「…………はぁ。」
ハァイ!対魔忍の無口可愛い女子(チャームポイントは死んだ魚の様な目)こと倉土灯だよ!
今日はお仕事に来てます!
と言っても、対魔忍でもないし、勿論娼婦(ガチ)でもありません!
内容は…
「死ネェェェ下等種族メェェェ!」
「プギィィィプギャァァァァ!」
「コロセコロセコロセー!」
「撃て撃て撃てぇい!」
「く、数が多い!増援回せ!」
ペーパーカンパニーを通しての傭兵です。
まーた懲りずに東京キングダムで危ない薬品なんかの売買で資金集めしてる魔族と潜伏がばれた米連の特殊部隊が只今交戦中です。
学校側からは米連側の動き探ってこい娼婦になってな!とかほざかれたので、即行で単独任務に出ました。
班員?いつもの如くどっかその辺でアへってるんじゃないの?
視界にでも入らない限り、一々確認なんてしないよ。
余程余裕がない限り、基本的に女の対魔忍とその卵は殺されないんだし、それで良いのさ(但し社会復帰できるとは言ってない)。
………言ってて何だけど、どう考えても生贄の類だよな、対魔忍の存在って。
対魔粒子ってのも元は魔族との交配によって得た魔力が人間界での生活で適応・変質したと考えれば……いや、或は魔力や異能を持った魔族との交配に適応したと考えれば……この先は考えるべきじゃないな、鬱になる。
現在そっちの才能があるせいで絶賛鉄火場にいるのに、考え事とか死亡フラグだし、これに関しては後でじっくり調べよう、うん。
「ターゲット確認。」
今回のお仕事の内容は至って簡単、米連が何を狙って態々特殊部隊を送り込んできたのか、その目的を調べる事だ。
で、それはもう分かってる。
最近、と言ってもここ数ヵ月程度だが、米連内で新手の麻薬が流行しており、依存性もさる事ながら、高い催奇性を持っている。
更に長期間摂取し続けると、脳を始めとした肉体が大きく変化していき、最終的には魔族擬きとも言うべき存在になってしまう。
米連側のデータによれば、個体差にもよるが、大抵はオークやゴブリン、獣人等の下等な種族(無論性機能も同様)になるのだが、一部では理性を保ったまま、吸血鬼や竜人、魔人の様な高位の魔族にも変化し得るのだとか。
それ、一体どこのサイオキシンなんでしょうねぇ(白目)。
現状、魔界勢力に対して軍事面に関しては装備面と物量を揃える事で辛うじて対処している米連側としては、この新型麻薬による安定した戦力の拡充を図りたいらしい。
だからこそ、その新型麻薬を売っている組織のアジト周辺に潜伏していたのだが…これ、どう考えても蜥蜴の尻尾きりだ。
明らかに頭悪そうだし、そんな薬を開発出来そうにも仕入れられそうにも見えない。
となれば、確実に高位の魔族がバックにいて、それが分かってても米連はそれに食いつかざるを得ない状態な訳だ。
まぁ同盟国とか本当に役に立たないしな!特にこの世界の東アジア系(極東含む)は!
なんであぁまでガッツリ政府機構に魔族の浸透許してる上に喜々として何とか対抗可能な戦力である対魔忍を売っぱらっちゃうかな本当に!
クローンでも作って量産するなりちゃんと育成するなりしやがれ!
人的資源の運用に関しては、既に自衛隊って言う参考にできる立派なのがいるだろうが!
そんなだから大陸からの難民なんて押し付けられて経済停滞&治安悪化に拍車が掛かるんだろうが!
(まぁ其処ら辺の愚痴は置いといて。)
で、このまま米連側が戦力の拡充に成功すると、米連側にも準対魔忍的な戦力が出来上がる訳で。
それは必然的に米連に対しても生贄とかを求めて魔族の魔手が伸びる上に、連中が遊ばずにガチで戦争状態に入る可能性もある訳でして。
そうなると、こちらよりも遥かに戦力のある魔界勢力(群雄割拠状態なので纏まる確率は低い)が纏まって行動するとか言う死亡フラグが立ってしまう。
嫌だよ、私は。
そうなった場合、先ず間違いなく対魔忍関係者は今以上に真面目に酷使されるかお偉いさん方の身の安全と引き換えの生贄として差し出されるしか想像できない。
組織的な反抗?ゲリラ戦?
断言するが、絶対に無理だ。
だって、うちの組織って、皆戦闘系は多かれ少なかれ脳筋だし。
TOPであるアサギ校長すらあぁなのに、下に何を求めてるんだ。
なお、そうなった場合、私は祖父母抱えて逃げるので悪しからず。
で、要するに何が言いたいのかと言うと…
(その研究データ、ここで消えてもらうよ。)
既に一帯の無線通信網(衛星回線含む)はジャミングで潰して、有線通信もケーブルをドサクサで爆破したので無理。
まぁその爆発のせいで、こうして魔族に見つかっちゃった訳だけどね!(確信犯)
だから後は、データが保存されたハードとUSBはこちらで確保済みで偽物とすり替えてあるし、多少のデータを覚えてる米連側のスタッフ、特に技術士官を消せばそれで終わる。
とは言え、作って売ってる魔族側にはもっと情報があると見て間違いないし、そっちはそっちで後々どうにかしないといけない。
なお、入手した情報は明らかにヤバいし、対魔忍側に持ち帰ってもアホな事になるのが目に見えてるので、何処かに隠す事にする。
自分が潜り込む実存と虚数の狭間にでも隠せば、余程の化け物でない限り、見つける事も接触する事も出来ない。
ドン、と慣れ親しんだ反動が強化された身体を揺らす。
ほぼ同時、軍服の上から白衣を着た技術士官の頭が弾け飛んだ。
これで情報は何処にも残らない。
「ミッション終了、帰還する。」
そして、またも私は生き残った。
その後の展開だが、米連側は全滅判定を受けた状態だったものの、何とか撤退に成功し、魔族はそれをしつこく追跡したが取り逃がした。
なお、やっぱりアへってた班員(片方♂)は魔族の注目が米連に向いてたので、割と楽に救出できましたとさ。
……………
「ではこれより、第○○次職員会議を始めます。」
五車学園のとある会議室では、定期・不定期に職員会議が行われる。
これは学内外の出来事の定期報告の他、議題に上げる必要性があるとされた事柄を話し合うための場でもある。
まぁ、その辺りは普通の職員会議と変わらない。
問題は、今回議題にあがった生徒の事だ。
「高等部の倉土灯さんですが…現在、彼女は未だ学生の身でありながら立て続けに任務をこなしており、そのほぼ全てにおいて成功しています。」
ほぼ全て、の例外にあたる事項に関しては、事前情報が完全に間違って、任務遂行が最初から不可能だった場合だ。
その場合、彼女はその情報を収集した後に即座に離脱し、再度学園側に判断を仰ぐ等、常識的な対処をしている。
どうしても連絡が困難な状況では、決して無理をしない範囲で標的への対応を行い、必ず帰還している。
こうした想定外の事態における判断力については、既に見習いながらも決戦戦力と言える同年代のユキカゼや凛子よりも遥かに優越している。
「もう彼女は十二分に任務をこなしていますし、言いたくはありませんが、既にベテランの対魔忍に匹敵する戦果も挙げています。ユキカゼさんや凛子さんの事例もありますし、直ぐにでも実働部隊に組み込むべきでは?」
その教員の言う事ももっともだった。
何せ能力が基本的に血統に依存する対魔忍では、どうしても数を揃える事が難しい。
日本国内で引き入れる事のできる人材に関しては、既に払底していると言っても過言ではない。
アサギが頭領となってからは、一般からも才能に目覚めてしまった者を引き入れもしているが、それとて滅多に見つからない。
もし日本に米連並の国力があれば、対魔力の無い人間でも装備と物量でどうにかなるのだが、そんな国力なんて無いし、そもそもこの国に巣食う魔族側の政治勢力の存在もあり、到底実現する事は出来ないだろう。
そこにほぼ一般生まれで、成績は常に図った様に必ず平均点だが、任務達成率はほぼ100%の生徒がいるのだ。
しかも、能力は火力こそ武器依存であるものの、物質透過と言う生存にも潜入にも優れたものであり、現場としては直ぐにでも使いたいだろう、思惑(拉致・洗脳・スカウト・肉奴隷化)は兎も角として。
「駄目よ。」
にべもなく言い捨てたのは、この学園の事実上の最高権力者のアサギだ。
無論、理由はある。
「資料の14ページ目、見てくれる。灯と組んだ班員の記録。」
「これですか?殆ど全員が魔族に乱暴されたと記載されていますけど…。」
別に何の変哲もない内容だし、組織としてどうかと思うが現場ではこの位日常茶飯事だ。
但し、一人もMIA(戦闘中行方不明)がいない事を除けば、と付くが。
「誰一人として欠けていないのよ。灯はね、助けられる範囲なら必ず助けるの。」
必ず助けようとして、ユキカゼの様に自らも捕らわれる様な事は無い。
徹頭徹尾、リスクとリターンを合理的に計算し、殆ど毎回班員の救出に成功、後に離脱している。
例外はその生徒が裏切っていた場合であり、その場合はほぼ間違いなく魔族側や米連に殺されるか、不運(笑)な事故(灯による敵ごと爆破や偽装した流れ弾)で死亡している。
「勿論、現場に出しても直ぐに活躍してくれるでしょうけど、学園と言う場で生徒に実戦を経験させるには持って来いの性質なの。」
基本的に、学生の対魔忍達にはそう難易度の高い任務は一部の例外を除いて割り振られない。
しかし、どう頑張った所で(このガバガバでスカスカで砂上どころか砂のお城な)組織では、卵の内からどうしても危険な任務に就かされる場合が多い。
そんな場合、灯を班員に就けると、ほぼ例外なく実戦を経験した上で帰還できるのだ。
その上、脳筋傾向の強い対魔忍に対し、必ず諜報戦・情報戦を経験させた上で、初めて必要最低限と判断した武力を行使する。
本来の意味での忍者としては極めて真っ当と言える戦い方は、本来なら多くの対魔忍にしてほしい戦い方だとアサギは思うし、灯の強いではなく巧い戦い方を知った生徒には、真似しろとは言わないが、常に参考にしてほしいとも考えていた。
要するに、他の生徒に実戦経験を積ませるのに都合が良いので、彼女は学園に残したいのだ。
無論、卒業すれば即座に実戦部隊行きではあるが、それまでは今のままでいてほしい。
同時に、生徒内の離反者も自発的に処分してくれるので、アサギとしては丁度良いのだ。
「と言う訳で、倉土灯に関しては現状維持のままで、卒業と同時に実戦部隊に組み込みます。異論があるならば、後で私の所に個別で陳情する様に。」
文句あるならかかってこい。
アサギが言外にそう言ってのけた後、会議は次の議題へと移った。
……………
「ごめんなさいね、態々あんな事言わせて。」
「いえいえ、こちらこそあの子には悪い事をしてますからね。」
会議後、校長室で二人の教員が会話していた。
一人は勿論校長であり、部屋の主であるアサギ。
もう一人は朴訥とした、無害そうな眼鏡をかけた、特徴の少ない典型的な日本人男性だった。
「他の生徒のためとは言え、倉土さんには無理させてしまっていますからねぇ…。」
だからこそ、比較的難易度が低い任務を多めに割り振っているのだが、どうしても他に人手がない時は灯にお鉢が回ってくるのだ。
その上、常に足手纏いを引き摺って任務に当たるのだ。
例えベテランだろうと、否、ベテランだからこそ、聞けば激怒するだろう。
「一応、他では便宜を図ってるけど…。」
「焼け石に水ですね。」
「そうよねぇ…。」
きっぱりと言い切る男性教諭の言葉に、アサギは項垂れる。
確かに内申点や報酬では十分に便宜を図っているものの、それ以外が出来ていない。
なにせ装備の都合や事前の情報収集など、本来なら実働部隊を動かす前に組織なら当然しておく義務が出来ていないのだ。
それを現場の努力で補っている上、灯が使う火器類すら潤沢とは言えず、本人が現地調達している位なのだから、そりゃ火器類の必要としない能力を持った対魔忍が注目されるのも仕方ないと言えた。
まぁ本人からすれば、土台からして腐り果ててる組織をよく運営しているものだと、寧ろ感心されそうだが。
「取り敢えず、裏方としても出来る限りサポートしますので…。」
疲れの滲んだアサギの声に、男性教諭は内心をひた隠しながら返事をした。
元々対魔忍としてではなく、自分の率いる組織の事を考えれば、度重なる理不尽な任務に灯が対魔忍に愛想を尽かして出ていく事を期待していたのだが、どうやらそれは難しいと判断していた。
なにせ普通の見習いなら既に数度はMIAになっているのに、何ら消耗した様子も無いし、そもそも感情が極端に読み辛いし、そうした能力や忍術を使えば、一発でばれる恐れもある。
かと言って、家族を人質に取るのは下策中の下策だ。
短期的には可能だが、長期的には絶対に不可能だ。
だから、彼としては彼女個人との信頼関係の構築こそが大事だと方向転換する事にしたのだ。
「えぇ、よろしくお願いするわ、山田先生。」
こうして、お館様の方針変更により、灯の人生難易度はちょっと低くなったのであった。
A.大丈夫な訳ない。問題だ。