レインコート、と言う傭兵がいる。
既に業界内では知らぬ者はいない程のプロ中のプロであり、金に困っていなければ確実に雇うべき者の一人として知られる人物だが、今現在はその活動を休止しているらしく、ここ半年は一切の目撃談が無い。
あの傭兵は一体どこに行ったのか?
その疑問を多くの者が呟いた。
ある者は死んだのだろうと言い、ある者は仕事中に重傷を負って回復しているのだろうと言い、ある者は十分な金を貯めたからやめたのだろうと言うが、誰もが真実を知らない。
確かな事は、今現在レインコートを雇う事が出来ない、と言う事実だけだった。
……………
「先生、今日の分です。」
「あぁ、ありがとう。」
日本国某所にあるふうまのアジト。
そこで、倉土灯は自身の主となった男へと報告書を提出していた。
「やはり米連は米国との連携を強化しつつ、事に当たる様です。」
「順当だな。逆にそれ以外が殆ど君に潰されたとも言えるが。」
五車学園の教師にして、ふうまの現当主である男は部下となった少女へとそう返す。
実際、彼女が傭兵レインコートとして雇われ、多くの任務を果たした結果、米連・魔族側の動きは低調で推移している。
とは言え、時折逆撃をしようと躍起になるので、その時はどうでもいい生きオナホ連中=対魔忍を相手に発散させる事で過度なストレスや警戒心を抑えているが。
「君としてはどうだ、うちの連中は?」
「一部問題外ですが、時子さん等は本当に優秀で助かっています。装備の調達の手間も減って、以前よりは遥かにやりやすいです。」
「あー…一部の奴らに関しては今まで通りの対応で頼む。」
「了解です。」
五車学園の制服をきっちりと隙なく着込んだ、ややスレンダーな肢体の少女は無表情でそう返す。
ボブカットにした黒髪と光を一切映さずに飲み込む暗黒の瞳、整った容姿をその瞳が全て台無しにしている少女だった。
「どうだ、少しは慣れたか?」
「多少は。時子さんにはお世話になっています。」
言葉はどれも当たり障りのないものであり、卒がない。
しかし、それでいて何処か硬質な一線を感じさせる。
完全に馴染むにはまだ時間がかかるだろう。
(とは言え、完全にこちら側に付いてもらいたいな。)
傭兵レインコート。
登場から僅か数年で裏の世界に鳴り響く伝説的な傭兵。
依頼達成率は驚異の9割越えで、尚且つ裏切者は絶対に許さず粛正する。
だが、その依頼料の高さに見合う様に油断なく、確実に、依頼を遂行する。
この世界において、本当に貴重なプロ中のプロ。
それが彼の傭兵に対する業界での評価だった。
しかし、その正体が未だ学生の対魔忍の少女であると知る者はふうまの者しかいない。
(確か彼女は学生時代も特に男の影は無かった筈…。)
となれば、取るべき手段は一つだろう。
無論、今の関係から悪化する様な事が無いよう、万全を期す必要はあるだろうが。
……………
(さて、どうしたものか。)
最近、どうにもお館様からの接触が多い。
無論、あくまで上司としてのものなのだが、それにしても距離を詰めようと言うものが多い。
(裏切るつもりなんて無いのになぁ。)
この世界の法則に逆らうのは、はっきり言って無理ゲーと悟った。
だって特異点な自分を除けば、どいつもこいつもエロゲ法則にがっつり捕まってるんだもの(白目
ならば寄らば大樹の陰と思ってお館様の下へと下ったのだ。
無論この選択には理由があり、お館様の持つ原作中でも随一の生存力を頼ったものだ。
まぁモブは割とバカスカ死ぬし、拠点を壊滅させられたりもするが、どんな状況でも生き残って立て直す辺り、時子さんと合わせても底知れない有能さと言える。
後、アサギ校長とかと違って、普通に外道な行動も選べるので、任務さえ果たせば割と我が儘を聞いてくれるし、サポートも対魔忍と違ってしっかりしている。
正直、職場環境としては対魔忍等足元にも及ばないレベルだと思う。
それでいて給与もそう差はないのだから、どちらに就職するかはもう言うまでもないと思う。
(となると、有能を魅せ過ぎたか。)
大方こちらの能力を加味して、現状の処遇だけでは足りないと思い、より確実な繋がりのために逆ハニトラを考えているのだろう。
まぁ確かにレインコートを恒常的に雇うと考えれば安過ぎて不安になるのも分かるが。
(とは言えハニトラかー。)
知識が無い訳ではないが、実践の経験は皆無だ。
まぁ年頃の身体なので性欲はあるし、時折一人で慰める事もある。
だが、相手は百戦錬磨で守備範囲も美人なら何でもOK!なお館様である。
普通の恋愛や結婚なんて望むべくもないし、抱かれて正気を保てる保証も無い。
(最悪、死に戻りしてリセットかな?)
流石にアへアへ言うようになる事は無いだろうが、もしもの時もある。
薬物や道具等は断固拒否する所存だが……遅かれ早かれ、こうなっていただろう。
(腹の括り時、か。)
はぁ…とため息をつく。
一応今は女だ、準備位はある。
だが、やり方が分からん(きっぱり)
(となると、やはり時子さんに聞くべきか。)
と言うか、こういった相談を出来るのがあの人しか此処にはいない。
「どうなるんだろう…。」
経験のない世界だ。
前世でも、今世でも、完全に未体験な領域だ。
それに対して本当に自分が正気を保てるのか分からない。
正直に言えば、怖い。
もしかしたら、今の自分が無くなって、この世界の人間らしい人格になってしまうのかもしれない。
それが怖い。
自分が消えるのが、怖い。
私は結局、この世界の人間になる事が怖いのだ。
……………
割とあっさりと食事に誘えた事にやや疑問に思いつつ、お館様は時子からの報告を聞いていた。
「やはり経験はないと?」
「はい。私に事前の準備の仕方やお館様の好み等を聞いてきたため、問題のない範囲で答えました。」
「ふむ…。」
となると他の対魔忍、特に脳足りんや色狂いの連中に対する態度からするに、そういった事そのものに何かしらのトラウマを抱えている可能性がある。
こちらは無論処女相手の和姦も凌辱も経験済みだし、一発で相手を墜とす事も出来なくはないが、下手にやり過ぎて灯の明晰な頭脳に陰りが出るのも良くない。
「焦らずに、少し強引なボディータッチやキスから慣れさせてはどうでしょう?」
「本番は拒否感が薄れてからか?」
「えぇ。余り強引に迫っても、拒絶されるだけでしょうし。」
「ふむ…では王道を踏襲するとしよう。」
……………
三日後 都内某所
「お待たせしました。」
「いや、今来た所だ。」
灯は思う。
何故こうなった、と。
とは言え、原因は分かっている。
『三日後、空いているか?』
『はい、予定はありません。』
『そうか、なら一緒に食事でもどうだ?』
『了解しました。』
こんなやり取りがあったからだ。
その後、時子さんのアドバイスに従い、新調した私服に着替え、態々アジトではなく現地集合したのだ。
まぁ言わんとする事は分かる。
私にこの手の事や色事の経験が無いため、焦って詰めを誤るより、こうして距離を縮める事を選んだと言うのは。
その辺の気遣いは打算によるものだとしても感謝している。
しているが……この恰好は正直落ち着かない。
白いシンプルなワンピースに青いリボンを巻いたカンカン帽、そして薄らとだが化粧にヒールの高い靴まで履いているのだ。
はっきり言って、落ち着かない。
学園に通っていた頃は制服の裏地に防弾防刃仕様の強化繊維を仕込んでいたし、レインコートとして活動する時は全身が米連の正規装備で固めてあった。
だから、余計にこのヒラヒラで薄手の服装が不安になってくる。
「よし、行くか。今日はオレがエスコートしよう。」
「よろしくお願いします。」
とは言え、今回の自分はエスコートされる側。
相手は上司とは言え今日ばかりはオフ。
多少は気を抜いて、素直に身を任せる事にした。
この日の夜、二人が関係を持ったかは定かではない。
ただ、この日から灯の雰囲気が随分と柔らかくなった、とふうまでは暫くの間話題となった。
なお、この件に関して我らがお館様は「恥じらう無表情クール美少女最高」とコメントしている。
Q どうしてお館様の所へ?
A 頑張って何人か教育したけど、殆ど実らなくて心折れたから。
Q R18書かないの?
A エロは疲れる&対魔忍プレイした事ないのでお館様のキャラが今一分からん。