「ば、馬鹿な!?お前はさっき確かに……」
時は、22世紀まであと十数年というところ
秘匿の存在であった魔法は一般に浸透し、世は大きく変わっていた
「ふふ……一撃入れてから何もせぬ故、なにやら可笑しいとは思うておったが……」
都である新東京には様々な事情を経て難民が押し寄せスラム街を形成、貧富の格差が如実に見て取れるようになった
そうなれば秩序は乱れ、『力』により我を通そうとする者が現れるのは半ば必然
魔法の浸透により、その力を強者が更に得やすくなった昨今
それすら得られない弱者をいたぶり、なけなしの富をむさぼる
冒頭で何かに驚愕していた男も、その部類であった
「やはりお主、わしらが何者かも知らぬまま挑んできおったな」
驚愕の対象は、目の前の男
現代にはそぐわぬ和服を身につけ、腰には刀
書く者が書けば「ぴょろり」と形容されそうな癖の強い横髪
歳は30かそこらに見え、低めに落ち着いた声色は見た目以上の凄みをどこか覚えさせる
しかし問題はそれらではない、左胸の部分に滲んでいる赤い染みだ
「魔法アプリ、とやらで刀を出し心の臓を一突き。あばら骨へ当たらぬよう刃を横に刺し入れたあたり、殺しには手慣れておるようだが……もはや、同じ手は通じぬことを覚悟せい」
「なんで、なんで生きてやがるんだよぉっ!?」
しっかりとこの目で見た、胸を貫かれ血を吐き地に伏せる姿を
なのに平然とした顔で現れ、再び相対するという現実
「知らぬのなら教えてやろう、わしは……」
刀を抜き、前方へ
殺されたはずの男は、自身を殺した男へ名乗りを上げた
「UQホルダー
ことの始末を済ませ、仲間と待ち合わせていた地点へと天膳は帰還
既にその仲間は来ており、天膳に何が起きていたかも概ね知っているようであった
「随分、派手にやりましたね。殺してはいないみたいですけど」
「片腕を刎ねてやった、そのくらい構わぬであろう?」
左胸とは別に、被ったような血の跡
薄黄色の長髪の男、飴屋一空がそれを返り血であると判断するのはあまりにも容易だった
「平時の巡回で、よもやあんな野盗紛いの者と出くわすとは思わなんだ。待たせたな、一空」
「いえいえ。ん?あれは……」
一空の方の巡回は問題なく終わったようで、戻ろうかとしたちょうどその時
天膳の後方から走り寄ってくる女性の姿を、一空は捉えた
「あ、あの!さっきはありがとうございました!」
二十歳を過ぎたくらいの若さの、黒髪の少女
二人の目の前まで来ると、すぐさま天膳へ礼を述べた
「ほう、先程の……」
「おかげでお金も家も、襲われそうになった弟も無事でした。本当に、何とお礼を言ったら良いか……」
そもそも天膳があの男と交戦し、一度は死ぬこととなった切欠
それは彼女の家に男が強盗紛いの真似を働こうとしたからで、たまたま辺りを歩いていた天膳が見つけ、といった具合だ
天膳が浴びてる返り血にも恐れる様子を見せず、ただただ感謝の意を示し続けている
「なに、わしはただ散歩の片手間に目障りな男を片付けたに過ぎぬ。のう?一空」
「はい、これからもどうぞ僕達を頼ってください」
「けど……そうだ、もし良かったら家までいらっしゃいませんか?大したおもてなしは出来ないかもしれませんが、是非お礼をさせてください」
「……ほう」
そうしていると、少女の方から一つ提案が出される
「すみません、お気持ちはありがたいんですが僕達もうそろそろ戻らないと……」
「ふむ、折角じゃ。参らせて貰おうか」
「え、天膳さん!?」
平時巡回を終えた後も、彼らには仕事があった
アジトへ戻って巡回の報告、特に今回は天膳が交戦をしたこともあって書くことも多いだろう
それを理由に一空はやんわりと断ろうとするが、そんな彼をよそに天膳は了承
「報告の一つや二つ、ぬし一人で出来よう。任せたぞ一空」
「いや、実際戦ったあなたがいないことには……」
「その辺りは上手いこと誤魔化しておけ、後でわしが戻ってから直しを入れておく」
「あの、ご迷惑になるようでしたら……」
一空だけ帰らせ先に一人で仕事をさせようとする
その辺りで一空と揉め、少女が心配そうな視線を向けてくるが、天膳は変わらない
「心配は要らぬ。それと寄らせて貰うついでに水場をお借りしたい、刀の手入れもしたいのでな」
「天膳さーん?源五郎さん辺りが何て言うか……」
「雪姫と甚兵衛がどこぞへ消えておる今、わしが決めて何の問題がある。いいから行くのじゃ」
「……知りませんからね」
半ば強引に一空を説き伏せ、どうにか先へ行かせた
もう引き返してこないことを確かめると、女性へ案内を頼む
天膳の視線の先は少女の唇、うなじ、薄着ゆえ少々開いていた胸元等
器量も良く、この後天膳がすることは決まっていた
(ふん、察しの悪い奴じゃ。まあ、女を知らぬまま絡繰仕掛けになった奴には分かるまいて)
ゴクリと喉を鳴らしたくなるほどの唾が口内に溜まるが、ばれぬよう静かに飲み込む
(それにしても、気を失ったさなかに昔の夢を見るとは……あれで気が少々立って、一空の言うとおり派手にやってしまった)
それは、天膳が今に至るまでを語るため避けては通れぬ、血塗られた悲壮の歴史
”甲賀弦之助、ついに討ち取ったぞ!伊賀と甲賀のこの争忍の刻、勝ちたるは我ら伊賀組じゃ!”
”そん、な……弦之、助、様……”
”朧様が消えた!?探せ!探すのじゃ!朧様の足では遠くへは……”
”ここから身を投げ……何を、愚かなことを……っ!”
”開国、維新、幕府滅亡……己の地位も守れぬで、何が一族千年の永禄か!”
”伊賀忍び組の頭領……わしは降りさせて貰う。後はお主らの好きにせい”
”少々わしは……生きるのに疲れた。里を出る”
”はははっ、長いこと生きてきたけど、まさかお仲間さんに会えるとはね”
”……お主、名は何と申す”
”宍戸甚兵衛、あんたと同じ不死人さ”
”忍びの里で長年副頭領、いいじゃんか。俺もそんな、腰を落ち着かせる場所が欲しかったぜ……戻る気、無いのか?”
”世は大きく変わった、忍びの里としての鍔隠れはもう……長くは持つまい”
”ふーん、ならまた出来ると良いな。俺達不死人が気兼ねなく、ずっと暮らしていける居場所がさ”
”出来れば、の話であろう?わしより数倍長く生きていながら、随分と甘い夢を見たものよ”
”よー数百年ぶり、やっぱりまだ生きてたな”
”甚兵衛、こいつか?お前が言ってた知り合いというのは”
”ああ、名前は……なんだっけな。久々すぎて忘れちまった”
”人の世を外れた者の互助組織、何を考えたかと思えば……”
”俺達みたいな本当の不死身以外に、亜人獣人なんかも加えてな。お前が昔いた忍びの里と似たようなもんだよ”
”名前はもう決めてある、そう……”
”UQホルダー”
「おーい!天膳の兄貴のお帰りだー!」
「一空は既に戻っておるな?」
「へい、兄貴の帰りが遅くなるという連絡も聞いとりやす」
「うむ」
色々と事を済ませ、天膳はUQホルダーのアジト仙境館へと戻ってきた
舎弟達が彼のことを出迎え、一空と話がついていたことも確認
一空に任せた報告を確かめようとも思ったが、それより先に風呂に入っておきたかった
新東京スラム街では水も貴重な資源であり、刀の血糊を洗い流す分以上に借りることは天膳も出来ず
戦闘で掻いた汗、胸と口元から出た血、返り血、あと少女の家での色々
どうにも放っておいては気持ちが悪く、早く流してさっぱりしたい
そう考え歩を進める天膳、そこへ
「待ちなさい」
一人の少女が立ち塞がる、それもひどく仏頂面で
「待ちなさい、とは結構な物言いじゃな夏凛。まあ良い、話は後で聞こう……仕事を終えたばかりで疲れておるゆえ、先に湯浴みを済ませたいのでな」
「貴方、またやりましたね」
天膳は通り抜けようとするが目の前の少女、結城夏凛はこれを阻んだ
鼻腔が僅かに動く様子を天膳は捉え、彼女が何について言っているのかを理解する
「一空から聞いておらぬのか?確かに交戦してこの通り返り血こそ浴びたが、命までは……」
「いやでも鼻につくんです、貴方が散々やらかした後のその性臭は」
その上でとぼけて見せたが、ただ夏凛の眉を吊り上げさせるだけ
「……同意の上でしたまでのこと。おのこおなごのまぐわいを、お主に口を挟まれるいわれは無い」
「仕事中にしておいて何を……それに、同意かどうかも怪しいものですが。これまで何回揉め事になって、こっちにまで迷惑を被ったか忘れたとでも?」
夏凛の声に、明らかな怒気が篭り始める
額には青筋まで浮かび、刺すような鋭い目つきがより鋭く
しかし天膳はそれにたじろく事などない
天膳のしでかしが幾度とあったように、夏凛の激高もまた幾度と無く経験している
「ならば……お主が代わりに、わしを労ってくれるのか?」
「!」
天膳はその身を夏凛の方へと寄せ、右腕を伸ばした
胸尻の肉付きが良い一方で腰周りはきゅっと締まっており、腰へやった腕は真後ろまで回る
五指は蔦が絡みついてくるかのように身体を撫で、顔を近づけねっとりと囁く
「それでもわしは、一向に構わぬ。ならばまずは共に湯に入るか?あるいはそれまで待てぬと申すならこの場でそのまm」
「いい加減に……」
腕に力を入れ、引き込もうとしたところで言葉が止まった
夏凛が両手で天膳を突き飛ばし、離させる
続いて、どこからか取り出した身の丈ほどもあるハンマーを手にし、
「しろっっ!」
「ぬがっ!」
そのまま、天膳へ躊躇い無く振り抜いた
彼女もまた、天膳同様に人の世を外れた者
UQホルダー
ハンマーは側頭部を叩き、天膳の声とは別に骨肉のへしゃげる音
見た目とは裏腹の馬鹿力で天膳は吹っ飛ばされ、数度跳ねたのち倒れる
「…………………」
四肢から力が抜け、五体投地のまま動く気配はなし
そして無言、というより、ものを喋る口自体が頭部大破でよく見えず
「このっ……色情魔がっ!何年、いや何十年経ってもまるで変わらな……」
「夏凛、騒がしいが一体どうし……おや」
今しがたされた行為への嫌悪感で身を震わせながら、夏凛は激昂を止めなかった
そこへ騒ぎを聞きつけ、不死人がまた一人
「……襲われそうになったから、やり返しただけ。だから正当防衛、私闘じゃないわ」
真壁源五郎が事の次第を追求するより先に、声に怒気を残したまま夏凛は言った
「またか……」
「ええ、また!」
「なんだなんだ!敵のカチコミか!?俺らのアジトで好き勝手にはさせ……あああっ!」
更に、舎弟達までもが駆けつける
敵の襲来と勘違いしていた彼らはいきりたってやって来るが、目の前の惨状を見て一変
数人が揃え、大声をあげた
「「「天膳の兄貴が、また死んでる!?」」」
「血が漏れないように頭をビニールで包んで、寝床にでも放り込んでおきなさい。た・い・へ・んお疲れのようですから、我らが副リーダー様は!」
これは、争忍の世から生きながらえた不死人の、あったかもしれない物語
「雪姫、しばらく見ぬうちに一層良い女になったではないか。何処ぞへ行っておった内に男でもこさえ、ぐふっ……」
「お前はまるで変わっておらんな、変態忍者」
「男の男の裸の付き合いじゃ、何をおなごのように恥ずかしがっておる九郎丸。湯に漬けた布をはよう上げうごぁっ!」
「やめてください!貴方目付きが……あ、て、天膳さん!?」
頑張れ天膳、負けるな天膳
UQ HOLDER!×バジリスク〜甲賀忍法帖〜
『天膳、悠久に死に候え』
20××年、公開未定!
UQ HOLDER!もネギまの一種だろってことで、投稿。バジはこれで二本目
・オリジナルのNo.3が出て来てない状態で始めて、おいおい本編で変な齟齬が生じるのが嫌
・周りが不死身ばっかりだと、天膳のアイデンティティが薄れて書きにくそう
・天膳らしい(?)下ネタ書くのが多分大変
ゆえに、嘘予告