一ヵ月、それが下忍の女の体力づくりに要した時間だ。
元々鍛えていたとは言え、この短い期間でオークや獣人等の一般的な低級魔族以上の身体能力を持つに至った辺り、流石は肉体:対魔忍と言う事だろう。
ここから先は座学や精神修養、そして実技に移行する。
手始めに銃火器の扱いだ。
ローリスクハイリターンの権化であるこの武器は、形を変え品を変え、世界中で量産・配備されている。
即ち、世界のほぼ何処でも入手可能だと言う事だ。
この日本でも方法と購入資金さえ都合できれば、割とあっさり入手できる。
最初は座学で基礎知識を教え、次に比較的構造の単純な実銃を撃たせ、後に分解整備等をさせる。
そして、徐々に構造の複雑な銃も同様の講義をし、最後には全ての銃から自分で選ばせ、使用させる。
標的も常に同じものではなく、高速で移動するレーンだったり、そこら辺の野鳥だったり、数百m先の木の先端だったりと、常に変動させる事で状況に適した銃とその扱いを覚えさせていく。
自分の様に普段は信頼性抜群のAKMや汎用性の高いM16、遠距離狙撃用にバレットM82とM24 SWSを使い分けるのも有りだが、自分と違って常に状況に最適な装備を持ってこれる訳もない。
なので、自分で状況に最適な銃を選択しつつ、更に自分に合った銃を探し出す。
次第に、下忍の女は軽量化された銃を好んで選んでいった。
身体能力は対魔粒子のお蔭で高くとも、その手足の長さや重量は普通の人間と変わらない。
そのため、軽い銃の方が取り回しやすいのだ。
自分の様に、傭兵時に肉体を変化させての偽装とかしていないのだから当然と言えば当然だが。
具体的にはPSL狙撃銃や自分も対魔忍の時に使うM4A1等だ。
サブアームに関しては、携行性と咄嗟の時の使い易さを重視しているため、調達のしやすさからもニューナンブM60を使用する事が多い。
だが、私の場合はそうなった時は追い詰められ、大抵死に戻り前提なのでサブアームは余り使わないため、調達のしやすさを最優先にしてシグザウェル系のP220や226、230等を使用している。
肝心の射撃の腕だが…まぁ悪くない。
筋肉の付き方もある程度訓練して矯正したものの、射撃時の効率の良い反動の逃がし方や抑え方はどうしても数撃つ必要があるので、一朝一夕とはいかない。
まぁただ撃たせるのも芸がない。
「次から一発外したら夕飯から一品マイナスな。」
「そんなぁ!?」
悲痛な叫びを上げつつも、元下忍現奴隷は言われた通りに射撃を続ける。
が、反動を抑え切れず、銃口が跳ね上がり、的から外れる。
真ん中とは言わんが、これでは駄目だな。
「先ず一品。」
「ひぇぇぇぇぇぇ!?」
最近、こいつのリアクションが面白くなってきたな、と思いつつ、私は暗くなるまで訓練を続けた。
……………
私がレインコートの奴隷となってから始まった訓練は過酷の一言でした。
もうね、寧ろいっそ殺せ!と言いたくなる事が何度もありましたとも。
特に最初の体力づくりとか、五車学園でもしない様な超ド級ハードでした。
例えば、フル装備での寒中水泳や気絶するまでのマラソンとか、ナイフ一本で一週間自給自足とか、チキチキ森の中で鬼ごっこ☆頭パーン(物理)もあるよ!とか。
アホかと、バカかと。
私は対魔忍であって、特殊部隊の隊員じゃねーんだよ!と言いたくなったが、そんな事をすれば額に風穴が開くので必死に堪えて食らいついていった。
傍から見れば奴隷を鍛えるなんておかしいのだろうが、あの冷酷無比なキリングマシーンにしてド外道なレインコートの事だ、きっと何かを試しているに違いない。
そう思いつつも、私は生きるために訓練を受け、先輩奴隷の獣人の子が作ってくれる美味しいご飯を食べる。
あぁ、この瞬間だけが幸せだ…。
しかし、よく考えれば、自分は凄まじく贅沢な環境にいると思う。
1、任務に失敗して奴隷として売られたのに、処女こそ奪われたが人格崩壊する程の責め苦を受けていない。
2、売られた先で軍人?として本式の訓練を受けさせてもらっている(強制)。
3、衣食住に困っていないどころか、個室すら与えられている。
結論、奴隷としては滅茶苦茶好待遇。
それに、最近は以前よりも座学の割合が大きくなり、その中には対魔忍としての任務に使えそうな知識の割合も多い。
正直、こうなる前に五車学園で同じ内容の教育を受けていたら、こうして奴隷となる事は無かったと断言できるレベルだった。
そうなると俄然気になるのは主人であるレインコートが一体何処でこんな高度な知識を身に着けたのかだが、彼の素性を調べる様な事はしない。
不審な行動を取れば確実に本人にばれるし、何より顔は笑ってるのに虫が獲物を見る様な無機質さを感じさせる先輩奴隷の獣人の女の子に何をされるか分からない。
下手をしなくともこの生活のグレードが下げられる可能性は大いにある。
なので、取り敢えず私はレインコートの思惑に従って訓練し、何時か此処から逃亡するための力を蓄えるのだった。
まぁ、結局は現状維持なんだけどね!
……………
(頃合いだな。)
元下忍、現奴隷の少女の訓練状況を加味し、レインコートこと灯はそう判断した。
即席なのは否めないが、既に十分な訓練を施す事が出来た。
他の先住奴隷達に訓練をするためのノウハウも十分積む事が出来たし、これ以上は実戦経験が必要になってくる。
となれば、そちらにシフトすべきだろう。
簡単なものから徐々にある程度難易度の高い依頼(罠含む)を受けさせよう。
依頼の受託から、自力で情報を収集し、装備を調達し、作戦を構築し、それを実行し、不意の事態にも対応させる。
学業における本人の知識と身体能力ではなく、実際に問題に直面した時にこそ、その人間の真価は問われる。
あの奴隷の少女が本当の意味で殺人を犯し、死と紙一重の実戦を潜り抜けた果てにどうなるのか…。
自分の様に元々人嫌いな上、この世界を頭の悪い凌辱エロゲと斜に構えて見る事で精神の安定を図っている者とは違う、この世界の本当の住人が依頼とは言え殺人を犯した時にどうなるのか。
それは灯には完全に未知の部分でもある。
何せ東京キングダムやヨミハラに転がっているのはどれも極悪人か哀れな犠牲者であり、それ以外は知能対魔忍しかいないので、参考にならなかった。
その点で言えば、彼女の訓練はやはり自分にとっても得るものが多かった。
特に、対魔忍と言えども正規の訓練を積めば、予想以上に使えると言う点において。
訓練を施していく内に、彼女は知能対魔忍とは思えない程の優秀さを示してくれた。
肉体面のスペックでも、十代後半程度でありながらプロの軍人以上を示しており、やはりフィジカル面では下忍であっても対魔粒子のお蔭で優れているらしい。
こうなると、やはり対魔粒子による高い身体能力と才能で増長し、それが教育で矯正される事無く、自分達の行いが正義だと妄信した上で実戦に出されるが故の無能ぶりなのだろう、対魔忍のアレっぷりは。
やはり日本を守るためには組織と政府の膿を叩き出す処か、一度完全に崩壊させた上でまともな例外か真っ新な新人だけを引き連れて別組織として再構築するしかないな、うん。
とは言え、そんな手間をかける気は一切無いので、今後も馬鹿な事して魔族に生体オナホと言う名の生贄にされ、その上で魔族の油断を誘い続けていただきたい。
さて、話を戻して現奴隷少女の初の依頼は…これだな。
初っ端から罠依頼ではなく、極普通の情報収集だ。
無論、敵地への侵入なので、偽装する必要はあるが、最低限の身分保障として自分の部下(と言うか使い捨ての道具)として登録されているため、早々邪魔してくる輩はいないだろう。
勿論、そんな事を気にする知性すらない者もいるため、どうしたってリスク自体は消えないが、それもまた勉強であり経験だ。
「と言う訳で依頼だ。遂行しろ。」
「唐突!?いや、やりますけど…。」
微妙な顔で元下忍少女は依頼内容を記した書類を受け取る。
そこには中規模の娼館の見取り図と警備の人員の配置と交代時間、侵入者用迎撃兵器の種類と配置、更に娼館を経営する魔族のプロフィール等が列挙されていた。
「…これ、娼館にしては重武装過ぎません?」
現奴隷少女の言う通りだった。
中規模とは言え、たかが娼館にしては規模がデカすぎる。
となれば、その大きな規模で一体何をしているのやら…。
「その点も含めた依頼だ。こなしてみせろ。」
「分かりました。装備類は…」
「全て自分で、だ。」
「了解です…。」
これからの事に思いを馳せ、元対魔忍現奴隷の少女は肩を落としながら了解した。