今回はデュエルはないけれど遊星が人外の道を一歩踏み出します。
私がその世界を見かけたのは偶然だった。
数多くある平行世界や異世界はアカシックレコードに載っている通りに進む。どんなイレギュラーがあろうと世界の修正力が働いて辻褄が合う。
その実例の一つが転生者という存在による介入だ。例え彼らが介入しようと世界は辻褄を合わせて進んでいく。世界の均衡が崩れることは決してない。
しかし、私が見つけた世界はアカシックレコードに載ってない、しかも誰も管理者がいない世界だった。
興味をもってさらに調べてみるとその世界が他とは違うことも気づいた。その世界は根本的なところが違ったのだ。
それは管理者がおらず、不安定なこの世界の柱の役目を持った人間、不動遊星の設定だ。彼の自分への負の感情のパラメーターが普通の平行世界より大幅に否、限界ギリギリに振り分けられていた。
不動遊星はどの平行世界でも皆、ゼロ・リバースで心にトラウマを負うが、パラメーターの異常な振り分けによってその世界の不動遊星はトラウマの言葉ではすまないほどに大きな闇を抱えてしまっていた。
そして不動遊星という人間の魂の本質はどの世界でも近年稀に見る純粋そのもの。彼の負によって集められた悪しきモノがその根元である彼を見つけ、その魂を取り込もうとするには自明の理。
私はその世界についてもっと詳しく調べるついでに慌てて彼と接触して友人として側にいた。しかしいつまでも一緒にはいられない。
どうしようと考えているとある日、“あの事件”が起きた。その事件に巻き込まれた仲間を救おうと遊星は私がもっとも取りたくなかった方法、“血”の契約を結んでほしいと言った。
私はもちろん拒んだ。契約を結ぶのは人間を止め、人ならざるモノになることと同じだからだ。
しかし遊星は契約できないならと自分の命を差し出す方法を取ろうとした。
負のパラメーターが大幅に振られた遊星の抱える闇は遊星自身に簡単に自分の命を軽視させるほど深いものだったのだ。
私は友人としての感情に動かされ、また神としてこの無法世界の詳細を知るためにまだ柱である彼を失いたくなくて、2つの感情に動かされ私は仮契約を結んだ。
10年程度で解消される契約。でもこの契約で私も彼が悪しきモノに狙われてもすぐに駆けつけられるようになった。
それから私は遊星と別れて再び調査をし始めた。ついでに管理者になっておいた。設定は変えられないが柱として被る危険は取り除けるだろうから。
そして仮契約期限である今日、私は解消の義をするために遊星を招待した。
ここで本来なら本契約をするか問うのだけど一度限りの契約だったから私は契約を解消してそのまま終わるつもりだった。しかし――
――事態は大幅に変わってしまったのだ。
遊星SIDE
目を覚ました俺は主と呼ばれる人物の待つ部屋へと来ていた。
ルシアが扉をノックする。
「お客人をお連れいたしました」
「そう、入って」
ルシアは扉を開けて俺を中へと案内する。
部屋にいたのは紅蓮の髪の女。俺は彼女を見たことがあった。
「ユリアか……?」
「えぇ。久しぶりね遊星」
俺が名前を呼ぶとユリアはニコリと笑みを浮かべた。
ユリアは俺の友人だった。ある事件で仲間が危機にあったとき、彼女が人でないことを知っていた俺は彼女に契約をしてほしいと頼み込んだ。
契約をすれば仲間を助けられるほどの力が手に入れられるから。
ユリアは渋々仮の契約を結んで一度だけ俺に神々の恩知恵とやらを与えてくれた。
なるほど、今日は7月7日……俺の18歳の誕生日か。
ユリアはこの日に契約を解消すると言っていたから今日はそのために呼んだのだろう。
「遊星、今日は……」
「契約を解消する日だったな」
「えぇ、でも……」
ユリアは何かを渋っている。
「でも……?」
俺が問いかけるとユリアは何かを決意したような顔で俺に向かって言葉を発した。
「遊星、アナタは……本契約を結べると言ったらどうする?」
「は?」
思考が止まった。
本契約?仮契約を解消したらもう契約はしないと彼女は言っていたはずだ。
いったい何故?
「どういうことだ?」
「……」
ユリアは黙ったままだ。そんなユリアを見かねてか、今まで黙っていたルシアが口を挟む。
「ユリア様、遊星様にちゃんと伝えると、伝えなければ遊星様が悲しむと、
アナタはそう仰られていたはずです」
「そう、ね……そうよね……。
遊星、落ち着いて聞いて」
ユリアは一呼吸置くと言った。
「アナタには死が具現化した鎖『
ユリアSIDE
ついに言ってしまった。これで後戻りはできない。
私はポカーンとする遊星に説明した。
「『死鎖』というのは死が具現化した鎖のことなの。
『死鎖』は死ぬ人間から伸びてその人間の死に関係する人間全員に巻きつく。
アナタには今の仲間やこれから仲間となっていく人達からの『死鎖』が幾重にも巻きついてるの。
この事実が示す答えはただ一つ。
これからアナタの歩いていく未来で仲間が死んでいくということ。
そしてそれには元凶の他にも遊星、アナタも関わってるの」
遊星はおそるおそる聞いてくる。
「その俺に巻きつく『死鎖』が伸びているのは、例えば……誰なんだ?」
「命のタイムリミットが一番近いのはジャック・アトラス、ジャックよ……」
遊星が驚きのあまり目を見開く。
まあぶっきらぼうで俺様だけど陰では一番遊星を気遣ってあげてたし、それに遊星も気づいてて小さいころは兄みたいに思ってた時期だってあったしね。
印象的には世界が滅んでもしぶとく生き残ってそうな人間だから衝撃がハンパじゃないわね。
私だって一時思考が止まったわよ。
「ジャックが……死ぬ……?」
「えぇ、近々ね。早ければ2、3週間弱、長くても2ヵ月以内に」
ジャックはこの世界の未来を遊星とともに支える上で重要な存在。それを抜きにしても大事な友達だから、死なせたくない。けれどこれは生半可なことじゃ回避できない。
ジャックの死には人ならざるモノが関係しているから。
神である私が介入するって手もあるけど、私は今、とある事情でここを動けない。
ルシアを行かせるにも生ける人間の依代がなければ彼は実体化できない。
そして彼を行かせることは彼の依代を人間の理から外すことも意味する。
本契約を結んだ人間はその時点で人間の理から外れるから本契約を結んだ遊星に憑依させて2人に任せるって手もある。
こんなことを考えるなんて私は残酷な女神だな……。
自嘲の笑みを浮かべる。
どちらにしてもジャックが生き残るためには遊星が本契約を結び人の道から足を踏み外すことを選ばなければならない。
それしか方法は本当にないのか。
何度も探した。何度も悩んだ。
でも結局この方法しかなくて、何度も泣いた。
「遊星、アナタに巻きつく死の運命、変えてみたくはないかしら?」
私がそう言うと、遊星は頷く。
「結ぶ」
彼は自分の命を他の命より軽く感じてる。
自分は罪人、そう思ってさらに仲間を大切にする彼にこんなことを話したら彼は即、人であることを捨てるだろう。
大事な仲間を救うため。
私は既に決めたことなのに遊星のその言葉に揺らいだ。
やはり彼に人であることを捨ててほしくない。
「遊星、人じゃ、なくなるのよ? 寿命だって違うものになる。
知ってる人は皆先に死んでって自分は変わらぬ姿で取り残される!
そんな絶望を味わうの! 人間から人ならざるモノになった者は皆!
アナタは、そんな絶望を味わうつもり?」
「……ジャックの死や他の人間の死は、生半可なことじゃ回避できない。
そうだろ? そうじゃなきゃ、お前はこんなことを話さないだろうから」
遊星は静かに言った。
「俺は、死んでほしくない。仲間、知り合いを死なせたくない。悲しませたくない。
仲間が死ぬのを回避できるなら、俺は例え悪魔になろうが怪物になろうが喜んでなってやる」
「……」
遊星の心は変わらないだろう。
でも……
(それが、その言葉が仲間にとってどれだけ悲しいか……)
「わかったわ。じゃあ、さっそく本契約をしましょう」
「あぁ。ユリア」
遊星が微笑む。
何で人間を止めていくのに、そんなふうに微笑めるんだろう。
「ありがとう」
「っ~!」
何で、そんなふうにありがとうなんて言えるんだろう。
わかってる。遊星はとても優しいから。
私はそのありがとうに揺れる。
「……大抵の悪魔にはデュエルなんて通用しないわ。だから、ルシアを憑依させる。
彼は、こう見えても上級悪魔なの。でも、彼を憑依させることでアナタは本当に人間を止めてしまう。
徐々に彼と同じ悪魔となってしまう。それで本当に良いの?」
「良い。後悔はしないから」
私はやっぱり悪あがきをした。遊星が止まるはずはないのに。
これで躊躇してくれたら良いと思って。
「ユリア様、彼の覚悟は揺るがない」
「そうね。私も腹をくくるわ」
私は席を立ち、遊星の前に立つ。その黒髪に手を置いて言霊を唱える。
手から青い光が遊星へと降り注ぐ。
「『彼の者、人の理より外れ我と契約する者 名を不動遊星』」
「『この者に我が神々の力と祝福を贈る』」
「『残酷なる未来と光溢れる奇跡を彼の者に約束する』」
「『ユリア・フラングラッセの名の下に』」
それで締めると遊星が小さく「ッ!」と声をあげた。
見るとチリチリと音をたてて遊星の左手の甲に何かのマークが刻まれている。
「アッ……グ……! なん、だ……?」
「契約の刻印……人ならざるモノと契約を結んだ者には必ず浮かび上がる。
どんな手を用いても消えないわ」
「そう、か……ッ」
遊星は左手を押さえていた右手をどける。
そこには逆さまの五邦星の刻印が刻まれていた。
「これで後戻りはできないわ」
「後戻りなんて、しない。っ!?」
遊星は自分の体を見ると顔を強ばらせた。
その体には、腕、胴体、足、果てには首にも幾重にも赤黒い、血が固まってできたように思わせる鎖が巻きついていた。まるで遊星を捕らえて逃がさぬように……。
「これが『死鎖』なのか?」
「えぇ。普通は神々や上級悪魔しか見れないんだけどね。
アナタに契約のさい
けど、その能力は今のアナタじゃ制御できない。常時発動状態となってしまう。
ごめんなさい。必要だとはいえそんな能力を与えてしまって……」
「いや、いい」
「そう。あの扉をくぐってもとの場所へ戻れるわ。戻ったらルシアが憑いてアナタを守り抜く」
「わかった」
「もうちょっとゆっくりしてって。
ルシ「ユリア様、お茶をお持ちしました」相変わらず対応はやっ!?」
ルシアにお茶を持ってきてと言おうとしたら既にお茶を持って待機してた。
今までずっと私の後ろにいたわよねこいつ?
遊星は「上級悪魔とはスゴいな」と感心してるし、順応性高い!!
そしてルシア、「いえいえ、これくらい普通ですよ。ブ○ーチの○歩を真似しただけです」とか。っていうかいろいろそのネタは危ないわよ!?
っていうかこいつ、以外すぎるけどマンガ読んだりするのか!
「いえいえ、それほどでも。
休日にユリア様のように一日中惰眠を貪るくらいならと読んでたらハマってしまいまして」
「惰眠じゃないわよあれは仮眠よ!」
「仮眠とは20時間以上眠ることでしたか?」
「グッ……!」
こいつ私の眷族か本当に!あぁー遊星の前ではそんなことカミングアウトしてほしくなかったのに!
すると私達の様子を見ていた遊星が笑い始めた。
「クスクス、アハハ……ユリアは相変わらずだな」
「ぎゃぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁぁぁ!」
その様子にさらに遊星は笑う。
こんな笑みを浮かべる遊星がこれから仲間のために人ならざるモノと戦うなんて誰が思うだろう。
しかしこれが現実。
世界と私、残酷な女神がもたらした悲しい現実なのだ。
えぇっと僕の足りない文才によってわけがわからない人用補足説明。
オリジナル設定が出てくるたびに後書きに載せて、いつか一覧みたいなの作って載せます。
『
人には寿命というものがあり、それを迎えられずに死ぬ人に巻きつく鎖です。
色は赤黒く、死の原因から伸ばされ死ぬ当事者と、当事者の死に関係してる人に伸び、彼らを結び付けます。
ちなみに当事者は赤、原因は黒、関係者は赤黒い色とグラデーションのようになっていて、関係は巻きついてる『死鎖』の色を見ることで一発でわかります。
何らかの外的要因があり今まで『死鎖』が巻きついてなかった人に『死鎖』が巻きつく場合があり、この要因というのが大抵の場合は『人ならざるモノ』やとんでもない存在力を持つ『転生者』にあります。
『契約』
文字通り、神や悪魔などの『人ならざるモノ』と契約することです。
契約した者は『契約者』と呼ばれ、体の部位に刻印が浮かび上がります。契約は一度したら解くことは不可能です。
できるのは、大罪を犯したとき契約主から切るのみです。因果応報で手痛いじゃすまないしっぺ返し喰らいますが。
契約者は神や悪魔が持つ『種族特性』によって様々な恩知恵を受けることができます。
ちなみに神と悪魔という対になる関係でも可能。一度に何人との契約をすることだって可能です。
でもそれをやったら悪魔のほうは『魔界の裏切りモノ』、神のほうは『残酷なる神』のレッテルを貼られるので基本やりません。
人間が契約すると人の道を踏み外し、徐々に契約した種族と同じ種族になっていきます。
現在の遊星はさらにルシアが憑依してるので女神であるユリアが属する『神族』になると同時にルシアの属する『魔族』になっていきます。
ルシアが憑依を解いても一度始まった変化は止まりません。
所謂、『神族』の能力に『魔族』の能力も持つことになります。
ちなみに遊星は後々、2つの種族の能力を持つという特殊な存在な故に面倒に巻き込まれます。
ユリアでさえ予想できないほどの。
『
遊星が契約した女神、ユリアから授かった能力です。
これで神や上級悪魔しか見えない『死鎖』が(契約してもまだそこまでの変化はないので)人間の遊星にも見えます。
(今はまだ)人間であるゆえに遊星には制御できず、常時発動状態になっています(つまり道行く人の『死鎖』が勝手に見える)。
僕なら耐えられませんね。発狂ものです。
遊星が物語が進んでいくことで人外になってくので、そのうちルシアを通じてユリアに制御方法を教わります。
今のところはこんな感じです。
『種族特性』などなどについては物語で設定が出てきたら後書きに載せます。
次回はデュエルです。VS牛尾さんで、リアルファイトのVS悪魔編でもあります。
ルシアの悪魔としての残虐性も垣間見える回にしたいと思います。それではー。