイパー・ビームソードを展開する。
ゾグマがアッシリアビームを連続発射する。ガミエル2号機改はそれを何とか補助スラスターを使って全て回避しようとしたが、左腕側のグラインバードの翼に直撃してしまった。
「気にしない! バランサーはこっちでどうにかする! とにかく突っ込んで、まずは奴の翼を斬り裂いて!」
ガミエル2号機改は、ハイパーブースターの大出力噴射に全てを任せて、片翼で無理矢理飛行する。ケイスがガミエル2号機改のジェネレータ、ブースターリミッターを解除しているからこそ、成せることだ。
ゾグマが更なる連続アッシリアビームを発射する。ユラノはガミエル2号機改をゾグマに突っ込ませる。余計な回避運動を取るより、突っ込んだ方が安全なのではないかと判断したからだ。
事実、ガミエル2号機改は連続アッシリアビームから一発も被弾せずに、ゾグマに接近出来た。既にハイパー・ビームソードが届く距離だ。
「ユラノ!」
「斬り裂いてぇ!」
光り輝くハイパー・ビームソードが、ゾグマの漆黒の邪悪な翼の片方を斬り裂く。
ゾグマの後方にいたガミエル2号機改は反転し、もう片方の翼もハイパーブースターのスピードを乗せて斬り裂く。
ゾグマは飛行能力を失くし、更には再生能力も出血によって失っていたのか、そのまま地面に落下した。ガミエル2号機改も地上に降下する。
ガミエル2号機改が地上に降下した時、ゾグマはもう臨戦体勢を取っていた。口内が今まで以上に暗黒に輝いている。
「まだエネルギーが……」
「ユラノ、怯まない! 人類の存亡は、アタシたちにかかっているのよ!」
「……ウルティメイト・フォース・ブラスター、発射します!」
ガミエル2号機改が、ビーム・カノン二門と、ビーム・ロングキャノンを正面に向け、ハイパー・ビームブラスターを展開する。コックピットには残存稼働時間がもう残り僅かだと表示されていた。それでも、外面からの火力が一番あるのはウルティメイト・フォース・ブラスターだけだ。全重金属溶解ビームエネルギーが、胸部正面に集約される。
ゾグマもまた、アッシリアビーム発射エネルギーをチャージしていた。そのエネルギー量は、ガミエル2号機改のコックピットでも確認出来た。
「ユラノ、あのアッシリアビーム、今まで以上のパワーがあるわ」
「だったら、こちらがそれを上回ればいいだけです。こんなところで負けて、真奈を死なせたくないんです」
「……そうね。ウルティメイト・フォース・ブラスター、エネルギー充填100……、110……、120%! 最大出力はこれ一発きりよ!」
「分かってます!」
ゾグマが大出力アッシリアビームを発射する。今までにない輝きと大きさのビームが飛来する。
「ウルティメイト・フォース・ブラスター、照準良し!」
「ウルティメイト・フォース・ブラスター最大出力、発射!」
胸部正面の重金属溶解ビームエネルギーが一度機体を呑み込むかのように膨れ上がり、一気に集束され、大出力ビームそのものが回転されながら発射される。
(ッッーーー!!)
ユラノの頭の中に、真奈の悲鳴が聞こえた。それは、ただの悲鳴ではないと思った。
我慢する声。人類を救うための悲鳴に聞こえた。
(真奈、ごめん! 堪えて!)
ユラノはそう真奈に念じた。それでどうにかなるという問題ではないが、そうしないとユラノの気が済まなかった。
ゾグマの暗黒のアッシリアビームと、ガミエル2号機改の光のウルティメイト・フォース・ブラスターが衝突し、大規模な爆風が発生する!
爆風はガミエル2号機改とゾグマはおろか、旧新神戸駅で待機していた長距離砲撃型新幹線「のぞみ」を呑み込んだ。「のぞみ」には防御機構は特に施されておらず、内部の弾薬に引火、爆散した。
爆風の衝撃は対Z兵器開発局にまで及んでいた。基地のあちこちのモニターやら操作パネルが破壊された。
現在生きているのは通信システムと、ガミエル2号機改とゾグマを映しているメインモニターだけ。メインモニターのカメラは六甲山の奥深くに隠されていて、奇跡的に破壊は免れていた。
ガミエル2号機改のグラインバードのキャノン合計三門が、へし曲がっているのが確認出来た。恐らく、先ほどのウルティメイト・フォース・ブラスター最大出力の反動だろう。
「ガミエル2号機改は!?」
「生きてます! し、しかし……」
「何だ!」
「ゾグマ、生体反応確認! まだ生きています!」
浪尾はそれを聞いて、膝からガックリと崩れ落ちた。
「ガミエル最大の武装でも、駄目なのか……?」
その時、メインモニターにケイスとユラノが映し出された。
『何弱気になってんのよ、浪尾!』
『浪尾司令、これよりガミエル2号機改は、最後の攻撃を開始します!』
「最後の、攻撃……?」
『国枝さんが言っていたこと、やってみます!』
ガミエル2号機改は、右腕側の翼に強引に搭載されていた、ガミエル1号機の時のメインウェポン「超振動大剣」を手にした。
『待て、それは……!』
「ほぼ自爆攻撃だということぐらい分かっています。でも、もうこれしかないんです」
『しかし……』
「大丈夫よ、浪尾。ユラノはアタシが何とかして守る」
「でも、そうならなくていいように、私が頑張ります」
このような危機的状況であるというのに、ユラノとケイスは笑顔を保っていた。どこか引き攣った、無理した笑顔ではなく、本当の笑顔であった。まるで、人類の明るい未来が、二人には見えている。そんな笑顔だった。
だから、モニターの向こうの浪尾は、頭を下げた。
『……一つだけ、命令だ』
「何よ」
『……死ぬな。それだけだ』
「「了解!」」
コックピットには、残存稼働時間は1分と表示されていた。
「ユラノ!」
ケイスに呼ばれたユラノが振り返る。
「はい?」
「大丈夫?」
「勿論!」
とびっきりの笑顔だった。ケイスはこれなら大丈夫だと、確証も無いのにどこか安心することが出来た。
「じゃ、行くわよ!」
「はい! ハイパーブースター、最大出力!」
ガミエル2号機改が加速する。
今を生きる人の想いを乗せて。
未来を望む人の希望を乗せて。
旅立った人の想いを乗せて。
そして、真奈の想いを乗せて。
ユラノの視界に、真奈の笑顔が視える。
平和を象徴するような笑顔だった。
勝てる。ユラノはそう確信した。
「ゾグマとの距離、200! ユラノ!」
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ガミエル2号機改の右腕に装備された、超振動大剣が、ゾグマの胴体に突き刺さる!
「あとは展開……!?」
ゾグマの口内が、再度輝いていた。
「こいつのエネルギーどうなってんのよ!」
瞬間、ゾグマからアッシリアビームが発射された。
「やぁぁぁぁぁぁッ!」
言葉にならない叫び声を上げながら、ユラノはガミエル2号機改を僅かにアッシリアビームの射線からずらし、右肩とグラインバードを破損させながらも、撃墜は免れた。
「脱出ポッド以外のグラインバードをパージ! エネルギーを全て右腕に集約! ユラノ、これなら!」
「はい!」
グググググッ、と少しずつ超振動大剣の刃がゾグマの胴体にめり込みながら、内蔵ビームライフルは展開された。
「門が、開いた! ユラノ!」
「ビームライフル最大出力! これで、堕ちろぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
ビームライフルが発射され、ゾグマの胴体を貫通する。
瞬間、時間が止まったかのように思えた。
空気が静寂を作り上げた。
息が詰まる静寂。
沈黙を破ったのは、人類であった。
ガミエル2号機改の右腕が負荷に耐え切れずショートし、爆散する。
その爆発の勢いで、ガミエル2号機改は後方に吹き飛ばされる。
ゾグマは呻いていた。
一瞬、まだ生きているのか、と誰もが思った。が、それは違った。
ゾグマの体内から、光が輝いて見えた。
光が見えるところから、大量に出血する。
ゾグマはガミエル2号機改を攻撃しようとしていた態勢のまま、時間が止まったかのように動かなくなった。
そして、周囲に肉片を散らし、凄まじい爆音を上げながら、爆散した。