ドジっ娘、紅美鈴(東方 × オーバーロード) 作:るーしー
しかし一向に進まない
「ターマーヤー! ……なんてな」
打ち上がる大量の花火、その様をモモンガこと鈴木悟は寂しげに見つめていた。
ユグドラシルはもう直ぐ終わる。
どれだけ人気が出て一時代を気づこうともいつか終わりは訪れる。
特にオフラインではなく、オンラインである以上は絶対と言っていい。
栄枯盛衰。
わかっていたことであったが、せめて最後くらいかつての仲間と一緒に終わりを迎えたいと思うのは彼のわがままなのだろうか。
それすらも叶えられないのはあまりにも寂しいと彼は感じた。
先ほどまでいたかつての仲間ヘロヘロも、ブラック企業の激務の弊害によりログアウトしていった。
ヘロヘロの前にも何人か来ていたが皆、用事があるということでリアルへと帰って行った。
最後の最後、本当に最後なのに誰も残ってくれなかった。
「楽しかったんだけどな」
モモンガから出た言葉は真実本当のものだった。
楽しかったのだ。
あの輝かしき日々は。
感傷に浸りつつ、散りばめられる仮想の空の花をモモンガは眺める。
「…………」
そのまばゆい輝きに手をかざし、その中にある一つの指輪を注視した。
「懐かしいなあ。これを当てるのにボーナス全部使ったっけ」
それは三度の願いを叶える魔法の指輪。
もちろん、ゲームの特性上そのようなことはできないが、そういうものとしてフレーバーテキストには記されている。
そして現実に起きるのは、いくつかの魔法の中からのランダムな選択。
しかしこの瞬間はそのようなことは忘れよう。
その指輪に仮初めの魔力を込め。
「指輪よ。俺は願う」
咲き乱れる花火を背景にモモンガは指輪に語りかける。
「どうかもう一度みんなと出会わせてほしい」
今更無理なのはわかっている。
であるならば次のゲームで。
あるいは現実で。
来世でも別の世界でも構わない。
「どうかアインズウールゴウンにふさわしき終わりが欲しい」
ひとりぼっちの墓の主人ではなく、真に名を刻んだ至高の存在全員で終わりを迎えたい。
それがナザリックだ。
それがアインズウールゴウンだ。
「どうか俺に」
そしてひときわ大きな花火が仮想世界を埋め尽くし。
「次の」
文字通り世界が切り替わった。
* * *
「ここは、どこだ?」
気がつけばモモンガは平原に一人立っていた。
「沼地、じゃない」
ナザリック地下大墳墓のあった沼地ではなく、全く別の場所にモモンガはいたのだ。
まず第一に運営のやらかしが頭に浮かぶ。
最後の最後、サーバーダウンの手順ミスによるバグではないのかと。
このように極端なことはなかったが、それに類することはままあったのだ。
今回もそれだろうと考えた。
しかし。
「コンソールが、でない」
それだけでは言い表せない不自然な要素が多い。
コンソールが出ないことがまず第一。
次に。
「匂いを感じる。風の。草の。土の」
その感じる匂い全てに”おそらく”とつくが。
であったとしても、電脳空間に嗅覚を持ち込むのはあきらかな違法行為だ。
最後に。
「現実感がありすぎる」
グラフィックの自然さ。
不自然のなさが、先ほどまでと比較して不自然すぎる。
まるで現実であるかのように、遠くであろうが近くであろうがオブジェクトが精細に動いていた。
「これがユグドラシル2なら嬉しいんだが……」
それはあまりにも都合の良すぎる考えだ。
おそらく現実はもっと別の事象であり、もっと困難なものに違いない。
モモンガには確信があった。
その根拠というのは。
「あの運営がそんな粋なことをするわけないか」
今までユグドラシルを運営してきた管理者側への信頼。
そんな嬉しいサプライズを行うわけがない。
「ふむ」
まずは行動とばかりに、手近にあった草葉をむしってみる。
手のひらですりつぶすとその匂いが空気中に拡散した。
広げた手には細かくなった緑色の物体が残った。
「ありえない」
演算能力の限界を超えている。
細かにすり潰され、バラバラとなった葉脈。
わずかに滴る葉の水分。
風によって動くそれらの残骸。
ありえないのだ。こんなことは。
「一体……何が起こってるんだ」
* * *
「アリスさん。向こうから何かきますよ」
「何かしら」
アリスと美鈴が町なり村なりを探すために歩き出して半刻、視線の先に謎の物体が見えてきた。
パッと見たところ豪奢な服を身にまとった人影だ。
草原という景観とは真逆の、文明を感じさせる知識人の雰囲気。
ファーストコンタクトとしては問題なさそうな人物、なのだが。
「骨ですね」
「ええ、骨ね」
しかしその顔は髑髏、人間ではない人外に他ならなかった。
「妖怪でしょうか?」
「さてね。けど、服装から見るにいきなり襲いかかってくるってことはないんじゃない? 話しかけてみましょう」
殺気も敵意も感じられないことから安全だと判断。
もっとも、持ち物すべてがすべて奪い取ったものだとしたら先の推測は成り立たないが。
念には念をということでアリスはいつでも人形を召喚できる準備を整えた。
「どうも、こんにちは!」
「ええ、こんにちは」
しかしアリスのその行動は杞憂に終わる。
紅美鈴の挨拶に対して、特に何でもなく骸骨は挨拶を返してくる。
表情からはわからないが、声音から友好的なことが感じられた。
「私は紅美鈴、こちらは友人のアリスさんです」
「アリス・マーガトロイドよ」
「これはこれはどうも。私はモモンガと言います」
豪奢な服装をした骨はモモンガと名乗った。
美鈴のかわいい名前だと思い、アリスは偽名だろうかと疑う。
「それで出会ってすぐに不躾で悪いんだけれど、このあたりに村や町はないかしら? 私たちこのあたりに来たばかりで土地勘がなくって」
アリスはわずかに抱いた疑念をとりあえず横に置き、単刀直入に知りたいことを訪ねてみた。
それは焦りからではなく、いわば勘によるものだ。
どうにもこのモモンガという男(女かもしれないが声音から違うだろう)から安堵や困惑が見て取れたから。
何かしら、急を要する事態なら、互いに伝えたいことは迅速に行うべきだと判断する。
「すみません。私もこの辺りにいきなり飛ばされて来てしまい何とも」
答えは想定の範囲内。
彼女はモモンガの言葉から、この地はそういった流れものが集まりやすい場所だと推測する。
ならば、もしかすると他にもいるかもしれない。
「しかし他のプレイヤーの方に出会えて幸運でした。いや全く、一人で心細いのなんのって」
だが続くその言葉の意味が正確には理解できなかった。
「プレイヤー?」
プレイヤー。player? あるいは大穴でprayer? だろうかと彼女は頭を捻らせた。
「プレイヤーってゲームのですか?」
「ええ、ユグドラシルのプレイヤーです」
やはり、いまいち彼女たちには理解ができなかった。
「ユグドラシルって、文脈から推測するにゲームのタイトルよね?」
「ええ」
「美鈴、わかる?」
「え、いや、うーん。聞いたことがないですね。妹様と遊ぶために結構知ってる方だとは自負していたのですが」
3秒ほどアリスは思考し、横の美鈴に知っているかと視線で問いかける。
答えは否。
「ユグドラシルを、知らない?」
続いて大きく反応したのはモモンガであった。
ユグドラシルをプレイしていたら、ユグドラシルを知らない人間と出会う。
道理が通らない。
一体どうなっているのか本当に訳がわからなかった。
もしモモンガが運営側、あるいは職業がプログラマーであれば推測できただろうが、一営業である彼にはお手上げの状態であった。
だから。
「ここは、ユグドラシルではない?」
この結論以外、モモンガは出すことができなかった。