絶華   作:雨守学

12 / 24
第12話

夕張は一瞬、黙り込んだ。

だが、すぐに返事をした。

 

「うん。好きよ。恋って言うやつ? 飯田さんがそう言ってたわ」

 

「あっさりしたもんだな」

 

「だって、知ってる感じだったから。飯田さんから聞いてるんでしょ?」

 

「……まあな」

 

「まぁそうよね。飯田さんの事だから、貴方に話すわよね。もしかして、今朝、飯田さんが私を誘ったのって……」

 

「俺が頼んだ。お前、様子が変だったからよ。俺には解決できそうになかったしな」

 

「そう。そうなのね」

 

そう言うと、夕張は海の方へと目を向け、黙ってしまった。

飯田ちゃんの言ってたことを疑ってはいなかった。

だが、直接本人から聞くと、変に現実味を帯びてくるな。

 

……

………

…………

 

「夕張さんは、山岡さんに恋をしてるみたいです」

 

「俺に恋? んな馬鹿な」

 

「夕張さんの元気がなくなった原因のすべては、山岡さんにあります。別に悪いと言っているわけではないですよ。ただ、夕張さんが山岡さんに恋をしているという事を前提に考えれば、合点のいくことです」

 

「納得はしてないが、とりあえず聞こうか」

 

「ありがとうございます。まず、夕張さんの元気が無かった一つとして、山岡さんに強く当たってしまったことを後悔していたから、というのがあります」

 

「罪悪感か」

 

「そうです。そしてもう一つは、山岡さんに許して貰えたから……です」

 

「……どういう意味?」

 

「夕張さん的には、強く当たってしまったことはとても重要な問題でした。山岡さんが好きだから、嫌われるんじゃないかって……。でも、山岡さんはそれを簡単に許した。まるで、どうでもいいことだと言うように……」

 

それを聞いて、なんとなく理由が分かった気がした。

 

「察しの悪い山岡さんでも、分かりますよね。つまり夕張さんは、山岡さんが自分の事なんてどうでもいい存在なんだと思われていると考えてしまったわけです。好きな人からそう言う風に思われたら、ショックですよね……」

 

「確かにそうかもな……。だが、分からねぇな。どうして夕張はあんなに強く俺に当たったんだ?」

 

「嫉妬ですよ」

 

「嫉妬?」

 

「山岡さんが香取さんと仲良さそうにしているのを見て、何だかモヤモヤして、イライラして……強く当たってしまったのだと言っていました」

 

出発のあの時か……。

言われてみれば、あの時から夕張は強く当たって来たような……。

 

「夕張さんに恋の自覚はありませんでした。嫉妬しているという自覚も……。だから、なぜ自分があんなことをしてしまったのか分からず、困惑し、大変な事をしてしまったと後悔していたんです」

 

「……なるほどな。筋は通るが……」

 

「信じられませんか?」

 

「あまりな……。それで、どうやって元気にさせたんだ?」

 

「恋をしているということを自覚させました。恋は盲目というくらいですから、誰でも人を傷つけてしまうことがあると……。仕方のない事なのだと……。それに、山岡さんは夕張さんをどうでもよいと考えているわけではなく、夕張さんを想っているからこそ、許したのだと……」

 

「それで夕張はけろっとなおったのか……。何だかな……」

 

「言いたいことは分かります。でも、夕張さんにとって、自分が恋をしていたことが問題なのではなくて、山岡さんに当たってしまったことが問題だったのだと思います。原因が分からないと、また同じ過ちを繰り返してしまうだろうと……」

 

確かに夕張は、俺が傷ついたり落ち込んだりした時、自分のせいなのではないかと、いつも悲しそうな顔をして謝って来ていた。

 

「恋の行方について……夕張さんは理解しているのだと思います。だからこそ、そこの部分について解決していなくても、平生を保っていられるのだと思います」

 

「……あいつは自分の事については、忍耐強いからな……」

 

「自分に厳しく、他人に優しく……。まるで、誰かさんに似ていますね……」

 

「…………」

 

…………

………

……

 

恋の行方が明るくなくても、夕張は構わないと考えている。

――いや、考えざるを得ないのだろう。

そう決断できるこいつの心は、本当に強い。

鳳翔や鹿島ですら、その辛さに耐えるので必死だったのに、こいつは――。

 

「……私ね、別に、貴方とどうしたいって訳ではないの」

 

「…………」

 

「そりゃ、出来ればしたいことってたくさんあるけど……そう出来ないのが現実だし。月に手を伸ばして取って来いって言われても無理でしょ? それと一緒で、ちゃーんと分かってるから」

 

ベクトルが違う。

が、そう思わないとやっていられないのも事実だ。

滅茶苦茶な理解だが、滅茶苦茶にしてでも自分に理解させるところが夕張らしいと思った。

 

「でね、思ったの。貴方を好きであることを曲げることが出来ないから、好きでいていいんじゃないかって」

 

「……どういうことだ?」

 

「ただ好きになるだけなら、問題ないって事。物を愛すことと一緒よ。見返りが無くても、好きでいることは出来る。そうでしょ?」

 

それを聞いて、俺は夕張に自分の影を見た。

同じだと思った。

俺も、飯田ちゃんに振り向いてもらえなくても、好きでいた。

好きでいるだけなら問題ない。

飯田ちゃんの恋を応援することまでした。

自分にとってそれは損であると、誰かは言うかもしれない。

それでも、俺は好きでい続けた。

 

「とは言え、やっぱりいいようには見られたいし、積極的にアタックはするけどねー。あわよくばって感じで」

 

だからあんな回りくどいことを言ったのか……。

 

「それでも、私は貴方に返事は求めない。見返りを求めない。ただ好きでいるだけ。貴方を心配させない。落ち込まない。約束するわ」

 

徹底してるな。

まるで、用意していたかのように。

俺がどう思っているのか、知っているかのように……。

 

「気を遣わせて悪いな」

 

「ううん。私がそうしたいだけだから」

 

「そうか……」

 

今はこうとだけ答えるのが正解なのだろう。

夕張の決意を揺るがすことが、一番よくない事だと思った。

ここで俺が優しい言葉をかけ、慰めでもしたら、夕張の築き上げた強さのすべては、音を立てて崩れ去るだろう。

夕張もその事を分かっているのか、それ以上何かを言うことは無かった。

 

 

 

宿舎に戻り、香取に連絡を取った。

 

『――そんな訳で、こちらは相変わらずですよ。山風ちゃんがちょっと寂しそうなだけで……』

 

「あいつはもう寝たのか?」

 

『はい。ちょっと手古摺りましたが、なんとか……』

 

「そうか。悪いな。何もかもを任せちまって」

 

『いえ。それにしても、山風ちゃんの事と言い、山岡さんが居ない事で結構な支障が出るものですね。改めて、山岡さんが大切な存在なのだと感じました』

 

「やっと気が付いたか。おせぇよ」

 

『せっかく褒めたのに、何だか嫌な返しですね……』

 

「照れてんだよ」

 

『そうですか。ふふ』

 

電話越しに、香取の笑顔が見えるようであった。

 

『明日はいつ頃お戻りに?』

 

「今と同じで、消灯時間を過ぎた頃かもな。皆を起こさねぇよう、静かに戻るさ」

 

『分かりました。お体に気をつけて』

 

「お前もな」

 

電話を切り、今日の仕事は終わった。

 

「ふぅ……」

 

流石に夕張の事は話せなかった。

話しても良かったが、電話にしては長い話になるし、明日も苦労する香取に変に心配されても困るしな。

 

 

 

翌日は、まるで何事もなかったかのように、俺も夕張もいつも通り振る舞っていた。

 

「今日は吹雪さん来るかしら」

 

「さぁな。ここではあいつらが一番忙しいだろうしな」

 

もし顔を出さないようであれば、そっちの方が都合がいいのかもしれねぇけど。

 

「提督、今日はイベント終了まで居れるんですか?」

 

「一応そのつもりだ。だが、終わり次第出ることになるだろうな」

 

「そうですか……。別れを惜しむ暇も無い、か……」

 

「むしろ、惜しむ暇のある方が悪いのかもしれねぇぜ。ぱぱっと別れちまった方が、後腐れねぇだろ。お前だってあの時そうしたしな」

 

「そうですけど……」

 

「そう辛気臭い顔すんな。思い出はまぁまぁつくったつもりだぜ」

 

「あの夜の事だけじゃ、ちょっと物足りないかもですけどね……」

 

その言い方に、俺も夕張もギョッとした。

明石もそれに気が付いたのか、慌てて訂正した。

 

「あ、いや! 変な意味じゃなくて! 普通にお話しただけというか! 私にとってはそれが思い出になるというか!」

 

明石……その慌てぶりは逆に誤解を招きそうだぜ……。

恐る恐る夕張を見る。

夕張はそっと目を閉じると、小さくため息を吐いた。

 

「そっか。じゃあ、今日くらいは明石についてあげたら? 私は一人で対応できるように、ちょっと離れたところに居るからさ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「うん。助けられっぱなしって訳にはいかないでしょ。ほら、そろそろイベント始まるわよ」

 

そう言うと、夕張は距離を取るように俺たちから離れた場所に座った。

なんてことない気づかいだが、あいつの気持ちを知っていると、なんだか無理しているように感じてならなかった。

 

 

 

イベントは順調に進んでゆき、夕張の方も上手くやっているようであった。

 

「今日はお客さん少ないですね」

 

「昨日がピークだったみたいだな」

 

そんな話をしていると、工廠の外でざわついているのが聞こえて来た。

 

「なんだ?」

 

窓から覗いてみると、そこには吹雪が居た。

子供たちに囲まれ、こちらへ歩いてきている。

その後ろには――。

 

「……来たか」

 

 

 

吹雪たちが工廠に入ってきてから、昨日のピーク以上の騒がしくなった。

テレビで見る姿とは違い、吹雪は幾分か大きくなっているように見えた。

顔つきも大分大人っぽくなってきている。

色んな事を経験してきたという感じだった。

夕張も思うところがあったようで、どこか余所余所しく対応していた。

 

「…………」

 

そんな中、じっと吹雪を見つめる男。

そいつは、まるで別人のような顔つきで立っていた。

そして、目を逸らす俺の横に立つと、俺にしか聞こえないような小さな声で言った。

 

「騒がせて悪いな……」

 

話しかけてくるとは思わなかったから、少し驚きつつも、返事をした。

 

「いや、構わねぇよ」

 

お互いに目を向けることもせず、ただ吹雪たちの方を見ていた。

 

「……無視してくれて構わなかったんだぜ」

 

「ああ、飯田から聞いてるよ……」

 

「なら、話しかけんなよな。知っての通り、俺はおしゃべりだぜ」

 

「知ってるよ……。付き合い長いから……」

 

「だったら……」

 

「だからこそ……一言でもいいから話しておきたかった……。俺はここで少しは強くなったつもりだが……やっぱり……どうも押しつぶされそうな時があるんだ……」

 

「…………」

 

「……少しでも話すことが出来て良かったよ」

 

そう言うと、そっと俺の傍を離れ、吹雪の方へと向かっていった。

それから工廠を出るまでの間、目を合わせることもなかった。

 

 

 

イベントも終盤に近付いてくると、人が入ってくることはなくなった。

 

「まるで嵐のようでしたね」

 

「そうだな」

 

俺は吹雪の事よりも、あいつの事を気にしていた。

ずっと、あいつは強い人間だと思っていた。

だが、話してみて分かった。

――いや、改めて気が付いたというべきか。

そりゃそうだよな。

何も知らぬままこんなところへ送られて、鹿島との決別を強いられ、風当たりの強い環境で戦わなきゃいけないってのは、辛いもんだよな。

弱音の一つでも吐きたくなるよな。

あいつにとって俺に話しかけるって事は、リスクでもあり、救いでもあったのだろう。

それほどに――。

 

「提督? 大丈夫ですか?」

 

「ん、あぁ……。ちょっと考え事をしてただけだ」

 

「ならいいのですけど……。それよりも……もう人も来ないし……ちょっとくらい思い出をくれてもいいんじゃないですか?」

 

「欲しがりだな」

 

「贅沢だとは言わせませんよ?」

 

「言わねぇよ。何してほしい?」

 

「そうですねぇ……」

 

明石が考えていると、飯田ちゃんがやって来た。

 

「お疲れ様です」

 

「おう、お疲れ」

 

「本部より伝達です。イベントも落ち着いてきたので、帰るようにと……」

 

「え……」

 

声を漏らしたのは、明石だった。

 

「飯田ちゃん、ちょっとは伸ばせねぇのか?」

 

「難しいですね……。警護隊の手配をされてしまっているので……。ごめんなさい……」

 

「そうか……」

 

明石の方を見る。

見たこともないような悲しい顔で、俯いていた。

 

「明石……」

 

「……そうですか。うん……。それなら仕方ないですよね。楽しい時間は、本当にあっという間だなぁ」

 

無理してつくったその笑顔に、流石の俺もかける言葉が見つからなかった。

 

「提督、夕張、本当にありがとう。また遊びに来てくれると嬉しいな……」

 

「うん……また来るわ。絶対」

 

「お呼びがかかればな」

 

「提督は冷たいですね……。そう言うところですよ。モテないのは……」

 

「余計なお世話だ」

 

そう言って、笑って見せた。

いつもの感じで別れたら、明石も笑ってくれると思っていたが、今日は違った。

明石は、ぽろぽろと涙を流し、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

 

「お、おいおい……マジかよ……」

 

「明石さん……」

 

「ご、ごめんなさい……。うぅぅ……」

 

予想外な事にオロオロする俺や飯田ちゃんと違い、夕張は冷静だった。

 

「明石」

 

「夕張……ごめんね……。私……泣くつもりは……」

 

「うん、分かってる……。ね、飯田さん、荷物を取ってくるから、しばらく明石とこの人を二人にしてあげられないかしら? それくらいの時間はあるでしょう?」

 

そう言うと、夕張は俺に優しい表情を向けた。

俺は、その表情の意味を誰よりも知っていた。

表向きな意味ではなく、裏向きな意味を。

 

「そうですね。それくらいなら」

 

「そう言うことだから、しっかり慰めてよねー」

 

夕張は俺の肩をポンと叩くと、飯田ちゃんと共に工廠を出て行った。

 

「ご……ごめんなさい……提督……」

 

「いや、構わねぇよ。俺こそ、ひでぇこと言っちまったな」

 

明石は大きく首を横に振った。

 

「提督は優しすぎるくらいです……。泣いてしまったのも……いつものように送ってくれる提督の優しさを感じたからで……。私もいつものように返そうと思ったのですが……」

 

そう言うと、明石は再びぽろぽろと涙を流した。

 

「……駄目ですね。やっぱり私……寂しがり屋です……」

 

「あぁ、そうだな。だが……そうなるのも仕方のないことだと思うぜ。俺だって、同じ環境だったら、きっとそうなるだろう」

 

俺よりも強いあいつが、そうだったように。

 

「……慰めにはならねぇだろうが、絶対にまた会いに来ると約束する」

 

「本当ですか……?」

 

「ああ、絶対だ」

 

今度はおちゃらけず、真剣な心持で約束をした。

 

「ほら、美人な顔が台無しだぜ」

 

涙を拭いてやると、明石は照れるようにして笑った。

 

「ふふっ、酷いのがゴロゴロいるんでしたっけ?」

 

「ああ。そうでなくても、お前は美人だ」

 

「そういう慰めはいりません」

 

「本心だ」

 

そう言ってやると、明石は小さくため息をついた。

 

「……もう。だから……そう言うところですって……。本当に……もう……」

 

明石は俯くと、黙り込んでしまった。

 

「なんだよ、照れてんのか?」

 

覗き込むと、その顔は真っ赤だった。

 

「……マジで照れてんのか?」

 

明石は小さく頷くと、しゃがみ込んで小さくなってしまった。

 

「はぁ……そっか……。そう言うことかぁ……」

 

そしてぶつぶつと独り言を言った後、俺の方をちらっと見た。

 

「なんだ?」

 

「別になんでもないです……。何でもないですけど……。その……立つんで手をとって貰ってもいいですか?」

 

手を掴み、立たせてやる。

 

「……どうも」

 

急に余所余所しくなった態度を見て、流石に感づいた。

 

「明石」

 

「はい……」

 

「俺はどうだ?」

 

「え?」

 

「俺はハンサムか?」

 

「……どうでしょうね」

 

目も合わせずそう言った。

 

「そうか」

 

沈黙が続く。

 

「……そろそろ行くかな。また連絡する」

 

「はい……。私からも……してもいいですか?」

 

「構わねぇよ。じゃあ、またな」

 

「はい……また……」

 

 

 

イベント会場の裏門には、既に何台か車が止まっていた。

 

「こちらです」

 

車に乗り込むと、夕張が退屈そうな顔をして、車窓から会場の方を見つめていた。

 

「お帰りなさい。明石、どうだった?」

 

「何とかなったぜ。ここにいるとセンチメンタルになるらしい。明石に限った話じゃねぇようだがな」

 

「そっ」

 

車内には俺たちしかいなくて、外では何やら地図を広げて、ああでもないこうでもないと揉めていた。

 

「それで? 告白でもされたの?」

 

「あぁ」

 

夕張は不意を突いたつもりのようだったが、俺がすぐに答えるものだから、逆に驚いていた。

 

「……なんて答えたの?」

 

「明確には言われてねぇよ。だが、お前と同じで、気が付いてしまったという感じだった」

 

「自惚れじゃなくて?」

 

「お前も確信があったんだろ? だからそんな質問をした。違うか?」

 

「……そうだけど」

 

「いつからだ? 明石が俺を好きかもしれないと思ったのは」

 

「自分の気持ちに気が付いた時よ……。明石、貴方の事ばかり話していたし、やけに貴方と居たがるし……もしかしてって……。本人も気が付いているものだと思っていたけれど……」

 

「自分で気が付いた分、明石の方が上手だな」

 

それに、夕張はムッとした。

 

「……あいつの場合、ああいう環境だし、気軽に話せる異性として、俺を意識してしまっただけなのかも知れねぇけどな」

 

「それは私にも言えるでしょ」

 

「そうかもな」

 

「それに、恋ってそういうものじゃないの? 後押しする環境が必ず存在する。貴方が飯田さんに恋をしたのだって、第三者から見たら、何々だったから恋を「してしまった」になるわけだし」

 

「昨日恋を知ったくせに、やけに落ち着いた考えを持っているんだな」

 

「まぁね……。あれからずっと考えているから……」

 

そう言うと、夕張は再び退屈そうに窓の外に目を移した。

 

「貴方からの見返りは求めないって言ったけどさ……やっぱり……明石とか香取さんに比べて、私はどう思われてるんだろって思っちゃうのよね……。特に、貴方を好きでいる明石と比べて……」

 

「なのに、明石を後押しをしたのか」

 

「その理由は貴方だって分かるでしょ。同じよ。貴方が第二寮の寮長さんにやったことと」

 

こいつ……。

 

「そうかよ。ま、そのおかげで俺は、明石の事が好きになったけどな」

 

そう言ってやると、夕張は黙り込んでしまった。

 

「傷ついたか?」

 

「……傷ついたわ」

 

「ほら見ろ。碌な事ねぇだろ。俺の真似なんかするな。俺はそれで失敗してるんだからよ。お前に同じ道は歩んでほしくねぇ」

 

「うん……。……ちなみにだけど、明石への気持ちは……?」

 

「お前に対する気持ちと一緒だ」

 

「それは喜んでいいことなのかしら?」

 

「どうだかな」

 

俺がそう言ったのと同時に、運転手が乗って来た。

それから施設へ戻るまで、俺たちは一言も話すことは無かった。

車内に取り付けられたテレビからは、イベント終了のニュースと共に、艦娘の「維持費」について、専門家たちの討論している様子が映し出されていた。

 

 

 

道路が混んでいたのもあり、施設に着くころには日付が変わっていた。

 

「せっかく早く出て来たのにな」

 

「ルート選択を誤ったらしいわ。ほら、出発前に揉めてたでしょ?」

 

「しっかりして欲しいものだぜ。全く……」

 

寝ている連中を気遣い、寮までは歩いて帰ることにした。

しばらくすると寮が見えて来て、俺の部屋からうっすらと光が漏れていた。

 

「誰か居んのか?」

 

「きっと香取さんよ」

 

「香取?」

 

「貴方を待ってるんでしょ。ほら、行ってあげなさいよ。私は今日、工廠に泊まるから」

 

「おい」

 

「静かにしなきゃいけないし、あそこが一番落ち着くのよ。ね、今日だけだから。いいでしょ?」

 

「…………」

 

ま、こいつも頑張ったしな。

少しくらい自由にさせてやらねぇとな。

 

「今日だけだぜ」

 

「ありがとう」

 

「ったく……」

 

「ね、貴方も一緒にどう?」

 

「あ?」

 

「一緒にお泊り」

 

「あほか。許可取り消すぜ」

 

「冗談よ。本当は、貴方を香取さんのところに行かせたくないだけだったりして」

 

「変な心配ならしなくていいぜ。何なら、お前も来いよ」

 

「香取さんは貴方だけがいいみたいよ。だから部屋にいるんじゃないの?」

 

そう言うと、夕張は優しく笑って見せた

こいつは本当……。

 

「お前、いい加減にしろよ。俺の真似はやめろと言ったはずだぜ」

 

「そんなつもりはないけど……」

 

「だったら……」

 

夕張は観念したかのように、俯いた。

 

「……本音は、香取さんの気持ちを知りたくないだけ。もし香取さんが貴方を好きだって知ってしまったら、私はきっと、香取さんに勝てないと思ってしまうだろうから……」

 

「端から勝てねぇと思うのか。らしくねぇな」

 

「だって……パートナーだし……お似合いなんだもの……。そんな香取さんのところに行かせたくないけど……貴方を止める権利は無いし……迷惑かけないって約束したし……」

 

「心配させないから、という点については、現に破られてるけどな」

 

それを聞いて、夕張はさらに落ち込んでしまった。

 

「…………」

 

本来なら、慰めの言葉とか、優しい言葉なんてものは、かけてはいけないのであろうな。

そんなことをして、変に期待させてもいけないし。

だが……。

 

「……仮に香取がお前と同じ気持ちを俺に持ってくれていたとしても、俺の態度は変わらねぇよ。誰が一番だとか二番だとか、俺にはねぇよ」

 

それはある意味では、夕張の慰めにはならないのかもしれない。

夕張的には、自分が一番であることが、ゴールなのだからな。

だが、夕張が一番気にかけているのはそこではない。

香取の気持ちを知りたくないとは言っていたが、本当に知りたくないのは、俺が香取をどう思っているかであろう。

 

「そう言うこった。ったく、モテる男はつらいぜ」

 

そう笑ってやると、夕張もクスッと笑った。

 

「艦娘だけでしょ。貴方を好きなのは」

 

「あぁ、そうだな。そう言うこったな」

 

その言葉には様々な意味が含まれていた。

夕張がそれを察してくれたかどうかは分からないが、今はこれでいいのだろう。

 

「工廠に行くなら勝手にしろ。俺にはまだ「仕事」が残っている」

 

「そうさせてもらうわ。お仕事、頑張ってね」

 

「あぁ」

 

夕張は大きく手を振りながら、工廠の方へと向かっていった。

 

 

 

静かに寮へと戻り自室へ入ると、確かに香取が居た。

だが、机に伏して眠っていた。

 

「…………」

 

長い事待とうとしていたのか、マグカップにはコーヒーが淹れられていて、もうすっかり冷めていた。

 

「香取」

 

「ん……あ……山岡さん……お帰りなさい……。すみません……寝てしまっていました……」

 

眼鏡をしたまま眠っていたところを見ると、寝落ちしたという感じか。

 

「遅くなった。だが、別に待ってくれていなくても良かったんだぜ」

 

「いえ、そう言う訳には……。夕張さんは……?」

 

「工廠に泊まるってよ。一番落ち着くんだとさ」

 

「そうですか……」

 

香取が顔を上げる。

机の上に涎が垂れていた。

 

「あ……やだ……。ごめんなさい!」

 

それで一気に目が覚めたのか、近くにあったティッシュで一生懸命拭き始めた。

 

「本当にごめんなさい! あの、私の部屋の机と交換しましょうか!?」

 

「落ち着け。他の連中が起きちまう」

 

「あ……本当……もうこんな時間だったのですね……。本当にごめんなさい……」

 

「構わねぇよ。それよりも、今日はもう寝ろ。報告などについては、また明日にでも話そう」

 

「明日ですか……。明日はきっと、山風ちゃんがずっと山岡さんについて回ると思います。話すなら今かと……」

 

そうか、山風か……。

色々あり過ぎて、すっかり忘れていたな……。

 

「あ……山岡さんがお疲れでしたら、明日の落ち着いたころでも大丈夫ですが……」

 

「いや……そうだな。山風の事が無くても、明日はちょっと忙しくなりそうだ。天龍の事もあるし、夕張の件もあるしな」

 

「夕張さん、ですか?」

 

「あぁ……。お前、時間大丈夫か?」

 

ただならぬ雰囲気を感じたのか、香取は姿勢を正して座った。

 

「大丈夫です」

 

「実は――」

 

 

 

説明を終えると、香取は何も言えないというような様子であった。

 

「……まあ、あいつも立場は分かっているようだし、理解はしてやってほしいんだ」

 

「分かりました……。しかし、驚きました……。確かに、山岡さんと夕張さんは仲が良いとは思っていましたが……。これからは自重なさるおつもりですか……?」

 

「いや……いつも通り振る舞おうと思う。将来の事を考えれば、恋をすることが悪いことだと思ってしまう……ってなことの方が問題だからな」

 

そうだ。

ここはそう言う人間らしい事を教えて行く施設だ。

今が大切なのは事実だが、俺たちの仕事はそこじゃねぇんだ。

 

「そうですね……。それが一番でしょう」

 

「あいつは少しセンチメンタルになっている。口では問題ないようなことを言っているが、やはり抑えられない事もあるようだ。俺がお前と話しているだけでも、あまりいい気はしないだろうしな」

 

「私……ですか?」

 

「あぁ。あいつはお前に嫉妬していた。俺とお前がパートナーであるから、特別な存在なんだと思ったんだろ」

 

その言葉に、香取は戸惑いを隠しきれないといったように、目を泳がせた。

 

「だが、こうしているのも「仕事」だ。あいつにはそれを認識させる。香取、お前には感謝しているし、苦労をかけると思うが……」

 

「分かっています。少し寂しいですが、なるべく夕張さんの前では、山岡さんとお話しするのは自重します」

 

「悪いな……。この三日間も大変だったろ」

 

「仕事はそんなでもありませんでした。ただ、山岡さんを慕っている方たちをまとめるのが大変で……。やっぱり、山岡さんが居ないと駄目だと思いました」

 

「明日はゆっくり休んでくれて構わねぇ。なんなら、「街」にでも遊びに行け」

 

「お気持ちは嬉しいですが……山岡さんだってお疲れでしょうし……」

 

「俺は向こうで大したことはしてねぇんだ。お前に頼りっぱなしってな訳にもいかねぇし、気合を入れる意味でも、俺に任せてくれねぇか? まあ、こんなだから心配だろうけどよ」

 

「そうですか? では……お言葉に甘えさせていただきます。実は、ちょうど髪を切りたくて……」

 

「前髪、いつも邪魔そうにしてたもんな。そうだ。お前にこれやるよ」

 

「髪留め?」

 

「向こうで作らされたんだ。髪を切るから、もう必要ねぇかもしれねぇが……」

 

「山岡さんがこれを?」

 

「あぁ」

 

香取は髪留めをまじまじと見た後、チラリと俺の方を見た。

 

「本当に俺が作ったんだぜ。疑ってんのか?」

 

「い、いえ……。その……山岡さんにしては可愛いものを作るなと……」

 

「そりゃ悪かったな」

 

香取は髪留めをつけると、鏡で確認した。

 

「どうでしょうか? 似合いますか?」

 

「あぁ、いいんじゃねぇか?」

 

「ありがとうございます。大切にしますね」

 

「そんな代物じゃねぇけどな。さてと、もう部屋に戻れ。俺はレポートを確認してから眠るとする」

 

「はい。お体に障らない程度にしてくださいね」

 

「分かってる」

 

「では、おやすみなさい」

 

「あぁ、お休み」

 

香取が部屋を出た後、俺はレポートを開いた。

いつも事務的に記入されているレポートだったが、この三日間の事については、詳しく、そして分かりやすいように赤線が引いてあったりしてあった。

 

「香取の奴、気を遣ってくれたな」

 

やはり天龍や山風の事が多く書かれていた。

特に天龍の事については、様子がおかしいというようなことが書かれていて、日が経つにつれ、香取の心配するような様子が見てとれた。

 

「…………」

 

天龍とは、喧嘩したというような感じで別れちまったからな。

あいつの心に残る傷は、俺が想像していたものよりも大きかったのかもしれない……。

 

「謝らねぇとな……」

 

夕張の件もそうだが、俺がこんな感じだったばかりに、誰かを傷つけてしまっている可能性があるんだよな。

俺を好いてくれるような奴なんて少ないと、どこか卑屈になっていた。

それ故に、他人を思いやることが出来なかったのかもしれねぇな。

 

「信用されたいと頑張ってきたが、一番信用してなかったのは俺なのかもな……」

 

 

 

翌日。

まだ部屋に太陽の光が射してないような早朝の事であった。

 

「ん……」

 

昨日はあんなに遅かったのに、不意に目が覚めてしまった。

 

「何時だぁ……?」

 

寝ぼけ眼で時計を見ようとすると、そこにあるはずの時計は無かった。

 

「……?」

 

なんだか暗い。

LEDで表示されるタイプの置時計だから、普通は見えるはずだが……。

 

「ん……」

 

目を擦り、再び目を開けた時であった。

暗いと思っていたそれは、人影であることに気が付いた。

 

「――っ!?」

 

声にならない叫び。

心臓の鼓動が一気に早くなり、俺は思わず布団を飛び出した。

 

「だ、誰だぁ!?」

 

人影がすっと立ち上がり、俺に近づく。

俺は恐る恐る照明の紐を引っ張った。

そこには――。

 

「て、天龍……?」

 

「…………」

 

天龍は、今にも泣きだしそうな顔で、俯いていた。

 

「お前……こんな朝早くからどうした……? つうか、勝手に部屋に入ってくんなよ……」

 

「……ごめん」

 

「全く……びっくりしたぜ……」

 

心を落ち着かせ、天龍に向き合う。

 

「……で、どうした? 何か用事か?」

 

そう優しく聞いてやると、天龍はぽろぽろと涙を流した。

 

「オ、オレ……謝りたくて……うぅぅ……うぅぅ……」

 

まあ、大体予想はしていたが、割とガチ泣きでちょっと引いた。

……って、こいつは真剣なんだよな。

 

「鼻出てるぜ。ほら」

 

ティッシュで鼻水を拭いてやると、天龍は続けた。

 

「ほ、本当は……昨日……謝りたかったんだけど……っ……寝ちゃ……って……」

 

天龍らしいな。

年越しの時も、起きてると息巻いて、結局誰よりも先に眠っちまったしな。

 

「何を謝るって?」

 

「この前……茶化しただろ……。オレ……あんなに怒ると思ってなくてぇ……うぅぅ……」

 

「泣くな。……俺も、言い過ぎたと反省している。ごめんな……。お前がそんなに傷ついているとは知らなかった」

 

「山岡ぁ……うぅぅ……ごめんなさいぃ……」

 

「こら、引っ付くな!」

 

「うぅぅ~……」

 

結局天龍が泣き止むまで、俺はTシャツを涙と鼻水でぐしゃぐしゃにされるがまま、立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

「あ~あ……台無しにしやがって……」

 

「ごめん……」

 

上着を着替え、落ち込む天龍の前に座った。

朝日は部屋に射しており、そろそろ皆が起き出す時間であった。

 

「もう平気か?」

 

「うん……」

 

「そうか」

 

こんな大ごとになっているとはな。

ちょっと謝れば済むことだとどこか簡単に考えていたが、こいつにとっては本当に深刻な問題だったのだろうな。

 

「……そういや、この三日間の事、レポートで見たぜ。お前、山風と一緒に勉強していたらしいな」

 

「……山風が言うんだ。山岡が帰ってきたら、驚かせてやるって……。きっと喜んでくれるって……」

 

「だからお前も勉強したのか?」

 

天龍は小さく頷いた。

 

「……勉強ってのは、機嫌を取るためにするもんじゃねぇんだぜ」

 

「分かってる……。でも……オレは……」

 

いつもなら呆れちまうが、夕張や明石の事もあって、俺は少しだけこいつの気持ちが分かるような気がした。

だからだろうな。

 

「けど……ありがとうな。また仲良くしようと思ってくれて。その気持ちは、すげぇ嬉しいよ」

 

そう笑って見せると、天龍はじっと俺の目を見つめた。

 

「なんだよ?」

 

「いや……なんて言うか……今日の山岡、何だか優しいなってさ……」

 

「いつもはひでぇってか?」

 

「そうじゃないけど……。なんだろう……オレにも良く分かんねーんだけど……変わったっていうか……。いつもと違う感じがして……」

 

そこまで言うと、天龍は立ち上がった。

 

「……顔洗ってくる。そろそろ山風も起きてくるだろうし、大変になるだろうからな……」

 

「おう」

 

もう一度俺の目を見る。

 

「なぁ山岡……」

 

「なんだ?」

 

「お前さ……オレが「独立試験」に合格したら……嬉しいか……?」

 

「そりゃな」

 

「そっか……。うん……そんだけ。じゃあな」

 

天龍が出ていくのと同時に、山風が飛んできた。

 

「パパ……! パパ……!」

 

着替えたばかりの上着は、再び涙と鼻水で台無しになった。

 

 

 

あれから数日。

天龍と山風は「独立試験」を受ける日程まで決めるほど、勉強に集中していた。

 

「山岡さんに褒めてもらう一心で頑張っているんですよ。きっと」

 

「…………」

 

褒めてもらう一心……か……。

本来はそう言う目的ってのはいけないとは思うが、それが原動力になっているのも事実だし、結果としてこいつらは成長できる。

思えば第二寮だって、あいつを中心に変わっていったわけだしな。

そういう気持ちを利用しようとは思わないが、そう言うことが大切になる時もあるって訳か……。

夕張や明石の気持ちを知った今だからこそ、俺は疑わずに、天龍たちの原動力に理解が出来るようになったのかもしれない。

 

「だが……」

 

俺があいつらの気持ちを抱えきれるか不安だ。

あいつらが望むこと、あいつらが追い求めるものを果たして俺が持っているか。

持っているように期待させても悪いし、それに気が付くことが出来ない事だってあるだろう。

夕張の気持ちにだって、俺は答えてはいない。

あいつの求めるものについても、はっきりとは分かっていないんだ。

 

「そう言えば、夕張さんですけど……。食事や睡眠以外では、ほとんどの時間を工廠で過ごしているようです……」

 

「本人は何か言っていたか?」

 

「いえ……。ただ、推測ですけど……。ここ数日の間、私と山岡さんの会話を聞いていなかったことを夕張さん、気が付いたのではないかと……。それで、その原因が自分にあると思って……」

 

「気を遣わせているという訳か……」

 

「夕張さんは賢いですし……。この前のお話を聞く限り、行動しかねないかと……」

 

「そうなのであれば、あいつに気を遣い過ぎたかもな……。もしかしたら、気を遣われていることに傷ついているかもしれねぇな……」

 

「どうしましょうか……」

 

「そうだな……」

 

抱える問題は山積みだ。

 

「とにかく今は、あいつとちょくちょくコミュニケーションを取ろうと思う。こっちを疎かにしない程度にな」

 

「それが一番かと思います。……色々と大変ですが、香取に出来ることがありましたら、なんでも仰ってくださいね?」

 

「ああ、ありがとう。十分に助かってるよ」

 

そう言ってやると、香取は嬉しそうに微笑んで見せた。

最近はこうして褒めてやることに抵抗がなくなったな。

関係が円滑に進むのはいいが、夕張のように距離感を掴むのが難しいことになる可能性もある。

慎重にならねば……。

 

「山岡いるかー?」

 

摩耶が食堂に入って来た。

 

「おう、どうした?」

 

「お前に手紙だってさ。可愛い女の子が届けてくれたぜ。ねーとは思うが、ラブレターだったら音読するって約束してくれ。そしたら渡してやる」

 

「馬鹿言うな。よく見ろ、本部からの通達だ。ここにマークが入ってるだろ」

 

「ちぇ、つまんねーでやんの。ま、お前にラブレターが来ることは、宇宙が誕生する確率よりも低そうだけどなー」

 

「うるせぇ。さっさと寄越せ。ったく……」

 

摩耶から手紙を奪い取り、中身を呼んだ。

 

「本部からの通達ですか?」

 

「あぁ……えーっと、何々……?」

 

通達の文章を読んで、俺は驚愕した。

 

「嘘だろ……」

 

「何が書かれていたんですか?」

 

香取に手紙を渡す。

同じように驚きを隠せないといった様子であった。

 

「た、大変ですよ……これ……。ただでさえ、やっと立て直してきたところなのに……」

 

「こんな時期に来る事ねぇだろ……。しかも、よりによってこいつとは……」

 

手紙には、とある艦娘が我が不寮にやってくるということが書かれていた。

 

「俺に対する嫌がらせとしか思えねぇ……」

 

「心中お察しします……」

 

「そうか……。お前も分かっていたんだったよな……。あいつの問題児っぷりを……」

 

「えぇ……。しかし、なぜ日本に……」

 

「海外では、艦娘に対しての風当たりが相当強いらしい……。日本くらいだってよ。艦娘に寛容な国は……」

 

「そうだったのですか……」

 

「いつか日本に来るかもしれねぇとは思っていたが……まさか……本当に……しかもあいつとは……」

 

「山岡さん……」

 

俺たちの会話を聞いて、摩耶は何が何だか分からないというような顔を見せた。

 

「話を聞く限り、海外艦がうちに来るってのは分かった。だけど、誰がくるってんだ? そんな問題児、海外艦に居たっけ?」

 

「いる……。飛び切りの問題児だ……」

 

「誰だよ? 勿体ぶらずに教えてくれよー」

 

俺が答えないでいると、香取が代わりに口を開いた。

 

「山岡さんが唯一、手に負えないと本部に泣きついたほどの問題児……」

 

「…………」

 

「ザラ級重巡洋艦三番艦……Polaさんです……」

 

――続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。