レインギアと言う傭兵団が存在する。
一年前に設立されたソレは団長たる伝説的な傭兵レインコートの指導の下、急速に裏世界にその名を広め、数多くのミッションを遂行してきた。
対魔忍・ノマド・米連・日本政府といったあらゆる勢力からの依頼を遂行する彼らは、多くの裏世界の勢力から注目を集め、干渉を受けている。
中には自勢力に取り込もうと強引な行動に出る者もいたが……そうなった場合の末路は言うまでもない。
そんな彼らだが、とある疑問が常に付いて回る。
彼らの武器弾薬は、一体どこで調達しているのだろうか?
基本的に米連や日本国国防軍、そして米国等で採用されている信頼性の高い銃火器に対魔粒子や魔術等で威力を上げて使用しているが、時には派手に建物ごと発破をかけたりもするので、常に弾薬の消費が激しい。
なのに他には一切気取られずに弾薬を確保できているのは、勿論理由がある。
レインギア、正確にはその中で戦闘をメインとして動く者達はレインコートの厳しい選抜を潜り抜けた者達だけで構成されており、20人にも満たない人数しかいない。
その分、彼彼女は誰もが精鋭であり、単体で上位の魔族や対魔忍とも戦闘を可能とする。
とは言え、団員達は皆単独で動く事は無く、最低でもツーマンセルで動くため、単体で戦闘を行うことは決してないのだが。
それはさて置き、選抜に漏れた団員はどうしているのか?
選抜に漏れた、とは言っても彼彼女らは皆レインコートの教導を受け、資格ありとされた者達だ。
五車学園近くで「コイツいらね」と放流された連中とは異なり、実働団員としての選抜に落ちたとは言え、戦闘面以外で有能と判断された故に残された者達だ。
彼らは皆チームを組んで実働団員らの補佐として動いており、その中には勿論物資調達を行う者達もいる。
彼らはそれぞれの特技を生かし、物資や拠点、資金源の確保等を行っている。
例えば、情報収集が得意な者は任務上必要な情報の収集の他、他勢力の物資集積拠点(対魔忍除く)や研究所、工廠等の割りだしも行っている。
その情報が確かだとレインコートが確認すると、その場所に潜入、己の能力を用いて物資を根こそぎ奪っていくのだ。
また、勢力争いの激しい極東方面ではなく、他の紛争地域や裏社会で普通に身分を隠したりして購入する場合もある。
無論、エロゲ世界の法則通り「騙して悪いが…」もあり得るため、護衛として実働団員の何人かを連れての事となるが。
他にも、他勢力の情報の売買に悪徳有力者の表に出来ない資金の奪取等、堅気に迷惑がいかないのなら何でもOKと言う具合であちこちで資金・物資収集を行っている。
こうして、傭兵団レインギアの土台は実働団員の数倍の支援団員の存在によって成り立っているのだが……それを表立って自慢する者は殆どいない。
その理由を一言で言うと……
「いや、だって団長がそれ以上の額をほぼ一人で稼いでるんだもん。」
こう言う事だったりする。
何せノーコストで世界中を転移できる上に、物資のある場所に行ってはあっと言う間に根こそぎ奪い取ってこれるのだ。
更に言えば、仕事で得た情報を生かして、幾つかのペーパーカンパニーを通したダミー多国籍企業による投資を行い、更にタックスヘイブン等の節税を積極的にしている事もあり、凄まじい利潤を叩き出し、それによって得た資金でも物資の納入を行っている。
能力の応用による転移や多重偏在が無ければ出来ない仕事量だが、それだけに傭兵団それそのものよりも多くの利潤を叩き出す事に成功している。
それを思えば、確かに彼らの思いを理解できる。
では、何故レインコートは傭兵稼業を止めないのだろうか?
既に一生かかっても使い切れない程の資金を持っているにも関わらず、だ。
その事を彼女に問えば、内心でこう返してくれるだろう。
「近年、裏世界のバランスはやや対魔忍側が有利に推移しているが……そんなものは微々たるものだ。何かあればあっと言う間に崩れ、現在の均衡を無くすだろう。その時、日本に魔族や米連が雪崩れ込めば、困るのは私や私の家族だ。」
しかし、そのバランスを維持するには、対魔忍ではどう足掻いても無理だ。
頭脳対魔忍の脳筋集団に、何かを期待する事程空しい事は無いと、実感として知っている故に。
だからこそ、程好く各勢力が噛み合うように調整するのが、何処にも属さぬ傭兵として出来る事だと、レインコートは考えたのだ。
無論、殺せる時が来れば魔族も米連も躊躇いなく殺せるが、そのタイミングはまだ先の事だった。
……………
「はふぅ……。」
レインコート、倉土灯も一応は人間である。
そのため、休暇を取る事もある。
無論、緊急時には即座に駆け付けるが、そうでない場合もある。
今現在、彼女は祖父母が出掛けているのを理由に、家でのんびりまったりと入浴していた。
浴槽でスラリと細くも強靭な筋肉を纏った手足を一杯に伸ばし、脱力し切った姿からは常の張りつめた姿を想像する事は出来ない。
また、その手には完全防水加工された通信端末があり、それでニュースや小説サイト等を流し読みしていた。
「ん、このアニメの会社、買いだな。」
そして、生活費以外の彼女の資産の使い道は、主に気に入った会社の買い支えだったりする。
特に国内のアニメーター企業への投資は大きく、ダミー企業等を通してとは言え、既に100億を超えた額を出している。
だが、こうしてスポンサーとなる事で、よりクオリティの高い作品が世に出されているのだから、彼女にとっては最終的に+になるのだ。
「あ~~これぞ真の大人買いだよなぁ~~。」
とは言え、流石に会社ごと買う様な事はしない。
精々敵対的買収を防ぎ、それをやってきた団体を破滅させる事しかしていない。
「あ、そう言えばFateのHFルート、ブルーレイで予約しとかなきゃ。」
ステマであるが、作者の推しである桜ルートがコミック・劇場版化した事に感動を禁じ得ない。
「そう言えば、最近はVRとかが流行ってたっけ…。」
一応PS4に更新してあるとは言え、仕事もあってゆっくりプレイしている暇がない。
況してやVRとなると全くの未知の領域な事もあり、少々しり込みしてしまう。
「まーまた今度で良いかー。」
こうして、灯の休日はゆっくりと過ぎていった。
……………
「くそ、どいつもこいつも!」
人気の無い場所で悪態を吐いたのは、五車学園の生徒の一人だった。
彼女はつい最近、任務で行方不明になっていた一人だったのだが、人買いに捕まり、奴隷市で競りに掛けられ……そこでレインコートと出会い、厳しい訓練を受けたのだ。
しかし、どうしても人格面に問題(主に忍耐面において)があり、五車学園に放流されたのだ。
「そう言うなって。アサギ様だって、好きでこんな状況放ってる訳でも無いんだしさー。」
「我々がどうこう言った所で、他の連中の脳筋思考が治る訳もない。」
他の二人も何がしかに問題があったため、或は本人が望まなかったために放流された者達だった。
彼女らは誰も彼もが一度は対魔忍としての理想に燃え、しかし現実の前に心を圧し折られ、屈辱を味わい、そしてレインコートによって一度は拾い上げられた者達だった。
能力があり、美貌もあり、しかし、本当に学ぶべき事を学べなかった者達の末路は悲惨だ。
そして、この学園にはそうした者が大勢いる。
「だったら、何故校長は少しでも改善しようとしない!?」
「出来たらとっくにやってるからだ。」
現状はそれに尽きる。
内部に入り込んだ敵対組織のスパイや工作員、元々忍者を排出していた一族の思惑、そして何よりも力に酔って現実を知ろうともしない対魔忍の卵達によって、この阿呆らしい現状は維持されていた。
圧倒的数の暴力に、ごく一部の有志の行動は余りにも無力だった。
それは彼女達、レインコートの薫陶を受けた者達も同じだった。
「ま、良さげな新入りとかいたら、誘いをかけて鍛えてやるのが関の山じゃない?」
「だな。その方が有意義だ。」
とは言え、現状を把握したら、少しでも最善手を打とうとする辺りはちゃんと教育できていたらしい。
少しでも影響力を拡大し、対魔忍を少しでもまともな組織にするためにも、多くの者に教導を行っていくしかない。
まぁ選抜に落ちた彼女らなので、結局はたかが知れているのだが。
「畜生、畜生…!」
それでも、彼女は少しでも報いたかった。
恩義を返したかったのだ。
嘗て己を助け、多くを教えてくれた、あの傭兵に。
(うーん、このチョロイン。)
(面倒な方に恋煩いをしているな。)
その内心を、仲間達は冷静に解析していたが。
灯「何で放流したか?猪突型とやる気ないのと諦観したのとか面倒だから。能力面もそこまでぱっとしないし、忠義も微妙だし。」